戦争の影響を色々聞いてみた
それから戦争の状況を確認しながら俺達は日常と言えなくもない日々を送っていた。
戦争をしているのはホーリーランドとパープルスモックであり、俺達はあくまでもパープルスモックの撤退先として準備を行っているだけなので直接戦闘には参加していないから、悪いが他人事と言う感じ。
俺はいつも通り畑仕事をし、アルカディアに慣れてきたアオイの妹ちゃん達にちょっとお使いを頼んだり、クウォンさんと顔を合わせてちょっと商談をしたりと比較的穏やかな生活を送っている。
そして必ずと一定程に今の話題はホーリーランドとパープルスモックの戦争についてだ。
「戦争によって何か変化はありましたか?」
そうクウォンさんに聞くと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてから言う。
「そうですね。良くも悪くも、というべきでしょうか」
「良くも悪くも?」
「はい。現在戦争をしているホーリーランドから食料の購入が多く依頼されているので非常に潤っております。しかしこれはあくまでも一時的な物であり、戦争が終わった後はおそらくしばらく不景気になるでしょう」
「戦争が終わった後ですか。それは食料不足で、という事でしょうか?」
「そうではなくですね……ここだけの話、パープルスモックの方々はみな貴族です。なので高級品を購入してくる方々でもあったのですよ」
なるほど。商売先が1つ潰れるから不景気か。
それに高い商品ばっかり買っていたとすればそりゃ不景気にもなる。数多くある商売先の1つでしかないのかも知れないが、確かに素直に喜んでいられる話でもないだろう。
「それに冒険者ギルドから注意喚起が届きました。どうやら戦争に巻き込まれた食人種がパープルスモックから逃げているらしいのです。その後どこかに定着するのか、それともパープルスモックに帰っていくのか、それらはすべて戦争が終わった後に決まる事ですから商人も危険なのです」
「それは……非常に困りましたね。ベートみたいに弱い子供などを狙う食人種が各地で暴れ出したら大変です」
「それが最大の懸念です。確かにベートは成人した男性を襲ったりはしませんが、どこかの村に来て女子供を襲う可能性が非常に高いのです。それに行商人が最初に見つけた時は、不幸としか言いようがありません」
クウォンさんは困ったように言う。
ある程度はベートを回収してアルカディアに連れてきたが、全てではない。現在の自然環境を守るためにわざと一定数は残したのだ。より正確に言うといくつかの群を残したと言うべきだが、その残った群れが今後どうなるかは流石に俺も予想できない。
「もしベートが周辺国に散らばってしまった場合はどうなりますか?」
「流石にそれは冒険者ギルドの管轄ですね。私達は商品を運び、商売をするために居ますから」
「あ~。バカな事を聞いてしまってすみません」
「いえ、当然の疑問ですよ。それに金のある商人の場合は冒険者のみなさんに護衛されながら商売をしに行くでしょうし、全く関係がないとは言えませんから。あ、でもドラクゥルさんの野菜はこれからも多方面に売りますのでご安心ください」
正直俺が心配している事はそんな事ではないのだが、子供達を養うと言う意味では重要なのでとりあえず頷いておいた。
次に聞いてみたのはグリーンシェルの王様達。
「パープルスモックとホーリーランドの戦争の影響を聞きたいと」
「ええ。こういう戦争っていろんな方面に影響が出る物じゃないですか。それでお聞きできることなら聞いておきたいと思いまして」
「そうですわね。わが国ではポーションの類が多くホーリーランドに売っています。ですがそのために冒険者達が買うポーションが高騰、品薄状態になっているのであまりいい状況と言う事も出来ません」
俺の質問に答えてくれたのは女王様の方だ。
果物の皮を使った紅茶をメイドさん達が淹れてくれたものを一緒に飲む。
「こっちではポーションの類ですか。素材とかは大丈夫なんですか?」
「最近はヴェルト様の背に生えている薬草だけではなく、自分たちで育てて安定した供給が出来ないか研究している。これが出来れば果物同様に一定の収入が見込めるし、不要になることは無い」
「なるほど。しかしこの状況だといつかは農業大国になりそうですね」
「それを目指しております。わが国は土地は多いですが、そのほとんどはあまり活用されておらず持て余していたのですからこれを機に農業などで発展しようと考えています。そうすればヴェルト様の負担も少なくなるでしょうから」
「負担?何かヴェルトにありましたか」
娘が何らかの負担になっていると聞いては父親としてただ黙っているわけにはいかない。
だが俺の反応に対して王様達は微笑みで返す。
「いや、負担と言っても薄緑様に色々教えていらっしゃるようなのでその時間を邪魔しないようにしているだけだ」
「薄緑様もヴェルト様の言葉を聞き、自然に対する知識や技術をお教えになっているようなのです」
そういえば黄緑もヴェルトから何か学んでいるような様子を見せてたな。
親が子供に様々なことを教えるのは当たり前だと思うが、子供が実際に孫に様々なことを教えていると考えると嬉しさがこみあげてくる。
俺が子供達に教えていたことは間違っていなかったんだと思えて安心もする。
「こっちでも黄緑がヴェルトと何か話している様子を見かけてはいましたが、まさか勉強を教えていたとは思いませんでした」
「そうなのか。こっちではきっと何か深いお考えがあるのだろうと思っていたのだが」
「それはヴェルトの事を持ち上げすぎなんですよ。まぁ自国の神だから当然と言えば当然なのかもしれませんが」
「ヴェルト様のお父上だからこそ、そのように思われるのですよ。最近は娘とともに新しい肥料の開発などを行っております」
「そういえばレオ姫がいませんでしたね。どこかにお出かけですか?」
こういう王様達と一緒にいるときは大抵一緒にいるレオがいない。
てっきり何か用事があるのかと思っていたが、違ったか?
