天使達と次の目的地
翌日、俺はブランたちが現在住んでいる場所に来た。
場所は大聖堂の後ろの方にある山の山頂にあり普段は結界で建物が見えないようになっている。それなりに大きな神殿だがアルカディアの神殿に比べると小さい。出入り口などもそうだが基本的に人間サイズで作られているのが原因だろう。
ブラン以外は人型で大きいと言っても190センチあかないかと言う感じで、平均的には170前後と言う感じ。その分扉なども大きいが……体格のいい外国人の家?みたいな日本で使っている物よりも少し大きいと言う感じだ。
そこにはブランとライトさんに連れてきてもらい、その大聖堂よりも大きくて立派な神殿の前ですべての天使たちが膝をつけて待機している。
そして1人の天使が涙声で言う。
「父よ、我らの父よ……お待ち、しておりました」
「随分と待たせて悪かったな。ミカエル」
ミカエル・ドラクゥル。
熾天使の1人で天使の中では最高ランクの天使だ。金髪の男性型天使であり、天使達のまとめ役なのでみんなのお兄ちゃん的存在である。
普段はキリッとしているのだが……かなり久しぶりに俺に会った事で涙もろくなっていたらしい。
他の熾天使達も涙ぐんだり、嗚咽が漏れている。
それでもミカエルは涙をぬぐって俺に聞く。
「して父よ。本日はどうしたのですか」
「ちょっと相談しに来たんだ。今の俺はアルカディアと現在地をつなげる力を持ってる。それをお前達に与える事も出来る。ちなみにブランにはもうあげた」
「っ!!つまり我々はアルカディアに帰れるのですね!?」
「ああ。でもブランはそのままアルカディアにいるのではなく、この国の人達と関係を築いたままにしたいからこちらでの活動も続けたいって言ってる。お前たちはそれでいいか?」
「父とブランの我がままなら聞きますよ。それにこの国の人々を見捨てたくないと言う気持ちは我々も同じです」
どうやらブランと思いは同じようだ。
俺は満足げに頷き、ライトさんはほっとしたように息を吐く。
ブランは当然と言う表情をしているが俺は個人の意思を尊重するからな。中には疲れた~っとか言って休みたい子だっているだろうし。
「それじゃちょっと面倒だけど、この力1人ずつしか行き来できるようにできないから並んで~」
こうして少し面倒だが1人1人アルカディアと行き来できるように設定を行っていく。
ただ思ったのは当時ただの天使だった子達が進化していたことが意外だ。その影響で寿命が延びたんだろうが、本当に誰1人として欠ける事がなかったことはうれしい誤算だ。
正直2000年と聞いたときは誰か寿命を迎えていたと思っていたからな。
寿命のない存在になるには最低でもSランク以上のモンスターであり、ごく1部のモンスターだけだ。
熾天使はSSランクであり、寿命のない存在にはなっているがそれでも他に原因があれば死んでいた可能性は高い。
急がないと。
他の子達も2000年も経っているのであれば寿命を迎えそうになっている子達は少なくないはず。いくら進化で寿命が延びようとも限界はある。
だからこそ賛否両論の激ムズクソゲーだったわけだしな。
1人ずつアルカディアに行き来できいるようにし終えるとみんな喜んだ。
そんな中熾天使の4人が俺に聞く。
「父よ。ブランから聞きました。他の兄弟達を全て発見し、アルカディアに導くが目的であると」
「そうだ。一応この国の図書館でそれっぽい情報はあったが、それ以上の情報はあるか」
「ございます。こちらに会議室がございますのでお通しします」
そう言われるがままに神殿に通される。もちろんついてくるのは俺だけではなくブランとライトさんもだ。かなり重要な話なのだがライトさんも関係してくるのかな?ブランの事も知っていたし。
そして通された会議室はこの国、いやこの世界でもかなり価値の高い調度品で用意されている事は簡単に察する事が出来た。
そして座ると同時に用意されるお茶、青い髪が特徴の女性型熾天使、ガブリエルが淹れてくれた。
「ありがとな、ガブ」
「ふふ。こうしてお父様に紅茶をふるまえる日が来て嬉しく思います」
なんかよく分からないけど最初っからメイド服だったし、家事とか好きだったもんな。今もきっと細々とした家事を好きでやっているんだろうな。綺麗好きだし。
俺の目の前に座るミカエルはラファエル、緑色の髪をした女性型熾天使、から紙の束を受け取りながら言う。
「我々、父によって育てられた者達は同族、もしくは同属性の者たちが固まってこの世界に来ることがほとんどでした。我々の場合は天使と言う同族内でこの世界に迷い込んだと言う形になります」
「それじゃ最初から1人でこの世界にバラバラで迷い込んだわけじゃないのか」
「はい。幸運にも父が懸念していた全員バラバラでこの世界に迷い込むと言う事にはなりませんでした。ですが属性や人間に対してどう考えているのか、その違いは大きく出ておりまして、人間と上手くいっていない者達もいます」
「それは……仕方ないだろうな。特に食人種に関してはどうしようもないだろう」
食人種と言うのは人間を食う事で生きる種族達の事だ。
