やけ酒
「パパー。飲みすぎだよ~」
「心中お察ししますがこれは飲み過ぎではないかと」
「父さん。水飲んだ方がいいよ」
「……おつまみ。食べる」
「うるせ~。本気で嫌われた。娘に本気で嫌われた父親の気持ちが分かるか~」
その日の夜。俺はやけ酒していた。
最後のSSSランクの娘を見付けたと思ったら思いっ切り拒絶されたのがショック過ぎて家にあるバースペースで飲んだくれている。
ちなみにマスター役は酒呑。酒吞のおかげで調理酒だけではなく普通に飲んで楽しむ酒も増え始めたので色々楽しめる様になった。
「それにしても……父さん強いな」
「強いかな?もうべろんべろんだよ」
「でもほとんどルージュにきつい事を言われたと言って泣いているばっかりで、意外と意識はちゃんとしているんですよね。泣いているので分かり辛いですが」
「……あ~ん」
「ん。あ~ん」
ヴェルトがおつまみの切ったリンゴを爪楊枝で刺してこちらに向けてくれたのでそれを食べる。
リンゴの甘さと水分が意識を少しだけしっかりとさせてくれる。
けれど酒の力で意識がぼんやりしていると思った事が口に出てしまう。
「でも……この反応の方が普通だよな……2000年も放ったらかしにしてたんだ。恨まれたり嫌われたりする方が自然だ」
「で、でもブラン達は帰ってきたよ。確かに寂しかったけど、ううん、寂しいからパパの元に戻ってきたんだよ」
「それはお前達が優しくて俺の事を傷付けないようにしてくれてるからだ。2000年も放ったらかしにしておいて、今さら何しに来た~って言うルージュの方がある意味普通だよ。おかしいのは2000年も放ったらかしにしてたのに、また家族に戻れると思ってた俺の方だ」
「あれは事故だろう」
「事故だろうが何だろうがすぐに迎えに行けなかった時点で父親失格なの!子供に長い時間寂しい思いをさせただけで親失格なの!しかも2000年とかどうしようもねぇよ!!」
また酒を飲んで腹の中に溜まった物を吐き出していると、ブランがその小さな手で俺の頭を撫でる。子供に慰められるというのは恥ずかしいが、何故だか安心もする。
しばらくそのまま大人しくされるがままになっていると、ブランは静かに言う。
「ルージュお姉ちゃんだって本当はパパと一緒に居たいと思ってるよ。ただ他の人の前だから意地張っちゃってるだけだよ」
「そうかな……自信ない」
「自信なくてもルージュお姉ちゃんと一緒に居られる様に頑張るんでしょ?」
「……当然。そのためだけに俺はここに居る」
「諦めないんでしょ?」
「正確に言うと諦められない」
「なら今日は休もう。また明日ルージュお姉ちゃんが帰ってきてくれる考え探そう。お酒入った頭じゃ良い考え思い付かないでしょ。今日はもう寝よう」
「……そうだな。帰ってきてくれる方法探すか……」
フラフラとした足取りでもブランが隣に居てくれたので真っ直ぐ部屋に戻って寝る事が出来た。
――
「パパの事寝かしつけてきたよー」
「助かったブラン。それにしても全く。ルージュのプライドも大したものだ」
「内弁慶もここまでくると酷い物です」
「……ん」
「ジジイがいなくなったと思ったら今度はお前らが飲むのかよ。あんまし量はねぇぞ」
「雑談しながら飲むだけだ。酒吞も飲むといい」
「悪いが今日はパスだ。あとで茨木と飲む約束してるからな」
「そうか。それでは俺達で話をしよう。どうやってルージュと父さんを引き合わせる」
「いっその事力尽くでもよいのでは?どうせルージュの短気と内弁慶が暴走した結果でしょうし」
「でも今のルージュお姉ちゃんはこの国の女王様なんでしょ。力尽くは難しいんじゃない?それに戦闘能力でいうとルージュお姉ちゃんが1番高い訳だし」
「SSSランクの中で最も戦闘向きのタイプだからな。相性的にはクレールかヴェルトだと思うが、ヴェルトは戦う気など元々ないだろ」
「……ない」
「そうなると自然とクレールが戦うかどうかという話になるがどうだ?」
「長距離戦限定なら負ける気はしませんが、近距離となれば話は変わっていきます。私、近距離攻撃は体当たりか噛みつくぐらいしかありませんので」
「物理攻撃に対する耐性も低いからな。そうなるとやはり長男である私が出るしかないか」
「でもお兄ちゃん。それだと絶対ルージュお姉ちゃん素直にならないよね。さらに意地張っちゃうかも」
「ではどうする?」
「ここは仕方ないからやっぱりパパとお姉ちゃんに思いっきり喧嘩してもらうしかないんじゃないかな。この間のナダレお姉ちゃんの時みたいに」
「父さんとルージュがか?父さんが死ぬ確率非常に高いぞ」
「でもブランのいう通り2人が決着をつけないといけない事と言うのも事実です。私達が前に出たところで効果があるのかどうかも分かりません」
「……仲良く喧嘩しな?」
「なんにせよ、まずはルージュと会う事から始めないといけない。酒吞はこの国に酒を収めていたんだろ、何かコネはないのか」
「あ?ルージュとのコネか?まぁ酒の新作を入れたり色々してたし、関係が全くないとは言えねぇな」
「ならそのコネを使わせてもらおう。今度酒を入荷する時に連れて行って欲しい」
「え~。あいつら新入り連れて行くと毎度喧嘩売ってくるから面倒なんだよな……そりゃテメェらなら武力衝突した所で無駄だろうけどよ」
「まずはルージュと話がしたい。その後今後の方針を決める」
「はぁ。そういうのってジジイの仕事じゃねぇのか?勝手に決めていいのかよ」
「父さんの手伝いをするのも私達の仕事だ。父の願いが私達の願いでもある」
「はいはい。良い子で生真面目ちゃん達は精々頑張りな。連れてはいくが説得はしねぇぞ」
「十分だ」
「なら明後日に酒を入れる予定があるからその時にノワールが来い。あとは全員大人しくしてろ」
「「「え~」」」
「え~じゃねぇよ。男ばっかりの酒蔵で女がいるのはおかしいって思われるだろ。ブランは見た目ガキだから余計に何か企んでるって思われちまう」
「ブランは2000年生きてるのに?」
「人間にそんなことわかる訳ねぇだろ。とにかく連れて行ってやるから大人しくしてろ」
「それではそうしよう。では明後日私が代表としてルージュの元に向かう」
「上手くやってきてね」
「失敗するとは思いませんけど、よろしくお願いします」
「……お願い」




