魔道具問題
若葉が旅立ってから早くも1週間が過ぎた。
大きな変化はないがやはり寂しがっている子供達もそれなりにいる。
と言っても真剣に行っている事を横から首を突っ込むのもためらわれる。
結局いつも通りの日常を送るしか俺には思いつかなかった。
「ドラクゥル様。お時間よろしいでしょうか」
「ん?あ、ライトさんどうかしました?」
「1つお願いしたい事がありましてお話よろしいでしょうか」
「分かりました。それじゃホームの方で聞きましょう」
さて、今回の仕事は何かな~。
――
「ヴラド達から魔道具の修理する技術を提供欲しい?」
「はい。もちろん技術料はお払いしますし、できれば人間にも修理が出来るほどの技術提供をいただきたいと思います。そしてもちろんこれらの技術はアビスブルーで特許申請をしていただきたいと考えております」
「特許申請ってあいつら特許申請してなかったんですか?」
「そうなのです。そのため彼らの持つ魔道具技術は誰も知らないのです。そのため修理する事もできず、魔道具の技術を持った人々もみなこちら側に引っ越してしまったために魔道具が直せないのです。その規模もすでに無視できないほどになってしまったのでどうにか許可をいただけないかと」
「それはあちこちで聞いていましたが……そんなに危ない状況なんですか?」
「非常に危ない状況です。まず各国に存在するギルドの大半は魔道具に頼って保管方法を利用しています。置き場を圧迫せず、アビスブルーの製品に比べると安い事、そして修理しに来てくれることからパープルスモックの魔道具を購入していた理由となります。アビスブルーの場合こちらに来るのは数か月先から年での単位ですからこちらの方が手軽だったというのも理由です」
「なるほど……でも技術の独占はともかく、真似しようとした人たちはいなかったのですか?」
「もちろんその魔道具技術を模倣しようとした魔道具作りの技術者たちは大勢います。しかし使用している貴金属からその魔法陣などすべて高度すぎて再現すら不能と断定されました」
「そんなに高度だったんですか」
「なので各国の魔道具が壊れて二度と使用する事が出来ない事態は無視できないほどに切羽詰まって言うます。ご協力いただけないでしょうか」
「協力はしますけど……ヴラド達呼んできますね」
なんにせよ俺だけで決められる話ではない。
吸血鬼の代表であるヴラドを呼んで事情を説明。
魔道具が壊れて困っている事を伝えるとヴラド達は堂々と言う。
「なるほど。我々の作った魔道具を再利用するために技術を提供してほしいという事に関しては理解した。しかし特許に関しては取得するつもりはない」
「それは技術の独占のためですか」
「そうだ。我々が製作した魔道具は魔法だけではなくその素材も希少な貴金属を使用してる。仮に特許を取得した場合それらの貴金属を奪い合う事態になりかねない。それは新たな戦争の火種となる。そしてそれらの使用方法を変化させれば簡単に兵器にもなる。それらの技術を公開するのはまだ早いと私は判断する」
「では現在使用されている魔道具の修理に関してはどうでしょう。みなさんの安全は我々ホワイトフェザーが保障いたします」
「それも無理だ。こちらの予想ではあるが被害を受けているのはホワイトフェザーだけではなくこの大陸の国々全てと言ってもいいほどのはずだ。販売したのはワイトフェザーだけではなくカーディナルフレイムやグリーンシェルなどにも販売している。それらを我々だけで修理するのは不可能な数だ。それに元々このような事になったのだから私達は人間と一切かかわらないように生きようと考えている。このアルカディアと言う土地でひっそりと暮らすのが我々にとって最善であると考えている」
この答えにライトさんは残念そうにした。
しかしそうなるとこの大陸にあるパープルスモック製の魔道具はすべて廃棄することになる。
アビスブルーからすればいい商機だと思うかもしれないが、ほとんどの者は科学によって作られた道具と言う物は非常に高価で修理しにくい物と言う固定概念がある。
大体にして電気などもどのように賄うのか不明だし、近くに発電所を作るとなれば場所も時間も金もかかる。
流石にそんなことは出来ないだろうし、できたとしても国家事業になるだろう。
普通であればそれくらいの規模となる。
「ゆえに、我々は協力しない」
完全に協力は出来ないと言われ手を打つ手段がなくなったライトさん。
