寝台列車で向かう
という訳で色々ショートカットしてカイネからネグルに行く俺達一向。
しかし、そのメンバーは少し調整が行われていた!!
「全く。ブラン様をネグルに連れていくとは、父親失格ではありませんか」
ブランがついうっかり教えてしまった保護者、ライトさん。
今度家族でネグルに行くと重要な会議中に教えてしまったらしい。その後すぐに抗議する文章が俺の元に来て、せめて白夜教の中から誰かを護衛に連れて行く事が最低限の条件となった。
そしてその護衛として付いてきたのがライトさん。
いや、確かに俺達はブランの方が立場が上である事は知っているが、教皇様が護衛ってどういう事よ?教皇様は護衛される立場だろ。
「う~ん……こんな所に居ていいのかな……」
ソワソワと落ち着かないのは若葉ではなくアオイ。
今回のギャンブル大国に行く事にアオイ自身は話は聞いていたけど、子供達の面倒を見るから断っていたのだが、女の子達がたまには遊びに連れて行って欲しいというは説得があったらしく、渋々ここに居る。
一応女の子達はアルカディアの生活に少しずつ慣れ、昼間は冒険者として軽いアルバイト、夜は家に帰ってきてみんなで過ごすという生活を送っている。
ほんとこの世界の子供ってしっかりしてるよ。
俺が小学校の頃なんて何も考えずにゲームばっかりしてた記憶しかない。たまに友達の家に行ってまたゲームしたりしてたけど。
そして俺達は今ネグルに繋がる列車のホームにいるのだが、すでに正装でいる。
その理由は列車に乗るだけでも正装をしている方が自然だったからだ。
どうやらこの世界の列車はまだまだお値段がお高いらしく、金持ちしか乗れない乗り物と言う感じの様だ。電車とか私服で普通に乗っていた経験しかないので正直に言ってちょっと意外。
でも旅行雑誌とかテレビとかで高級寝台列車みたいなものをイメージすれば納得できるかも。
と言っても流石に列車なのであまり部屋は広くなく、俺、ノワール、ルージュ、ヴェルト、クレール、ブラン、若葉、ライトさん、アオイの9人一緒の部屋という訳にもいかず、どうにか2部屋に分かれた。
ちなみに部屋割りは俺とノワール、ブランにライトさん、ルージュ。もう1つの部屋が残りの4人である。
最大4人部屋なのだが、ブランはまだ子供だから、という事にして無理矢理ブランを俺達の部屋に突っ込んだ。
本当は俺とノワールだけ2人部屋にして3部屋借りるつもりだったんだけど、単純に部屋が足りない事と、ブランが俺と一緒が良いと言ったのでこうなった。
「何というか、俺達の世界に関係する乗り物や技術は全部お高い気がするな」
「そうですね。それからなんで高級志向ばっかりなんでしょう?もっといろんな人に乗ってもらえる方が収益も高いと思うんですが」
「その辺はあれじゃない?マナーとか、その他もろもろが関係してるんじゃないか?」
「マナーですか。確かに血の気の多い冒険者とかが乗って喧嘩、車両が破損される事を想像するとマナーのあるお金持ちの方がいいのかも知れませんね」
「と言ってもお金があるのはマスターですけどね」
俺の事をマスターと言ったのはアオイだ。よく分からないが俺の事をそう呼ぶ様になった。
「まぁ……社員旅行2回目って事にしておこう。今度は子供達も連れてアビスブルーにでも行くか。その方が子供達も遊ぶ所があって喜ぶだろうし」
「ま、また高級観光都市に行くんですか?やっぱり凄いですね」
「アビスブルーってあのアビスブルー?しかもうちの子達も連れて?マスターお金大丈夫??」
「今すぐじゃなくてそのうちだから、来年あたりを目指して金貯めればどうにかなるでしょ。多分」
自給自足と言っても外の世界と全く関係を持っていない訳じゃない。
服とは普通に外から購入してるし、今もアルカディアとこの世界の違いを調べるために色々買って確かめたりもしている。
だから全く金を消費していない訳ではないのだ。と言っても最大の消費理由である食糧系を自給自足で賄っているので圧倒的に黒字なんだけど。
「それにしても食料自給率が高いっていうのは本当に金貯める事が出来るんだな」
「普段お金全然使ってませんからね。もう少し趣味とかないんですか?」
「趣味と言われても元々インドア派だぞ。ゲームして、自分で飯作るぐらいしかやる事なかったし、あとはずっとアルカディアに居たしな……」
働いている時以外はずっとアルカディアばっかりやってた。
そりゃたまに格ゲーとかアクションゲームとかしてたけど、1時間ぐらいで飽きてたしな。
「あ!汽車来たよ!!」
ブランが興奮した様子ではしゃぐ。
俺達もブランが言う方を向いてみると、SLが向かってくる。
だがそのSLは俺が知っているSLとは違い、黒ではなくなぜか金色をしている。それに煙突から出てくる煙はイメージと違って黒ではなく白い。
電車しか乗った事がないからこういう物なのか?
「でも何で金ぴか?」
「運営元はライトフェアリーですからね。イメージカラーが金色らしいですよ」
「イメージカラーとは言え、これはやり過ぎじゃないか?目が痛いし、何と言うか、下品?」
「どちらかと言うと贅沢してますよってアピールしてるみたいですよ~。マスターはこういうの嫌いですか?」
「正直苦手。贅沢イメージは分からないではないけど、もうちょっと目に優しい感じが良かった」
金=贅沢というイメージは俺も確かに持っている。しかしそれを全面に出し過ぎては下品にしか見えない。
でも周りの人はこれだけでも満足しているのか、やっぱり文化の壁は厚いな。
そう思いながらも乗車する俺達。
寝台列車と言っても高級と言うだけあって専用の部屋はそれなりに広い。普通のホテルの一室で、確かに4人までなら広々としている。流石に部屋の中や通路まで金色じゃなくて良かった。
俺とブラン、ノワール、ルージュ、ライトさんがそれぞれのベッドの近くに荷物を置き、しばらくすると他の部屋のもみんなも集まったところで列車が出発する。
思っていたよりも出発する時の振動が少ない事は良い事だ。
「さて、この中でいったいどれほどの人が勝てるんでしょうね」
「ライトさん?なんですか、勝てるって?」
何だかバトルロワイヤル系のゲームが始まった時の運営側のセリフみたいな事を言ったのでしょっと驚いた。
するとライトさんは衝撃的な事を言う。
「知らなかったんですか?この列車に乗る客は全てネグルでギャンブルをするための特急車両です。ですからこの列車に乗った人達全員がネグルで勝負するつもりなんですよ」
やっべ。想像以上にヤバい列車に乗ってしまったかもしれない。
シルクハットをかぶった紳士っぽい人も、中世ヨーロッパ風の腰から半径1メートルぐらい広がっているドレスを着た人も、全員ギャンブルしに来たのか……
ライトさんが親失格と言っていたのも納得できる。ここに居るの全員ギャンブル目的かい!!
「実際ネグルでギャンブルをするためだけにお金を稼いでいる方もおります。人の趣味はまちまちですが、明らかにやり過ぎだと思える方も少なくないですからね」
俺はその言葉に絶句していた。
すみません。ギャンブルの事舐めてました。
クラルテ……沼にはまってないと良いな。




