湧き水が湧くところを探す
ノワールが持ってきてくれた湧水が美味いと言う噂の山をしらみつぶしに調べていく。
現在3つ目の湧水がある洞窟に来てみたが、どうやらハズレだった様だ。
印にバツを付け、洞窟から出るとミカエルとヴァルゴが来てくれた。
「周辺はどうだった」
「上空から探しましたが結界の様な物はありませんでした」
「地上からの観測も同じ。特にこの辺りに特殊な力が干渉している事はなさそう」
今回2人を選んだ理由は、ミカエルはブランの次に結界について詳しいし、スターエルフであるヴァルゴは自然の力にかなり敏感なので人為的に作られた物を感じ取ってくれる。
探索にかなり精通している2人だが、この2人でも見つけられなかったとなるとやはりこの辺りの山には居ないのかも知れない。
そう思っていると俺のメニュー画面に通知が入った。
『ドラクゥルさん。若葉です。4つ目のポイントもハズレみたいです』
連絡をくれたのは若葉だ。
実は最近アルカディアの外で俺と連絡を取る方法が判明した。
それはネタアイテムとしか言いようのない通信機と言うアイテムだ。見た目はスマホや携帯とかではなく無線の様な無骨な感じ、本当に通信しか出来ないがこうして外で連絡が取れるのは本当に助かる。
「こっちもハズレだ。それじゃ最後のポイント、滝に行こうか」
『了解です。今からみなさんと向かいます』
こうして俺達は最後のポイント、この山最大の滝がある場所に向かう。
その山は昔から霊峰と呼ばれている由緒あるお山らしい。昔っからこの山の水がカーディナルフレイムになる前からその周辺の水事情を守ってきた事から言われているそうだ。
そんな霊峰と呼ばれている場所に人は昔から立ち寄らず、ただ見守ってきたらしい。なので鬼気屋の話が出た時もこの山だけはいかなかったそうだ。むしろよそ者が山に入ろうものなら地元の人が追い返していたとか。
まぁ俺達はその山に入るんだけどね。地元の人達の信仰も大切にしないといけないのは分かるが、それよりも家族を集める方が大切だ。
っと言う訳で少人数でこっそりと山に入る俺達。最後のポイントはその霊峰なのだから仕方がない。
出来るだけ地元の人に見つからない様に上空をスレイプニルに乗って移動し、こそこそと下りて若葉達と合流した。
「すまん。遅かったか?」
「そんなに待ってませんよ。それに私達の方が近くでしたし」
若葉はそういうがそわそわと何か落ち着かなそうだ。
「どうした?トイレなら穴開けるぞ」
「父さん」
「そうじゃなくてですね……地元の人がどこかにいるんじゃないかと思うと落ち着かなくて」
「そういわれるとな。それじゃさっさと調べちまおう」
ここからは俺と若葉、ミカエルとヴァルゴの4人で行動する。流石にスレイプニルは森の中では動き辛いし、目立ちそうだ。
ミカエルの場所を確認してもらいながら進むと、巨大な滝の前に出た。
滝と言っても今居るのは滝の上の方で、ちょっと見下ろすと落ちたら絶対に無事では済まないほどの高さがある。
「これは……絶景と言うべきか、はたまた恐ろしい光景と言うべきか」
「想像以上に大きな川ね。流れも非常に速いし、この川の水を使うのは難しいでしょ」
俺の言葉にヴァルゴが続く。
確かに滝の上から見る大自然は雄大で力強さを感じるが、この川の流れと落ちる水の量を見ると恐怖の方が大きくなる。
少しでもこの川に足を突っ込めば簡単に足をすくわれ、滝つぼに真っ逆さまだろう。
そんな死に方御免被る。少し考えながらミカエル達に聞く。
「ところで何か感じるか?」
「そうですね……結界の気配はしないかと」
「でも何か引っかかる気はするのよね……」
「引っ掛かる?」
ヴァルゴの言葉に俺は耳を傾ける。
ヴァルゴは足を上下に動かしながら説明してくれる。
「この地下の方に多くの生物の気配が感じるの。ただ水や他の自然の力が強過ぎて正直よく分からない。もしかしたら酒呑達かも知れないけど、もしかしたら他の魔物かも知れない」
「そうか……随分自然の力が凄い所なんだな。若葉は……若葉?」
俺が若葉から意見を聞こうとしていると、若葉は地面に耳をくっつけて何かを聞くような仕草をしている。何だろうと思いながらも耳を澄ませているのであれば邪魔する訳にもいかないので若葉が起き上がるのを待つ。
すると若葉は確信を持って言う。
「この下から滝の音に混じって話し声が聞こえます」
「マジで?どこからか分かるか?」
「流石にそこまでは分かりませんが、この滝の下の方です」
ヴァルゴと同じ答え。まさかこの滝の下に穴を掘って誰かが住んでいるのか?
