宗教観?
俺はこの国の人間どころか、異世界の人間だから仕方ないという点もあるだろうが、それを理由に何も知らないままで良いと言う訳ではない。
やはりこういくときはお互いに歩み寄るのが1番の近道だろう。
お互いの文化を尊重し、良い部分を見ていればいいんだ。悪い部分?それはそっと目をそらしておこう。
なんて冗談半分で考えていると、ライトさんが俺に聞く。
「逆に問いますが、ドラクゥル様はこの世界でどのようなことをしていましたか?」
「どのようなって畑仕事とか、子供達の世話以外だよな?」
「はい。この世界には様々なものが充実しています。娯楽に食事、医療や家などこちらの文化を大きく超えております。ですのでそんな世界に住んでいたドラクゥル様のお話も聞いてみたいのです」
ふむ……これは、どんな風に答えるのが正解なんだ?
確かにこの世界では様々なものが充実しているが、すべてこのアルカディアで生まれたと言う訳ではない。特に娯楽であるゲームや漫画、アニメなどは俺が後からこの世界にデータを入れたからこそできたと言える。
つまり元の世界の現実についてどれぐらい話していいのか分からない。
この辺りは若葉やアオイとも話し合うべきなのかもしれないが、個人的な感想ぐらいの物なら大丈夫かな?
「そうだな……色々な物が充実しすぎて、逆に暇というか、つまらない事が多かったかな」
「つまらない、ですか?」
「ああ。この世界を見ればわかるだろうが、文化が色々と発展しすぎて今低迷気味なんだよ。変化の1つ1つは小さいから気付きにくいし、せいぜい娯楽の方で色々発展してたかな?って感じ」
「娯楽に力を入れるとは、平和な国なのですね」
「良く言えば平和、悪く言えば何の刺激もない毎日だったよ。俺は今とは違ってこの世界で完結してなくてな、外で仕事してたんだよ」
「どのようなお仕事で?」
「ありふれた仕事。簡単に言うと本屋で働いてた。毎日どの本を仕入れるのがいいのか、どれぐらい仕入れるかとかそんな話ばっかりだったよ」
「魔導書、いっぱいある?」
「魔導書は扱ってないですよ。一般向け、ファッション雑誌とか、今はやっている小説とか、昔から親しまれている本とか、そのあたりです」
「残念」
メルトちゃんが残念そうにした。
でも俺の世界に元々魔導書なんてなかったからな。一応オカルト雑誌とかも置いてあったが、あれは違うだろう。
「ブラン様達のような方々はおられたのですか?」
「いないいない。神様っていうのは宗教の中で信じられているだけで、目の前に出てきてくれたなんて話ありませんよ」
「では神はおられないと?」
「多分いるんじゃないんですかね?ただ人の前には出てこないだけで、どっかで見守ってくれてるんじゃないんですかね?他の人達もそんな感じだと思いますよ」
特に日本は八百万の神だしな。海にも山にも神様はいるって考えの方が多いんじゃないか?
何だかんだでお正月にはみんなで神社に行くし、神様は絶対にいないと言う人の方が少ないイメージが強い。
何かと勝負事の前には神様仏様、なんていうし。
「そちらの神はどれほどの数がいるのですか?」
「う~ん。宗教によってまちまちですからね。俺が信仰している宗教だと多神ですし、世界で1番有名な宗教は神様はたった1人って言ってますし、見事にバラバラですね」
「そちらの世界の宗教は多くあるのですね。こちらだとブラン様を信仰する我々のほかだと、ヴェルト様の2柱が主流ですから。それに過激な方になると他の宗教はみな偽物、などという方もいますから」
「たまに聞く。過激な信者が他の教会を襲う事件」
「お恥ずかしい話です。ブラン様はそのようなことを望んでおられないのに」
本当に過激派が他の教会を襲う、なんて事件があるのか。
日本じゃありえないな。宗教は自由だし、他の宗教に結果売るなんて本当にするんだ。というイメージの方が多い。何なら修学旅行で文化財に落書きした、なんて事件の方が多いと思う。
「ディースはどう思ってる?」
「え、あ、私!?」
空気となっていたアレスさん、ライナさん、ディースがびくっと反応した。
そして突然話を振られたディースさんはわたわたしている間にガブリエルがやってきた。
「ふふ。世間話ですか、お父様」
「お~ガブ。この世界の常識と俺の常識についてちょっと話し合ってたところ。今は宗教観について」
「難しいお話をされているんですね。それからこれ、おやつのポテチです」
「今日の味付けは?」
「コンソメです」
