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パープルスモックの国境

 スレイプニルに乗って3日目の昼頃、俺達はパープルスモックの国境にたどり着いた。

 流石に戦争中と言う事もあり、ここからは空を駆けるのは目立ち過ぎるので地上をスレイプニルに乗って移動する事になった。


「にしても……やっぱり雰囲気が悪いな」


 俺は国境の森を見てそう思う。

 森そのものは特に何て事のない普通の森だろう。だが国境に近付けば近づくほど本能的に近付いてはならないという雰囲気が漂っている事に加え、ここから先はパープルスモックだっと言わんばかりに紫色の霧の様な物が漂っている。

 俺は深呼吸をして気分を落ち着かせると、アレクさん達が何かを用意していた。それは魔方陣が書かれた布であり、まるで掃除の前の様に布で口を覆って頭の後ろで結ぶ。

 そしてメルトちゃんが俺に近付いて来て同じ布を手渡してくれる。


「これ、付けて」

「これは?」

「あの霧は少し毒がある。それから身を守るための防御用」

「……国を守るための防衛手段の1つって所か」


 まさかただの不気味な霧ではなかったとは。

 流石ノワール、その辺徹底してる。


「ホーリーランドもこの霧に苦戦していると聞く。兜に同じ魔方陣が使われているらしいけど、兜を壊されたり外されたりすると毒に犯される。それが原因で傷が治りにくいと聞く」

「傷?具合が悪くなるとかじゃなくて?」

「聞くと傷とかの治りが遅くなり、腐敗していくと聞く。直接吸っても実害はあまりない。でも体が弱いとこの毒のせいで体調が悪化するらしい」


 傷とかがないとあまり効果が出ない毒霧……まさかこの霧って……

 俺は1体のモンスターの事を思い出す。あの子なら確かにこう言う特技があるとだろうが……実際に行動すると言うのは正直意外だ。

 あの子はノワールほどではないがかなりの年上で、弟や妹達を優しく諭すように喧嘩を止めたりしている所しか見た事がない。この世界に来てからきっと誰かを殺す様になったんだろう。

 もしくは優しいからこそ、敵に対して容赦がないのかも知れない。

 そして朝のウリエルからの謝罪を思い出す。


『親父。悪いが俺達はパープルスモックの中には行けない。それをしたらホーリーランドと同じ侵略行為になっちまうからだ。親父ならモンスターの生態に詳しいから大丈夫だと思うが……それでも注意してくれ、俺達は親父の護衛として一緒に居られない。そしてこれはジェンからもらった隠し通路だ。この洞窟を通れば首都の近くにまで行けるらしい。門番がいるそうだが、兄弟が守っているらしいから大丈夫だと思う』


 との事。でも誰が門番をしているのかは教えてくれなかったらしい。だから注意しろとの事。

 洞窟に住んでてこの毒霧の中普通に活動していることなると……結構絞れるな。1番可能性があるのはその優しい子だけど。


「それじゃ移動しよう。食人種が首都を守るように放されてるって話だから移動速度を優先しよう。ドラクゥルさんは大丈夫か?」

「ああ。ホーリーランドの人達と出くわさない様にさっさと行こう」


 当然だがアレクさんも俺と同じ地図を持っている。だからある程度はどこに行くのか分かる。

 こうして俺達5人はその洞窟に向かって進む。道中誰に監視されている気配を感じながらも振り向いたところで誰も居ない。あるのは紫色の霧だけ。

 それらを感じているのは俺だけではなく、特に感覚の鋭そうなライナさんと、霊の気配に敏感なのかディースさんも時々振り返る。元々ライナさんはこのパーティーで索敵を担当していたそうだから特に敏感なのだろう。ばっと振り返っても誰もいないと言う事を繰り返している。


