冷めたマグマ
たとえ夜の店に行ったとしてもいつも通り起きて施設の調整をする俺。今日は何となくルージュの棲み処を念入りに掃除していた。
ルージュの棲み処は巨大な火山の中心にあるマグマだまりがそうだ。ドラゴンではあるが翼はないタイプのドラゴンで形は恐竜と言うよりはゴ〇ラに近い。
マグマと言うよりは地中を移動するために手や足はつるつるとしていて意外と触り心地が良い事をよく覚えている。彼女自身俺に触れられるのを好んでいたが、プライドが非常に高いので人前では絶対にしない。この棲み処に呼んでこっそりと俺に身体の掃除をさせるのがルージュとの関係だ。
たまに体に付いたマグマが固まってしまうのでそれを超巨大ブラシで落としてあげる。その間ルージュは眠り、その間だけ穏やかに眠る。
ルージュは非常に繊細な女の子で、俺以外に弱みを決してみせない。
だからストレスなどを溜めやすい性格なので発散させてあげないといけない。
きっと2000年間ストレスを相当溜め込んでいるはずだ。そのストレスをなくす事が出来るのは俺だけだ。
そう思いながらルージュがいつ帰ってきてもいいように念入りに掃除をするのだった。
――
今日もカーディナルフレイムで子供達に関する情報を探していると、突然槍を向けられた。
「貴様!ドラクゥルで間違いないな!!」
装備はこの国の気温に合わせているのか、布製の砂漠の人が着ている様な全身を包むような服の上に国の騎士の証拠であるバッチを身に付けている。
つまり俺はこの国の騎士に槍を向けられている訳だ。
正直ちょっと町をふらついているだけなのにどうしてこんな状況になっているのかさっぱり分からない。
とにかく俺はビビりながらも騎士に聞く。
「た、確かに俺の名前はドラクゥルですが?俺何かしました?」
「確保!!」
名乗っただけで周りの他の騎士達にも槍を向けられた。
しかも槍は俺の首のすぐ近くで止められているために動こうとすれば簡単に槍で首を突かれる。そう思うと首を縦に振る事も何もできない。
俺は槍に当たらない程度に手を上げてから抵抗しないとアピールする。
その後はまぁひどい扱いだ。
俺の手を後ろに回せてから手首を拘束され、そのままお城に向かった。
お城もこの国の端に存在し、その後ろには火口が存在する。王族が人々を火山の脅威から守っているというアピールらしい。
なので意外とそこに行くまで結構遠い。俺が息を切らしながら歩いていると槍の先端で突いて来るし、そのたびに俺の皮膚から血が流れるので止めて欲しいのだが。
なんて思いながら通されたのは何度も見た王族の謁見の間と言う場所だ。
そこで俺は蹴られて体勢を崩されると俺の事を踏みつけた。俺の重心が動かないように背中を踏まれているので立とうとしても立てない。
これは完全に詰んでるなっと他人事のように思いながらも逃げるチャンスをうかがう。
そう思っている間に足音が聞こえた。
俺の位置からは足しか見えないが、誰か来たらしい。
顔をあげようとしたら今度は頭を踏みつけられた。鼻を思いっ切りぶつけたからか、鼻血が床を汚す。
「ギャー!!」
突然頭と背中に重みを感じなくなったかと思うと、1人の騎士が燃えていた。
比喩表現ではなく本当に人が燃えていた。まさに火だるまであり、床に転がって火を消そうとしているが火が消える様子は一切ない。
その光景にも背筋が凍ったが、さらに恐ろしいと感じたのは周りの視線だ。
誰も彼の火を消そうとしない。まるでそうなるのが当然だと言わんばかりの冷たい視線に彼よりも俺の方が恐ろしいと感じてしまう。
「だ、だずげ―」
火だるまになった騎士が俺に近付いてきた時に突如爆発した。
頭がなくなり、俺の目の前で倒れた騎士は頭がなくなると同時に鎮火。真っ黒い頭のない人型の消し炭になっている。
俺はその光景に腰を抜かしている前で他の騎士達が淡々と片付ける。その姿は本当にただゴミを処分するだけの光景だった。
「こちらを見なさい」
そう言われて振り向くと、そこにいたのは昨日見た女王だった。
赤い髪にチャイナドレス風のドレスを着た美女。昨日ほどの殺意は感じないが、それでも視線は冷たい。
「まずはこのような強引な形で呼んだ事と、あの男があなたに対して行った非礼に対して謝罪します」
