オーナー現る
次の日、俺達は再びカジノに来ていた。
ルージュの勝ったチップの一部で俺が欲しい物に出来るだけ多く交換したからだ。
あのままチップとして持って行かれるのは店側としてはかなりの痛手だったらしく、交換で少しでもチップを回収しておきたかったと言う感じだったので出来るだけ多く交換した感じ。
ちなみに普通に勝ったブランはどっかのお高いお菓子、ノワールは貴重な本、クレールは家具、ルージュはドレスと交換していた。それでも大量のチップが残っているのでしばらく遊ばなくてもいいぐらいだけど。
ヴェルトだけは交換せず、今日はまたあのおっちゃん達と遊ぶためにチップを溜めている。
そして俺が交換してもらったのは、この世界の花の種や、苗木だ。
本当の使い道は薬の素材にしたり、魔法使いの杖に加工するための物らしいが俺の場合はそれらを元にアルカディアで増やす方が研究に使える。
アルカディアにない樹木であってもちゃんと育つ事ができるのか、それが前から考えていた事だ。
なのでこの際研究資料としてもらっていこうと思ったので交換したのである。
そして今、カジノに来てそれらを渡す裏の倉庫の様な所に通されて、そこで受け取っている最中だ。
「こちらが商品のチェックリストになります。お確かめください」
種類は15種類ぐらいだが、ストックしていた数はかなりの物だったので、かなり希少な物以外は3桁ある場合もある。
まるで業者にでもなった気分でチェックしながら受け取っていた。
「はい。全部あります。ありがとうございます」
「こちらこそ、交換していただきありがとうございます」
「ところで……この貴重な物って本当に全部もらっていっていいんですか?少しは残しておいた方がいいんじゃ……」
「え~っと。その辺りはオーナーが独自の輸入経路などがありまして、結構安く輸入する事ができるんです。貴重な物に関しては交渉に時間がかかるそうですが」
「それじゃ今回のは遠慮なくもらっていっても問題ない物だと?」
「そのような感じです。むしろ無理に交換していただけるようせかしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、うちの子達もやり過ぎだと思ったので、とりあえず出禁とかだけは避けたいのですが……」
「それは……気軽に遊んでいただけるのなら」
気軽というのは多分昨日みたいに本気出さない限り、という意味だろう。
俺は受け取った物をアイテムボックスに入れてみんなの元に戻ろうとする前に1人の青年が倉庫に入ってきた。
青年は金髪でちゃんとスーツを着ていたのだが、どうしても若く見えてしまうので就職活動中の学生に見えるというか、ぶっちゃけスーツが全く似合ってない。
どうしてもチャラい雰囲気が出ているというか、まだ遊び盛りという雰囲気が抜けていない感じがする。
「あなたが昨日大勝ちしたお客様?本日はアイテムを交換していただきありがとうございます。その日のうちに交換できず申し訳ありません」
「いえいえ、こちらも結構な量を交換していただいたので仕方がないかと。それであなたは?」
「あ、申し遅れてしまい申し訳ありません。私はこのカジノのオーナーをしております」
この巨大カジノのオーナー?
それにしては随分と若い様に感じる。もっと年配と言うか、やり手のお爺ちゃん的な感じだとばっかり思ってた。もしくは野心か欲望が分かりやすいぐらい溢れている人。
でもやっぱりチャラい雰囲気が出ているせいかなんか違う感じがする。
「あ、そうでしたか。これはご丁寧にどうも」
「いえ、遊んでいただきありがとうございます。それからなのですが、少し執務室の方に寄っていただいてもよろしいでしょうか?みな様の腕を見込んでお願いしたい事があるのです」
「お願い、ですか?」
「はい。みな様のギャンブルの腕を見込んでお願いしたい事があるのです。詳しい話は執務室でお話しさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
具体的な内容をここで明かせないというのは少し不安が残るが、まぁいっか。
「分かりました。では執務室までは彼女が案内します。少々お待ちください」
そう言われて俺は眼鏡をかけた、王道過ぎる眼鏡の秘書っぽい人に案内されてオーナーの執務室に通された。
「あれ?もうみんな居たんだ」
「パパも来たの?」
「さっきオーナーさんに言われてな。そっちも似た感じか?」
「うん。スタッフさんに言われてここに来たの」
それでみんなここに居るのか。
先にカジノで遊んでいると思っていたみんなもここに居るという事は、どうやら本当に俺達全員に用があるらしい。
まぁ予想はしてたけど。
秘書の人が俺達全員分にお茶を配ろうとしていたので流石に手伝ったりしていると、ようやくオーナーがやってきた。
「ふう。これで最低分の在庫は補充できたかな。全く本当に君達は酷い事をするね。お互いにイカサマをしていないけど、この勝ち方は酷過ぎるよ。僕の店潰すつもり?」
オーナーが軽い感じで俺達に言ってきたので、まず俺から一言言おうとする前にルージュが動いた。
ルージュはオーナーの頭をがっしりと掴み、そのままアイアンクローを決める。
「弟の分際で何言ってるの?それ以前によくお姉様達をこんな軽く呼び出せたわね」
「いだだだだ!!痛てーよ姉貴!!久しぶりに会った弟に対してこれはないだろ!!」
やっぱりか。
どれだけ真面目な雰囲気を題していても溢れ出るチャラさ、どれだけ静かにしていても目立つチャラさ、どんだけ変えようとしても変えられなかったにじみ出るチャラさ。
そう、こいつ事がうちのSSSランクの5番目、クラルテである。
いや~見た目変わってもこの隠しきれないチャラさで分かるとは、全く変わらないな。
「クラルテ。そんな自由そうにしてるんだったら俺に会いに来てくれてもよくないか?」
「ちょっと待って親父!!その前に!これどうにかして!!」
「これってどれの事?」
「あだだだだ!!これだってば!!」
クラルテがルージュの事をこれ呼ばわりにした事によりさらに痛めつけられる。
うんうん。我が家のいつもの光景だ。
秘書さんはそんなクラルテの姿にため息をつきながらも止めようとしない。おそらく普段から自由過ぎて手が付かないんだろう。そんな感じがした。
とりあえずもらったお茶を飲み干してからクラルテに聞く。
「それで、俺達に何をさせたいんだ?基本的にお前が1番能力が高いのは知ってるんだが」
「あいたたた。あ~うん。ちょっとこの国の事情で僕動けないんだよね。だから代わりに親父たちに手伝って欲しいと思って頼みに来たんだよ」
頭を痛そうにさすりながら1番偉そうな席に座った。
多分執務机と言う奴なんだろうが、クラルテが部下を作ってうまく率いている事に俺は驚いている。
クラルテは自由奔放に育ったせいなのかよく分からないが、大抵の事は1人で何でも出来る。それは料理掃除と言った家事だったり、物作りから事業の計画までなんでも1人で出来た。
しかも風の属性のせいか動きは早く、誰かと一緒にやるよりも1人で行動した方が早いという事もあり、能力の高いボッチになってしまったのだ。
それなのに今はカジノ経営のボスか……ようやく人と合わせる事を覚えたんだね!
「なぁ。親父なんか変な事考えてないか?」
「それよりも用事って何よ。さっさと答えて」
ルージュの催促によりクラルテは即座に言う。
「最近違法の裏カジノが出てます。ぶっ潰してください」
簡潔にそう言った。




