俺は甘く見ていた
オベイロンに相談されてから俺達は一旦帰ることにした。
ここに居てもこれ以上ライトフェアリーの事に干渉することはできないし、おそらくティターニアをどうにかしないと話は進まないだろう。
まぁオベイロンにはいつでもアルカディアに来れるようにしておいたし、何か相談があるときはこっちに来るよう言っておいた。
なので俺達はカイネに帰った。
そしてカイネでアオイの妹分達に何か楽しいことが出来ないかと考えていると、ライトさんがやってきた。
「あ、こんにちわライトさん。ブランと何か相談ですか?」
「いえ、ドラクゥル様に大切なお話があります」
珍しい事もあるなっと思って首をかしげていると、ライトさんは意外そうに言う。
「お忘れですか?ホーリーランドとパープルスモックの戦争が始まります」
ああ、もうそんな時期か。
一応吸血鬼達の避難のために新しいホテルを建てておいた。
よくあるホラーゲームに出てくるような巨大なホテルで、収容できる人数は多いがその代わりホールや食堂の類は必要最低限しかない。
こっれでも十分広いと思うが、今ヴラドたちが使っている家よりもランクが低い理由は空間圧縮されていないからだと思う。
ゲーム特有の機能と言うか現象と言うか、外見の見た目よりも圧倒的に部屋の数が多いとか、単純に広すぎるあの現象だ。
その現象のおかげで見た目はちょっと大きい豪華な屋敷なのにプールとか劇場とかいろんなものが積み込まれているのである。
「でも始まるって言われても俺にはどうしようもないですよね?」
「え?ヴラド様たちからはパープルスモックが戦況をちゅうけい?するために何か箱のような物を担いでらっしゃいましたよ。ウリエル様達もアビスブルーの勇者の実力を知るためにかめら?と言う道具を使ってさつえい、を行うと言っておりました」
あ~。こっちの世界で中継とか撮影とかって言葉は生まれてないのか。
そのせいか一部の言葉が慣れない感じで言っている。
「あいつら撮影とかガチじゃねぇか。それでどこで上映会するんだ?」
「ドラクゥル様のじょうえいじょうで行うと聞いています」
「それじゃ行きましょうか」
持っていた小さな鎌をしまい、ライトさんと一緒に上映場に向かう。
上映場に到着すると、そこにはすでにSSSランクの子供達と、SSランクの子供達が勢ぞろいしていた。
そんな子供達に向かって一言。
「おいお前ら、上映会するなら俺にも教えてくれよ」
「あ、パパ!でもこれ本物の戦争だよ?映画じゃなくて本当に血が出たり、体の中の物が飛び出しちゃったりするんだけど……」
ブランは俺の事を気にしながら言う。
どうやら俺を呼ばなかったのはただ単にそういうシーンに慣れていないから見せない方がいいだろうという判断をしたかららしい。
でもこの戦いでパープルスモックに残っている吸血鬼達がこっちに来るかどうか決まるのだから完全に人任せにするわけにもいかない。
「気分が悪くなったら素直に退場するよ。宣戦布告は終わっているはずだけどいつごろ始まるんだ?」
「今日の10時からだよ。お互いにルールを守っているから一方的にはならないと思いたいけど……」
だよな。ホーリーランドには2人のゲーム能力持ちがいる。
元からホーリーランドにいる正義君は多分RPG、王道の剣と魔法を使って戦う系のゲームだろう。
そして元アビスブルーの軍人、リアム・フォートレスはおそらくFPS系のゲームで様々な近代武器を使って戦う。
どちらも直接戦闘を見たわけではないが、軍人の方はミサイルをぶっ放しているところを見た。あれが最大火力なら少しは今後の対策を練ることが出来るが……
なんて考えていると画面で状況が少しだけ動いた。
パープルスモックの奴隷騎士達が木々の間を縫うように静かに移動し始めた。斥候部隊、という奴なのか軽装で武器も小さなナイフぐらいで相手を正面から殺すような装備ではない。