すると王様は深いため息をついてから俺にジト目で言う。
「ドラクゥル殿のせいだぞ。どうしてくれる」
「え?何のことですか」
「ドラクゥル殿の影響で薬草の育成、果樹園の木々の育成など様々なことに熱中している。その影響で嫌いだった勉強にも熱が入り、学力が増した。知識が増えることに関しては何の問題もないのだが、熱中しすぎてマナーなどを教えようとしても素直に聞いてくれなくなった」
「あ~、それは~その~……」
「それに今後農業でさらなる強国になろうとしている最中にそれらをやめろとも言えぬ。どうしてくれる」
「勉強などに関してはいいですが、動物のフンなどから肥料を作ろうとして汚いところにちゅうちょなく入ってく所はあまり見ていていい気分にはなりませんね。ちゃんと綺麗にしなさいと言っているのですが聞いてくれなくて……」
レオの奴、そんな研究者まがいの事をし始めてたのか?
さすがにそれは予想外と言うか、ちょっと興味を持ってくれたらいいな~ぐらいの物がそこまではまるとは思ってなかった。
そうなると今度は薬草を育てた後に石けんの作り方でも教えればきれいにするかな?いや、今度は薬効成分とかそのあたりの事を研究し始めそうだな。
あれ?そう考えると教えない方がいいのか??
「それじゃ次は簡単な石けんの作り方でも――」
「「今度は石けんの研究にはまりそうだからやめろ(てください)」」
……親御さんに止められてしまった。
研究熱心な娘さんも悪くないと思うんだけどな……
「進路に関しては娘さんとご相談ください」
「あ!お兄さん来てた!!」
王様達に頭を下げているとレオが来た。
しかしその恰好は……つなぎだった。
確かにその姿はお姫様とはとても言えない。畑仕事をしていたらお姫様だと気づく人はいないんじゃないだろうか。
うん。今後を心配する気持ちが少しだけ分かった。
お姫様らしさが足りないわ。
「よぉレオ。元気そうで何より」
「うん!元気だよ!!今日はね、薬草の効果を上げるための実験を頑張ってたんだ!それでね、ちょっとつまづいちゃったからヒントとかないかな?」
「その前にちゃんと着替えてきな。泥まみれじゃもったいない」
「もったいない?」
「かわいい女の子なんだから綺麗にしてかわいいところを潰しちゃもったいないだろ?」
「かわいい……分かった!それじゃちょっとだけ待っててね!勝手に帰っちゃダメだからね!!」
そう言ってレオは走って着替えに行った。
その後を追うメイドさん達は大変そうだな~っと思っていると王様がじ~っと俺の事を見て、女王様は何か驚いたような表情をする。
「どうかしました?」
「貴様……娘の事をどう思っている」
「そりゃ友人の子供ですから、娘の友達感覚、親しく言うなら姪っ子みたいな感じですかね」
「ご息女にはあのような言い方で浴室に誘導したのですか?」
「あのような言い方?」
「娘に言っていたではありませんか。かわいいとか、もったいないとか」
「ええ、そうですね。女の子と言うのは少し大人のように扱うと素直に聞いてくれますから」
俺の経験での話だが子供として対応するよりもその入り口に入った、みたいな感じで少し諭すように、大人なら、みたいな感じで話すと効果があった。
だからレオにも同じように言ったのだが、何か間違っただろうか?
「つまり貴様に不純な動機はないのだな」
「不純って何ですか?今の言い方はレオをだましているとでも?」
「そうではありませんが……言い方が少し気になったと言いますか……」
なんだかよく分からないが友達の娘にうちの娘のように接するのはやっぱり違うと言いたいのだろうか?
何がダメだったんだろうと思いながらも、レオが即行で着替えてこちらに来たのでうやむやになってしまった。
それからおまけだが、結局薬草の効果を上げるための話をしていたら親御さんたちからストップがかかった。今度は研究で研究室から出てこなくなると。
好きなことを職業に生かせるんだから、別にいいと思うんだけどな。




