我が儘貴族?
こうしてブラン達と天使達をアルカディアに戻って来れるようにするとゲームに少し変化があった。
それはアルカディア内のモンスター数が上昇した事だ。
数が増えれば当然だろうと思うだろうが、この間ブランの事をハクとして招いた時はこの数字は一切動かなかった。なのにアルカディアと行き来できる設定を追加した後にはこの数字が増えたのだ。
モンスター数が増える事でアルカディアには様々なボーナスが発生する。
例えば天使達が増える事で日の光が強くなる。これにより野菜系の食糧の実がより大きく育つ。一応説明としては光合成をするに十分な光を得る事が出来るからとなっているが、どれだけ増えても日焼けしないのはゲームだからだだろうな。
こんな感じで火属性のモンスターが増えれば火山地帯や砂漠地帯の熱が増えてモンスターたちがより活性化したり、水系のモンスターを集めれば水産物の収穫が上昇したりと様々なボーナスが追加される。
さらに言うと、このホワイトフェザーにはユニコーンやペガサスと言う動物系も居たのでその子達も既に回収済みだ。
彼らの場合、既に何世代も世代交代をしていたらしく、俺の事を知っている子は数頭しかいなかった。残念ではあるし、もっと早く迎えに来ることができればと後悔もした。だが既に終わってしまった事を嘆いていても仕方がない。それなら今も生きている子達を救いに行かないとダメだろう。
そして1番の謎、モンスターたちを生み出す施設が使用可能になっていた。
何故なのかまでは分からないが、再び使用できるようになったのは嬉しい。これで1からまたモンスターたちを育てる事が出来る。
だがどう言う訳か制限がかかっている。ゲームではモンスターを生み出すのに条件なんてなかったのに。
現在育成可能なのは天使達の様に光に関するモンスターたちの幼体だけであり、他の属性の子達を育てる事が出来ない。
まだ光属性の子達しか出会っていないから?他の属性の子達に出会える事さえできたら育てられる子達が増えると言うのだろうか。
だが今は何にせよ、パープルスモックでノワールの事を助けないといけないので育成する暇はない。
ブラン達も帰って来たので食糧は以前と同様に育てる必要があるし、しかも全て最高品質で育てないといけないので手間暇もかかる。
まずはブランの出した糞から肥料を作っていくか。SSSランクモンスターの糞尿って結構いい肥料になるんだよね。
あとで何度も叩かれるけど。
そんなこんなで新しく使える施設が増えましたっと言う報告である。
おそらく何らかの条件がそろえばさらに施設が扱えるようになるだろうけど、普通にプレイしているときはそんな条件一切なかったはずなんだけどな……
現在の施設レベルは全てマックスになっているからすべての条件を満たしているはずなのに。
そして今日はカイネに帰る日。
見送ってくれるのはライトさんとブランの2人。ブランに関してはアルカディアに戻ればいつでも会えるのでお別れと言う感じは全くしない。
「気を付けて帰ってね、パパ」
「当然。何かあったら連絡するよ。ライトさんもブランの事お願いします」
「お任せください。これからもお仕えいたしますので」
「それじゃ後は頼んだ!」
「お仕事頑張ってね~!!」
こうして俺はホワイトフェザーからカイネに帰るのだった。
――
帰っている途中に特に何かあった事はないのであっさりと帰ってきた。
護衛の冒険者さん達には悪いが寝るときはアルカディアに帰っているのでしっかりと寝る事が出来た。また晩飯と朝飯はガブリエルお手製だったので大変美味しくいただきました。やっぱガブリエルの方が料理上手いわ。
ちなみに俺が食べたアップルパイはガブリエル作だったりする。ブランもリンゴを切ったり、飾り付けを手伝ったとの事。
そんな平和にカイネに帰ってくると、クウォンさんが商業ギルドの前で出迎えてくれた。
「おかえりなさいドラクゥルさん。お待ちしておりました」
「クウォンさん?商業ギルド長自らどうしたんです??」
場所が商業ギルドの前で止まるのは前もって聞いていたので、商業ギルドの前で降りるのはなんてことないがクウォンさんが出迎えてくれるだなんて聞いていない。
冒険者のみなさんも聞いていなかったのか困惑している。そんな雰囲気を無視して行動するクウォンさんは俺の手を引いて商業ギルドに招く。
「実はドラクゥルさんに厄介な客が来ており、私とではなくドラクゥルさんと直接お話をしたいときまして。大変困っていたのですよ」
「厄介な客ってどんな方です?」
手を引っ張られて連れてこられたのはちょっとした応接室。その厄介な客はギルド長室にいるそうで、事前に説明するためにこの部屋に連れてきたらしい。
もちろんその客には失礼のない様に伝えておくと言う事を言ってから迎えに来たそうだ。
どうやら相手はずいぶんとお偉いさんらしい。だが元々貴族向けに売っている野菜なのだから貴族が買いに来てもおかしくないが……
クウォンさんはビビりながら言う。
「相手はパープルスモックの貴族です」
……タイミング良過ぎないか?これからパープルスモックに行こうと思っていた時に向こうからこちらに来るだなんてどうしてだ?
