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新たな日常

 式典が終わったとしても俺がアルカディアと今の世界を繋げる穴はアルカディアに帰ったところからなので俺とポラリスのみなさんでスレイプニルに乗って急いでカイネに帰る。

 なぜ急いで帰るかと言うと、商業ギルドに卸す野菜の期限がそろそろヤバかったと言うのが理由だ。

 なのでスレイプニル達に本気を出してもらい、パープルスモックからカイネまで1時間で到着してしまうという快挙を成し遂げる。

 しかしその犠牲はとても尊く、ポラリスのみなさんは到着するとみんな揃って今日食べた物をリバースした。


 そんなみなさんを介抱しながら冒険者ギルドに行き、契約通り金を払った。

 戦争中の危険な国に行ったのだから、当然報酬も高かったのだがポラリスのみなさんは喜ぶ余裕がない。単にまだ酔っているだけである。


「それではみなさん。今回は本当にありがとうございました」

「お、おう。次はもっと……余裕を持って帰ろうな」

「そうですね。それでは商業ギルドに行かないといけないので、失礼します」


 アレクさんがグロッキー状態でも何とか俺に返事をしてくれたので俺は商業ギルドに向かう。

 もちろんそこでもギリギリだったので「次回はもう少し余裕を持って下さい」と言われてしまった。

 俺は笑って誤魔化しながら次はしないとちゃんと言った。

 戦争中だと思って緊張していたのでしばらくはグダグダしながら畑の世話しようっと。


 ――


 パープルスモックから帰って数日。畑の世話も終わったのでカイネを散歩していると何故だかカイネの雰囲気が悪い。より具体的に言うと活気がない。

 実はこの町と言うかホワイトフェザーと言う国が冬に入りかけているのだ。冒険者のみなさんが俺の依頼を渋った理由の1つであり、冬支度がそろそろ始まる頃だったからだ。


 冒険者にとって冬と言う物は魔物よりも恐ろしい物だと聞く。

 その理由の1つが冬の魔物は強いのが多いという事実。冬の魔物は大型の魔物が多く、最低Cランクの冒険者パーティーじゃないと厳しいそうだ。

 しかしこれは魔物が単体であった時の話。これが複数いると一気にBランク冒険者でないと対応できないらしい。

 なので冒険者達のほとんどは冬の間、冒険者として活動する事が出来ないのだ。

 冬の間だけアルバイトするとか、夏の間に溜めておいた貯金を切り崩しながら冬を越すと言うのが一般的らしい。


 そして冬に近付くにつれて回復薬、ポーションの素材なども減っていくそうだ。

 これは単に時期の問題としか言いようがないのでどうしようもないが、これも冒険者達が冬に活動しない理由だ。

 このポーションと言う物はゲームで見るような効果を持っており、飲んだり振り掛けると事で身体の傷が治るという。まぁ一般的なポーションはちょっとした切り傷とか打撲とかを治す物であり、ゲームで言うならHPを10回復するポーションが普通なのだ。

 それ以上の効果を持つポーションだとどんどん高額になり、希少性も増していく。そんな中冬でそれらを作る素材すら手に入らないとなると更に値が上がるという訳である。


 そうなると普通の冒険者には危険が増える冬には余計に出歩かなくなる。冒険しないと言う事はそれだけ経済も滞ると言う事だ。

 冬でもいい商売と言うのはこの世界にはあまりないらしく、この秋が最後の稼ぎ時と言う感じらしい。

 ちなみに俺の野菜は冬になろうが問題ない。アルカディアと言うゲームはリアルタイム機能が付いているのでアルカディアにも当然冬は来る。

 でも畑などには一切問題なくいつも通り収穫できるので安心だ。余った野菜はいつも通り商業ギルドに売るが、貴重な野菜となるので貴族用でも特に値が上がるだろうとクウォンさんがいやらしい笑みを浮かべていた。


 そして現在、俺達は秋の味覚を堪能している。


「お~い。焼き芋焼けたぞ~」

「わーい!!」


 アルカディアの秋は完全に日本の秋なので元の世界じゃ出来なかった落ち葉で焼き芋をしてみる事にした。

 落ち葉を集めるところまではどこだろうとできるが、庭で焼くとなると消防が駆け付けて来るとか色々聞くのでやった事がない。と言うか元々焼き芋出来るような広い庭なんてない。

