純白の女の子
祭り2日目、俺は肉の下準備をしてから少しだけ祭りを楽しむ。昨日の夜の内に仕込みはしておいたのであとは当日肉を焼くだけだ。
この時にもゲームの機能が働いて仕込みを全て一気に出来たのは本当に助かった。逆に俺1人分作る時は手作業なのはなんでだろう。1人分作る方が手間かかってね?
なんて思いながらも素直に祭りを楽しむ。普段はファームで野菜を育成してゴロゴロするだけだからなんだか新鮮だ。それ以前に国を挙げての祭りと言う物に参加したことがないので色々見れて楽しい。
家族だったり、カップルっぽい2人組だったり、同性の友達グループだったり、色んな人達が楽しんでいる。
俺は普通の串肉屋から買った肉を食いながら楽しむ。射的とかくじ引きとか日本ぽい部分はあまりないのはちょっと残念。
………………
「あいつらどこにいるんだろうなぁ…………」
俺がこうして楽しい思いをしていると、子供達がこの場にいないことが悔やまれる。
きっと子供達もこの祭りに参加すれば楽しいと思うだろう。きっとはしゃいで、興奮して、きっといい笑みを浮かべるはずだ。
教会の図書館でそれなりに強い魔物について調べたし、その周辺を調べてみるしかないか。あの子達が生きている事は分かっている。でもどこにいるのかが分からない……
「会いてぇなぁ」
「わっぷ」
そんな風に思いをはせていると、ふと足に何かが当たった。確認してみるととても白い子供が俺の足にぶつかっていた。
肌も髪も白い小さな女の子。さらに白いワンピースを来ているので余計に白く見える。
ただ……その青く澄んだ空のような色をした瞳だけ何かに似ているような気がした。誰と似ているんだろうと思いだそうとしながらも、まずは女の子の無事を確認する方が先か。
「え~っと、大丈夫か?」
なんと言えばいいのか分からないのでそう聞いた。歩いていたので間違って蹴っていたりしていないかどうか聞きながら女の子の視線に合わせてしゃがむ。
だが女の子の瞳は驚いたように大きく見開かれ、俺の人相の悪い死んだ魚の目をした俺よりも目が大きいのにさらに大きくなるものなんだと少し思った。
「やっぱり蹴ったりしちまったか?どこか痛かったか?」
「え、ううん。ケガしてないよ」
首を横に振りながら言う女の子に外傷がないか見てみるが目立ったケガはない。服とかも特に汚れていないので運よく蹴ったりせずに済んだのだろう。
次に親御さんに謝らないとっと思って見渡すが……それらしい人は見当たらない。
俺は女の子に視線を戻して聞いてみる。
「君、お父さんとかお母さんは?」
「え~っと……1人で来た」
「マジ?いくらお祭りとはいえ1人で来るのは危なくないか?帰り道とかちゃんと分かるのか?」
この人混みを見るととても子供1人で帰れるとはとても思ないのだが、この街の子供なんだろうか?
俺は見ず知らずの子供を助けるほど良い人ではないだがさすがにこれは放っておけない。
俺はため息を付いてから言う。
「さすがに1人は危ないから家まで送ってやる」
「え~」
「え~じゃないだろ。ちゃんと家の人達には言ったのか?祭りに行って来るって」
「ううん。み~んなお祭りで忙しいから置手紙だけ残してきた。『探さないでください。ちょっとお祭りに行ってきます』って」
「探さないでくださいは定番だが、お前の親そういう冗談通じるの?」
「全然ダメ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもみ~んな心配性だから」
「それダメじゃん。いま直ぐ帰った方が――」
「ヤダ!!せっかくお家から出れたのにすぐに帰るなんてつまんない。もっと遊ぶ!」
これは相当我が儘な女の子のようだ。
俺はため息を深く、深~く付いてから言う。
「それじゃせめて一緒にいろ。保護者代わりとして一緒にいてやる」
「やった!お兄ちゃん大好き!!」
そう言って抱き着く女の子は無邪気に喜んだ。
