我が家で会議中
ライトさんが非常にまじめな表情で言うので俺は少し首を傾げながら言う。
「俺の意見は最後でも良いと思うんですけど?だって素人ですし」
「我々6大大国の代表として神々の父であるドラクゥル様のお言葉に耳を傾ける必要があると判断しております。難しい事を考える必要はありません。ただホーリーランドと言う国に対してどのように思っておられるのか、それだけを聞かせていただきたいのです」
ライトさんが俺の事を様付けで呼ぶときはホワイトフェザーの教皇としている時だ。
俺は少し頭の中で言葉を選びながらライトさんに、いや、子供達の事を神と言って慕ってくれている人達に向かって言う。
「そうだね。とりあえず彼らの言い分は間違っていないと思うし、人間として間違っていないと思う。吸血鬼達、つまり食人種を恐れ、排除しようとするのは普通の事だと思う。誰だって自分達の天敵がいない方が繁殖しやすいし、生き残る確率は非常に高くなる。でもその上で俺は彼らの主張を認めるつもりはない」
「それでは神の敵として敵として殲滅いたしましょうか」
「そこまでしなくていい。ただ俺が見ているのはバランスだ。この世界に魔物がいるのが当然であると事を前提として、魔物の存在は国家間の戦争をある程度抑える面もある様に感じる。だから彼らの言う魔物の居ない世界を実現させた後は俺が生まれ育った世界、つまり人間の天敵になる生物が居ない世界になった時にこの世界は俺がいた世界と変わらない姿になるのではないかと危惧している」
「それはどのような危惧でしょう」
「この世界の法則だ。頂点捕食者の天敵は違う場所に住む同族。つまり人類同士の戦争が加速するのではないかと思っている」
俺がそう言うとみんな黙り込んだ。
俺達が居た世界で起こっていた戦争と言う物は当然人間同士の物である。住んでいる所が違うだけの人間同士の殺し合い。
善悪と言う物は分からないが、お互いに譲れない何かを巡っての殺し合いである事は想像できる。
宗教、肌の色、文化など俺から見ればそういう物だと認めてしまえばいいと思っているが、それらを気持ち悪いと思ったり、どうしても受け入れる事ができないものとして排除しようとするのが戦争の根幹だと考えている。
前の世界では簡単に人間同士の戦争となったが、この世界には人間よりもかなり強い存在、魔物が蔓延っている。
戦争の前に魔物と言う脅威をどうにか退けなければならないし、他の国からの横やりよりも魔物に国を襲われる可能性の方が高い。
強力な魔物でなかったとしても油断できないので魔物が人類同士の戦争を抑えていると言える気がする。
だから俺は魔物がいた方がいいと思っている。
「魔物が居なくなる事で人類同士の戦争が発生すると」
「あくまでもこれは予想だ。だが欲深い者なら邪魔な魔物が居なくなって攻めやすいと考える者はいると思う。まぁ人類同士の戦争より魔物の被害の方が大きいと言うのであれば、それまでだ」
俺はこの世界についてあまり詳しくない。
この世界の情報は子供達から得た物ばかりだし、その情報が本当に正しいのかどうか確かめる方法もない。
だから人類だけの世界が本当に良いのかどうか俺に判断する事は出来ないし、する気はない。
そう言うとライトさん達は考える。
「つまりドラクゥル様から見ると魔物と言う存在が人類同士の戦争を抑えていると」
「ある程度はね。と言ってもこれは俺の予想だ。仮に魔物の存在を全否定すると言うのであれば俺は全ての魔物をこのアルカディアに移住させ、その後は引きこもっているつもりだ。戦争に参加せず、逃げ勝ち出来るなら俺はそれでいい」
戦うよりはマシだ。俺はそう思いながら言った。
だって俺のアルカディアは基本的に俺が許可した相手しかこの世界に入れないし、この世界に居る魔物にしか穴を空ける権限を与える事ができない。
つまり言ってしまえばこの世界を行き来できる人間は俺だけと言う訳だ。
それに子供達だってわざわざ危険な場所に自ら移動するような事はしないだろう。わざわざ自分達を嫌う連中がいる場所に行く必要はないのだから。
「…………このアルカディアと言う神の国に行くにはドラクゥル殿、もしくはドラクゥル殿が許可した子供らの協力が必要不可欠。その者達がこの国で生きるために外界を拒絶する。そうなれば我々に出来る事は何もないな」
「他の国なら完全に自国と他国を決別させる事は出来ませんが、この特殊な国なら出来るでしょう」
