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敗れたパープルスモック

 心の平穏を保つために色んな人に戦争による影響を聞きながら現実逃避をしている間にも戦争は進んでいく。

 今回は前回の様に人間牧場に居る人間達を救出すると言う事はせず、完全にパープルスモックを落とすつもりで行動している。

 前回の動揺から反省してブラン達から聞いているが俺がショックを受けすぎない様に話しているのでちょっと現実と違う点はあるかも知れないが大体は分かる。


 まず正義君は全く動いていない。積極的に動いているのはリアム・フォートレスばかりで正義君はホーリーランドの陣地から一切動いていないらしい。

 リアム・フォートレスは一切のためらいなくパープルスモックの人間騎士達に銃口を向けていると言う。もちろん魔法が得意な子もいて長距離から攻撃して倒そうとしているそうだが、近代化学兵器の前に中途半端な魔法は効果をあまり示していないと言っていた。


 それでも最も効果があったのは雷の魔法。

 雷の魔法は長距離で使用するには難易度が非常に高く、本来は目くらましか超至近距離での使用、スタンガンのような使い方が一般的らしい。なので長距離から正確に使える雷の魔法は威力は初級より少し強いぐらいでも正確に当てられると言うだけで上級扱いだと説明してもらった。

 雷の魔法は当たれば感電させる事ができるので結構戦闘向きの魔法らしい。と言っても絶対ではなく、ただ単に当たればうまくいけば感電させる事ができるから、ぐらいの物らしいが。

 それにしてもゲームの力で出現させた銃などは電気の攻撃に弱いのだろうか?銃などが電気系統で制御されているのか素人の俺にはさっぱり分からないが、そうだったらいいな……


 そして普通の騎士達に関しては被害はほぼ同じくらい。お互いに似た人数の戦死者や負傷者を出していると聞いたので、相当悲惨な事になっていると思ったが、他の戦争に比べれば少ない方らしい。

 これはただ単に他の戦争に比べると圧倒的に人数が少ないからだそうだ。

 パープルスモックは人間はそれなりに居るがそのほとんどが人間牧場で育てられている食用であり、戦える人間という点では非常に少ない。そしてホーリーランドも似た様な物だと言う。

 数に関してはホーリーランドが呼んだ傭兵や冒険者のおかげで少し多いそうだが、それでも基本的にはホーリーランドの騎士達が前線に行くので冒険者達は陣地を守る事に集中しているらしい。傭兵に関しては戦争に参加して金を得るので騎士達と共に行動している事の方が多いらしいが。


 とりあえず今の所は五分五分と言う感じで吸血鬼達から避難したいと言う話は出ていない。

 戦争はどちらか一方が勝つまで続く方が難しいと言うイメージがあるので、途中でなし崩し的に戦争が終わってくれないだろうかと思いながら時間を過ごしていた。


 ――


 今日も畑仕事をしているとノワールが珍しく慌てた様子でやってきた。


「父さん!すぐにゲートを開いていいか!?」

「お、おおう。いいけどそんなに慌ててどうした?」

「リアム・フォートレスが本気を出してきた!ミサイルや火炎放射器を利用した攻撃を行い、一気に首都へと進軍してきた!!」

「今すぐ特大のゲートを開いてやる。避難民はどれぐらいだ」


 俺もこれはゆっくりしていられないと悟り、メニュー画面を操作しながらアルカディアへの入り口を開く。

 このアルカディアに全体のおよそ半分ぐらいの種類が集まった時にメニュー画面に新たな機能が追加されていた。

 それが以前に行った事のある都市に行く事ができると言う効果。もっと簡単に言えばポケ〇ンの空を飛ぶが追加されたような感じ。

 まぁ都市限定なので途中の道に穴を空ける様な事は出来ないし、1度行った事のある都市にしか行けない。

 これ結構便利そうで不便だよな……とりあえず1度行った場所で行けないのはボア達が居た島は都市としてカウントされていない。それから途中で寄ったカーディナルフレイムの周辺の町も行けない。

 どうせなら自分の行った事のある町全部に行ければよかったのに。


 そしてメニュー画面を操作する事で開ける穴の大きさを操作する事が出来るようになった。

 今までは俺の身長ぐらいの大きさの穴しかあける事ができなかったが、操作すれば1度に50人ぐらいは一気にアルカディアに移動させる事ができるのではないかと思う。この穴を最大まで広げれば……100人は一気に移動させる事は出来るか?

