ジュラに手伝ってもらいました
「すみません。俺の事を殴ったり蹴ったりしてくれませんか」
「えっと……ドラクゥルさん。うちの店は確かにエッチなこともしてるけど……そういうマニアックなことはしてないのよ。そういうお店紹介する?」
俺の言葉に困惑気味で答えたのはジュラだ。
みんなにちょっと飲んでくると伝えた後にジュラの店に寄ったのだ。そして身内では絶対に手加減されすぎて特訓にならないと悟った俺はジュラに頼みに来たのである。
まぁ突然すぎてドMの変態に思われそうになってるけど。
俺が頼みたいこと、つまり特訓について詳しく話している間にジュラは納得して何度もうなずいた。
「そういうことね。できればそっちを先に行ってほしかったわ」
「先走りすぎちゃってすみません。なので特訓に付き合ってくれる人を探しているんですよ。できればジュラぐらい強いと助かるんですが」
「そうね~。相手が女性だから特訓の相手も女性のほうがいいと思うのは自然なことかもしれないけど、あんまりうちの子達だとあまり協力できないかもしれないわね。まだまだ半人前っていうのもあるけど、ご注文の強い一撃を撃てる子となると……やっぱりアオイちゃんかしら」
「アオイ?それって確か……」
この店で1番人気の踊り子で、この間ストリップまでした子で、今ちょうどステージでポールダンスをしている娘だ。
確かに今踊っているポールダンスはかなりの筋力を使うだろうが……成人男性を殴り飛ばしたり、蹴り飛ばしたりするのには向いていないように感じる。
確かに筋肉はついているが、腹筋が割れていたり、力こぶが特別大きいという感じはしない。スポーツ系といっても筋肉をつけすぎないようにしている水泳選手みたいな感じがする。
「あの子が本当にそんなにすごいパワー持ってるんですか?」
「確かに見た目からじゃわからないわよね。でも一撃が重たいのは本当よ。今はBランクの冒険者だけど、もうすぐAランクの試験を受けられるぐらいには成長しているからちょうどいいかも」
ジュラがそういうのなら信用するが……本当にすごいんだろうか?
確かにポールダンスでポールにつかまり、腕の力だけで全体重を支えていてすごい筋力だと思うが、それはあくまでもダンスでの話だ。
素人の視線ではあるがさすがに前進の体重を支えることが出来るだけの筋力があるといっても、殴る力が凄いとは限らない。人をすごい力で殴ることが出来たとしても、特別筋力が凄いのかどうか分からない。
だから目の前で踊る女の子が本当にそこまですごい子なのかどうか、やっぱり分からず、首をかしげてしまうのだった。
――
次の日、俺はジュラのトレーニング施設に来てみるとそこにはジュラとアオイの2人の姿があった。
「今日はよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。ほらアオイも」
「えっと……よろしくお願いします」
アオイと直接話をするのは初めてなので、少しギクシャクしながらも挨拶をした後にリングに上がった。
俺の服装はジャージで最低限運動できる格好ではあると言う感じだが、アオイは完全に真面目にスポーツをしている人の格好で、上はへそ所か胸しか隠していないスポーツブラ、下は非常に短いパンツ。
ぱっと見俺達の世界の服のデザインの様に見えて、ぴっちりとしたこの世界にはない素材に見える。
まさかとは思うが……この人も俺と若葉と同じ転移させられた人か?
いや、服装だけで決めるのは早過ぎるよな。もしかして俺が知らないだけでそういう素材があるのかも知れないし。
そう思っているとアオイが確認してくる。
「3分間本当にこちらが攻撃し続けていいんですか?」
「あ、はい。俺、本当に戦った事なんてない素人なので、攻撃した所で当たりませんよ」
「そう、ですか。最初はゆっくりいきますので無理だと思ったらすぐに言ってくださいね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうして始まった俺とアオイの特訓。
最初の宣言通りにアオイは最初は軽いパンチやキックから始まり、俺は全身の筋肉を固めるようなイメージで力を入れてとにかく耐える。
少しずつアオイのスピードと力が上がっていく。最初の方は多分普通の人と同じスピードとパワーだったが時間が過ぎるとともにまるでスコールのように息をする余裕もないぐらいに激しい攻撃は全て連続でくりだされている事は背中や足、顔を守る腕などから伝わる。
でも分かるのはそれだけで俺の目には常に複数のアオイに殴られているな様な気がする。
いくら呼吸を止めて力んでいてもいずれ呼吸が切れる。俺が溜まっていた息を吐きだした瞬間アオイの攻撃がさらに鋭くなった。
俺が力を抜いたせいなのか、それともこのタイミングでアオイが狙ってきただけなのかは分からないが、先程の攻撃よりも響くというか、骨にまで届くというか、攻撃が深いとでも言えばいいのだろうか。
もう1度全身に力を込めて身を守るが先程よりもずっと痛い。
いつまで続くのか分からないラッシュの嵐。腕も足も、腹も背中も全身が悲鳴を上げ、もう時間なんて分からなくなっている。
ただとにかく耐える。
それ以外何も出来ない。
「そこまで!!」
手足の感覚がなくなってきた時に急に攻撃が収まった。
何でだろうと恐る恐る顔を上げると、アオイが俺の事を見ながら言う。
「聞こえていませんでした?3分間耐え抜きましたよ」
「そ、そうか。聞こえてなかった」
俺はほっとすると膝から崩れてしまった。
ずっと力を入れていたからか、歩くのだって難しいぐらい消耗している。
激しい呼吸をどうにか落ち着けた後、近くのベンチに座ってどうにか呼吸を落ち着かせる。
「お疲れ様。本当にアオイの攻撃を3分間も耐えきるだなんて思わなかったわ」
「…………うっす」
水を受け取りながら答えたが、もう全く力が入らない。
水の入ったコップを持つだけですら全力で握らないと落としそうだし、今コップを持っている手も震えている。
こりゃ筋肉痛確定だなっと思いながら少しずつ水を飲む。
「…………はぁっはぁっ」
「本当にお疲れ様。最後の10秒はアオイも本気だったのに本当によく耐え抜いたわね」
「いえ、最後の方はもう、何が何だか」
「とにかくお疲れ様。送っていった方がいいわよね?今止まってる宿はどこ?」
「大、丈夫です。すぐ、近くですから。本日は、本当に、ありがとうございました。また、今度、お礼に伺い、ます」
「本当に送らなくて大丈夫?無理しなくていいのよ?」
「すぐ……そこですから」
そう言って扉を開けた先をアルカディアに繋げて2人に頭を下げてから帰った。
アルカディアに帰って芝の上でぶっ倒れたのは運が良かったかもしれない。