「しかし我々が神と呼んでいるクレール様たちを一緒にとなると信仰にも大きな影響が出ます。神は我々と共にある、その前提がなくなるのですから」
「そうなれば我々白夜教も衰退の一途をたどる事となるでしょう。これ以上ないほどに平和的で、効率的なダメージはないでしょう」
王様と女王様、タイタンさんとライトさんは言う。流石にそこまで考えて言っていた訳ではないが、やっぱり影響はあるみたいだ。
そう思っていると全然口を開かなかったルージュの巫女さん達が口を開いた。
「我々が住むカーディナルフレイムはもとよりルージュ様が火山の活動を抑制してくださっている事で出来た国です。もしルージュ様が居なくなるとすればそれは国の終わり。これはあくまでも予想ですが火山の活動も以前と同じ物となり、人に生活できる場ではなくなるでしょう。さらに我々の国は魔物を討伐する冒険者達の国となっております。その魔物が全ていなくなった場合国を維持する事すら困難となるでしょう。仮にホーリーランドの主張を認めた場合、そのような事態になると言うのであれば私共は反対させていただきます」
そうハッキリと言った。
俺達を擁護してくれている……と言うよりは単純にルージュが居ないと国として成り立たないからだろう。それにホーリーランドの行動を認めると自分達の国の維持が出来なくなるからと言う非常に現実的なお言葉だ。これに対して何も言う事はない。
そう考えるとグリーンシェルもそうなのではないかと思って俺も聞く。
「グリーンシェルもヴェルトの恩恵にあやかっているからやっぱり困った事になりますよね」
「そうだな。今は果樹園や誓いのバラの人工栽培をしているがまだ安定しているとは言い難い。安定して栽培、収穫できるようになるまでは今まで通り魔物の素材やヴェルト様の背に生える薬草などを採取する事で国が成り立っている。こちらもそう簡単に認めるわけにはいかん」
グリーンシェルも同じか。
そりゃ魔物を倒す事で国を維持してきたのだから突然やめろと言われても出来るはずがない。
グリーンシェルは現在ダンジョンによる収益だけではない方法として果樹園や薬草の人工栽培に手を付けているが確実に成功と言うためには10年単位の調整が必要なのではないだろうか。
アルカディアの苗木とは言え育つ場所は普通の大地。他の木よりは成長速度は速いかも知れないが精々誤差程度だろう。
だからもうしばらく時間が必要なはずだ。
「あ、僕達も反対でお願い」
そう軽いノリで言ったのはオベイロンだ。
オベイロン達用の甘ったるいパンケーキを食べ終えたかと思うと色々言う。
「僕達の国は別に魔物とかに頼っている訳じゃないけど、人間同士の戦争が激化しそうって言う父ちゃんの言葉に一票。父ちゃんの一様に魔物と言う存在が人間同士の戦争を抑止する要因の1つになっているのは分かるからむしろ増えてくれないかな~って思ってるくらい」
「いや、流石に増えたら困るんじゃないか?」
「意外と問題ないと思うよ。吸血鬼達の国、パープルスモックがなくなった事で食人種のモンスター達は一気に数を減らしたと言っていいと思う。戦争中に逃げた食人種達が散らばった訳だし、意外とその子達が人間を襲ってパープルスモックがあった時よりも厄介な状況になってるかも」
「え、それマジ?」
「マジマジ。食人種は僕達フェアリーを食べようとしない。だから偵察しに行っても被害は全くないし、どんなもんなのかよく見に行ってたけど結構な数の食人種が居たからね。父ちゃんたちが回収しなかった魔物はとっくに他の国で狩りを始めてるかも。最後まで確認していた訳じゃないから確証はないけど」
うっわー。相当面倒臭そうな状況になってるだろそれ。
誰も管理していない食人種が自由に行動している。それだけで人類にとって非常に危険な状況なはずだ。
まだ被害について聞かないのはまだ目立った動きがないだけ?それとも運よくホーリーランドがうまく討伐してくれている?
どうなっているか分からないが警戒は必要なはずだ。
と言うか丁度会議してるんだからその時に言ってもらえればいいか?
「それではこの場ではホーリーランドの6大大国に加入する事は暫定的に否決、と言う事でよろしいでしょうか」
「「「「異議なし」」」」
………………なんか人んちで重要な事が決まってしまった気がするんですけど。
で、でもまぁ暫定だもんな。ここに居る国以外が魔物の居ない国の方がいいって多数決で決まれば違う……よね?
そりゃ個人的には魔物ぶっ殺す国に6大大国に入ってほしくないけど!