だからおそらく相手の状況を知るために送り込まれた感じだろう。
そしてホーリーランドの方はちゃんと頭から足の先まで、鉄製の鎧を身に着けたまさにヨーロッパの騎士、と言いたくなるような騎士達が5人組で森の中を歩く。
森の中をそんな重そうな装備で向かうのはどうかと思うが、これは戦争。動きにくさよりも安全性を選んだ結果かもしれない。
そして予想外だったのがこの前哨戦と言える戦いの中にリアム・フォートレスが混じっていたことだ。
彼は他の人達のように団体で行動することなく、1人でマシンガンを持って移動している。服装もまさに軍人と言う感じで緑の迷彩柄で頭には同じく迷彩柄のヘルメットをかぶっている。
目には何かゴーグルをつけており、どんな効果が出ているのか分からない。暗視ゴーグルのように暗くてもよく見えるようになっているだけか、それとも遠くの物を見ることが出来るのか。
この辺りがゲームという特徴の面倒臭さだな。
アイテム1つで大きく戦況が変わるのだから注意しなければならない。
そう思いながら先に相手を発見したのはパープルスモックの奴隷達だ。
身軽な服装と知っている土地だからこそここまで早く移動できたのだろう。それぞれのグループはホーリーランドの騎士達を見つけると、手を耳に当てて何か話している。
「あれは?」
「情報を送っている。あれは念話の魔法だ。あれで遠くにいる者と話が出来る」
俺の質問にノワールが答えてくれた。
なのでそのまま聞いてみる。
「無線みたいなものか。その魔法って広く知られてるのか?」
「いや、私達で開発した物だ。もともと私やヴラド達、アルカディアで共に暮らしていた者同士なら簡単に話せたのだが、元からこの世界にいた吸血鬼とは勝手が違ったようなので一から開発した」
「軽く話してるけどかなり大変だったんじゃないの?」
「それなりに、だろうか?元々魔法に関して知識の明るい者達がそろっていたから、苦労したと言う感じもあまりしない」
そう簡単に言っているがライトさんの表情がかなり苦々しそうにしているぞ。
その念話って魔法この世界じゃ情報革命に近い反則級の魔法なんじゃないか?戦争は情報を素早く知り、先手先手で行っていくものと言うイメージがあるし、多分簡単にできるものではないと思う。
そう思いながらもホーリーランドの騎士達はすでに発見されている事に気付かず、進軍を続ける。
しかし彼らに気が付いた男が1人だけいた。
リアム・フォートレスである。
やはり彼がつけているゴーグルは特殊な物なのか、すぐに銃を構えた。
すでに手にしている銃はマシンガンではなくスナイパーライフルのような物に変わっていた。
そしてゆっくりと銃口を監視している彼らの方に向けると、静かに引き金を引いた。
「………………」
「パパ。やっぱりやめておいた方がいいよ。あとで教えるし、そんなにすぐ終わる訳ないからさ」
「…………悪いな。席外すわ」
俺は目を覆いながら席を立った。
そのまま上映場を出て廊下で思いっきり息を吐きだした。
深呼吸を繰り返し、無理やり落ち着かせる。
初めてだった。
初めて人が死ぬ光景と言うものを見た。
想像以上に、衝撃的だった。
映像でこれなのだ、直接死ぬ場面を見てしまったらどうなるのか全く分からない。
腹の中の物を全てぶちまけて終わりならまだマシと言うのだけは分かる。下手すれば俺自身がおかしくなってしまう事だけは理解できる。
これをすぐそばで経験してきた若葉にアオイ、正義君も仕方がない状況だったと言ってもよく正気でいられたものだ。
…………いや、違うか。
きっと正気ではいないだろう。必ず心のどこかがおかしくなってしまった可能性の方が高い。
まったくあのクソ神め。平和な国からこんなところに召喚させたがって、せめて世界を救うってどうやればいいのかぐらい教えろよ。
そう思いながら俺はしばらく初めて見た光景を消すために自室の戻った。




