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パープルスモック

 ドクターに送ってもらうとそこは何とも言えない光景だった。

 いや、少し丘になっている所から遠くの首都と思われる城壁に守られたところがあるのだから特におかしい点はない。

 おかしいのは空の色だ。何故かこの一帯だけ紫色の空になっており、首都を中心に広がっている。実際少し後ろの方にある森の上空は普通の青空、首都と森の境目からハッキリと青と紫色の空が分かれているのだから奇妙な光景だ。


「不思議な空だな……こう言う空って他の所にもあるんですか?」

「いや、空の色が違う場所なんて聞いた事がない。何かの……魔法じゃないか?」


 どうやらこういう光景は他にはないらしい。こうなるとまたノワールのなんかが絡んでいるんだろうなっと思う。なんかの結界なのか、絶対何らかの意味はある。無駄な事嫌いだし。

 まぁ人間に変な影響を与える事はないだろう。もしそうならこの紫色の空の影響を既に受けているだろう。


「今のところ私達に何かの影響はありませんし、進みましょう」


 ドクター達が居る洞窟から出たからか、ディースさんの言葉に力が戻る。そりゃ苦手な蛇が密集している所から抜け出してよかったと思っているんだろうが、俺の手首にはまだドクターの子孫が巻き付いている。

 それに気が付いたディースさんはまた顔色を悪くしたが、先程の光景に比べれば大丈夫と思ったのか思っていたよりも大丈夫そうだ。


 こうして城門までの道を真っ直ぐ歩いて行くと、城門の前まで来たのだが……人がいない。

 カイネなどだと城門は常に開いており、その前に門を守ったり、入国検査をする人達が門の前に立っていたのだが……ここではそうではないらしい。

 だがこう言う時どのようにして中に入ればいいのか分からないので辺りを見渡していると、上の方から声をかけられた。


「お前達!どこの者だ!!名乗れ!!」


 やっぱりホーリーランドと戦争しているからか、きつい感じで話しかける。

 俺はジェンからもらった通行許可書を取り出して見せながら大声で返す。


「俺の名前はドラクゥル!!え~っと、ヴラド・ドラクゥルから通行許可書をもらっている!!」


 俺の名前に反応したのか、それともヴラドの名前に反応したのか、城壁の上に居る兵士達は慌てた様にして「今確認する!そこで待っていろ!!」っと言ってなんだか大騒ぎだ。

 もしかして事前に俺達が来ることを聞いていたとか?まぁジェンからそう言う話を聞いていてもおかしくはないし、スムーズに動けるよう手配している可能性は高い。


 そう思って待っていると馬車がやってきた。城壁に沿って歩きながら馬車が2台こちらに向かってきている。

 だがその馬車は普通ではない。ただ単に貴族向けの豪華な装飾がされているというだけではなく、馬車を引かせる馬とその従者が異様だったからだ。

 まず馬の方はたてがみが奇妙で毛と言うよりは靄の様な物が出ているナイトメアと言う馬だし、従者の方は首のない騎士、つまりデュラハンだ。

 デュラハンは馬と騎士がセットで書かれるイメージが多いかも知れないが、アルカディアではデュラハンは首のない騎士単体の事を指すので必ず馬に乗っていると言う事はない。


 そんな馬車を見て俺達は何だろうと思いながら避けるために数歩下がると、片方の馬車から降りてきたのはジェンとレディーだった。

 2人は深々と頭を下げてから俺達に向かって言う。


「みな様、お待たせいたしました。これより先はこちらの馬車をお使いください。この馬車でヴラド様のお屋敷までご案内いたします」

「こちらの馬車にポラリスのみな様、こちらにはドラクゥル様がお乗りください」


 どうやら馬車は4人用の様で俺とポラリスのメンバーは別々の馬車に乗らないといけないらしい。

 なので俺はジェンとレディーが乗っていた馬車に乗り込む。

 従者によって扉が閉められるとジェンとレディーに謝罪された。


「申し訳ありません、ドラクゥル様。ドラクゥル様ご一行はこちらの想定以上に速く、準備が間に合いませんでした」

「本来であれば転移した先でお待ちしている予定だったのですが、ドクターからの連絡もスムーズではなくお待たせしてしまいました」

「別にそんな事でキレる程短気じゃねぇよ。それよりこの馬車は何だ?」

「こちらはドラクゥル様をお守りするためです」

「俺を守る?」


 どう言う意味だろうと首を傾げるとジェンは答える。


「確かにこの国はノワール様を始めとしたドラクゥル様がお育てになった吸血鬼などが中心となりましたが、この世界で生まれ育った吸血鬼たちもいるのです。中には貴族となりそれなりの地位にまで上り詰めた者も居ます。その者達は人間を見下している方々が多く、余計な問題を引き起こすかも知れないと言う事で馬車で移動させていただこうと思ったのです」

「どこも一枚岩ではないって事か。でもこの馬車で俺を守るって出来るのか?普通の馬車みたいだが……」

「この馬車その物は普通の物ですが、この国で国賓を乗せているというマークがついておりますので貴族であればすぐにどれだけの重要な人物が乗っているか察する事は出来るでしょう。それでも攻撃を仕掛けてくるようでしたら……」

「その先は聞かないでおく。俺関係ないし」


 そっぽを向きながらそう言うと丁度城門が開いた。

 開いた門の先に入ると、そこはカイネやホワイトフェザーとはまた違う町の光景が見えた。

 何と言うか、町そのものがかなり華やかなのだ。綺麗な噴水に所々点在する公園、ベンチに腰掛けて孫を優しげに眺める老夫婦、恋人と一緒に歩いているのか幸せそうな男女。そんな彼らの服装がどれも立派である。


 ちゃんと伝えると全て貴族服と言える服で、カイネやホーリーフェザーで見た普通の人が着るような服を誰も着ていない。普通の人が着ているのは簡単に言うと古着、もしくは自分で作った服が一般的だ。ちゃんとした洋服店で買うとなるとかなり値段が高い。

 まぁユニ〇ロみたいな大量製品を売っている訳じゃない。この世界ではまだ機械化している物はなく、全て人の手による手作業で作っているのだから当然だ。

 なので新品の服を着ているのは金のある商人か、貴族ぐらいなのである。

 そんな服を普通に着ている首都。経済的にとても優れているような印象を受ける。


「随分と金がある国なんだな。パープルスモックって」

「逆に言うとこういう面でしか金銭を使う機会がないのですよ。人間牧場の血は国で管理しているので高額に設定していませんし、極端に言うと牧場の運営と首都の維持、そして軍事力にしか金銭を注ぐ事がないのですよ」

「でもここの他に街はあるだろ?それにここに居るのが全員貴族って訳じゃないだろ」

「当然です。ですがここには一定以上の地位がある者しか住む事が許されていません。首都を守る衛兵も、裁縫師も、みな認められた者しかこの首都に住めませんので」


 つまりこの首都に住んでいるだけでかなり偉い人達、もしくは実力のある人達って事か。

 となると他の町の人達はどうなっているんだろう?


「他の町はどうなってるんだ?」

「他の町となると……大抵は領地として国境を守らせたり、牧場の管理をしています。流石に首都ほどではありませんが、それなりの賑わいを見せていますよ」

「そりゃいい事だ」


 そんな話をしながら俺達はヴラドの元に向かっていく。

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