まさか酒呑達はそこに?でもそこまで行くにはどうすればいいんだ?
目の前は流れの強い川。すぐそばはデカい滝。穴を掘るとしても仮に酒呑達が本当に下に居るのであれば天井を壊す事になる……
マジでどうすればいいんだ?酒呑達に気付いてもらえるかどうかも分からないし……
「……ミカエルさん。私達を下の滝つぼ近くまで降ろす事は出来ますか?」
「え、ええできますよ」
「多分ですけど下の方にヒントがあると思います。行ってみましょう」
珍しく若葉が積極的だ。俺達は若葉の言葉を信じて下に降りる。
下から見る巨大な滝は本当に恐ろしい。水しぶきが顔に当たると痛いし、風や落ちてきた岩に混じって水しぶきが一気に来ると呼吸も出来ない。
本当にこんな危険そうな所に酒呑達が居るんだろうか?信じて来てみたものの、やっぱり不安はぬぐい切れない。でも他に可能性もなく、結局ここしか道がないのも本当だ。
若葉は滝の近くの壁を入念に確認していると、何かに気が付いた様子で手が1本はいるぐらいの大きさの穴に手を突っ込むとガゴンっと言う音がした。
すると若葉の隣りの壁が横に動いて明らかに人工物である階段が見える。
「これで謎解き完了ですね。ベタな仕掛けで助かりました」
若葉が当然のように言っている所を俺達はあっけにとられていた。
確かに若葉ならゲーム能力で特殊な仕掛けなどを解いてくれるのではないかと期待して連れてきた訳だが、ここまであっさりと進むと驚いてしまう。
すると若葉は急にオドオドし始めて言う。
「あ、あの。何か余計な事しちゃいましたか?」
「いや、ちょっと驚いてただけだ。本当にこういうの得意なんだな」
「はい。私が得意だったゲームは謎解き系探索ゲームなのでこういうのはずっとゲームでやり込んできたから大体分かるんですよ。滝があるところだとだいたいこんな感じですね。それから多分一定時間を過ぎると閉まっちゃうと思いますので急ぎましょう」
若葉に促されるままに扉の奥に入ると、丁度少しづつ扉が閉まってきた。
中は洞窟……と言う訳でもない。滝から離れた所に階段が出来ており、滝越しに日差しが入ってきているので暗いと言う事はない。
どれぐらいの階段なのか分からないが、ヴァルゴは納得したように言う。
「滝を使った隠れ里ね。多分階段を作ったり、洞窟を作る時とかは魔法を使ったかもしれないけど、あとは強過ぎる自然の力のせいで痕跡も残らないか。上手いことやったわね」
「これなら結界を張るとしても自然の力が邪魔をして感じる事も出来ませんからね。よく考えた物です」
ヴァルゴだけではなくミカエルも同意している。
それよりも気になったのは若葉の観察力だ。もしかしてゲームの力でこういった仕掛けを発見しやすくなる力でもあるんだろうか?
「ところでこの仕掛けを見抜いたのは実力?それともゲーム能力?」
「実力です。私の力になっているゲームってどれだけレベルを上げても謎解きのヒントまでしか出てくれないんですよ。だからこれは私のプレイヤースキルです」
若葉は胸を張って言うので俺は素直に称賛する。
もしゲームの力だったとしてもかまわないが、あの仕掛けを簡単に見抜いたのはやはりすごい。
「ところでなんでこの仕掛けが下の方にあるって思ったんだ?上からでもおかしくないと思ったんだけど」
「それは多分敵を警戒してだと思いますよ。私みたいにギミックに気が付いた人が悪い人ではないとは限らないですし、仮に敵が来るなら上から下に向かって攻撃する方が楽ですしね」
「あ~。防衛って意味でも下から出入り口を作る方がいいのか」
確かに動物の威嚇とかでも上から威嚇する方が優位って聞くからな。
色々納得しながら俺達は滝の奥の階段を上るのだった。




