祭りと参加
その後の俺は昼間は図書館、夜は白夜教の聖書を読んで過ごしている。
まず聖書の方は大雑把に言えば、確かにあの歴史を物語風にしている物とあまり変わりない。しかし所々気になる違いはある。
例えば神様。神様は最初っから少女の姿で現れたのではなく、美しい獣の姿で現れたと書かれている。美しい獣とは何かと思うと、真っ白な羽に包まれた巨大な獣としか書かれていない。分かりやすい特徴に関しては書かれていないので検討のしようがない。
だがこちらの話を信じるのであれば、神様は少女の姿と獣の姿の2種類の姿である可能性が高い。ファンタジー世界なのだから姿を変える存在が居てもおかしくないだろう。
そして昼間には図書館で魔物に関する資料を探しているが……成果は出ていない。
冒険者ギルドで売っていた魔物図鑑とほぼ同じ内容だし、ちょっと珍しい魔物が居たと言っても幻の魔物とか、過去の強い魔物の討伐記録とかそういう物しかない。
それでも過去の強い魔物のと戦闘記録で討伐出来ずに逃げられたっという物だけは一応メモしておく。もしかしたらうちの子かも知れないし、もしくはうちの子の子孫かも知れない。
まぁ自分で言っててなんだがかなり希望的な発言だけど。
元々この世界に居る魔物は俺が知っているモンスターとは違い、本当にこの世界で生まれて育っただけの魔物かも知れない。可能性だけで言えばその方が圧倒的に高いだろう。
でも俺のファーム内にうちの子達が居ないのに、マイルームでは確かにうちの子達の情報が出ているのだから可能性は0ではないはず。どこに居るのかまでは分からないが、もし生きているというのであれば必ず見つけ出して家に連れて帰る。
それが親としての使命だ。
っと言っても今のところ全くヒントがないんだけどね。
うちの子達は俺よりも強くて賢い。どこかで暴れずに隠れ潜んでいるとすると更に発見は困難になるかも知れない。
せめてマイルームにうちの子達を見付ける機能が生きてればよかったんだけどな……
アルカディアでは広大過ぎるゲームなので様子を見たいモンスターの所に指定するとそのエリアに行く事が出来る。そこでモンスターに飯を与えたり、綺麗にしたりと作業する事が出来る。
最初はこの機能を使えばあっという間に見つける事が出来ると思っていたのだが、どうやらファーム内でしか使えないらしい。完全にゲーム内でしか使えないクソスキルなので外に一切影響を出す事がない!!
考えようによっては良い事なのかも知れないが、子供達を見付けたいと思っている俺にとってはもうちょっと外に影響を与える効果が欲しかった。
「はぁ」
「あまりいい資料はありませんでしたか」
俺が子供達の事を探している間にライトさんがいつの間にかそばに居た。
俺はテーブルに顔をくっつけながら答える。
「まぁ……俺が求める資料はありませんでした。出来るだけ強い魔物の資料を集めたんですけどね」
そう言うとライトさんは資料を見た後に言う。
「確かにこれ以上の資料は一般開放されてはいませんね。これほどまでに魔物の資料ばかり見ているという事は、この魔物達を倒して英雄になる事が目的でしょうか」
「いいえ、特にそう言う願望はありません」
「ではなぜ」
ライトさんは本当に不思議そうに言う。まぁ魔物の資料なんてぶっ倒す以外見ようとはしないよな。
なんて言おうか考えていると、自然と口に出た。
「探してるんです。俺の名前を上げた魔物達を」
そう言うとライトさんは首を傾げる。その表情はちょっとかわいい。
「あなたの名前ですか?」
「はい。俺実はかなり変わってまして、昔魔物を育ててたんですよ。その時に俺の名前をあげたのでその子達は今どこでどうしているのか、気になって仕方がないんです」
どうせバカな妄想だと言われるだろうと思っていたら、ライトさんは真剣な表情で俺の事を見ていた。
真に迫る表情というのはこういう顔の事を言うのかも知れないっと本気で思う程に真剣な表情だった。
そしてライトさんは真剣な表情のまま言う。
「あなたのお名前をまだ聞いていませんでした。お聞きしてもよろしいですか?」
「あ、はい。俺の名前はドラクゥルです。ただのドラクゥル」
そう言うとライトさんの目が見開いた。
そんなに驚くような名前だろうか?そう思っているとライトさんが俺に提案を出す。
「ドラクゥルさん。明日は何の日か知っておいでですか」
「明日はお祭りですよね。確か収穫祭と感謝祭が一緒になったお祭りだとか」
「それにドラクゥルさんも参加していただけないでしょうか」
「参加?参加ってどんな形で?」
お祭りの事を知った時からお供え物ぐらいは持って行こうと思っていたが、そういう感じではないのだろうか?
