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親子喧嘩 前編

「全く……パパのバカ」

「あはは……すまん」


 アルカディアの草原でぶっ倒れた後、ブランに治療をしてもらっていた。

 と言っても既に気絶していたため、気が付いたらベッドの上で治療を受けていたと言う方が正しいが。


「……パパ、本気でルージュお姉ちゃんに勝とうとしてるんだね」

「そりゃ帰ってきてくれるなら何でもするさ。ブランだって帰ってきてくれたらうれしいだろ」

「そうだけど……」


 ブランはためらいながらも俺の胸に顔をうずめる。

 そして俺の服を掴む手は細かく震えていた。

 俺は少しでもブランが安心できるように抱きしめる。でも今回だけは俺が無茶しないと思っている。

 だから俺はあえて気軽に言う。


「なに、ちょっとルージュと親子喧嘩してくるだけだ。向こうも俺の事を殺す気で殴りには来ないだろうよ。そして心配させた罰として、ちょっと殴られてくるだけだ」

「それが心配なんだよね。だから約束して。無理も無茶もしないで、ダメだって思ったらすぐに逃げて」


 流石に今回は無茶しないと受け止めきれない。

 だから俺はうんとは言えなかった。


 ――


 その後治療して、トレーニング室でまたトレーニングしている間に約束の日になった。

 この都市の中心にある闘技場に入る時、少し変だと思った。


「なんで今日こんなに人いるんだ?」


 いつぞやの試合の時に近いような、大勢の観客が闘技場に向かっていくのが見える。

 どういう事だろうと思いながら闘技場の入り口でルージュからの手紙を見せて、関係者用の出入り口から闘技場に入った。

 そして選手控室と書かれている場所まで連れて行ってもらい、待機するように言われた後、中に入ると意外な人物が待っていた。


「ルージュ……」

「よく逃げなかったわね。そこまでして私を連れて帰りたいの?」


 久しぶりにあったルージュは前と同じように冷たい目をしていた。

 でもあの時と違うのはその眼の奥に、ほんのわずかに温かい視線がある事。諦めて逃げなかっただけでも、少しは許してくれたと信じたい。


「ああ、連れて帰りたいよ。俺は我がままなんだ、家族みんな一緒に居たい」

「もうとっくの昔に寿命を迎えてた兄弟達も多くいるけど」

「分かってる。でもそれでも、今生き残っているみんなとだけでも一緒にまた暮らしたい」

「そう。なら勝つ事ね。この国は力がある物が全てを決める。精々一撃で死なないように気を付けなさい」


 それだけ言うとルージュは部屋から出て行った。

 相変わらずツンツンしてるな~と思いながらも何故客が入っているのか聞き損ねた。

 でも多分俺とルージュの時には観客はいないだろうと思いながら呼ばれるのを待つ。


「ドラクゥル様、ステージまでお越しください」


 しばらく待つと関係者の人が俺の事を呼びに来たのでそれに応じた。

 その後ろを歩きながら観客について聞く。


「ところで俺とルージュの時にはお客さんって全員帰ったあとなんですよね?」

「いえ、ルージュ様とドラクゥル様の試合はルージュ様が見せるエキシビジョンとして見ていただく事になります。出来るだけ長く持ちこたえて下さい」


 エキシビジョン?俺そんな事一切聞いていないんだけど。

 一体どういう訳なのか分からないが、俺は観客の前でルージュに殴られる事が決まっていた。

 個人的にこういう親子喧嘩は身内の前だけで終わらせたいと思っていたのだが、ルージュがそうしたのなら仕方がない。

 少しだけ気分が滅入っている俺の心情とは真逆に、少し先のステージからはかなりの歓声が聞こえる。

 俺はため息をつきながらステージに向かう。

 観客の姿がステージからも見える所に立つと、大音量のマイク越しの声が聞こえる。


『今回のエキシビジョンマッチは謎の男、ドラクゥルと!我らの女王!ルージュ様の一騎打ちだ!!』


 うるさいほどに盛り上がる観客たち。俺はうるささからつい顔をしかめてしまうが、周りは気にせずに進行を続ける。


『今回のエキシビジョンマッチは3分間、1ラウンド限定の勝負となっており、3分間ドラクゥル選手が逃げ切ったら勝ちというルールになっているが、果たしてドラクゥル選手は逃げ切る事が出来るのか!?そして今度は大本命!!ルージュ様のご登場だ!!』


 その声が聞こえると同時に観客は歓声を上げ、ルージュが姿を現すと更に歓声が上がる。

 そんな周りに対してため息をついてから俺はルージュに聞く。


「なぁルージュ。どうして観客入れたんだ?俺はてっきり2人っきりでやる物だとばかり思ってたんだが」

「こっちにも事情って物があるの。それとも棄権する?」

「まさか。この機会を自分から振ったらもう二度とルージュと顔を合わせる事が出来ねぇ。だから棄権なんてしねぇよ」


 そう言いながら俺はズボンのポケットに手を突っ込みながらルージュの前に行く。

 ルージュの方は最初から拳を作っていつでも殴れるようにしている。

 お互いに拳が届くところまで歩くと、ほんの少しの間だけ静かになった。


『それは3分間のエキシビジョンマッチ、始め!!』


 総進行役が言った直後にルージュは俺の顔面に向かって拳を真っ直ぐぶつけた。

 俺はポケットに手を突っ込んだままなので防御する事は出来ないし、防御する気もなかった。

 殴られた俺はバトルマンガでよく見る拳の重みで壁まで吹き飛ばされるという貴重な体験をしている。

 後頭部から壁に激突すると頭と言うよりも首に大きなダメージが入った様な気がするが、あとでブランに治療してもらうからいいか。


『これはいきなりノックアウトか!!避けずにもろで食らった!!これはもう決まってしまったか!?』


 実況がそんなうるさい事を言っているがそれ以上に驚いているのはルージュだ。

 何だよその間抜けな顔。もしかして余裕で避けると思ってたのか?

 俺は起き上がりながらいつも通り歩いてルージュの前に再び立つ。後頭部から血がダラダラと流れているが、まだ始まって10秒も経っていないかも知れない。それなのにもう負けとは情けなさ過ぎるだろう。


『え、マジで?ルージュ様の一撃をくらって起き上がった人、初めて見たんだけど』


 進行役が間抜けな声で言う。

 俺はまたポケットに手を突っ込んでルージュの前に立つ。

 ルージュは起き上がってきた事に対してか、それとも棄権しない事に対してなのか分からないが少し混乱している様に見える。


「なんだ。一撃で決まんなかったのがそんなに意外か。これでもお前の父ちゃんだぞ、一撃で娘にのされるほどヤワじゃない」

「……なんで避けないの」

「何でって、これは俺にとってお前の不満を全部ぶつけてもらって、俺はそれを受け止めるためだとしか思ってないからだよ。好きなだけ殴って来い。全部受け止めてやるよ」


 そう言ってまたポケットに手を突っ込むと、ルージュはびくりと怯えた様な表情を作った。


『こ、これは、ノーガード宣言だ!!ルージュ様の攻撃を全て受けると宣言したぞ!?正気かあんた!!』


 周りが何と言おうが知ったこっちゃない。

 多分観客席にいるブラン達にも心配かけてるだろうな。


「どうした。全部の怒りをぶつけて来い」

「……本当に良いの?本当に死ぬかもしれないわよ」

「お前はそんな事しないだろ。だから思いっ切り来い」


 そう言った後、ルージュは少しだけ息を吐きだした後、俺の事を全力で殴ってきた。

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