 と言っても穴に入るには自分の足を動かさないといけないし、穴を動かす事ができればもっと他のやり方もあったのかも知れないが出来ない物は仕方がない。


「およそ4500人だ」

「それって奴隷を含めて?」

「吸血鬼達だけでだ。奴隷を含めると1万人程になる」

「1万か……ちょっと多いが間に合いそうか」

「今は奴隷騎士と吸血鬼達が戦っている。銃などにはあまり効果がないが、火炎放射器と爆弾が厄介だ。その理由は分かってるだろ」

「ああ。あいつらの弱点は々《・》って所だからな」


 吸血鬼と言う種族の生まれ方をここでおさらいしよう。

 吸血鬼とは1度死んだエルフなどの死体からよみがえる事で吸血鬼は誕生する。からなずエルフでなければならないと言う事はないが、魔力のステータスが高いのが最低条件であり、失敗するとゾンビやグールが生まれる。


 ゾンビはまだ意思疎通の取れない、ただあ~あ~言っているだけだからまだマシだが、グールは凶暴性が高く、感染する。

 ゾンビ映画で見る噛まれると自分もゾンビになるというのはアルカディアではグールから始まる。なのでゾンビは本当にただ動き回る死体であり、不潔で疫病を振りまきやすいと言う難点以外は特別被害らしい被害は出ない。

 しかしグールは狩猟本能が備わっているのか、生きている生物を見付ければ襲い、食らう。逆に死体に口を付ける事はなく、中途半端に食った物がグールになってしまう。


 そんな誕生の仕方をしているからか、普通の吸血鬼に回復機能はない。1度死んだから自己再生能力がない方が自然かもしれないが、回復魔法も効果を示さない。

 自己再生できるようになるのは真祖になってからだ。

 だから弱点はブラン達の持つ魂を昇天させる魔法や、死体を燃やす炎、死体を大地に戻す魔法などが弱点になる。

 普通の吸血鬼は人間から血を吸う事でようやく体の修復を行う事ができるが、傷の深さに比例して必要となる血の量も増えていくのであまりに深い傷だと血が足りなくて結局死んでしまうと言う事になってしまう。


「それに蜂の巣にされた吸血鬼達もいるんじゃないか?そいつらはケガ大丈夫か?」

「……元々殿を務めると言っていた。こちらに来るのは戦えない女子供、そして若い吸血鬼達ばかり。長生きした吸血鬼達は少しでも時間を稼ぐと言っていた」

「……そうか。それならそいつらがすぐに逃げ帰れるように早く町の人を連れて来よう」


 そう話してから俺はパープルスモックの都市の中心に穴を空けた。

 そこに居たのは大勢の吸血鬼達とその奴隷である人間達とがちらほらと居る。

 でも思っていたよりも人数が少ない?ざっと見ただけだが5000人ぐらいに見える。


「では落ち着いて移動してください。この先は安全ですから」


 そう話しかけながら俺達は吸血鬼達をアルカディアに移動させる。

 小さな手荷物を持った人達が多く、ぱっと見ちょっと旅行に行くだけの様にも見える。俺はてっきりこういう時は荷車にタンスとか色々持って行けるものは全部持って行くイメージがあったが、どうやらそうではなかったらしい。

