みんなの大掃除
その頃の冒険者サイド。
「気持ち悪いー!!」
「本当に多過ぎませんか!?増え過ぎでしょ!!」
「装備とかが壊れなくなっても、この数は流石に大変過ぎるって!!」
「消えて下さい消えて下さい消えて下さい消えて下さい消えて下さい――」
「吹き飛ばす!!」
冒険者達と言っても主にいるのはジュラの所で働く女性店員が最も多い。
彼女達は店で働きながらジュラの所で修業を重ね、個人でDランクからCランクぐらいの実力はある。だがどれだけ強くても女性であり、マグマスラッグという気持ちの悪い魔物を相手にする事は非常に少ない。
元々他の冒険者達からもハズレ枠と言われるほど人気がなく、装備が破壊されやすい魔物として嫌われていたため以外にもマグマスラッグと戦った事がないと言うベテラン冒険者も多い。
そんな中、新人冒険者達などは動きが鈍いので装備が壊れないのであれば動きの遅い魔物、というイメージだけで参加した少年処女の冒険者達は後悔している。
マグマスラッグの異常発生と言っても、まさかマグマが流れ込んで来るかのように襲ってくる、より正確には逃げてくるとは思ってなかった。
「新人たちは無理をせず交代で休憩を取りながら相手をしろ!ある程度は逃げしてもかまわないって内容だからな!!」
アレスがそう叫びながら新人冒険者達に無理をしないように伝える。
冒険者達にはきちんと間引きであるのである程度逃がしても問題ないときちんと通知されている。ドラクゥル達が話したように完全に絶滅させた場合はそれはそれでまた新しい問題が起きてしまうからだ。
でも新人冒険者達から見れば1匹でも多く倒し、少しでも金を得たいという欲がある。
まだまだ弱い彼らだが、実力のある冒険者達と共にダンジョンに潜ったとしても手取りは非常に少ない。それ故に今回のような集団で魔物を狩る以来の時は個人が倒した数に合わせて報酬が入るのでいい仕事になるのだ。
と言っても今回はあまりにも数が違う。中心部でどれだけドラクゥル達がマグマスラッグ達を倒したとしても、その目的は悪魔でもマグマスラッグの卵。つまり大半のマグマスラッグ達は逃げても構わないものとして扱っているはずなので、たとえ向こうで減っていると考えてもあまり多くはないだろうとアレスは考えてた。
「それにしても、やはりこの数は異常ですね。このクエストが発注された理由がよく分かります」
「だな。今まで間引きできてなかったツケがこの状況なんだろうが、もう少し前に減らしてほしかったな!」
アレスは剣を振って目の前にマグマスラッグを倒しながら言う。
ライナの武器は弓なのだが流石に今回ばかりは短剣を使いマグマスラッグを倒す。流石に今回は弓ではあまりダメージが通らず、中途半端に柔らかい身体のマグマスラッグでは弓が上手く突き刺さらないと判断したからだ。
そんな多くの冒険者達が数の多さと柔らかい身体に苦戦している中、2人の冒険者が非常に目立っている。
「アオイさんはAランクに近いBランクだからある程度分かるけど……若葉ちゃん凄くね」
「今回のクエストは彼女に非常に合っていたんでしょう。持ち前のスピードと双剣の速さが発揮されています。おそらく彼女は弱い敵を多く相手にするようなクエストで力を発揮するタイプなんでしょう」
その目立っている冒険者、アオイの方から説明するとAランク候補に相応しいパワーでマグマスラッグ達を倒している。
元々柔らかい身体で物理的なダメージを受けにくいマグマスラッグだが、それでもある程度だ。
アオイは武器を使わずに素手で戦う冒険者であり、武器を使わないので後方にまわるとばかり思われていたが、実際はマグマスラッグを殴って蹴ってを繰り返して倒している。
明らかに非効率な倒し方だが、有り余るパワーで倒していた。
そして若葉に関しては新人冒険者達からは分からないが、ベテラン達からははっきりとその凄さが理解できる。
一切呼吸が乱れる事なく洞窟内を走り回りながら一撃でマグマスラッグを倒し、すぐさま次のマグマスラッグを倒す。
一撃必殺を繰り返しながら次の相手に挑む事は冒険者でも難しい。まず相手が本当に倒せたのかどうかの確認が必須であり、もし生きていた場合は他の冒険者達に迷惑をかけてしまうからだ。
なのに一撃で倒したかどうかちらっと見ただけで確実に判定している様なので、年齢にそぐわない経験を積んでいると感じていた。