俺は俺でどうにかこの状況を回避できないか考えてみる。
何せ商業ギルドや冒険者ギルドでヴラド達から買った魔道具をだましだまし使っているところを知っているのでどうにかしてあげたいという気持ちもある。
これが壊れたら人間社会の基盤ともいえる魔道具がこの世から消えてしまうのはあまりにも納得が出来ない。
「……なぁヴラド。やっぱり修理できねぇかな」
「父上。しかし特許を申請した場合と我々が修理に出向く事、これらはあまりにも危険です。確かに魔道具の修理は必須であるという話は納得できますが、ホワイトフェザーやグリーンシェルなどに教えるのはまだ早すぎるかと」
「ならうちの子達を使うのはどうだ」
「ほう」
ヴラドの興味を引いたので俺は考えている事を口に出しながらさらに考える。
「ヴラド達が危険だと考えている理由は特許の申請による情報の漏洩、そこから使用している素材の奪い合いによる戦争の勃発、そんでもって単純に修理する人数が全く足りていない現状だ。人数に関しては正直日増してる子供たちが多いし、出来れば農業じゃなくて機械関連の仕事をしたいと思っている子供たちもいるからその子達に技術を教えれば数は足りると思う。情報に関しては漏洩しないようにきつく言っておく……じゃダメかな?」
「なるほど。確かにそれなら数はどうにかなるでしょう。ですが必要な素材に関してはどういたしますか」
「そんなもんこのアルカディアで手に入らないものはない。と言うかアルカディアで使っていた金属を発見して使用していた可能性の方がよっぽど高い。だから素材に関してはこのアルカディアで発掘すればいいはずだ。鉄だろうが金だろうが採掘場は十分にある。それでも向こうに迷惑をかけない程度の量にしないといけないが」
「人材の派遣に関してはどうしますか」
「俺の家みたいにどこか店舗を借りてそこと子供達をつなげる。店舗と言うか家というか、とにかくそういうところは必要だと思う。人材に関してはこれから育てるし技術もこれから学ぶことになるからさすがにすぐとはいかないけど」
「店舗はどのような物を借りるおつもりで」
「ぶっちゃけ道具や素材に関してはこっちで生産するから受付と客がどんな魔道具を修理してほしいのか登録しておくための書類整理みたいなものが出来ればいいと思ってる。魔道具のほとんどは設置型でこちらから出向く必要があるから他に必要になるとすれば修理道具を置いておくための倉庫とかだと思う」
「店舗を借りるための資金は」
「金なら有り余ってる。もちろんちゃんと向こうの世界の金だ。野菜はなぜか買い取り額が上がってるし、あとグリーンシェルからバラの開花の特許から少しだけ金が入ってる。金がないって事はまずない」
「ではそれを実行しますか」
「それはヴラド達に任せる。こういう言い方もどうかと思うが技術や権利を持っているのはヴラドだ。だから最終的な決定はヴラド達に任せたい」
あくまでも俺は魔道具が直せなくて困っている人たちの事を助けてあげたい、見てられないという理由だけだ。
ヴラド達は理不尽な理由でパープルスモックを追い出されたわけだし、人間を信用できないと言われればそれまでだ。
だからこその提案。
その後を決めるのはヴラド達次第だ。
できる限りの提案をしたが、ヴラドは席を立ちあがった。
「一応他の者達に話しておくがあまり期待しないでほしい。父上も申し訳ない」
「いや、好きにしていいよ。これはヴラド達が決める事だ」
俺はそういうとヴラドは去った。
ライトさんは残念そうにしながら言う。
「やはり簡単にはいきませんね」
「まぁ……パープルスモックを潰されたわけですから」
「パープルスモックを黙認していたのは魔道具の技術もあったからなのです。ですがその」
「ホーリーランドが戦争に勝っちゃった。でももう終わってしまった事です。ヴラド達は忘れないでしょうが次の打開策を考えないといけませんね」
「そう言っていただけるとまた頑張ろうと思えます」
「こちらこそすみません。力になれなくて」
「いえ、こちらは元々ドラクゥル様の声があればもしかして、と言う考えもあったのです。むしろ謝れる方が申し訳ないと言いますか。元々こちらがパープルスモックに頼りすぎていたのです。ですから謝罪はいりません」
「……このままだと謝り合うだけになってしまいそうですね。晩御飯食べていきますか?」
「ありがとうございます」




