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疲れ切ってました

 朝はいつも通り畑や使っていない施設の整備をした後、飯を食って子供達が居るところに向かった。

 赤ちゃん達を渡して早1週間。どんな様子かな~っと軽い気持ちで行く。

 途中奴隷大人達が仕事に向かう際に驚かれたが、軽く手を上げて返しておいた。ノワールやヴラド曰く偉い人は一々声を出して挨拶する必要がないんだと。そして出来るだけ短く言うのがいいらしい。

 俺には全く分からない態度だがそれがこの世界のやり方と言うのであれば仕方がない。でも俺ってそんな偉い人ではないんだけどな。


「お~い。うまく育ててるか~」


 何でも途中の奴隷の大人達に聞くと、子供達は現在集団で子育てをしているそうだ。担当している子供を中心に育てて入るが、余裕が出来たら他の赤ちゃんも育てているという。

 なので俺はその集団で育てている普通の部屋よりも広い部屋に行くと、そこにはゾンビのような子供達の姿が大半だった。


 床の上で寝ている者、大きな隈を作っている者、力尽きて赤ちゃんに身体の上で跳ねられている者などなど。ほんの1部だけまだ疲れているだけと言う感じで赤ちゃん達に飯の準備などをしている。

 飯と言ってもこのアルカディアの肉や魚、野菜を食べさせればいいだけなのでぶっちゃけ無理に料理をする必要はない。そのまま与えても平気で食うのだからぶっちゃけ皿の上に食べれる物を置いておけばいいだけだ。


 ただ満腹度に関しては与える食材によって変わる。より正確には品質によって変わる。

 例えば普通の肉を与えた場合、満腹になるには5つぐらいの肉を食べさせる必要があるが、最高品質の肉を与えれば1つだけで満腹になるという具合だ。

 それは他の魚や野菜でも同じで最高品質と言うだけで様々な恩恵を得る事が出来る。まぁほとんどはパラメーターの上下に関してなんだが。


「こ、これはご主人様。すぐにお茶の用意を……」


 少年が俺に気が付くとフラフラとした動きでキッチンに向かおうとしたので俺は慌てて止めた。


「おいおい、無茶するなって。随分やつれてるじゃねぇか。無理せずそこに座りな」

「しかしご主人様に……」

「無理されたらこの子達の世話はどうなるってんだよ。とりあえずそこで楽な姿勢になっとけ」


 そう言って無理矢理ソファーに座らせてから白湯さゆを用意する。

 水道の水を沸騰させずに温めるだけだが小さな赤ん坊がいるので火から離れる事が出来ないのは仕方ない。

 そう思って温まるのを待っていると不安そうにしている赤ちゃん達がそっと俺の事を覗いていた。おそらく子供達の様子が悪い事を察して不安になってしまっているんだろう。そして自分達に何かできないか考えているんだと思う。


「熱いからこれを持って行ったりするのはなしだが、あの子達の所で少し待っててくれ。そしてあの子達の事を温めてくれ」


 そう言うと赤ちゃん達はそれぞれの子供達の元に向かった。

 あの様子だとろくに飯が食えているかどうかも分からないし、軽い飯を用意しておこう。

 用意するのは超簡単なおじや。昆布やかつお節、干しシイタケから出汁を取り、炊いたご飯と一緒に煮込むだけ。この時煮込んでいる間に溶き卵をかけて固まらない様にしておくだけ。

 土鍋とかもキッチンにはあるので個人的に土鍋で作ったやつが美味いと感じる。現実で俺が風邪を引いた時に母ちゃんに作ってもらった特効飯である。あとは刻んだねぎを適当に入れてお終い。


 土鍋とそれぞれの器を用意して持って行くと赤ちゃん達が子供達に大丈夫?と心配しながら顔を覗き込んだり、顔を擦り付けて元気付けようとしている。

 赤ちゃんと言ってもそれはモンスター基準であり、人間で言うと既に幼稚園児ぐらいの知性と感性はもっている。だから知っている人が元気がない、自分にも何かできる事はないかっと思う事は普通にある。

 俺はテーブルに土鍋などを置いてから聞く。


「一応簡単に飯を用意したが、食えるか?」

「あ、ありがとうございます……そして、すみません」

「体調が悪い時はお互い様。俺も仕事と命令って言葉を無神経に使っちまったみたいだからな、俺のせいでもある。とにかく今は食って少しでも体力取り戻せ。米を主食にした物だけど大丈夫か?」


 今さらだが米を食べた事がない、みたいな事だったらどうしようと思って聞く。

 だが少年達は首を横に振って否定した。

 食べれるのであれば大丈夫だろうと思いながら俺は少し小さな茶碗におじやをよそう。出来た手なので少し熱いだろうがその辺は我慢してもらいたい。茶碗と一緒にレンゲも渡し、彼らは少しずつおじやを食べ始めた。


