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真面目過ぎる子供達

「……はぁ」

「どうかしましたかお父様?もしかしてお口に合わなかったでしょうか」

「え、いや違う違う。ガブリエルが作ってくれたパイ、美味いよ」


 午後3時のおやつの時間。俺個人は特別菓子とかに強い興味がある訳ではないが、ガブリエルとレディー達料理のできる女性陣達が余った芋を使ってスイートポテトを作ってくれた。なので今日はその試食会をしている。

 そして最後に俺がスイートポテトではなく、リンゴとサツマイモを使ったパイを作ったら「負けた」と言って膝を付いていた。

 いや、俺が作ったのはかなり適当だったからね。サツマイモと牛乳混ぜる時牛乳の量多かった気がするし。大雑把な俺は感覚と目分量でしか料理した事ないからデザート系は苦手なんだよ。作るとしても大量生産しやすいクッキーとかあんな感じ。


 でも他のスイートポテトなども食べないのはもったいないので今食べている最中です。

 特に貢献しているのはブランとミカエルだ。2人とも甘いの好きだもんな。そして本当に試食程度にしか食べていないのがヴラドとジェン。真祖になればある程度は固形物を食べても体調を崩す事はないが、それでも慣れないからかあまり量は食べられない。


「それでは何をお考えで?」

「吸血鬼の奴隷たちの事。そりゃ奴隷と言う立場上あまり自由がないのは知っているが、あんな子供っぽくない子供を見るとどうしてもな」


 フォークを加えながらぼんやりとアルカディアの空を見上げる。

 もちろんこれは俺の主観であり、ヴラド達が奴隷に対してどう扱おうが文句は言えないし、それ以前に奴隷に対する扱いと言う物を俺は全く知らない。元の世界では奴隷なんて当然いないし、マンガや小説などでひどい扱いを受けているというイメージはあるが、ヴラド達の奴隷に対する扱いはそこまで酷くもない。

 もちろん吸血鬼達にとって食糧だからっと言う理由もあるんだろうが、マンガで見る様な鞭で身体中を叩かれ、ろくな食事も与えられていないと言う事もない。奴隷と言う立場ではあるけど執事やメイド、護衛やコックなど様々な職種で奴隷達を見かける。だから決して彼らの地位はそこまで低いとは俺は思えない。

 でもあの厳格過ぎる教育はいかがなものか。上下関係をはっきりさせる方がいいのか、それとも最近の会社みたいにフレンドリーな関係がいいのか判断付かない。

 元々経営とかよく知らん。

 でも子供が子供らしくないという部分には疑問が残ったと言う事だ。

 それに対してヴラドは紅茶を一口飲んでから言う。


「父上が望まれるのでしたら奴隷の在り方を変えましょう」

「そこまでじゃない。ただ奴隷とか言われても身近にそう言う存在が居た訳じゃないからどう言う距離感が合っているのか分かんないんだよ。奴隷って物扱いされている人間って事でいいんだよな?」

「それで合っています。奴隷制度のある他国ではそのような扱いです」


 カーミラがそう肯定する。

 同じ人間なのに物扱いされるって俺には全く分からない感覚だ。人間は同じ人間として扱うのが普通だと思うんだけどな。

 ただ気に入らない奴をイジメるとはわけが違うし、俺が戸惑っている原因は俺が知っている子供とは大きく様子が違うからだ。奴隷とはそう言う物っと頭で理解できれば問題ないといも言えそうな気がするが……


「なぁあの子達に趣味みたいなのはないの?好きな小説とか、好きな歌とか」

「恐らくないでしょう。奴隷たちは我々所有者のためだけに存在しているのですから」


 う~ん。文化の違い。

 俺は彼らとどう接するのが正解なのだろうか。


 ――


 元の世界ではありえない奴隷と言う存在との接し方を考えながら今日は釣りをしていた。

 釣りと言っても海に住むモンスター用の生け簀に釣り糸を垂らしているだけなので、本当に魚が欲しいだけだったらこんな事をする必要はない。

 だからこれは本当にただの暇潰し。色々と考え過ぎてよく分からなくなってしまったので適当に時間を潰しているだけだ。

 でも餌と釣り竿があれば実際に魚は釣れるし、気分転換には丁度いいだろう。


 こうして釣り糸を垂らしてただボーっとしていると奴隷の子供達がやってきた。

 俺は振り返って聞いてみる。


「今日の仕事は終わったのか?」

「はい。しばらくは実際にお仕えするのではなく、技術を学ぶ様にしていますから」

「そうか」

「はい」


 ここで会話がきれてしまう。

 やっぱ普段から周りに居ない類の人と話すのは苦手だ。出来るだけいい関係を築きたいとを思っているのだから彼らをバカにするようなことは言いたくないし、でもどんな言葉が彼らにとって失礼になってしまうのか分からない。


