過激派信者
次の日、意見交流会が始まった。
意見交流会と聞くとお互いの技術を確認し、切磋し合うみたいなイメージがあったが、今回は少し違うらしい。
確かにお互いに意見を交換し、次の技術に繋げようとしている感じはするが、実際にその技術を使おうとはしないそうだ。
何せホーリーランドは魔物御法度の国、それゆえ魔物を資源として使う技術は使いたくても使えないのが現状だ。
効率だけを考えるのであれば魔物を利用した栽培が良いのだろうが、それは国の意志に反するので使う事ができないという方が正しい。
だからホーリーランドとしてはその技術がどれくらいの物になっているのかを確かめるための場、と言う方が正しいと思う。
それにこう言っては悪いが魔物の素材を使っていないホーリーランドの育成は非常に緩やかだ。
それに俺が魔物の素材を使った植物のさらなる育成をグリーンシェルで教えているために技術の発展が加速していると言っていい。
今までの人の手だけで育てる育成方法から、自然の力を借りながら育てる育成法はホーリーランドではすぐにまねをするのは難しいだろう。
と言っても俺が分かるのはここまでと言うだけで他にも家事とか魔法の開発とか色々技術交換がされた。
魔物の素材を使う技術以外はほぼ同じだし、深く気にすることはないと思う。
だが食糧事情と言う面でしか分からないが、生産力が他の国よりも劣っているというのは非常に不味い。
輸入したいと言っても生産しているほとんどが魔物系である事。
そうなると自分達で育てるしかないのだが……時間はかかるだろうな~
なんて思いながら意見交換会のみんなと次の場所に向かっている途中、何かがぶつかる音がした。
金属に何か当たった様な音がした方を見ると俺達の事を守っている騎士に向かって石を投げるお婆さんが居た。
「消えろ悪魔に魂を売った者達め!!この国から消え去れ!!」
そう言って何度も俺達に向かって石を投げるお婆さん。
怯えている人もいるが俺にとっては何故石を投げるのだろうという疑問の方が強かった。
悪魔に魂を売ったというセリフも気になるし、誰なんだろう?
「あの、あの人は?」
「……あの人は古代神の信者です。特に過激な方らしく、今回の様に他国の方を招くと必ず石を投げてくるのです」
俺の質問に答えてくれたホーリーランドの技術士さんはそう答えた。
まず古代神と言う言葉も初めて聞いたし、世界最古の国と言うだけあって古い神様を信じているという事だろうか?
でもこの国の王様は確かブランの事を信仰してたよな??
「古代神とは何でしょう?」
「先々代の国王様まで国で信仰していた神の事です。この国は元々古代神を信仰していたのですが、先代の国王になった時にホワイトフェザーの神に改宗されたのです。あの方はその時から国に対し暴言や暴行を行うようになったと聞いております」
「元々この国の神様を信じている人……」
その後改めて詳しく聞くと、きっかけはパープルスモックの食人種がホーリーランドに溢れてやってきた際にホワイトフェザーが助けたのが始まりらしい。
その時先代の王様は見返りを求めないホワイトフェザーの姿に感動して改宗、国の人にもホワイトフェザーと仲良くするよう言った。
しかしごく1部の人、今ではあのお婆さん以外見当たらないが古代神を信仰している過激派たちが全員国に牙をむいたという。
もちろん王様に武器を向けたのだから全員牢屋行き、残った古代神の過激派信者はあのお婆さんだけになったそうだ。
最初こそ先代の王様は完全にホワイトフェザーの信者であることを示そうと厳しく取り締まろうと下らしいが、ブランはそんな事しなくていいと言ったので国全体での改宗はしなかったそうだ。
だからこの国には2つの宗教があり、どちらか一方を信仰しているという。
日本ではそう珍しい事ではないが、この世界では非常に珍しい事の様だ。
複数の宗教があると必ずと言っていいほど自分達の神が本物だ、と言い出す過激派が居る。
もっと過激に言うなら宗教戦争が起こるのが普通なのだという。
それに王様が言い出すとなれば信仰で侵略されたと言ってもいい。だからホーリーランドはホワイトフェザーの属国と言われるようになった。
それにしても俺にとって宗教とはそんなに重要な位置についていないため、どうしてもそれくらいの事で?と感じてしまう。
でもこの国、いやこの世界では神様は本当に重要な物であり、その神様に仕える祭司たちは敬うべき相手である事が分かる。
俺以外のブランの信者さん達は大真面目に祈りを捧げる。
元の世界のように神様は存在するのかどうか分からないのではなく、実際に目の前に現れる事から更に元の世界よりも熱心に祈る。
その信仰心によって実際に神様から身の安全を保障されるのなら当然だ。
唯一の古代神の過激派信者であるお婆さんを他の騎士は慣れた様に捕まえ、暴れて俺達に暴言を言いながらどこかに連れていかれてしまった。
他のホワイトフェザーの人達はただホッとしていたが、俺はあのお婆さん、古代神について何故か興味を持ってしまったのだった。