「これは私達も負けてられないですね」
「だな。そしてカッコいい所を見せてお近づきになるぞ!!」
そんな事を言うアレスに対し、ライナは困った様な表情を浮かべながらあいまいに頷いた。
周りの女性達はマグマスラッグを倒す事に集中しており、気持ち悪いと言いながらひたすら殲滅する事に集中している様だったので、多分こちらの事は見ていないだろうな。と思っていた。
――
騎士団サイドでは。
「殺せ殺せ殺せ!!俺達の実力を女王陛下に見せつけるのだ!!」
「だぁ!!女王陛下のために!!」
「サー!!女王陛下のために!!」
「女王陛下のために!」
こちらは様々な意味で他のグループよりも暑苦しい戦いをしていた。
彼らの意志は女王陛下、つまりルージュのために戦うというのが信条であり、こうして戦場で活躍できる事を至高の喜びとして感じている。
彼らは普段から町で起こるトラブルを解決したりしているが、冒険者が特に多い国として騎士になるにはかなりの力を要求される。この騎士団の中には元Aランク冒険者も少なくなく、中にはルージュと戦って負けたことにより騎士団に入団させられた者もいたが、不満はない。
彼らは良くも悪くも強者に従うという慣習が根付いている。
それにより圧倒的強者であるルージュの言葉は絶対であり、強者に認められる事こそ彼らの喜びに繋がった。
筋骨隆々の男達が剣と丸盾、上はマントだけを装備し、雄叫びを上げながらマグマスラッグ達の波に向かっていく。
全ては女王陛下のため。彼らの結束は固い。
――
ドラゴンサイドでは。
『……つまらん』
『つまんないね』
『プチプチ楽しい』
幼いドラゴン達が遊び、ある程度育ったドラゴン達は気乗りしない感じでマグマスラッグを相手していた。
幼いドラゴン達の精神年齢は人間でいう所の小学校低学年ぐらいであり、マグマスラッグを1匹1匹をプチプチを潰す感じで遊びながら倒していた。
ある程度育ったドラゴン達は人間でいう所の中学生ぐらい。主に幼いドラゴン達がこぼれたマグマスラッグ達を掌で叩き潰している。
『なぁ……これ本当にわりの良いバイトなのか?確かにあの肉とか美味そうだったけどさ』
『でもルージュ様の命令だろ?他の大人達じゃ入れないし、長老達からもやれって言われてるし、断れるかよ』
『断ったらぶん殴ってくるからな……長老って引退したから長老じゃねぇの?何でこう時々出てくるわけ?』
『それだけ重要って事だろ。長老達が出てくるのは大抵重要な事があった時だけだからな』
『これって本当に重要な事か?』
『あ、兄ちゃんたちまたいっぱい行っちゃった』
『お~。とりあえずお前達は夢中になって遊んでな』
――
ルージュサイド。
「さて……あとどれくらいかな」
ルージュは今回人型のまま戦っていた。
その理由はここが洞窟内であり、本来の姿では狭すぎる事。たとえ人間の姿をしていたとしてもSSSランクである事は変わらず、ルージュの力に耐えられる武器が存在しないので素手で戦っている。更にルージュの長距離攻撃は基本的に超高温の熱風を口から出す事なので洞窟内で使えば遠くにいる他の仲間にも影響を与えてしまう事は想像に難しくない。
普通に考えれば圧倒的に不利な状況と言えるが、ルージュはそのぐらいでは音を上げない。
攻撃力最強である事は変わらないし、何よりここはルージュの領域、全て知り尽くしている。
最もマグマスラッグ達が流れ込んで来るこの場所に例えAランクの冒険者がいたとしても、いずれこの津波の様な膨大な数の暴力を前に倒れていた事だろう。
だがルージュの攻撃はそんな数の暴力を軽く超えていく。
ルージュはその場でただ強く大地を踏みしめ、思いっきり拳をその場で振るうだけで、マグマスラッグ達はあっと言う間に散り散りとなった。
「やっぱり周りを壊さない様にするのはこの空気砲が1番使いやすいわね。冒険者達が逃したマグマスラッグだけで生態系は元に戻るだろうし、火山も落ち着くはず。あなた達は――この場で絶滅しなさい」
少しだけ本気を出したルージュは両手に熱を集中させる。
そこから連続で繰り出されるのは熱の塊。その熱量はマグマスラッグ達ですら耐えきれないほどの熱量であり、マグマスラッグが焼け死ぬというあまりにも異常な倒され方をした。
ルージュは星の核その物。
彼女が倒せない生物はほぼいない。




