ゴブリンに出会った
身一つとゲーム能力(非戦闘)を持って俺は冒険を始めた。
当然この世界の地図なんて持ち合わせていないし、とりあえず歩いていればどうにかなるかな~っと言う楽観的過ぎる感じで行動を起こした。
この異世界転移した場所はどうやら盆地の様な場所らしく、周囲の山々に囲まれていてどの方向に何があるかすら分からない。
アルカディアで作った場所なら大体覚えているが、人が住む場所など全くないのでどちらにしろあてにはならない。
あ~あ。せめてモンスターの育成ができればな……最短でEランクのゴブリンの群れでも育てる事ができればある程度身の安全につながると思う。彼ら1体1体は弱いが群れる事が前提のモンスターなので群れればそれなりに強い。
そりゃ人海戦術とか、種の多さを利用した戦法になるがそれは人間だって同じだ。
歩兵とか弓兵とか、シュミレーション系のゲームなら大体分かるだろう。ただ強いユニットを並べる事で勝てるのではなく、様々なユニットを使いこなす事で勝てる。
まぁアルカディアはモンスターの世界を作るゲームだけど。
モンスターの数が増えるにつれて土地も大きくなったし、大型のモンスターを育てればその必要に応じてまた台地が広がっていく。
とあるモンスターに進化させるために火山を設置したり、大河を作ったり、海岸作ったり……ついこの間までしてたはずなのに懐かしく感じるのは何でだろう?これが年かな?
なんて思いながらヤバそうな動物に出くわさない様にこそこそと行動中。身の危険を感じたらファームに戻り、危なくなくなったらまた外に出て探索したりをひたすら繰り返していた。
とりあえず今のところ人にも動物にも出会ってない。
危険な目に遭わず運が良いと言うべきなのか、誰にも会わなくて運が悪いと言うべきか、どっちなのかさっぱり分からない。
そんな風に過ごす事早くも1週間。
普通なら遭難だ何だと騒ぐところかも知れないが、最初っから世界をまたにかけた遭難者なので今さらとしか言いようがない。
そしてこんな状況でいくつか分かった事がある。
まずこの世界は多分地球と大きさはそう変わらないと思う。マイルームに戻って時間を確認しても24時間と変わらない。昼と夜の長さを感覚的に、ではあるが大きくずれている感じもしない。
日付に関しては……よく分からない。一応マイルームでは地球と変わらないがこの世界でも1ヶ月は30日なのかどうかすら分からない。まずは人が居るところにたどり着きたい……
そして食事などに関しては全く問題ない。
理由は家の子供達に食べさせる用の木の実や肉、魚を俺も食べる事が出来たから。流石に特定のモンスター用は味的な問題で食べられなかったが、無理に食おうとすれば問題ないだろう。
使い方によっては食事ではなく別な使い方で役に立ちそうな物もあるし、しかも全て最上級の品質なのだから当然素晴らしい効果も持っている。
まぁ使う場面がないと良いけど。
そして1番の問題であるモンスターの育成が出来ない理由に関しては未だに分からない。
ゲーム同様に操作してみると反応しないだけでどこか壊れている感じはしない。レバーなどを動かしても違和感ないし、何か引っかかっている様子もない。
どこにも異常がないのに使えないのだから理不尽だ。これでどう世界を救えと?俺はてっきりモンスターを使って世界を正せ的な事だとばっかり思ってた。
でもそれが出来ないと言う事は……この食材で世界を救えって事か?美食で世界を救う?
…………無理だな。俺にそんな知識も技術もないのにどうやってうまい飯を広めろと?どっかの何故か服がぶっ飛ぶ料理マンガみたいな事をやってのけろと?
