行けない??
「パープルスモックに行く方法がない?」
翌日、俺はクウォンさんの所に行ってパープルスモックへの行き方を聞きに行ったら方法はないと言われた。
「6大大国の1つであるパープルスモックに行けないって本当なんですか」
「いけない事はありませんが、彼の国は最も厳重な国でして許可書がないと入れないのです。もちろん向こうからやってくる商人達も必ず通行手形がありますし、それがない状態で入国すれば不法入国者として罰せられます。よくて奴隷、悪ければ食人種の餌にされるとの噂もある程で行かないで欲しいのですが……」
厳重な警備過ぎる……って事もないか。
不法入国者を警戒するのは当然だし、今は勇者と言う存在が入り込んでいる状態なのだから当然と言えば当然と言える。人間側から見れば正義の味方である勇者も、ノワール達から見ればただの敵なのだから。
そんな敵の誰かが潜り込んで来るかも知れない状況下であっさりと通してくれるとは思えない。
行動を起こすとすればジェンに頼んで通行手形をもらった後の方がいいのか?でもそれだと勇者の侵攻に大分遅れる事になるだろうし……
「さらに言うと今は勇者様がパープルスモックを魔王から解放するために騎士団と共に動いているそうですので、行くとしてもそれが終わった後の方がよろしいのではないでしょうか」
「それって侵略行為にならないんですか?勇者って言うのはよく分かりませんけど、結局侵略行為ですよね」
「それに関しては大丈夫なようですよ。何でもパープルスモックの貴族が近くの小国、ペンライト国に救援を要請したそうです。邪神信仰の者達が国を乗っ取ったとか」
「邪神信仰?」
その単語は初めて聞くので聞き返すとクウォンさんは説明してくれる。
「邪神信仰は闇を司るノワールと言う神を信仰している教会の様です。噂によりますと、肉体と言う楔からの解放と言っているらしいですが、どれもこれも噂ばかりでどれが真実なのかよく分かっていない状態なのです」
「噂が一人歩きしている状態ですか……そう言われると不安ですね」
なんにせよ、現在パープルスモックに行く事は相当厳しい様だ。
この間ホワイトフェザーに行けたのは単に首都だったからと言う事なんだろう。だから多くの冒険者を護衛に付ける必要はあっても、馬車で行動したりする事が可能だった訳だ。
それにあのアルカディアと行き来するための穴はアルカディアに入る前の場所にしか戻れない。仮にジェンかレディーの穴に入ったからと言ってもパープルスモックに行く事は出来ない。
良い情報が入らなかった事に残念に思いながらも帰路についた。
こうなったら1人でパープルスモックに向かうしかないのかな~っと思いながら帰る。
「お~い!!ドラクゥルさ~ん!!」
ふと声をかけられた。
どこかで聞き覚えのある声だと思いながら振り向いてみるとそこには見知った4人組が俺に向かって手を振っていた。
「ポラリスのみなさん!」
声をかけたのはポラリスのリーダーであるアレスさんだった。
ポラリスのメンバーであるディースさん、ライナさん、メルトちゃんも一緒だ。
俺はポラリスのみなさんに歩み寄り、再会を喜ぶ。
「お久しぶりです。冒険者としての活動は大丈夫ですか?」
「おう。ついこの間まではグリーンシェルのダンジョンに潜ってたところだ。そこで色々と稼いで帰ってきたところ。そっちは順調か?」
「はい。後日野菜なども売る事になったのですが、貴族向けの野菜と言う事になり上手くいっている方だと思いますよ」
「貴族向けに売ってるって、それ農家としては相当成功してるっていうんだぞ。それをあっさりとまぁ……」
どこか苦笑いの様な物を浮かべるアレスさんだが、ライナさんは俺に注意する。
「ドラクゥルさん。貴族相手に商売をしていると言うのはあまり公にしない方がいいですよ。不埒な者がドラクゥルさんを狙うかもしれませんから」
そう小声で言った。
やっぱりこの世界の治安って日本に比べるとあまりよくないんだよな……日本じゃ逆に偉い人が買って食べてくれますよ、だからこれぐらい美味しいですよ~みたいな感じで売りにしてるのに。
そう言うのは商業ギルドの方で行ってるのかな?俺は野菜を作って商業ギルドに卸すだけだからよく知らないけど。
そう思っているとアレスさんが肩を組んで俺に言う。
