オベイロンの昔話
国会議事堂もどきからオベイロンと一緒に出て、近くの喫茶店で一緒にお茶をしながら情報交換をすることにした。
もちろん店員さんはオベイロンの事を見て驚いていたが、オベイロンが笑って手を振ると注文を取ってそそくさと戻って行ってしまった。
まぁその方が話しやすいし、楽だけど。
「では改めて、久しぶりだな、オベイロン」
「久しぶりだな父ちゃん。まさか2000年越しに会えるだなんて思ってなかったよ」
「まぁその辺はあれだ。多分俺がこの世界に来たのがここ最近のタイミングだったって感じだな。お前は元気か?」
「ん~。元気ではあるけど悩みが多いかな。ティターニアの事とか、この国の未来とか」
この国の未来ね。
オベイロンはクラルテほどではないが自由が好きで、あっちこっち好き勝手に飛び回っていたものだ。探すときは大抵ティターニアのそばにいるだろうからティターニアを探した方が早いと言われるほどだ。
そんなオベイロンが自由をなくすと言ってもおかしくない国の未来を考えるだなんて、やはり2000年と言う時間は非常に長いようだ。
「ティターニアにはさっき会ったが、ずいぶん性格が変わったな。何があった」
「…………この世界の人間だよ。ちょっと長くなるけど話すよ」
それはオベイロンとティターニア、フェアリーたちがまだこの世界に来たばかりの話。
2000年前もフェアリーと言う存在非常に希少で、飛び去った後の鱗粉ですら非常に高価な値がつけられていたほどだ。
もちろんオベイロン達はそんなことは知らず、俺と同じ姿をした人間にここはどこか聞こうとしたとき、いきなり捕まえようとしてきたと言う。
それを何度か繰り返し、どうして自分たちを追いかけまわすのか理由も分からない時に出会ったのが小さな子供達。
彼らはいわゆる戦争孤児だったらしく、5人で必死に生きているところを偶然見つけた。
ようやく話が出来る人間、まだ子供なのであやふやな話だったがこの世界でフェアリーはおとぎ話ぐらいでしか知られていないが、たまに見つかるフェアリーの鱗粉が非常に高価であることをこの時初めてオベイロン達は知った。
この子供達に出会うまでおよそ100年。
そんなくだらない事で、とフェアリーたちは怒る。
しかしそうなると安住の地を見つける方法は非常に難しいことを悟った。もし今のようにフェアリーが大量に集まっているところを人間に見つかれば同じことの繰り返しだろうと感じていたからだ。
そこで5人の子供の内で最年長の少年が言ったそうだ。
『なら一緒に暮らそう』
こうしてフェアリー達と子供達の生活が始まった。
そこからは省略されたが、子供達は大人になり小さな家から村へ、村から町へ、町から国へと変わっていったらしい。
しかしその省略した中には子供が外の世界に触れて犯罪を犯したり、酒やたばこに溺れる子供達を見て管理するようになったと言う。
「かなり簡単にだけどこれがティターニアが変わっちゃった理由。それ以降この国の子供達は外に行きたいと思わないように外国の物は出来るだけはいらないようにしているし、お酒とたばこも禁止してる。タバコは僕も賛成だけど、お酒入れて欲しいな~。あるともっと美味しいお菓子も作れるのに」
「調理酒も禁止してるのか?徹底してるな」
「調理酒は一応存在するけど……ぶっちゃけどれも同じ感じ。あれって美味しいお酒を使えばお菓子も美味しくなるんじゃないの?」
「直接かけるとか、スポンジに染みらせるとかなら分かるが、煮たりするのだったらあまり関係ないと思うぞ。質が相当悪くなければ」
飯を作る時には当然調理酒を使うが、一応みりんも酒に入るしな。うちじゃノンアルコールのみりんは作ってないし、煮込んだりするための赤ワイン、白ワインもあるしな。あれは美味しい訳じゃないし、美味い酒を使ったからと言って料理が美味しくなるとは限らない。
