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ジュラにアルカディアを見てもらう 前編

「な……なにこれ……私と規模、違くない?」


 アルカディアに来るとアオイがそう呟いた。

 他にもお店にいた従業員さん達も目を丸くして驚いている。


「これが俺の能力です。簡単に言うと自分の家につながる道を開ける事です」

「えっと……これはそんな次元ではないと思うんですが……」


 ジュラがそう言う。

 これだけ広大な土地を見ればそう思う方が自然かもね。でも俺にとってはただの家の庭みたいなものだし、あまり特別感がないけど。

 ………………あれ?俺結構感覚おかしくなってきてないか?最初の頃は広くて色々持て余していたよな。畑の規模とかも縮小しようかどうか考えてたし、かなり慣れちゃったんじゃね?


 それに子供達も増えつつあるしな……

 最初こそ奴隷の子供達に面倒を見てもらっていたが今では手のかからない子供達もかなり増え、ちょっとした独り立ちの準備もしていたりする。

 各属性のモンスターにとって住み心地の良い場所に向かい、半日ほど遊んだりして家に帰ってくる。そこで狩りの仕方を年上の兄弟達に教えてもらったり、野生の世界でどのように歩いたり移動したりするのがいいか教えていた。


 新しく生まれた子供達はその内外の世界で暮らし始めるのかと思うと少し寂しい部分もあるが、立派な独り立ちなので俺は何も言わない。

 ここで居なくならないでというのは親として何かが違う気がする。個人的には年末とか夏休みぐらいは帰ってきて欲しい。

 職業に就く訳じゃないからその辺気紛れかもしれないが、個人的に半年にいっぺんは顔を見せてくれると安心する。


 あ、でも一部の知能の高い子供達は就職を考えて勉強していた。

 例えば獣人系に育った子供達は将来ヨハネとヴァルゴ達の元に行きたいと考えており、チームワークを鍛えたり、魔物に関する知識を集めている。

 他にもブランの所に行きたがっている子供達は回復系の魔法を学んでいたり、ライトさんからもらった教本を読んで勉強してる。

 あと物作りが得意な子達はクレールの所に行こうと頑張っている。色々大規模点検があったり、地下の研究施設で働きたいと考えているそうだ。

 ノワールの所は……どうなんだろ?

 奴隷の子供達のパートナーである子供達は同じ仕事、メイドの手伝いとして料理や掃除を頑張っていたり、護衛や門番的な子達は体を鍛えたりしてる。


 みんな夢を見て頑張っているのを見ると俺も頑張らないといけないと思う。

 とりあえず腹いっぱい食べれるように頑張っているとしか言いようがないけど。


「これ、本当にゲームの力なんですか?かなり規模が違うんですけど」

「俺の場合は箱庭ゲームなので、こうなったんだと思いますよ」

「箱庭なんて言う規模じゃないでしょ……」


 アオイがそっと俺の耳元でそう言って来たので返す。

 納得はしていないが、そういう仕様なら仕方ないという感じで渋々頷いた。


「ところで……アオイさんって日本人でいいんですか?」

「いいえ、私はフランス出身よ。母が日本人で父がフランス人のミックスなの。見た目はほぼ日本人だから」


 そう言われてよく見てみると、確かに肌と髪の色は日本人に近いが骨格はヨーロッパの人っぽい?あまり外国人と接してこなかったからヨーロッパ系と言われてもよく分からない。

 あのアメリカ人は映画とかでよく見る軍人みたいな感じだったからすぐに分かったけどね。多国籍国家も大変だな。


「それじゃゲームとかも?」

「ええ。母の母国の日本について色々調べている間に好きになったわ。いま日本に留学中なんだけど……講義とか大丈夫か心配」

「講義ってことは大学生?」

「ええ。何度か格闘ゲームの大会で優勝したこともあるのよ」


 自慢げに言うアオイに俺はなるほどと考える。

 しかし考えてみると、この世界に呼ばれた最低条件ってまさか日本にいることか?あのアメリカ人がどこにいたのか知らないが、あの格好から軍事だと仮定すると沖縄とかから?完全にただのイメージだけど。