「えっと……あなたが俺をここに呼ぶよう頼んだと?」
「はい。私の事が分からないようですね」
殺意を含んだ視線に変わっていくのを感じたので俺は慌てて言う。
「わ、分かる分かる!ルージュだろお前!?」
つい普段通りお前と言う言葉を使うと周りにいる騎士達が一斉に動き、また俺の首に槍を突き付けた。
「やめなさい。彼と私の関係は話したはずです。下がりなさい」
そう言うと騎士達は無言で元の位置に戻る。
今日だけでどれぐらい寿命が縮んだだろうと思いながらルージュに話しかける。
「随分慕われてるじゃないか」
「別に。彼らは私が強いから従っているだけ。それ以外の理由はない」
「寂しい事言うなよ。それでどうしたんだ?」
「そちらこそ、今さら私の前に現れて何がしたいの」
冷たい視線のまま言うルージュに俺ははっきりと言う。
「アルカディアに帰ってこないか?」
「断る」
短く、ハッキリと言った。
そのハッキリとした言葉に俺は茫然としているとルージュは言う。
「私はこの国の女王としてここに居る。私が離れればすぐ後ろの火山はすぐに噴火し、この国は亡びる。それを阻止し続けるにはここに居るしかないの」
「し、仕事の関係っていう事なら別に問題ない。アルカディアにいつでも帰ってくれるようにする事は出来るし、いつだってこっちに戻ってくる事だって可能だ。だから――」
「もう私の家はアルカディアじゃない。このカーディナルフレイムなの。だから二度とそんな事言わないで」
明らかに拒絶した言葉。ただの他人の言葉ならあっさりと頷いただろうが、目の前で話しているのは俺の娘だ。そう簡単に諦められない。
「で、でも今はブランとか、ノワールもヴェルトもいるぞ。ヴェルトとは仲が良かったし、また一緒に話とか飯とか食えるぞ。ルージュとは仲が悪かったけどクレールだっている。まだクラルテとは会えてないが、またみんな一緒に暮らせるように頑張ってるんだ。だからルージュも――」
「ならハッキリと言わせてもらう。あなたを信用できない」
その言葉を聞いた時、俺の頭の中は真っ白になった。
何も考えられず、何も言えない。口は動くが声が出ない。
そんな様子の俺を見てからルージュは言う。
「あなたは私達を捨てた。だからもう信用できない」
「な、何の、事」
「2000年前、私達の事を捨てたでしょ。だからもう信用できない」
「捨ててない!!それだけは違う!!」
俺はそれだけは強く否定した。
誰が自分の可愛い子供達を捨てる。俺は望んで子供達を求めたのに捨てる事なんて絶対にない。
その思いを伝えようと言葉を続けようとしたが、それよりも先にルージュは言う。
「でも私達はそう感じた。それが事実。たとえそれが本当にあなたの意志でなかったとしても、今さら、2000年後に突然現れてその言葉を信用できると思う?」
「俺だって2000年も経ってたなんて知らなかった!この世界に来たのはほんの1年前ぐらいだし、そこから必死に探してようやく見つけたんだ!!そう簡単に諦められねぇよ!!」
「でも私にとってもう既にアルカディアと言う家は消えて、カーディナルフレイムが私の今の家なの。親子の縁を切るとまでは言わないけど、放っておいて」
「放っておけるか!!ようやく目の前に娘を見付ける事が出来たんだぞ!!諦められるか!!」
「感情的に同じ事を言わないで。あなたにとって私達に向ける感情の熱はまだ熱いのだろうけど、私の家族に関する熱はもう冷めたの。だから諦めて帰って」
「だから――」
「連れ出して」
ルージュがそういうと俺の首根っこを掴んだ騎士が俺を引きずっていく。
俺は抵抗しようとしたが他の騎士達も俺を追い出すために動いているので逃れられない。
「おい待てルージュ!!話はまだ終わってねぇぞ!!ルージュ!!」
俺がどれだけ叫んでもルージュは玉座に座って何の反応も示さない。
必死に手を伸ばすが、謁見の間はあっさりと閉じられ、俺は城の外に捨てられた。
「待ってくれ!ルージュともう少し話をさせろ!おい!!」
だが騎士達は俺を追い出した後に淡々と城の扉を閉じてしまった。
声も届かない場所で俺は、無力感と悔しさと、情けなさを感じてただ膝を突く事しか出来なかった。