「と言うかほぼ鎖国状態だから新しい調理技術とか入って来ないのが理由の1つじゃないか?どうせ菓子の類だけは輸入してるんだろ」
「いや、それが全然。確かに最初の頃はそういう事もしてたけど、今は全くないね。最低でもこのライトフェアリーと言う国が出来てからは菓子類の輸入はないよ。そのお菓子が輸入品だと知って、子供達が外国に興味を持ったらいなくなちゃうからって」
「それ絶対他のフェアリーたち不満に思ってるだろ」
「思ってる。だから外国のお菓子を食べたい時は外国でお金稼いでいる子達の所に行くのが普通だね。ほら、例の裏カジノ」
「あ~。そう言えば景品の中に薬物が混じってたのは何でだ?」
「悪い連中に食わせるのがいいだろうって感じでどこからか没収した奴をそのまま景品にしてただけ。意外とああいうのに食い付く客も居たらしいよ?」
「転売目的ならカジノで勝つのと、普通に仕入れるのどっちが安上がりなのか分からないな」
なんて話をしている間に注文していた菓子がそっと置かれる。
置かれたのはチーズケーキだが……ソース付けないとあんまり美味しくないな。
脇にあるベリー系のジャムっぽいソースを付けながら食べると丁度いい感じだ。
そう言えばオベイロンの方は大丈夫かと思って見てみると、フェアリー用のフォークとナイフを持っていたので大丈夫そうだった。
「何そのちっちゃいフォークとナイフ」
「何って僕達用の食器だよ。子供達の子孫が大きくなって、作ってくれるようになったんだ。僕達が住んでいる家の家具とかもみんな子供達が作ってくれたんだよ」
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
そう聞いてからオベイロンにまだ使っていないナイフを借りる。
ぱっと見は人形遊びに使うおもちゃの様に見えるが、フェアリーが使う事を考えてかなりの軽量化、小型化を実現していた。
これが脆いプラスチックなどだったら型に流し込んだだけ、と思ったかもしれないがどう見ても鉄製であり、職人の手で作られている事は分かる。
「いいナイフじゃないか。この国の人が作ったのか?」
「うん。特に手先が器用な子達が作ってくれてる。食器だけじゃなくてタンスとかクローゼットとか、洋服とかも作ってくれるから本当に助かるよ。僕達こういう作るっていう行為は苦手だから」
返しながら言うとオベイロンは誇らしそうに言う。
子供が褒められてうれしい父親、と言う感じでいつまでもニコニコしている。
そして俺は1つの事を提案する。
「なぁオベイロン。この国の事を考えていると言っていたが具体的にどんな事を考えているんだ」
「具体的って聞かれても。全然だよ。やっぱり僕にお金を稼ぐ才能はないみたい。一応できる事、花とかを自分で育ててるけどお金になりそうにはないしな……」
「それに関しては大丈夫だ。花ってのは恋人に送ったり、飾りつけなどで使う事があるから一定以上の価値はある。問題は生産量だが、どれぐらい出来そうだ?」
「流石に僕1人じゃ50本ぐらいが限界だよ」
「他のフェアリーたちを含めたらどうなる」
「え~っと、僕ほどの効果を持つ花を育てるとしたら1人1本かな。それがだいたい100人ぐらい居るよ」
「効果なしで普通の花を育てた場合は?」
「どれぐらいの時間で?一応1ヶ月で計算してたけど」
「ならそれで」
「効果なしなら……みんなで200本は行けるかな?」
「よし。それなら十分名産としてやっていける。その内名産として安定して供給したいけど行けそうか」
「無理はしたくないから安定してやるなら100本がいいんだけど」
「ならそれで頼む。あとはもう1つ名産に出来そうなのがあるんだが相談良いか?」
こうして俺はオベイロンとこの国の経済をまともな物にするべく、相談をするのだった。




