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古代神とお姫様

 意見交流会と言ってもすべて技術的な話だけではない。

 ちょうど俺は古代神という存在に対して興味を持ったため、その古代神に関する資料はないかと質問したら1人の技術者が喜んでこの国の古代神に関する資料をくれた。

 その人は例のおばあさんのお孫さんらしく、古代神に対しておばあさんがあのような態度を示すことから他国の人から古代神はよくない神と勘違いされることを嫌っていたそうだ。


「私は祖母から古代神に関する話を聞かされてきましたが、皆さんが想像するような悪い神とは違うのです。ただルールに関して厳格な神だと聞いております」

「ルールとは教義に関する事でしょうか?」

「いえ、神々の間でのルールだそうです。今では古代神と一括りにされていますが、本来は複数の神だったらしく、本来は主神の事を古代神様とお呼びしていたそうです」

「それで現代は……」

「残念ながら白夜教の介入によりほとんどが忘れられてしまいました。それでも神々の事を忘れぬよう古代神とまとめて呼ばれるようになったのです」


 これが宗教戦争というものか。

 いや、ヨーロッパとかで行われていた宗教戦争は本物の戦争だったがこれもその一部くらいにはなるんじゃないかな~くらいのものだ。

 現代では宗教戦争と言われてもぱっと思いつくことはないが、日本のように複数の宗教が混ざり合い、共存しているのが珍しいというのはよく聞く。

 だから外国どころか異世界ではもっと珍しいのは想像に難しくない。

 もしかしたらまだ古代神信者がまだいるだけマシと言ってもいいのかもしれない。


「残念ながらあまり詳しい内容は書かれていませんが、こちらが古代神の教本です。で、こちらが教本を読み取った時の学者がどのような意味であるかを調べた資料となります。もう少し詳しく書いてあるものもあるのですが、そちらは持ち出さないよう上司から言われてしまいまして……」

「いえ、十分です。何事も基礎から、なのでありがたくお借りします」


 そういうと彼はほっとした表情を作ってからそっと部屋を出た。

 さて、教本を読むのはブランの時の教本を読む時以来だが、頑張って読みますか。


 ――


 古代神の教本を読んでみた感想は結構まともな内容だったという事だ。

 原文をそのまま読み上げるのは難しいので俺なりに解釈したものをメモに残していく。


 まず序章として古代神達は世界の種をまいた、つまりこれはビックバンを起こして宇宙を創造し、種とは星と読み取る事が出来る。

 神様達は種、星の成長を見続ける。

 そこに神様の介入はなくただ見守り続けたためほとんどの星は命があふれることはなかった。

 唯一命のある星になったのがこの異世界。

 神様達は命のある星に移住し、命達がどのように暮らすのか眺める。


 そんなある日、1種類の命が神様に気が付いた。

 その命は神様に様々な質問をした。

 神様達は初めて会話できる命の事をたいそう気に入り、同時に愛でるようになった。

 神様達は代わる代わる質問に答える。

 複数の神様がいるのでそれぞれ得意な事を教えた。

 そうしている間にその命は知恵を身に付け、神様とその命、人間との間に絆が芽生えた。

 それがのちに信仰と言われるものである。


 その命は神様から教えてもらった知識を基に村を作った。

 村はいづれ町にあり、国になった。

 神様から教えてもらった命は王様となり、世界中に神様の言葉をどとけるよう国民に命令を下した。


 簡単に言うとこんな感じ。

 あとはこのホーリーランドとの歴史と一緒に書かれているのか途中で悪い神様や戦争の神様の言葉に従って戦争をしたとか、そんなことが書かれている。

 でも個人的に重要なのは最後の所であり、後半に連れて現代にどんどん近づいてくる。

 それならこの状況、つまりブランたちがやってきたことに関して書かれている文章があるのではないかと期待した。

 そして以外にもその事が書かれていた。


 異界より現れし魔物、我らの領域に入りて侵攻す。

 6体の魔物は我々と同等の力を持ち、命にかかわり我らの事を消す。

 魔物を追い出す力も残っておらず命に忘れられる我ら、無念なり。


 ………………

 おそらく6体の魔物というのはブラン達の事だ。ちょうど数も合うし、ブラン達は新しい神として君臨していることから察することは簡単だ。

 でもさすがに俺達、異世界からやってきた存在に関しては何も書かれていないか……

 さすがにそれは都合がよすぎると思うが、それでも期待していたのは否定できない。


 でも古代神に関して知る事が出来たのはいい事だと思う。

 となれば後は世界中の古代神に関する話を見つけていけばどうして俺達がこの世界に召喚されたのか、知る事が出来るかもしれない。

 そんな期待をもって俺は教本のスクショを取る。

 あとで製本作業して手元に残しておこう。


 なんて思っているとドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ~?」

「お邪魔しま~す」


 そう言って入ってきたのは正義君と正義君と同じくらいの年齢の女の子。

 この子は確か……


「失礼します。ドラクゥル様で間違いないでしょうか」

「は、はい。あなたは確か……」

「改めまして、わたくしはホーリーランドの姫、マリア・ホーリーランド。よろしくお願いします」


 やっぱりこの国のお姫様だった。

 何で俺のところにお姫様が来たんだ?