ただ単にタイミングが良かっただけ?それとブランがノワールに連絡した?でも連絡の方法みたいなことは聞いてないが……
それともただの偶然?偶然このタイミングだっただけか?
「その貴族は最近来たんですか?」
「はい。来たのは一昨日です。なんでもドラクゥルさんの売る野菜の噂がパープルスモックにも届いていたようで、買い付けに来たのです」
「まさか最初から貴族が直接買いに来ていたわけじゃありませんよね?」
「当然です。最初はパープルスモックに卸している商人が来ました。私も商人なのでもちろん売るつもりでしたが、ちょうど品切れになっていたのです。そうしたら直接貴族の方が来たと言うわけです。それからドラクゥルさん自身にもご興味があるようで」
「俺自身にもね……単に生産者の顔が知りたいだけなのか、はたまた別な思惑があるのか。確かに貴族が直接買いに来たと言うのは驚きですが、クウォンさんなら何の問題もないのでは?」
元々貴族相手に売買をしているような人なのだから貴族相手でも物怖じしなさそうな感じがするのだが?
そう思って聞くとクウォンさんは辺りを恐る恐る見渡してから小さく手招きをする。
俺は首をかしげながらも顔を近づける。そしてクウォンさんは小声で衝撃の事実を言う。
「今日来た貴族は吸血鬼であると言う噂があるのです」
……………………は?吸血鬼??
「彼女の家、と言うよりはパープルスモックには食人種の貴族がいるとの噂がかなり広まっているのです。特に彼女の家は大貴族であり、ご両親も一切見た目に変化がない事から食人種、吸血鬼ではないかと噂があるのです」
そう耳元で言うとクウォンさんはつかれたようにソファーに身を沈ませる。
確かに吸血鬼はアルカディアにも存在するし、俺も育てた。しかしその弱点の多さから育成は非常に難しく、レア度はとても高い。特に今は昼間だ。昼間に活動できる吸血鬼となるとSSランクモンスター、真祖しか思いつかない。
そして俺が育てた真祖は2体だけ。もしかしてその片方の可能性があるんじゃないか?
しかし……彼女の家、か。
家と言うからには何世代か重ねている可能性が非常に高い。だが吸血鬼に子孫を残す事が出来たかどうかと聞かれるとできなかったような気がする。
その理由はすでに死んでいると言う設定があるからだ。もともと通常の吸血鬼に進化させる際に人型種族を1体死ぬのが最低条件だ。その死体からとある果実の液体を棺に満たし、蘇生されるのを待つと言う工程が存在する。
それに成功すればスタンダードな吸血鬼が生まれるし、失敗するとグールと言う凶暴性と戦闘能力が高いだけの馬鹿が生まれるのだ。もちろんその果実の品質が高ければ高いほど吸血鬼として生まれてくる可能性の方が高くなるわけだが。
でも直接女性型の吸血鬼が子供を産んだことはないはずだ。
元々死んでいるので子供を残す能力はないと思っていた。他の方法と言えば吸血鬼の血を他の人型種族に飲ませると言う方法だが……あれは眷属を増やすと言う感じで子供を残すとは違うだろうしな……
「ま、とにかく会ってみます」
「申し訳ありません。本来であればこういった事は我々の仕事なのですが……」
「直接買いに来るぐらいのファンなら俺自身が対応する方が正しいでしょう。それではその貴族の方に会ってみましょうか」
さて、俺が知っている吸血鬼だと助かるんだけどな。