それにしても自分でも分からないのだが、どうしてあんな提案をしたのだろう。他の家の子供なんて俺には何にも関係ないはず。普段通りだったらケガの確認だけしてあとは適当に気をつけろよ~っとでも言って放っておくはずだ。
なのに何故この子と一緒にいる事を選択した?なんでこうして一緒にいる。
そう思っていると俺の手を女の子が引っ張った。
「ん?どうした」
「肩車して!」
「はいはい」
そう言われてしゃがむと女の子は俺によじ登って俺の肩に足をかける。
そして俺の頭にしっかりと掴まった。
「もう大丈夫か?立つぞ」
「うん!!」
確認をしてから立ち上がるとすると女の子ははしゃいで「すごーい!高ーい!!」っと俺の頭の上で興奮する。
俺は女の子の足をつかむこともせず、普段通りズボンのポケットに手を突っ込みながら祭りの様子を楽しみながら進むのだった。
――
それからしばらく俺の頭の上で祭りの様子を眺めている女の子に聞く。
「それにしてもなんで家から抜け出すなんてしたんだ?素直に家族と一緒に祭りに来ればよかっただろ」
「それは無理だよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも教会の人だからお祭りの日が忙しいの。私も最終日にはちょっとだけ手伝うけど」
ああ。そういう理由か。
兄弟が教会に関係しているからこの3日間は忙しいって事か。て事はいざとなればライトさんにでも聞けばこの子の家に届けてくれるかもな。
明日の事もあるし出来るだけ早く寝たいんだよね。
それにしても教会関連の仕事をしているとこういう時に忙しくなってしまう物なんだな。確かにそうなると祭りの日に1人で出かけたくもなるか。
「他の事も手伝おうとしてもダメって言われるし、最終日のお手伝い以外はやっちゃダメなんだって~」
「最終日の手伝いっていうのもすごいと思うけどな。確か神様にお祈りするんだろ?」
「……うん。神様の前に立つ訳じゃないから楽だけどね」
なんて話をしているとふと頭の上で音と振動が起きた。
「わ、私じゃないよ」
「だな。俺の腹が鳴っただけだ。どうする?どっかそこらへんで適当に食うか?」
日本の祭りではないので食べる系の屋台はどれも種類の違う串焼きとか、クレープの生地で包んだ惣菜のような物があったのでそれを食べるか聞いてみる。
だが女の子は首を横に振ってから言う。
「あんまり美味しくないからいい。1回家に帰ろうかな~」
なんてことを言う女の子。
でも今帰ってもきっと家族は教会で忙しくしている事だろう。それなら家で飯を食わせてもいいのではないだろうか。
とりあえずどう思うのか分からないので女の子に確認をとる。
「それじゃ家で飯食うか?簡単な物しか作れないけど」
「本当!?それじゃお兄ちゃんのお家に行く!!」
合意を得たので俺はちょっとだけ大通りから外れて小道の先でファームに繋がる道を作る。
「これ……何?」
「俺の家に行くための魔法みたいなもんだ。ほらおいで」
そう言って手招きすると女の子は恐る恐ると言う様子で道を通った。
そして急に広がる牧場に対してか、ただでさえ大きい瞳をさらに大きくして驚いた。
「え……ここって?」
「俺の家。本当はもっといろんな子達が居たんだけどさ、今……探してて。とりあえずおいで、飯食ってからだ」
そう言ってから女の子の手を引く。女の子はどこか不思議な雰囲気でファームを眺めながら家に向かう。
その表情はただ驚いているのではなく、どこか身に覚えのある光景を思い出しているようだ。きっとどこかの牧場と似ているんだろう。牧場なんてそう変わらないだろうしな。
そう思いながら家のダイニングに通す。「ちょっと待ってな」と言った後俺は簡単にチャーハンを作る。腹を空かせているようなので手早く作れるものを選んだ。
「お~い、出来たぞ~」
そう言って皿に盛ったチャーハンをテーブルに並べようとしていると、女の子は椅子に座ってとある物を持って見ていた。
それはこの部屋に飾っておいた1枚の写真。ゲームなので本当はスクリーンショットと言うべきなんだろうがこの世界に写真って存在するのかな?