「ど、どうも初めまして。と、取り合ずどうぞ」

「失礼します」


 そういって入ってくる姫様。

 正義君にどうしてお姫様が来るんだよっとアイコンタクト。

 ドラクゥルさんに会いたいって言ってたから連れてきたとアイコンタクト。

 何でだよ……と思いながらも菓子でも出すか。

 菓子と言ってもアルカディアの果物で作ったドライフルーツ。これおやつでいいのかな?っと思いながらも皿に移して出す。


「どうぞ、つまらないものですが」

「いただきます」

「いただきまーす!」


 とりあえず食べてくれてよかった。

 正義君の方はあまり気にしてないが、お姫様の方はどうだか分からないからな……

 でもおいしそうに食べているから口に合わないってことはないだろ。

 本当に天日干ししただけだけど。


「ドラクゥル様、1つお願いしたい事があってまいりました」

「な、なんでしょう?」

「我が国の食料自給率を上げるためにあなたの持つ技術の提供をお願いしたいのです」


 なるほど。

 子供だからストレートに言えばいいと思っているのか、それとも正義君から俺の事を聞いているからなのか、はっきりと言うね。

 でも少しだけ聞いてみたいことがあるので聞いてみる。


「なぜ私に?それにこの場でなくとも交流会の席でお話すればよいのでは?」

「あなたの噂は聞いております。グリーンシェルで技術を無償で提供し、現在の果実産業の中心人物であり、レオファリア姫の師。現在のグリーンシェルの勢いは全てあなたが関係していると聞いております」

「それは少々誇張が激しすぎるかと。確かにレオ姫にきっかけを与えましたがその後はレオ姫ご自身の努力の結果、私は精々レオ姫の才能を発見した。それくらいかと」

「ですがその才能の発見によりグリーンシェルは今最も勢いのある大国として名乗りを上げています。現在では果実をより美味にするために改良を続けていると。あなたなら魔物に頼らない生産を熟知しているのでは?」

「申し訳ありませんが私の生産方法は魔物の生態を利用したものであり、人間の力だけでは成り立ちません。仮に私がお力をお貸しする事が出来るとすれば、魔物を利用できる許可をいただけませんと」

「本当に魔物を一切利用せず生産力を上げることは出来ないのですか」

「出来ないとは言い切れませんが、長期的ですぐに効果が出るものではありません。いただいた資料を元に改善案を出すとすれば肥料の改良、土地の状態を改善、人員の確保など様々な問題が出ます。それらを私の手で行うことなどとても……」

「つまり魔物の素材などを一切使わない生産方法はある。という事でよろしいでしょうか」

「ですがまだまだ机上の空論です。実際にそれらが実現可能なのか、その動きをするためにどれだけの人が必要なのか、それは姫様をはじめとしたこの国の方々次第です。机上の空論でよければこの交流会が終わる前に資料を製作してお渡しいたしますがいかがしましょう」

「私たちは1つでも多くの生産を必要としています。その資料をいただけますか」

「では少々お待ちください」


 俺とお姫様の会話についてこれていない正義君だが、その反応がむしろ普通だと思う。

 正義君は恐る恐る確認を取る。


「ドラクゥルさん。本当にいいの?王様たちと一緒にいるから分かるようになったんだけど、そういうのだって普通はお金とるんじゃないの?ただで野菜の作り方を教えるだなんて……」

「さっき言っただろ正義君。所詮は机上の空論、つまり紙の上で計算しただけの実際にそうなるという証拠ではなくそうなるかもしれない程度の話だ。まぁ土の状態とか色々計算とぴったり合うならその通りになると思うけど」

「それに必要な事は?」

「かなり多い。この国は簡単に言うと土地がやせてるから土地の改良から始めないといけないと思ってる。交流会でもらった資料を元にこの国の生物の生息について予想してるが……他の国に比べると少なそうだ」

「その生物ってもしかして魔物も含めて?」

「この国の人は嫌がるだろうが魔物も俺から見ればただの動物だ。そりゃ訳の分からない毒を持っていたり人間しか食べない偏食動物とか怖いけど、何かしら生態系には影響を与えるはずだからな。その生物が根本的に少ないとなるとやっぱり意図的に何か行動しないと良くはならない。正義君が食人種をどうにかしようとしているようにね」


 正義君の事を評価しながら言うとお姫様は席を立った。


「本日は突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした」

「いえいえ、この国にとって重要な事なのですから当然の行動かと。しかし次回からは交流会を通していただけると助かります」

「分かりました、次回からそういたしましょう。勇者様、参りましょう」

「あ、ちょっと待って!ドラクゥルさん、ドライフルーツ美味しかったです!ごちそうさまでした!!」


 そういって部屋から出る2人。

 俺は笑いながら手を振って見送る。

 さて、そろそろちょっとだけ悪いことするか。


「スモッグゴースト、ミクロマウス」


 俺はアルカディアからかわいい子供達を呼ぶ。

 スモッグゴーストはおなじみ、ミクロマウスは非常に小さなネズミで女の子の小指の爪よりも小さい。

 そんな彼らを呼んで俺1つお使いを頼む。


「この古代神に関する資料をコピーしてきてくれ。できるだけ多く欲しいが無理はしなくていい。目立たないようにな」


 彼らは俺の頼みに嬉しそうに身体で表現すると早速古代神に関する資料を探しに行った。

 ミクロマウスの1匹が借りてきた本の匂いを嗅いでいたので匂いを頼りに探し出すだろう。

 さて、俺はお姫様に大雑把な資料を上げるためにちょっと頑張ろうかな。

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