100%無理。よくてここにある食材をよりよくするぐらいだな。
とりあえず山を下りればせめて道ぐらいはあるかと思っていたのだが……全然見つからない。食事と家に関して問題なくともこれではな……
なんて思っていると近くの草むらから音が聞こえた。何だろうと思いながら一応鎌を取り出す。
ゲーム内で芝を刈ったりするための小さな鎌だが、ないよりはマシだろう。それとももっと長い鍬でも取り出しておくべきだっただろうか?元々戦うための道具じゃないし、本当に一応程度の物でしかないけど。
鎌を音のする方に向けて警戒していると、茂みから現れたのは棍棒を持ったゴブリンだった。
アルカディアの知識では1対1体はそう強くはない、問題は数と種類。俺はゴブリンが持っている物が棍棒である事を確認してから全速力で逃げだした。
俺が逃げた事を察したゴブリンが不快な鳴き声を上げて俺が逃げた事を伝える。
普通の動物なら逃げる時は背を向けてはいけないと聞くが、ゴブリンの場合は大丈夫だ。通常のゴブリンであれば走っても大体幼稚園児ぐらい、早くても小学生低学年の中で足が速いと言われるぐらいだ。
それに恐らく相手は通常のゴブリンの群れだろう。大きな群れになればなるほどゴブリンは集団行動を求める。弱いことを自覚して数で勝とうとするからだ。
だがあのゴブリンは1体だけ姿を現し、武器も通常のこん棒のみ。なら100%ただのゴブリンの群れだ。
アルカディアではゴブリンの育成は少し特殊だ。以前説明した様にゴブリンからゴブリンキングと言う上位種が生まれないと他の多種多様な種に進化する事が出来ない。
俺がゴブリンが通常の物かどうか確認したのはそのためだ。仮にさびた剣を持っていたら恐らくゴブリンソードだろう。ただゴブリンが人の道具を奪っただけならともかく、進化でその剣を扱えるようになっていた場合厄介さは段違いになる。
なんせ俺は学校の授業で剣道を体験したぐらいでろくに武器の使い方すら出来ていないのだから、きちんと武器を使えるゴブリンの方が強いのはよく分かるだろう。
そしてここからは持論なのだが、恐らくゴブリンと言う種はトップ、つまりゴブリンキングの知能の高さによって成長パラメーターが激しく上下する生物だと思っている。
実際俺が育てたゴブリンロード、ゴブリンキング最低10体以上を育てた場合にのみ進化する事が出来るゴブリンの最上位種だが、ゴブリンロードの知識は最低でも成人した大人と同等の知識量を得ていた。そこから普通のゴブリンでも俺が使っていた言葉、日本語を話す様になったし、チェスや将棋と言った頭を使うゲームも理解して遊ぶ事が出来た。
だからゴブリンという生物はトップや周囲の環境から様々な事を学んで成長する、とても人間に似た生物なのではないかと思う。
まぁ全部アルカディアの知識だからこの世界でもそうなのかどうか全く分からないけど。
なんにせよ幼稚園児ぐらいのモンスターであっても油断すればフルボッコにされてゲームオーバーだ。
あのクソの言葉を信じるなら死んでも元の世界に戻るだけらしいけど、ここが現実なのは分かったから死にたくなんてない!!
そう思いながらゴブリンから思いっ切り逃げていると、川があった。
俺は荒い呼吸を無理矢理落ち着かせながら膝に手を付いて休む。
「おーい!!あんた大丈夫か!?」
久しぶりに俺以外の人間の言葉が聞こえた。
手を膝につきながら顔を上げて声の主を探してみると、ちょうど川を挟んだ向かいに4人組の男女が居た。
姿は典型的な冒険者の4人組と言う感じか。剣を腰に差した皮鎧の若い男性、弓を背負った髪の長い男性、魔法使いと思わせるローブと杖を持った小柄な女性、本を膝の上に置いていた優しげな女性の4人。
ようやく人に会えたと少し安心したのだが、すぐ後ろからゴブリンの鳴き声が聞こえた。
目の前は川だが逃げ切れない訳ではない。俺は鎌をアイテムに戻し、後ろを振り返ってから川に入り泳ぎ出す。
川の向こう側に居る人は突然俺が川を泳ぎ出して驚いていたが、すぐにゴブリンが現れたらしく、俺を応援してくれた。
少し流されたが対岸に泳ぎきる事は出来た。全身濡れて寒いのと、服が張り付いて気持ち悪いのを我慢すればどうって事ない。
対岸についてから振り返って見ると、ゴブリン3体が俺の事をしばらく見ていたが川を泳ぐつもりはなく、少しして森の方に帰って行った。
「おいあんた!大丈夫か!?」
そう言って俺に声をかけてくれた男性が駆け寄ってきた。
こうして俺は初めての危機を脱出し、初めてこの世界の人に出会ったのだった。
魔物図鑑
ゴブリン。
Eランク。
緑色の肌に尖った耳、身長は幼稚園児ぐらいの大きさでやせ細った姿をしている。服は麻で出来た簡素な服を着ており知能は高くない。繁殖力が高く、通常の群れなら10体~15体ぐらい。村になると30~50体ぐらいになる。
様々な人型モンスターの基礎となる種族1体。様々な進化の可能性を秘めている。