とにかく図鑑に載っているモンスター全員をそろえた記念に俺と子供達全員で撮ったスクショだ。さすがに全員を1枚のスクショに収めるのは大変で、大型の子は顔だけ、俺ぐらいの大きさのものではぎりぎり顔が分かるかどうかというほど。ゴブリンのような小さな種族だと豆粒ぐらいの大きさだ。
チャーハンをテーブルに置いてから教える。
「それは俺とこの牧場で育った魔物達だよ。今その子達の事を探してるんだ」
そう言っても女の子は写真から目を放さず、腹を空かせているだろうにチャーハンにも目もくれない。
女の子は写真をじっと見ながら俺に聞く。
「……どうして探してるの?」
「そりゃ俺の子供だからな。無事ならまた会いたい」
「どうしていなくなっちゃったのか理由知ってる?」
「知らない。多分何らかの事故だったんだと思うが……俺もこのファームにこの子達が居ると思ってたんだ。でも目を覚ました時にはすでにいなかった。ちょっと調べてみると生きている事は分かったんだが……どこにいるのかまでは分からなくってさ、今探してる最中なんだ」
そう言うと女の子は真剣な表情で顔をあげた。
その表情は子供っぽくなく、知性の高い女性を目の前にした時のような雰囲気を感じた。
「もしその子達が戻らないって言ったらどうするの?離れちゃってからそれなりに時間が過ぎてて、もうすでに自分たちの時間を生きていたら?」
「無理にこのファームに戻そうとは思わないさ。でもせめて元気な顔ぐらいは見ておきたい」
「もしその子達が怒ってたら?お兄ちゃんに非がなかったとしてもお兄ちゃんのせいだって思っている子もいるかもしれないよ」
「その時は謝るよ。例え俺の意図じゃなかったとしても謝らないと。寂しい思いをさせただろうし、当然の事かどうか分からないけど謝ってすむなら謝るよ。ちゃんと迷惑かけてごめんってさ」
「………………もし、もし周りが許してくれなかったら?その子も帰りたがってるけど、他の人達が居なくならないでって言ってきたら?」
女の子は不安そうに、どうすればいいのか分からないっと言う表情で言う。
それはそれに対して自分なりに考える。
「そうだな……自分なりに考えてみたが、結局我を張るかどうかって事だよな。もっと言えばどっちが大切なのか我が儘を言えばいい」
「我が儘?」
「おう。確かにあの子達が今どんな生活をしているのか俺には分からない。でも俺はその子達の意思を尊重する。あの子達が帰ってきてくれると言うのであれば全力で手伝うし、もう親離れして好きに生きていきますって言うのであれば仕方がない。結局のところその子達の意思次第って事だな、俺にどうこうできる問題なら協力できるけど、出来ない問題だってありそうだからな~」
結局俺が出来るのは子供達のサポートだけだ。すでに決めた道があり、その道を突き進むと言うのであればそれを支援するだけだ。
無理に今の生活を壊してまで子供達を無理やり俺の元に戻そうとまでは思わない。
俺なりにそう言うと女の子は不安そうに聞く。
「それじゃ……もしその子達がここに帰りたいって言ったら助けてくれる?」
「もちろん。そのぐらいしか俺にはできないからな」
そう言うと女の子はほっとしたようにすると「いただきます」と言ってチャーハンをレンゲですくって食べ始めた。
「……うん。美味しい」
「そうか。食材だけはいい物使ってるからな!」
結果女の子はチャーハンをお替りするほどに食べた。
その後女の子と共に町に戻ると、ライトさんがあちこち探しながら何やら忙しそうにしている。
「ライトさん?どうかしたんですか」
「あ!ドラクゥルさん!!すみませんが女の子を見ませんでしたか!?白いワンピースを着た青い目をした女の子なんですけど!!」
「ん?それって……」
そう思って手を握っている女の子を見ると、女の子は俺に手をつかまれながらも苦笑いをしながら俺の後ろに隠れていた。
俺の視線を追って見つけたライトさんは大慌てで女の子を抱き上げた。
「何をしているんですかハク様!!置手紙1つ残しただけでどこかに行ってしまわれては心配いたします!!」
「えへへ……お祭りを直接見たくって」
「それならそうと護衛をつけますので勝手に出歩かないでください」
「だってそれだと楽しくないもん!!」
「あなたはこの国にとって重要な方なのですから御自覚ください。ドラクゥルさん、本日はハク様を見つけていただきありがとうございました」
「いえいえ、偶然ですから。それじゃハクちゃん。また明日な」
「うん!また明日ね!!」
そう言って俺と女の子、ハクは分かれた。
明日の準備は終わってるし、あとどうしようかな?




