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ヴラドとカーミラの屋敷

 馬車に揺られて10分ぐらいだろうか、城門とは違うがかなり大きくて細工の施された鉄の門がある大きな屋敷の前で1度馬車は止まった。

 門番をしていた人が馬車のマークを確認した後静かに門を開けた。その門を開けた先にさらに10分ほど進んでようやく馬車は止まった。


「ここがヴラド様の屋敷でございます。どうぞお降りください」


 先にジェンとレディーが降りて扉を開けてくれる。さらに段差があるからか踏み台まで用意しているのだから凄い物だ。

 後ろにはポラリスのみなさんが降りてきて俺同様にこの屋敷を見上げている。

 この屋敷は権力の象徴のようにとても大きい。俺の家よりも広くて、ホワイトフェザーのの大聖堂と同じぐらいの面積があるんじゃないだろうか。

 そう思えるほどに広大な敷地。ここでヴラドは相当の地位に居るらしい。


「どうぞこちらに。ドラクゥル様にはこのままヴラド様とカーミラ様にお会いしていただきます。護衛の方々にはこの者達に客室にまでご案内させていただきます」


 ジェンの後ろにそっと現れたメイド達が人形の様に整った美しさと動きでポラリスのみなさんを案内する。

 俺はジェンとレディーの2人に案内されて長い廊下を歩く。

 ただ黙って歩くのも何なので疑問をぶつけてみる。


「ここで働いているのは吸血鬼だけじゃないんだな。さっきのメイドさん達って人間だろ?」

「その通りですドラクゥル様。彼らは人間牧場の中で優秀な者達を奴隷として働かせているのです。他国の奴隷だと首輪を付けさせるようですが、それだと吸血しにくいのでこの国では左手首に特別な輪を付けさせています」

「俺はてっきり仕事をする人も吸血鬼だとばかり思ってた」


 すれ違うたびに頭を下げる使用人達からは人間だったり、吸血鬼だったりと意外と混じっている。

 人間と吸血鬼の分かりやすい違いは感情か。

 まず人間の方だとさっきのメイド達の様に表情1つ動かさずに淡々と仕事をしている様な感じがする。もちろん男性女性と混じっているがどちらも表情1つ動かさずにロボットか、ファンタジーで見るオートマタみたいな感じ。

 そして吸血鬼の方は表情や感情が分かりやすい。同じように俺が通る時に丁寧に頭を下げるのだが、通り過ぎた後に話し声が聞こえる。ミーハーなメイド達のなのか、俺がジェンとレディーに案内されている所を見てどんな人間なのか噂している。


 そんな声が聞こえるたびにレディーが小さく「教育が必要ですね」っと呟いているのはちょっと怖い。まぁお客に聞こえる声で噂話をしているのは確かにプロ意識が低いと言えなくもないのかも知れないけど。

 そんな様子を見ながら進むと大きな扉の前で止まった。そこでジェンがノックをした後に「お客様をお連れしました」と言うと「通してくれ」と短く返事が返ってくる。

 ジェンとレディーが扉を開けてくれると、とても懐かしい顔が2つそこに居た。


 片方は50代半ばの渋いおじ様風の吸血鬼。

 眼光は鋭く、猛禽類のような目をしており並の者が見ればすくんでしまう程だろう。髭は綺麗に整っており、髪は三つ編みで整えられている所から本来はもっと長いと思われる。

 貴族服をきっちりと着て、全く隙のない老獪ろうかいな印象を受けるかも知れない。


 もう片方は30代前半と思われる女性の吸血鬼。

 おじ様ほどではないが鋭い目線をしているが、上流階級の女性を見事に表している。

 肌の艶や血色の良さ、そして女性から嫉妬されそうなほど整った体付きは、まさに女性として最も輝いている時期と言えるのではないだろうか。

 小娘と言われるほど若過ぎず、かと言ってシワが出てしまうほど年を取っている訳でもない。世の中の女性全員が若返るのであればこの頃の自分だとみな言う様な女の盛りを体現している。