 実はこの霧の中、ちょっとしたお化けの様なモンスターが混じっている事には気が付いている。

 おそらくこの霧に紛れているのはスモッグゴーストだと思う。

 スモッグゴーストはゴブリン同様にEランクのモンスターでただの雑魚モンスターだ。彼らはぶっちゃけると何もできない。比喩表現ではなく本当に何もできない。

 身体全体が一種のガスの様になっており、肉体がないので触れる事すら出来ない。触れようとしてもガスの身体のせいで結局持つ事すら出来ず終わる。


 だからできるとすればこうして監視する事ぐらいなんだろう。だがその代わりに物理攻撃は一切効かないので魔法による攻撃でしか彼らを倒す事は出来ない。

 まぁ魔法と言っても石をぶつけるとか、そう言うのも効かないけど。


「もうすぐのはずだ……」


 アレクさんが地図を見ながらそう言う。

 俺も地図を確認してみるともうすぐ着く様だ。それに俺の事を知っているのか、1部のスモッグゴースト達が洞窟がある場所と思われる方向に指を指す。


 俺以外スモッグゴーストに気付かず森を抜けると、そこには大きな洞窟があった。

 不思議とその洞窟の周辺だけは霧がなく、ハッキリとその姿を見る事が出来るが……洞窟の中はとても暗く何が奥にあるのか一切分からない。

 そして岩などによって足場が悪いからスレイプニルに乗って移動するのは難しそうだ。


「流石にこの先は歩いていくしかないな。ドラクゥルさんは大丈夫か?」

「大丈夫ですけど先にスレイプニル達を牧場に戻させてください」

「分かった。それじゃみんなもスレイプニルから降りよう」


 こうしてスレイプニル達から降りた後、スレイプニル達はアルカディアに帰って行く。

 ポラリスのメンバーはこの場で改めて装備の確認を行い、俺は大方予想の付いている子がいる事を願って食べ物を用意する。だがいざと言う時のために一応対策を練っておく。


「ドラクゥルさんを中心に俺達4人が周りに居る事にしよう。メルト、光の魔法の準備」

「了解」


 真っ暗な洞窟に入る前の当然の準備だと聞く。俺はてっきり松明でも用意するのかと思ったが、原因は分からなくとも一酸化炭素中毒の脅威は経験として知られていた。

 なんでも洞窟を探索している冒険者達の中で松明の火を使っていると体調不良を起こす人が多く居たが、魔法で照らした光だと何ともないと言う事があったために魔法使いがいるのであれば魔法の光を頼りに洞窟内を探索するのが常識らしい。

 さらに言うと、どれだけ長い洞窟か分かっていない場合は松明より魔法の光の方がいいと言われている。しかし松明は松明でいざって言う時の武器にもなるから松明が使えないという訳でもないそうだ。

 まさかサバイバルゲームで見る松明を振り回して敵を撃退するなんて場面に遭遇しないよな?

 何て不安があってもポラリスのみなさんは俺を守るために俺を中心にして四方を守ってくれる。


「それじゃ、行くぞ」


 緊張した声色でアレクさんが言い、俺達頷く。

 洞窟の中は思っていた以上に暗い。少し入ったばかりなのに既に目の前が真っ暗で何も見えない。後ろを振り返るとまだ光がある方がいいのではないかと、つい洞窟の入り口を何度も振り返ってしまう。


「大丈夫ですよ。すぐに光を用意しますから」

「『ライト』」


 メルトちゃんがそう呟くと球体上の光が現れて洞窟を照らしてくれる。

 と言っても光が届かない所は当然真っ暗で、この魔法では精々足元と俺達5人がどこにいるのか分かる程度だ。

 でも俺は不安な気持ちを抑えながら、守られながら前に進む。いざと言う時に戦わなければならないと思っている彼らに比べればまだマシだから。


「ライナ。お前の魔法で中を確認してるか」

「していますが……かなり複雑に入り組んだ洞窟の様です。しかも広い。これだと洞窟の出口がどこなのか調べるのは無理そうです」

「そうか……お前の魔法で分かればもっと楽に進められると思ったんだがな」


 アレクさんとライナさんがよく分からない会話をしている。

 何の事だろうと思っているとメルトちゃんが説明してくれた。


「ライナは風の索敵魔法を使っている。それでこの洞窟を調べてる」


 あ~なんか聞いた事があるな。ソナーのマネだっけ?


「ライナさんは風魔法を得意としているのでこう言った索敵の技術も凄いんです。これである程度は先に何があるのか分かると思います」


 それは安心だ。でもここに居るのは俺の子供だからな……あっさりとかいくぐりそうな気がしてくる。


「先の様子が分かるのなら安全ですね」


 そう言って軽く笑ってから先を進む俺達だった。

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