 それに一応5人のうち3人が日本人であることも考えるとやっぱり日本にいることが最低条件であると考えて間違いないかもしれない。

 もし日本である必要がないのであれば日本に留学してる女子大生ではなく、普通に外国にいる誰かを連れて来ればいいだけだ。


「そうなると本当にゲームが好きなやつがこの世界に呼ばれたのか?でもな……」

「ところで他にも見ていい?危ない場所とかあるの?」

「それなりに危ないところもあるけど、ここからは遠く離れてるから大丈夫だ。せいぜい離れすぎて迷子にならないようにすることと、うちの子供達、魔物を驚かせたりしないようにしてくれれば大丈夫だ」

「そうなんだ。それであの足が8本もある馬は安全なの?」


 アオイが指を差す方を見てみるとそこにはスレイプニルたちがいた。

 多くの女性に囲まれているからか非常に気分がよさそうにしている。


「あいつら変態紳士だからある意味危険か?エロい意味で」

「薄い本事案ですか?」

「いや、そこまではしない。変態紳士だからそういうところだけは安全。ただ男が気軽に触れようとすると逃げるか蹴られる」


 と言うか薄い本とかって向こうにもあるの?それとも日本が侵略してた?

 ロリコン変態駄馬が1頭鼻息を荒くしているが、女の子達に興奮しているだけなのでまぁ問題はない。いや、やっぱ問題あるな。去勢とか考えないといけなかったりするかな……進化したとはいえ普通なら爺ちゃんでもうとっくに生殖反応とか出来なさそうなイメージあるんだけど。

 でも元気なんだよな……スケベジジイ共め。


「ここは……本当に凄い場所ですね」

「ジュラ、お気に召していただけましたか?」

「ええ。ここには……カーディナルフレイムでは見られない景色がたくさんあるのね。こんな広い草原は初めて見た」

「他にも森とか海とかもありますよ。森の方は少し遠いですが」

「海ですか!?噂には聞いた事がありますが、見た事がないわ。私も見ていい?」

「それでは後でご案内します。それから伝えておかないといけない事があります」

「何かしら」


 ジュラには正直に伝えておかないといけない事がある。

 それは吸血鬼やケルピー、つまり食人種がここに住んでいるという事実だ。

 もちろんヴラド達はもう直接人間から血を吸う事はほぼないが、それはあくまでも知性が高いからだ。ベートやケルピーと言った動物系は腹を空かせればアルカディアの肉を食べるが、もし腹を空かせて子供達を襲う様な真似にはならないようにしているが、それでも絶対と言う言葉はない。

 どれだけ知能が高かろうとも、相手は獣なのだから。


「このアルカディアには食人種もいます。普段は薄暗い特殊な場所に住んでいますが、存在します」


 俺の言葉に非常に驚いているジュラだが、少し呼吸を落ち着かせてから言う。


「それは自然と住み着いた魔物、ですか」

「いえ、俺が引き入れました。俺が育てた魔物の子孫達なので絶滅を避けるためにこのアルカディアに招き入れました。他にもケルピーやベートと言った危険な魔物がいます。近付かないように強く言っておきますが、それでも危険が一切ないとは言い切れません。それでも構いませんか」


 俺が正直に話すとジュラは真剣な表情でしばらく俺の顔を見てから、ため息をついた。


「ドラクゥルさん。そういう事は普通隠し通す物じゃないかしら?」

「大事なお子さんをお預かりするんです。もしくはここに住むかもしれないのですからこういった危険性に関してはきちんと教えておかないといけないと思いました。なので今お伝えしました」

「そうなの。ちなみに1番危険なのはベートかしら」

「ランクだけで言えば吸血鬼ですね。と言っても今は人間の血をすいませんが」

「人間の血を吸わない吸血鬼?そんな吸血鬼が存在するんですか?」

「すぐそこにいますよ。あの3人がその吸血鬼の真祖家族です」


 吸血鬼の真祖と聞いてかジュラは俺が指さす方を凄い勢いで見た。

 そこにいるのはヴラド達。エリザベートが「お爺様ー!」と言って手を振る。俺も手を振り返すとジュラはさらに驚いた表情をする。


「ま、まさかドラクゥルさんが吸血鬼?でもそんな感じは……」

「俺はあの2人の育ての親ですよ。だからあの2人の子供が俺の事をお爺様って言って親しみを込めてくれているだけです。どうかしたか!」

「みなさんを歓迎するお食事の準備が出来ましたのでお呼びに参りました」

「教えてくれてありがとうな。それじゃみなさん、ちょっと遅めのご飯にしましょうか」


 こうしてスレイプニルと遊んでいる女の子と女性達を呼んで家の前まで呼ぶのだった。

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