そう言いながらガブリエルは炭酸のぶどうジュースも用意してくれている。
みんなに自然と注ぎながら、ガブリエルがジュースを注いでいることに遅れて気が付いたライトさんが手伝おうとするが、その時にはすでにジュースは配り終えていた。
そして自然に座ってポテチを食べながらガブリエルは言う。
「そういえば、私たち天使の名前も神話からとってものだと聞いています」
「まぁな。ぶっちゃけ俺オリジナルの名前なんてほぼいねぇよ。安易に天使だから天使の名前にした、そんなもんだ。今考えるともうちょっと真面目に考えるほうがいいと思ったりするけど」
「ふふ。気にしなくて大丈夫ですよ、気に入ってますから。それより私の名前の由来の天使の名前ってどこから来たんですか?」
「キリストだな。神様は1人しかいないって言ってる宗教で世界中の人達が知ってる超有名ブランド。ま、その分矛盾も多い気がするけど」
「矛盾とは?」
ライトさんが興味深げに聞いてきたので簡単に答える。
「なんというか、神様が1人だけってところは神様が全てを創ったっていうから色々矛盾があるんだよ。地動説と天動説、動物の進化。なのに後から都合のいい部分だけ取り出して、都合の悪い部分は異教だのなんだのと言って処刑し続けた。挙句の果てには派閥争いで同じ神様を信仰しておきながら人間が殺しあう。バカバカしい」
「それで具体的な矛盾は?」
「そうだな……わかりやすいところで言うと天使と悪魔の関係せいか?最初その神様の所には悪魔、簡単に言うと人間を堕落させたり、罪を犯してでも行動させようとする存在について書かれていなかった。でもそれが人間が信仰を集めるために色々つけ足している間に神様は善、その敵は悪、て構図が出来たんだよ。それ何のに信者の連中は全て神様が作ったのなら、人間にとって都合の悪い部分も神様が作ったはずだろうに、そのあたりは神様にお伺い立ててるのか、追求しようとしないんだからな。本当に矛盾だらけ」
そう言いながらポテチをパリパリと食う。
俺の言葉にライトさんとディースさんは意外と困ったような表情はあまりない。むしろそんな考えをしたことがなかったというように感じられる。
なんでだろうと思っていると、ガブが言う。
「私達の所はそう言った作り話はないんです。白夜教の聖典はこのホワイトフェザーの歴史書でもあるから、最初の言葉はブランと当時の人達の出会いから始まります。宇宙の概念とか法則とか、そう言ったものは一切かかれてないんですよ」
「そうだったっけ?」
ライトさんからもらった白夜教の内容を思い出してみると……確かに宇宙や世界の創造について書かれている内容はなかったかもしれない。
でもそれはそれで俺達の世界と違って結構面白い。
「ブラン達ってそういうの言わなかったんだな」
「当然です。この世界の方々は私達の事を神とそのお使いとして慕ってくれていますが、最初はただの良き隣人であればよかっただけなんですよ。私達はこの世界の事を知りたい、あわよくばお父様の居場所を知りたい。彼らは安全に暮らせる場所が欲しい。そんな互いに求めるものを提供することが出来たからこそホワイトフェザーはできたんです。宇宙がどうこうなんていりません」
ガブよ……身の丈にはあっているかもしれないが、要らないって……
大抵の神話に世界創造とか、宇宙の誕生みたいな感じの内容あるよ?他の神話とかどうすんの?
「ま、まぁ実際にウチュウ?というものを言われてもよく分かりません。ウチュウって何のことですか?」
「え、星に関する研究とかしてないの?あの夜に見える星」
「ああ、占星術の事ですか。占星術なら分かります」
「魔術でも使うから分かる」
あ、宇宙って占星術関連でしか知られてないのね。
てことは天文学についてはあまり知られてない?それともそれも含めて占星術という事になってるんだろうか?
「占星術だとどんな事をしているんですか?」
「ほとんどは星の位置から今後天災が起きるかどうかを予想することが出来ます。例えばとある星がある場所にあると水害が起きやすとか、飢饉が起きやすいなど予想が出来ます」
「天気予報に近いな。そう言えばこういうのってクラルテが得意だったよな」
「そういえばそうでしたね。やはり風に関係するので天候や星に関して詳しかったですね。あの自由人の中でほとんどない特技でしたね」
…………クラルテの評価が低い。
俺はそんなに悪い奴じゃないんだけどな……遊びばっかりだったのは認めるけど。