「どうだ、食えるか?」

「……熱いです」

「あはは、出来立てほやほやだからな。その辺は我慢してくれ」

「でも……美味しいです」


 そう言いながら少年たちはおじやを少しずつ腹に入れ、土鍋のおじやは完食された。

 赤ちゃん達はその様子をじっと見て、次に俺の事を見る。俺はその視線で何となく察したので俺は言う。


「今度はお前達に作ってやるからまた今度な」


 そう言うと期待するような表情で目をキラキラさせる。やっぱりこの辺はまだまだ子供だ。

 流石にこのおじや、俺ぐらいの年になるとこれだけだと物足りなく感じる。おかずは基本的に漬物だけだったし、家では病気した時限定の飯と言うイメージがどうしても強かったので、むしろちゃんとした飯が食えない悔しさの方が強かった。

 多分この子達は少年達が食べたから自分達の食べてみたいという気持ちの方が大きいんだろう。特別美味しい物でもないしな。


「……やはりあの子達の視線だけで何が言いたいのか分かるのですね」


 赤ちゃん達を見ていると少年がそんな事を言った。


「まぁこればっかりは慣れだな。言ったろ、ノワールやブラン達を育てたって。他の兄弟達も俺が育てたし、まぁ後半は手伝ってくれる子達も大分増えたから楽だったんだけどね」

「ですが私達にはまだまだあの子達が何を伝えたいのか分からない時があります。必死に分かろうとはしているのですが……」

「それが普通だよ。相手はまだ言葉をしゃべる事が出来ないんだ。こちらが何を言っているのか理解できていたとしても、上手く伝える方法をおチビ達も探してる。でも進化すれば単語ぐらいは言えるようになるんじゃないかな?」


 と言ってもそれは声帯が発達した生物に進化した場合の話だ。簡単に言うと人型のモンスターに進化すればミカエルやガブリエルの様に普通に話せる。もしくオウムみたいな相手の声を真似る事が出来る鳥類だな、彼らも声帯が発達しているので慣れれば人間のように話す事が出来る。

 しかし犬や猫の様な進化をすると声帯と舌の長さなども関係してくるのでうまく話せない事が多い。特にドクターの様な蛇の類は獲物を丸のみにするので声帯はむしろ退化していると言ってもいい。だから直接頭に言いたい事を伝えるテレパシー的な物を使って会話をしている。

 このテレパシー的な物はある程度進化すれば自然と使えるそうなのであまり気にしてないけど。


「ありがとうございました」


 少年たちはおじやを食べ終えた。物を食べたおかげか少しだけ顔色が良くなった気がする。

 赤ちゃん達も少年たちの顔色が良くなったからか、喜んで跳ねたり、顔を擦り付けたり、軽い体当たりで心配させるなと態度で示す。

 俺は少年達が食べた食器やレンゲを回収し、流しに持って言ってさっさと洗い始める。

 洗いながら俺は言う。


「それから思ったんだが、やっぱり仕事って話はなかった事にしようか」

「――え――」


 少年達とおチビ達全員が俺を見て固まった。

 俺は洗い物をしながら気にせず言う。


「やっぱり仕事で子供を育てるって言うのはど~もなんか違うように思うんだよね。それに仕事って言ったせいで必要以上に緊張させたみたいだし、今後は仕事とか関係なくただその子達の面倒を見てくれ」

「それはつまり……仕事ではないけれど、この子達の世話は続けろっと」

「仕事ない日はやっぱりただぐうたらしたかったか?それなら今まで通り俺が――」

「いえ!これからもこの子達のお世話をさせていただきたいと思います!!」


 少年の言葉にみな強く頷いていたのでおチビ達を俺の手で育てる必要はないようだ。

 おチビ達も今さら少年達と離れるのは嫌なようだし、このまま預けてていいだろう。


「分かった。それじゃ今後も赤ちゃん達の事をよろしく頼むな」

「はい!」

「それから今後また育てるのが大変になった時はちゃんと誰かに頼れ。隣に住んでるヴラドとか、カーミラとかに聞けば手伝ってくれるだろうさ」

「それはとても恐れ多いのですが……」

「子育て経験者がいるのであれば迷わず頼れ。死なせるよりはかなりマシだ」


 俺が最後に真剣な表情と声で言うと少年達は何故かびくりと身体を動かした。


「その子達は確かに元気だ。でもまだまだ弱い存在なのも本当だ。病気や小さなケガが原因で死んじまう事なんて普通にある。だから気を付けろよ」

「「「はい!!」」」


 全員からそんな返事が来たので俺は頷いてこの部屋から去ったのだった。

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