「とにかく、今日は再会を祝して飲もうぜ!」
「無理やりはよくないですよ。予定があるかもしれないんですから」
そうたしなめるディースさんだが俺にとってもちょうどいいかも知れない。
いざとなったら個人的に冒険者を雇ってパープルスモックに行くことも検討しておかないといけないと考えている。だから冒険者たちに頼むとすればどうするべきなのか色々聞けるかもしれない。
「俺はいいですよ。特に予定もないですし」
「なら決まりだな!今日は一緒に飲むぞー!!」
こうして俺はポラリスのメンバーと一緒に酒を飲みに行くのだった。
もちろん家にいるみんなにはメール機能を使って飲みに行くから飯はいらないと伝えておく。
――
俺達が飲みに来た場所は冒険者ギルドと言う場所だ。
文字通り冒険者向けのギルドで大抵のギルドと付く組織はつながりがある。商業ギルドの場合は人を派遣して魔物の素材を買い取っていると聞いている。だからここに居る買取専門の職員は商業ギルドから派遣されていると言っても間違いない。
そして商業ギルドからは主に情報を提供している。例えばどこかの村で魔物被害が出ているので退治してくれる冒険者を求めているとか、どこかの薬剤師が特別な薬草を探しているので採ってきてほしいとか、そう言った依頼を教えてくれたりする。
あとは単に街道近くに魔物が出るようになったので退治してほしいとか、そう言う依頼なんかもあるとか。
そしてこの冒険者ギルドはお約束と言うかなんと言うか、食堂も一緒になっているそうで酒なんかも出してくれる。
しかも結構リーズナブルらしい。その理由は冒険者達が狩った魔物の肉をそのまま調理しているからだそうだ。直接生産者と取引しているような物だから安く売る事が出来ていると言う感じか。
そんなギルドの飲み屋で乾杯し、俺達は飲んでいる間に俺はパープルスモックに行く方法についてアレクさんたちに聞いてみると、飲んでいたエールを噴き出して、咳き込んでいるアレクさんが居た。
その背をさするライナさん。そしてディースさんが俺に説明する。
「今パープルスモックに入るのは自殺行為ですよ。現在パープルスモックにホーリーランドが戦争を仕掛けている状態ですので今行ったら戦争に巻き込まれます」
「もう少し落ち着いた時に言った方がいい」
ディースさんの言葉にメルトちゃんも同意する。
と言うかメルトちゃんがビールっぽいの飲んでるのを見ると大丈夫なのか?って思うんですけど。年齢制限は無い?全部自己責任だから飲もうが飲まないが勝手?
……子供のうちから酒飲んでると悪い影響出るんじゃないの??
それは置いておいてだ。現状パープルスモックに行く方法はどうやらないらしい。
となるとここは強引に俺1人で行くしかなさそうだ。例の戦争と言われるほどの戦いに巻き込まれたくないという気持ちは当然あるが、それ以上にノワール達の事が心配だ。
それにいざとなれば情けないと分かってはいるが、ブラン達の力を借りるのが最も手っ取り早いだろう。親として子供達に頼むと言うのは情けなくて、ある意味ブラン達に言う覚悟が必要だけど。
「やっぱりダメか……ちなみにその戦争を仕掛けたホーリーランド?って国はどんな国なんだ」
「ホーリーランドはホワイトフェザーに属する国ですが、いわゆる過激派です。ホワイトフェザーが信仰している神が絶対であると信じて疑っていません。白夜教会はそこまで過激な宗教ではないので他の神に対して排他的ではないのですが……個々人の気持ちとなるとまた別の問題ですので」
「なるほど。てことはある意味その国の暴走だと?」
「そう聞いています。それから勇者?を名乗る少年が現れた事で勢いに乗っているとも聞いています。勇者とは物語りだけの存在なので、単にその少年が語っているだけでしょうけど」
そう言えばこの世界に魔王とか勇者とかそういう単語はあまり聞かないな。
確かにノワールの事を魔王と言う言葉で示してはいたが、それはおそらくその勇者を名乗る少年が言い出した事だろう。となるとその勇者君は俺と同じゲームの力を持った奴か?
一体どんなゲームから力を得たのか分からない分何と言えばいいのか分からないな。それに比べて俺のゲームは箱庭ゲームで戦闘面はおそらくかなり低いだろう。出来るだけガチの戦闘系ゲームの相手とは当たりたくないな。あとは廃人とか?
