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パープルスモックがなくなった意外な影響

「最近はどうですか?」

「そうですね……良い事も悪い事も半々、と言った所でしょうか」


 俺は世間話をしに久しぶりにカイネでクウォンさんと話をしていた。

 あいまいな聞き方をしたのは本当にただの世間話をしたかったからなのだが、色々と話をしてしまうのが商人の怖い所だ。


「良い事と言うと」

「ホーリーランドが6大大国に数えられる事になってから貿易が盛んになりましてね、特に商人が使う街道を中心に警備をしてくれているので行商人などが安心して道を渡れるようになりました。知能の高い魔物だとあそこは人間が通る、と学んでいる魔物もいる様なので人間を狙った魔物被害が減っています」

「それは良かったですね」

「ええ。安全な道があるだけで商人としては非常に価値のあるものです。魔物や盗賊を警戒して護衛を頼みますが、その依頼料も少なく済むので非常に助かっています」


 やっぱり生活的には役に立つ事をしてるんだよな、ホーリーランド。

 人間至上主義の様な所が全くない訳ではないが、それでも人のための世界を作ろうとしている彼らを善と見る人達は決して少なくない。


「ただ……少しだけ困った事もありまして……」

「それが悪い事ですか?」

「はい。実は――」

「マスター。また大型保冷魔道具の調子が悪くなってると報告が食材保管方面から報告書が来ています」


 俺とクウォンさんが話している時にワーカーさんがやってきた。

 どうやら書類を見ながらだったので俺が来ていた事に気が付いていなかったらしい。

 ワーカーさんは俺がいる事に気が付くと慌てて謝罪した。


「こ、これはドラクゥル様!マスターとお話し中にお邪魔してしまい申し訳ありません」

「いえ、ちょっと世間話をしていただけですので大丈夫ですよ。それより食材がどうかしましたか?」


 俺がそう聞くとクウォンさんがワーカーさんを手招きしながら書類を受け取り、俺にも見せる様に報告書をテーブルに置いた。


「これが悪い事です。悪いと言う程なのではないのですが、少々困っておりまして」

「これ俺が見てもいいんですか?」

「構いません。単に食材を保管しておくための魔道具の調子が悪いという報告書ですから」

「それでは……拝見させていただきます」


 報告書を読むとどうやらこの商業ギルドには大型冷蔵庫の様な魔道具が置かれているらしい。

 その大型冷蔵庫は長い事使っているからか変な音が聞こえたり、一時的にだが機能不全を起こしてしまっている様だ。

 なので早く修理をするか、新しい物に買い替えて欲しいと言う嘆願書だった。


「魔道具の調子悪いんですか?」

「ええ。地下にある大型保冷魔道具はみなさんから買い取った食材を保管しておくための場所です。なので私達上層部でも早く買い替えようと思ってはいるのですが……難しい話になってしまったのです」

「難しい?同じところで購入する事は出来ないのですか??」


 電化製品が壊れたなら新しい電化製品を買いに行く。

 そんな感じで言ってみたがクウォンさんは俺を手招きして耳を貸す様にジェスチャーする。

 なので俺は耳を貸すとクウォンさんは小さな声で短く言った。


「購入先がパープルスモックなのです」


 俺はそれを聞いてあ~っと思いながら何度も頷く。

 パープルスモックは既に滅んでしまった国だ。住んでいた吸血鬼達も表向きは絶滅しているし、捕まえた下級奴隷は何も知らない、上級奴隷は忠誠心で口を割らないと言う状況がまだ続いているんだろう。

 俺がヴラド達に頼めば直してくれそうだが……それでは吸血鬼達が生き残っていたとホーリーランドがまた攻めに来ることになるかも知れない。


「それは……新しく購入するのは難しそうですね」


 だから俺は無難に話を合わせる。

 もしかしたら直せるかもしれない、何て言ったらヴラド達の事がホーリーランドにバレてしまうかも知れない。


「そうなのです。これでも他の商業ギルドに頼んで中古でもいいから魔道具を購入しようとしたのですが、他のギルドも新しく購入する事ができないと分かっているので手放そうとはしないのです。小型の物ならいくつかありましたが、流石にそれでは今の規模を維持するのは出来ないので購入は断念しました」

「他に購入できそうな所はないんですか?」

「アビスブルーから購入する事も検討してみましたが、購入費だけではなくここまで持ってくる輸送費も高くなってしまうので現実的ではないと判断しました。それにアビスブルーのキカイと言う物は色々設備を整えるのにも莫大な料金がかかってしまう様なので……」


 あ~あ~。

 確かにアビスブルーの機械を導入すると言う案はこの世界だとかなり難しいか。

 日本の様に最初からコンセントとか、機械を繋げる設備が全く整ってない。

 魔道具は簡単に言うと魔石と言う電池さえ入手出来れば簡単に起動できるが、機械となるとそうはいかないだろう。

 おそらくだが大型冷蔵庫だけではなく発電機も用意する必要があるし、そう考えると簡単には手を出せない。

 あまりにも文化が違い過ぎる。

 需要と供給が全くと言っていいほど違い過ぎた。


「どうにか修理とかできそうにないんですか?」

「流石に今回ばかりは難しいです。パープルスモックの魔道具は素晴らしいですが、素人が変に触れるとすぐに壊してしまう事でも有名なのです。これはよくある話なのですが、他の魔道具を販売する店でパープルスモックの技術を盗もうと小型の物を購入して分解した結果、すぐに壊れてしまったと聞いています」

「それはもしかして」

「秘密保持のために自壊するようにしてあるのでしょう。説明書にも分解するような行為をしない様に書かれていますので恐らく」


 そりゃ自分達の技術が盗まれない様にするのは当然だと思うけど、そこまでしなくても良くないか?

 あれ?でもパープルスモックの資料はある程度残っているはず……

 いや、この様子だと魔道具関連の資料も持って行ったと考える方が自然か。

 そうなるとホーリーランドの連中が自力でパープルスモックの魔道具技術を習得するまで待つ?

 ……全然現実的じゃないな。


「ちょっと待って下さい。それってパープルスモック製の魔道具全部がピンチって事じゃ……」

「話を大きくするとその通りです。パープルスモックの魔道具は全て高価ですが、その分性能も保証もしっかりしていたのです。定期点検に来てくれたり、使用者も気付いていない不具合を調整してくれたりと充実していたのですよ」

「定期点検ですか?それってまさか……」

「流石に製作者本人ではありませんよ。その使用人を名乗る奴隷の方がやって来て点検を行ってくれていました。確か上級奴隷であり、作る事は出来ないが修理は出来る奴隷だと言っておりました」

「それじゃホーリーランドに捕らえられている奴隷をどうにか出来れば……」

「修理してくれるかもしれませんが、現状だと何とも」


 クウォンさんは困りながら言う。

 そう。現在捕まっている上級奴隷達は自分達の意思でホーリーランドに協力していないのだ。

 主人に対する忠誠心と言えば聞こえはいいが、悪い言い方をすれば主人以外の言う事は聞かない。

 秘密主義とは言えここまで徹底的に仕込んでいるとこういう時に迷惑かかるもんだな。

 まぁ国の事業だから当然と言えば当然なんだろうけど。


「困りましたね……」

「困りました……」


 パープルスモックがなくなった影響は俺が想像していなかった所にも出ていた。

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