 では元の世界では出来なかった事をしてみようと思い付き、アルカディアで収穫できるサツマイモを焼いていたのだ。


 そしてもちろん最初に食い付いたのはブラン。焼きたてで熱いので軍手を装備させての試食だ。もちろんアルミホイルを包んで焼いているので焦げたりはしていないはず。


「熱いから気を付けろよ」

「そのぐらい分かってるよ」


 俺の言葉にブランがそこまで子供ではないという。

 ブランは焼き芋に息を吹きかけて冷まし、慎重に端の方をかじった。

 ブランはまだ熱い芋の欠片を口の中で転がし、冷ましてから噛んで飲み込むとブランは目を輝かせて言った。


「焼き芋美味しい!!」

「へー。そんなにうまいんだ」

「美味いんだって、パパ食べた事あるからこうして焼いたんじゃないの?」

「もちろん食べた事はある。でも実家じゃ基本的に焼くというよりは蒸してたし、こうして落ち葉集めて焼ける程の広い庭もなかったからな」

「それじゃこうして落ち葉で焼くのが初めてって事?」

「そう言う事。ほれお前らも食べな食べな」


 俺はそう言ってヴラド達が連れてきた奴隷の子供達を手招きする。

 すると子供とは思えない丁寧な言葉で返される。


「いえ、僕達はご主人様と同じ物を食べる訳にはいきませんよ」


 執事見習いだという少年がそう言い、周りにいる子供達も頷いた。

 彼ら奴隷の子供達はみな何かの見習いとして働きながら勉強を行う。勉強と言っても仕事をどう効率的に行うか、見習いじゃなくなるためにはどうするべきなのかなどを学ぶという意味でだ。もちろん最低限の義務教育として文字の読み書き、計算なども学んでいるので他の奴隷に比べれば天と地の差があるらしい。

 しかし俺としてはもう少し子供らしくても良いと思う。

 ぱっと見彼らの年齢は10歳前後、元の世界では小学校4年生から6年生ぐらいに見える。そんな子供達が焼き芋に目を輝かせる事もなく、仕事だからの一言で焼き芋を要らないと言うのは少し寂しい。

 俺があれぐらいの年の頃は何も考えずにゲームしたり、テレビを見たりしてたんだけどな……環境が子供への影響力が強いと言われる理由が分かった気がする。


 実はここに居る子供達は仕事をしたいと言ってきてここにきていたりする。

 何でもパープルスモックでは見習いでもそれなりの仕事があったらしいが、アルカディアに引っ越してきてからは一気に仕事の量が減ったという。

 そりゃ当然だ。パープルスモックに居た頃は貴族として仕事があっただろうけど、アルカディアでは貴族と言うのは名ばかりでただここに暮らしているだけでいいのだ。ブラッディ・ピーチの収穫と言う仕事はあるがちゃんと仕事として執事だメイドだと仕事をしている人達の仕事になっているので特に何もない。

 それで俺が落ち葉を集めているのを発見して、掃除だと思った彼らは仕事として俺の周りにやってきたらしい。

 その真相が芋を焼くためにと言うのはそれなりに驚いていたみたいだが、あまり表情や声に出さないので余計に子供らしくない。


 俺はこの子達の分と思って焼き芋を20個近く落ち葉の中に投入してしまったのだ。これを2人で食うのはかなり難しい。

 俺はバカな頭を働かせて1つ良いやり方を思い出した。

 俺は執事見習いの少年を手招きし、焼き芋を差し出した。


「少年。これ食いな」

「ご主人様。ですから我々奴隷は――」

「これは大袈裟に言うと毒見だ。ちゃんと中まで火が通っているか割って確認し、後ろに入る吸血鬼達に渡してこい」


 そう。彼ら奴隷の更に後ろの方では吸血鬼達が何だろうとこちらを見ていた。

 アルカディアに入る吸血鬼達は以前言った様に液体状の物しか摂取出来ないが、それでも味見程度に食べてみたいという好奇心の強い個体はそれなりに居るのだ。

 特に若い個体、俺が育てた訳ではない吸血鬼の子供辺りが特に興味津々だ。おそらくブランが美味しそうにハフハフさせながら食べているのが気になったのだろう。消化器官が弱く、少ししか食べれないのは目に見えているがそれでも食べて欲しいと俺は思う。

 少年は後ろにいる吸血鬼の坊ちゃんとお嬢ちゃんを見付け、芋と主人を交互に見てから頷いた。


「分かりました。それではお嬢様達に配って参ります」

「おう。吸血鬼だから全部食べれないだろうが、残った分はお前達で食べてくれ」

「……ご配慮痛み入ります」


 そう言って彼らはそれぞれ吸血鬼の子供達の方に芋を持って言った。一応俺の命令とは言え全部2つに割って確認しなくてもいいと思うけどな。

 あと火傷には気を付けろよ~

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