「……となるとやっぱり無理か。話が聞けて良かったです」
「ところでなぜパープルスモックに行こうと思ったんですか?こう言っては何ですが、あまり人が好んで近付くような国ではないと思うのですが……」
ライナさんが遠慮しながらも聞いて来る。
それに対して俺は温いエールを飲んでから素直に答える。
「どうやらその国に俺の家族がいる様なんです。と言っても別に悪い状況になっているとかそう言うんじゃないんですけど、今パープルスモックが大変ならこっちに来れる様にしておいた方がいいと思いまして」
「パープルスモックにご家族が?ですがドラクゥルさんは迷い人――」
「実は俺がこの世界に迷い込んだのは必然だと思っています。ついこの間ホワイトフェザーのお祭りで家族に会いました」
そう言うと4人は驚いた様で目を大きくした。
そりゃ迷い人の家族が俺よりも先に迷い込んでいるとは思わないだろう。でも本当の事なので信じるかどうかはそちらに任せるしかない。
「どうやら俺は家族の中で最後にこの世界に迷い込んできたみたいです。ですので俺はまた家族みんなをそろえて一緒に飯を食って、笑って暮らしていきたい。そのためにパープルスモックに居るという家族に会いに行かないといけないんです。もし戦争で家族が死んでしまったらと思うと、早く行かないといけないという気持ちにかられます。ですので俺1人でもパープルスモックには行きますよ。情報ありがとうございます」
そう言うと4人はどうするべきか悩むように視線を泳がせる。ディースさんはオロオロとするし、メルトちゃんはコップの中のエールをじっと見る、ライナさんは目を閉じて動かなくなった。
「…………あ~もう!!」
そう思っているとアレクさんは両手で頭をかきむしりながら苛立つ声をあげた。
頭に言っていた手をテーブルに叩き付けると、アレクさんは俺に向かって言う。
「そんな危険な所に1人で行かせる訳にはいかないだろ!!冒険者として依頼してくれるんなら護衛でも何でもしてやるよ!!」
「アレク!?」
「アレクさん!!」
「正気?」
ライナさん、ディースさん、メルトちゃんがアレクさんに向かって言う。
確かにこれはどう見ても暴走している様に見えるが、俺は止める。
「いやいや、流石に危ない所に行くのに巻き込む訳にはいきませんよ。それにこれは家族を探すという俺の個人的な目的の旅なんですから、みなさんを危険な旅に巻き込む訳には――」
「そんな話を聞いて放っておけるほど俺達は薄情じゃねぇよ!それに危険な所に行く分報酬は上乗せしてもらう。それから食事とか寝床とか色々サービスしてもらうぞ」
「アレク。確かにドラクゥルさんの気持ちは分かりますが、これはあまりにも分の悪い依頼ですよ。私達4人だけでパ-プルスモックにたどり着くだけでもどれだけ危険だと思っているんですか」
「だからその分依頼報酬量と旅の安全のためにドラクゥルの力を借りる。あの力を使えば夜は安全に寝れるし、十分に疲れを癒す事も出来る。もちろん食事とかもドラクゥルに用意してもらう」
「それは何でも暴利では――」
「構いません」
「ドラクゥルさん!?」
アレクの言葉にライナさんとディースさんが色々言うが、護衛してくれるのであればこれ以上の適役はいないと思い、その条件を飲む。
「この調子だと他の冒険者の人達に頼んでも上手くいきそうにないので、それなら信頼できるみなさんにご協力いただけると助かりますので。それに俺の力についても知っているので楽ですし」
「確かにそうかも知れませんが……歩いて行くだけでもここからパープルスモックまで1ヶ月、首都に着くには2カ月かかると聞いています」
「足ならこっちで用意出来るからそこまで時間はかからないと思いますよ。かなり良い馬を用意出来るので」
ふっふっふ。最近進化したあいつらの足なら問題なくたどり着けるはずだ。戦闘能力も高い方だし。
問題は性格の方かな……種族として気の荒い性格しているのが多いからな、その辺りはこちらでどうにかするしかないか。
「それじゃ俺達の方が色々準備しないとな。本気の戦闘になるかも知れないし、色々準備が必要だ。そのために3日は時間が欲しい」
「分かった。それじゃ3日後にパープルスモックに向かいましょう」
こうして俺はポラリスに護衛依頼を任せたのだった。