 しばらく会話がない時間が過ぎると急に俺の竿がしなった。


「お、来た来た」


 そう言いながら竿を引くと大きくしなった様なのでそれなりに大きな魚がかかったかと思い、気合いを入れて釣り上げたのだが、結果は小さなアジだった。

 もっと大きな魚を釣ったかと思ったのに、思っていたよりも小さかったので残念に思いながらアジをリリースした。

 そんな様子をじっと見ていた少年が俺の様子をうかがいながら聞く。


「あの、ご主人様は魚が欲しくて釣りをしていたのではないのですか?」

「ん?いや別にそう言う事じゃないぞ。ただの暇潰しだから特に理由はない」

「そう……ですか」


 そう言って少年は直ぐに口を閉ざしてしまう。

 少年は何か言いたげだが言い出せない様子。こういう時は俺の方から聞くべきなんだろう。とりあえず促してそれでダメだったらまた今度言いたくなるまで待てばいい。


「別に好きに聞いていいぞ。お前達は俺の事をご主人様と言うが本当の雇い主はヴラド達であって俺じゃないし、ご主人様じゃないしな」


 そう言うと少年は驚いた表情を作ってから悩みだす。俺は答えが返って車で釣り糸を垂らしながらただ待つ。

 少し待っていると少年は小さな声で話し始めた。


「この国の環境はとても素晴らしいです。私達奴隷にも多くの食事を頂いていますし、あのように大きな部屋を私達に信頼して貸してくださってます。ですが同時に何故ここまでして下さるのか分かりません。何故ここまでよくしてくれるのですか」

「何故ってそりゃお前達の事を俺は普通の人間としか見れてないからだ。これはお前達に失礼に値するのかどうか分からないけど」


 俺はそう返した。顔を合わせていないので少年がどんな表情をしているのか分からない。


「それは失礼などと思いません。むしろ同じ人として扱っていただきありがとうございます」

「それならよかった」

「しかし……私達には仕事を覚える事と仕事をする事以外よく分かりません。自由な時間など寝る時間以外なかった。私達はどのように過ごせばいいのでしょう」

「……ん?そんなの普通に趣味とかに使えばいいんじゃないのか?疲れてるなら寝て過ごしててもいいわけだし」

「ただ寝て過ごすなんて……申し訳ありません。ご主人様達が仕事をしているのに自分達だけが寝ているだなんて」


 あ、これ何となく分かった。こいつら真面目過ぎるんだ。

 誰かが働いていたら自分も働かないといけない。誰かが何かをしていたら自分も何かしないといけないと思っているんだ。

 しかも彼ら自身に趣味と言う物もなく、余った時間で自分の好きな事をすると言う事もない。

 そう思うと俺は彼らがただ休むのが下手な子供と言う感じにしか見えなくなってきた。俺は釣竿をしまって子供達を手招きする。


「ちょっとおいで。俺の暇潰しに付き合ってくれ」


 そう奴隷の子供達に言ってから俺はマイルームのとある場所に向かう。

 子供達は俺に家に入る事すらオドオドとしてどこか遠慮している様に見えたが、俺はあえて気にせずどんどん先に行く。

 そしてついた場所は大きな劇場。ここで出来る機能はいくつかあるが、その中の1つを使おうと思う。


「ご主人様?ここで一体何をなさるのですか?」

「な~に、昔の事を見たいと思っただけだ」


 そう言って劇場に大きなスクリーンを下ろして劇場を暗くする。

 俺がメニューを操作してとあるファイルから映像を出した。


「……可愛い」


 確かメイド見習いの女の子がそう呟いた。

 今スクリーンに映し出されているのは昔俺が録画したこの世界の記録だ。まだアルカディアを始めたばかりでモンスターたちの赤ちゃんが映し出されている。

 二頭身どころか頭に動物の耳や尻尾が付いている様な個体、目と口しかないが愛嬌のある顔をしている個体などなど、そんな彼らが無邪気に遊んでいる映像だ。


「ご主人様。こ、この動く絵は何ですか?」

「これはただの記録映像だよ。ノワールとかがまだまだ赤ん坊だった頃の記録だ。ほら今転がった黒い毛に覆われた丸っこいの、あれが昔のノワールだ」

「あ、あれがノワール様!?」


 全身黒い毛に包まれ、金色の目だけが見えて、しかも他の丸い個体よりも一回り小さな毛玉があの大きなノワールだとは思わないだろう。

 この説明に子供達は驚き、今度は昔のノワールばかり見る様になった。

 当時のノワールはよく泣いて俺にの元に駆け寄ってきたな……そして俺が抱きかかえると他の子達が嫉妬して自分も抱っこしろー!と体当たりをしてきた物だ。

 そしてふとこの映像を見て思い付いた事がある。彼らにとって丁度いい仕事になるだろう。

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