最も分かりやすいのは吸血鬼だろう。彼らは生きるために人間の血液を飲む必要がある。と言っても1回の食事で人間の血液を全て飲み干すほどではないが、それでも血を直接飲まれると言うのは嫌な物だろう。
それに吸血鬼はこれでも共存できる部類だったりする。1部のモンスターは完全に人間の事を食料としか見ていない、もしくは人間が増え過ぎた際に減らすと言う役割を持っているモンスターも存在するのだ。
そう言ったモンスター達は冒険者たちに殺されているのかもしれない。
「その食人種が多くいるのが6大大国の1つ、パープルスモックです」
「へぇ。そこに行けば家の子達の1部はまた帰ってこさせる事が出来るのか。それで治めてるのは?」
「ノワール・ドラクゥル。我らの長兄です」
「ノワール?ノワールなら上手い事統治してそうだよな。あいつ俺達の中でかなり頭のいい部類だったろ」
ノワールは俺のが1番最初に育てたモンスターだ。
1度寿命で死んだと思ったのだが、それが偶然にも進化の条件になっており、不死者として蘇ったのだ。
そこからさらに育てている間に1番最初のモンスターでありながら、初めてのSSSランクモンスターに進化した強運と長い時間生きてきた経験から知能系に発達したインテリなのである。
ノワールと言う名前を聞いて苦虫をつぶしたような表情になるのはライトさんだ。
「どうかしましたか?」
「申し訳ありません、ドラクゥル様。現在のホワイトフェザーはあまりノワール様に印象が良くないのです。周辺の国からはノワール様の事を魔王と呼んでいるとの噂もあります」
「ノワールが魔王って…………ピッタリ過ぎて違和感ないな」
あいつの見た目結構いかついから。中身は知的で無駄な事は嫌いと言う感じなのだが、どうしても怖い顔の方に目が行っちゃうよな……
「補足するとノワールお兄ちゃんが食人種の子達を保護してるのも原因なの。この世界の人達から見れば恐ろしい食人種を飼ってるように見えるんだって。だから印象も悪し、いつかみんなを人間のいる国に放つつもりなんじゃないかって噂してる」
「………………その話を聞く限り2000年も維持できたのはノワールだったからって感じだな。他の子達だったらとっくの昔に破綻してる。それじゃ次に助けに行くのはパープルスモックに住んでる子達だな」
「それがいいと思う。ノワールお兄ちゃんの負担も減るし、食人種のお兄ちゃん達も喜ぶよ。今は悪い事をした人達を食人種のお兄ちゃん達に食べさせてるらしいから」
あ~。それ多分犯罪者って事だよな。しかも死刑判決級のヤバい犯罪者。
そう思ってライトさんとミカエルに視線を移すと気まずそうに言った。
「この国の最高判決は終身刑です。ですがたまにノワール様の所に極秘裏に送っています」
「ですが本当に反省の様子のない罪人だけですよ。そんな彼らをパープルスモックに送り届けているだけです。あとの事は知りません」
そう言われると知っているような気がするな……
でもまぁすでに死んだ人間の事なんて考えても無駄か。俺は子供達の事を1番に考えればいいんだから。
「それじゃ次はパープルスモックに行く。と言っても1度カイネに帰らないとダメだけどな」
「そうなの?てっきりまっすぐ行くんだと思ってた」
ブランが意外そうに言う。
俺は頭をかきながら理由をこたえる。
「いや~カイネの商業ギルドに所属してるからさ、今は暇をもらってきてるんだよね。それに帰るって言っちゃってるし、せめて今月分の野菜だけは渡してから行くことになる」
「え?ファームの野菜売ってたの??」
「でなきゃ金を得る手段がねぇよ。金はいろんなものに交換できる便利な交換券みたいなもんだ。この世界じゃ硬貨だけど」
そう言うとミカエルとライトさんが苦笑いをした。ブランはあまり金の価値と言う物がぴんと来ないのか不思議そうにしている。
さて、そんじゃ次はパープルスモックに行きますか。
熾天使
名前 ミカエル・ドラクゥル ガブリエル・ドラクゥル ラファエル・ドラクゥル ウリエル・ドラクゥル
SSランク
天使の中で最上位の天使であり、4対の翼を持つ。男性型、女性型の2種類が存在する。
彼らは使えるべき存在が居るとその存在に忠誠を誓い、決して裏切らない。エレメンタルフェザードラゴンとは違い攻撃力を重視している。その理由は神敵を倒すためだ。
通常の天使ではほぼ自我と言う物は存在しないが、上位天使と言われる天使になると自我が芽生える。それ以前の場合だと自我のない、神の命令を待つだけの人形に近い。
補足
ミカエルはみんなの頼りになるお兄ちゃん的存在でみんなのまとめ役をしている金髪の天使。甘党男子であり菓子類が好き。
ガブリエルは青い髪の世話焼きお姉さん。産まれた順番など関係なく世話をしたがるので止めるのが大変。最近はメイド服に身を包んで作業すると気合いが入るらしい。
ラファエルは新緑色の髪をした効率重視の薬剤師。医療系の知識を中心に集めていたので薬を作るのが得意。その代わり放っておくといつまでも研究室から出てこなくなるので、ガブリエルに怒らる姿もしばし見かけられる。
ウリエルは赤い髪の気の良い明るい奴。主にブランの護衛担当。しかし笑ったりすると大声を出すのでうるさいと言われる事も多い。