 扉が閉まる音が聞こえると、俺はそんな2人に心の底から再会を祝して話しかける。


「久しぶりだな。ヴラド、カーミラ」


 そう2人に話しかけると鋭い2人の目つきがほんのわずかに緩む。

 その表情は素直に再会を喜んでいる様で親として安心した。


「お久しぶりです父上。2000年ぶりです」

「お久しぶりですお父様。カーミラは元気に過ごしております」


 こうして吸血鬼の中で特に俺と付き合いの長い4人が揃った。

 俺はジェンに勧められるままにソファーに腰掛け、2人と話をする。


「2000年間もほったらかしにして悪かった。ごめん」

「いえ、ジェンから話を聞いています。どうやら父上がこの世界に来た最後の者の様ですし、こればかりは仕方のない事かと」

「ええ。あえて罪を問うのでしたらわたくし達をこのような事に巻き込んだ者の責任かと」


 どうやらあまり俺の事を恨んではいないらしい。

 ホッとしながらこの国の事を聞く。


「それでブラッディ・ピーチの供給は間に合っているのか?一応この間から少しずつ数を増やしているけど」


 いつここに吸血鬼5000人が来てもいいように準備だけは進めている。全員が純血の吸血鬼ではない様だがそれでも美味いと感じるのはやはり生き血か、桃の2択だと思う。

 家族全員を飢えさせない方法は俺の中ではかなり簡単な方だ。育てる物を増やすだけなのだから。

 でも土地は無限ではなく有限なので出来るだけ必要最低限でありたいという思いはある。流石にアルカディア全土を畑や果樹園だけにすると言うのも嫌な話だし、面倒だからな。


「現在の所は問題ありません。ダンピールなどを中心に人間と同様の食で生きられる者から少しずつ血の供給を下げ、我々も血は最低限だけ供給する様にしていましたので問題ありません。さらに父上から頂いたブラッディ・ピーチをアルカディアで生まれ育った者達で食べていたので、そのあまりをこの世界に元々生きていた吸血鬼たちに血を与えているので問題ありません」

「問題ないならいいんだ。それでアルカディアに帰ってくるつもりはあるのか?別に定住しなくてもブランみたいに出勤と言う形で行き来する事も可能なんだが」


 食事に関して問題がないと言うのであれば次の問題はこれだ。

 そう思って聞くと2人は難しそうな表情をする。なんでだろうと思っているとジェンが代わりに説明してくれる。


「実はその事で少々問題が起こっているのです。この地はもとよりこの地に生きてきた吸血鬼から土地を借りているのですが、今意見が二分しているのです」

「意見?」

「はい。1つは我々に土地を返し、アルカディアに帰れという者達です。これはこの国で土地を借りる際に決めていた事なので特に我々アルカディアから来た者達にとって特に問題ないのですが、問題はもう片方の意見。このままこの地に定住していて欲しいという者達です。彼らは最低でもこの戦争が終結するまでは我々に留まってほしいと意見しているのです」

「例の勇者か。俺はそう言う戦いごとに関してさっぱりなんだが、そんなに強いのか?」

「普通の吸血鬼では難しいかと。我々真祖かノワール様ほどであれば簡単に倒せます」

「でもいざと言う時のために前には出れない、か。もどかしいな」


 そう考えると勇者って結構都合の良い存在だよな。

 王様の様に特別な地位があるという訳ではないから思いっ切り戦場を駆けまわる事が出来る。そう考えるとゲームで出てくる姫騎士とかかなり矛盾してないか?戦っちゃいかんだろお姫様が。

 そして強い真祖であるヴラドたちは偉い立場に居るのでそう簡単に戦場に出る事は出来ない。人間牧場の人達を救っているつもりかもしれないが、この国の人達から見れば家畜を奪いに来ている奴らだからな……


「倒す方向に動きたいって言うのであれば普通の吸血鬼を真祖になるまで育てるけど、どうする?その方がいい??」

「いえ、今は私とノワール様で政治面の方から戦争を終わらせる様に動いているので問題ありません。現在ホワイトフェザーの方に人を送り、教皇に止めるよう言っていますので恐らくもうすぐ止まるかと。停戦後はアルカディアに戻る予定です」

「教皇?他国の問題を教皇が治める事が出来るのか?」

「現在パープルスモックと戦争をしているホーリーランドはホワイトフェザーの属国です。ならばその上の地位に居る者に止める様に言うのは当然かと」


 そう言うもんかね?こういう政治的な問題はさっぱりだ。

 そう考えているとジェンが俺達の前にグラスを置き、ワインと思われる物を注いでいく。


「そう言った話はまたその内。今は再会を祝いましょう」

「そうだな。父上が心配するのも仕方がないと思いますが、今は素直に再会を祝いましょう」

「それにしてもいい物を用意したわね。レディーも飲みなさい」

「では失礼します」


 ジェンがそう言うので俺もグラスを持った。

 そして集まる視線。どうやら音頭を取るのは俺の様だ。

 俺は咳払いをしてからみんなに言う。


「それじゃ再会を祝して」


 5人の持つグラスを軽くぶつける音が部屋に響いた。

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