「簡単な屋台などはどうでしょう。串焼きであれば屋台の定番ですし、場所はお貸しする事が出来ますよ」
「え、でも突然言われても……お祭りは明日からですよね。串焼きと言われてもすぐには用意できませんよ」
一言で串焼き屋と言ってもその肉の仕込みにはそれなりに時間がかかる。
例えば肉に味を染み込ませるために1日タレに漬けるとか、単純に串を大量に用意するとか、炭火焼きで焼くようにするのか、それともガスで焼くのか、色々とある選択肢の中でどれを選ぶのか、それらをすべて決めないといけない。
場所だけは指定されたところに構えればいいんだろうが……屋台なんて俺持ってたかな?
「明日すぐにっというわけではありませんよ。こちらから突然のお願いですので当然最終日に屋台を出していただきたいと思います。気を付けていただきたいのは火の管理だけです。お願いを聞いていただけないでしょうか」
そう聞かれて俺は少し考える。
別に屋台をやるのはぶっちゃけ問題ない。ファーム内に余っている高品質の肉を使えば大量に仕入れる事が出来る。もともと野菜は売っているが肉の方は売っていないので有り余っていると言っていい。というか倉庫がそろそろ肉でいっぱいになりそうなので少しは消費したい。
ただ問題は屋台の方だ。食べ物を売る仕事なんてしたことがないし、やった事があるとすれば精々文化祭の時に裏方としてひたすら焼きそばを炒めていたぐらい。
あと問題は……人?俺1人で回せるほどなら問題ないが、相場なども分からないのでぶっちゃけ値段設定もよく分からない。まぁ値段設定は他の屋台を見れば……
ん?待てよ、それなら……
「あの、少し相談させてもらってもいいでしょうか」
「何でしょう」
「お話を受ける代わりにお願いがあるのですが」
「ありがとうございます。それでお願いとは何でしょう」
話を受けるという良い事を言った後に俺はとんでもない提案をする。
「できれば場所だけではなく人と肉を焼くための道具も出来るだけ多くお借りしたいのですがよろしいでしょうか」
「人もですか?少しなら問題ないでしょうが……具体的にはどれぐらいの人数を想定していますか?」
「俺の出す串焼きは全て無料で出したいと思います。もしくはお心遣い程度の値段で売ろうと思います」
「……え」
「実を言うと大量の肉が余っているので大量に消費してほしいんですよ。そのためには値段をタダにし、多くの人に食べていただくのが最善かと思います。もちろん皆さんにお力を借りますので給料は当然発生します。とりあえず……1人当たり銀貨10枚でどうでしょう?」
1日1万なら文句言う人いないだろうと思って言うと、ライトさんはとても驚いてた。
「それは何でも多すぎます!屋台の手伝いですよ?」
「串焼きをタダで配るわけですから、人は多くないといけません。タダでもらえると聞けば大勢来るのは想像に難しくありませんからね」
「……それは分かりますが……いえ。やはりいただけません」
「でもこちらからお願い――」
「先にお願いしたのはこちらです。元々感謝祭のために他の町の見習いたちも来ますのでその方々にお願いしましょう」
「それって大丈夫なんですか?この祭りの手伝いのために呼んだんじゃ……」
「これもまた手伝いですよ。では人数と道具はお任せください」
そう言ってライトさんは行ってしまった。
さて、それじゃ余ってる肉の準備と仕込みでも考えるか。