 そして順調に吸血鬼達がアルカディアに向かっていく中、一組の家族が中々移動できずにいた。

 その理由は夫婦が手を握っている男の子が原因だろう。


「ヤダヤダ!!屋敷を置いて逃げたくない!!僕だってあの人間達を殺してやるんだ!!」

「我がまま言わないの!私達だって本当はこのまま屋敷を、国を捨てるなんて事はしたくないわ。でも相手の勇者は想像以上に強かった。だから今はどうしようもないのよ」

「ヴラド様は!?ノワール様は!?あの方々だったら勇者相手でも勝てるでしょ!!」

「そう……かも知れないけど……」


 どうやら男の子はこの国の事を諦めたくないらしい。

 それは当然の反応であり、当たり前だと言える。

 俺は少しだけ一緒に誘導しているエリザベートに頼んで男の子の前に行った。

 当然男の子は俺の事を睨み、子供ながらに敵意を剥き出しにする。当然親は俺が何者なのか知っている様で、止めようとしていたがそれよりも早く男の子が言う。


「お前のせいなんだろ!!ノワール様やヴラド様がこの国から出て行った理由は!!」

「ああそうだ。俺がノワール達を連れて行った」

「返せ!!ノワール様とヴラド様がいればあんな野蛮な人間に負けるはずがないんだ!!あんなよく分からない道具で長距離から狙ってくる卑怯者に負けやしないんだ!!」

「そうかもな。でもそれでいいのか」

「どういう意味だよ。この国が守れるなら――」

「自分の手でじゃなくて、他人にこの国を任せていいのか」


 俺がそう少し冷たく言うと男の子は口を閉じた。

 だから俺はここで強く言う。


「確かにノワール達がこの国を出て行った理由は俺にある。俺が帰って来いと言い、俺が帰ってきて欲しいと願ったからこの国を出て行った。その事に関しては俺を好きなだけ恨めばいい。でもな、そんな出て行った連中にすがるってのは情けなくないか?それは今もお前達を逃がすために頑張ってる騎士だか戦士達に失礼なんじゃないか」


 俺の言葉に男の子は悔しそうに黙り込む。

 ただ歯を食いしばって、親とつないでいる手を強く掴んで、ただひたすらに耐えていた。

 だから俺は甘ったるい希望の言葉でそそのかす。


「お前、名前は」

「……アーサー」

「アーサー。お前は自分の手でこの国を取り戻してみたくないか。少し時間はかかるだろうが、それは絶対に成し遂げたい事だろ?」

「当然だ!!取り戻せるならすぐにでも……」

「ならまずは食って寝て、体を大きくしろ。そしてヴラド達に頼んで戦闘訓練をしてもらうよう言っておいてやる」

「い、良いのか!?その、ヴラド様に稽古なんて……」

「多分俺が頼めばあっさり聞いてくれると思うよ。それに俺は農家だから食い物は沢山あるし、でっかくなるには丁度いいだろ。だから今だけでいいからこっちに来てくれ。そこで作戦準備でもしよう」

「……その言葉、忘れるなよ」


 そう言ってアーサーとその両親はアルカディアに向かって歩いて行った。

 俺達が話している間にも避難は進み、数える事ができるぐらいの人数になってからノワールに聞く。


「ノワール。避難まであとどれくらいだ」

「もうすぐ終わる。見ての通りだ」

「戦っている人達はどうやって回収する」

「…………厳しいが、運が良ければドクターが居た洞窟に駆け込めと言ってある。あそこはまだ私がまいた毒霧が残っているはずだ。大分薄まっているが、それでも毒だと分かって突入する人間はいないだろう。そこで待つ」

「……分かった。避難が終わったらどうする?」

「父は通り道を閉じてくれればいい。あとは私が迎えに行く。しばらくこちらで過ごすだろうが待っていてくれ」

「……ちゃんと帰って来いよ」

「大丈夫だ。必ず帰る」


 死亡フラグ踏んでいる気がしてちょっと怖いんだけど。


「ドラクゥルお爺様!避難終了です!!」


 そう思っている間にも避難は終わった。

 俺はノワールに向かって「絶対だぞ」と小さく言ってから穴を閉じた。

 穴が閉じる寸前に見たノワールは、心配し過ぎだと不満そうな表情をしていた。

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