投獄中?
まず俺が使って最初に行った行動はアルカディアにいる隠密向けの子供達にこのゴブリン帝国の情報を集めてもらう事だ。
スモックゴーストを数体、アーミービーの働き蜂を数匹、そしてメインのアサシンスパイダーを50匹放つ。
アサシンスパイダーは夜行性で、他の蜘蛛のように巣を張って獲物がかかるのを待つタイプではなく、自分から狩りに行くタイプの蜘蛛だ。
牙には弱い毒があったり、蜘蛛として糸を出して足止めしたり、かなりの芸達者だ。
俺を繋いでいる手錠のカギもこの場で作ってもらった。糸をまとめて固める事で出来る鍵の複製。元の世界の様に複雑な鍵ならともかく、時代劇に出てくるような単純な鍵なら複製は容易に終わる。
そのカギを隠し持っておきながら、みんなに言う。
「俺はこの通り捕まってて動けないからお前達にはこのゴブリン帝国の情報を集めて欲しい。決して無理はするな。命を大事に、でいこう」
そういうと全員さっと手を上げて敬礼のようなポーズをした後に彼らは散った。
……2匹だけアサシンスパイダーが残ったな。
「どうした、行かないのか?」
そう聞くとジェスチャーで何をするのか教えてくれる。
どうやら2匹は俺の護衛としてここに残るらしい。鍵を製作してくれたアサシンスパイダーなのでかなり器用そうだ。
ついでに檻の鍵ももう1匹が作ってくれたのでいつでも脱走できる。
便利過ぎるだろこの子達。何で俺みたいな怠け者の所にこんないい子ばっかり育つんだろう?
そう思いながらとりあえず檻の中で大人しくしていると、アサシンスパイダーたちが隠れた。隠れた場所は檻の外の松明の影になっている所、アサシンスパイダーは黒い部分が多いので、ああいった影になったところに隠れると簡単には見付ける事は出来ない。
そして俺の前に現れたのは普通のホブゴブリンだ。
「今日から貴様の監視をする事になった。大人しくしている事だな」
「へいへい。大人しくしてますよ」
そういって俺は堂々とホブゴブリンの前で何もせずにゴロゴロしている。
っと言ってもこれほどまでに暇なのは久しぶりだ。本も何もない状況でとにかく時間が過ぎるのを待つというのは本当に暇だ。
見張りの人は見張りの人で俺が何か変な行動をしないかどうか見ているだけだし、暇なのでとりあえず寝る事にしよう。
子供達だって情報を持ってくるのにはしばらく時間がかかるだろうし、この見張りの人だって夜になれば多分家に帰るだろう。
その時をひたすら待って寝よ。
――
暇なので寝ていたらすでに見張りの人はいませんでした。
他に変化はないかと思って檻の中を見渡してみると、随分と長い時間使い古された安っぽい皿の上にコッペパンの様なパンが置いてある。
とりあえずカビてたり毒があったりしないか匂いを嗅いで確認すると、意外とそういう事はない様なので安心した。
でも晩飯がパン1つとは悲しい晩飯だな。アルカディアに行ってちゃんと晩飯食おう。
そう思っていると子供達が帰ってきた。
数えるとスモックゴースト達が居ない。どうしてかと聞くと夜の方が活躍しやすいのでこのまま残って朝に帰ってくるそうだ。
それなら仕方ないと、みんなを連れてアルカディアに戻り、ガブリエルが作ってくれた晩飯を食いながら子供達が集めてくれた情報をブラン達と一緒に整理する。
「城の図はこれか。そしてここが武器庫でこちらが兵士達の住む寮か。そしてここがゴブタの寝室か」
「え、ちょっと待って。俺寝てる間にドンだけ情報集めてきたの?半日あるかどうかぐらいの時間だよね??」
「アーミービーやアサシンスパイダーから見れば十分な時間だ。彼らは小柄で目立たない。しかもアーミービーの場合はその動きを目で追う事すら難しいからな、捕まえるとなれば全兵力で退治するしかないだろう」
「全兵力ってのは大袈裟じゃない?」
「大袈裟という程でもない。アーミービーの働きバチが居たという事は周辺に巣があると思うだろう。兵隊蜂に関しては1匹だけでも非常に苦戦するというのに、それが集団で襲ってきた場合を想定して巣が存在するかどうか確かめるだろう。アサシンスパイダーの情報からもホブゴブリン達は人間達より少し優秀なだけのレベルのようだ。ゴブタの様なイレギュラーとは程遠い」
「流石にゴブタと一緒にするのは変じゃないか?」
ゴブタ、ゴブリンロードの状態でどれだけ強くなる事が出来るのか実験したゴブリンロードだ。
強くする方法は以前言った進化させる方法と同じで、トレーニングルームで身体や知能を高めている間に強くなる事が出来る。
まぁ本当はロードから別な種族に進化したりしないかどうかを確かめるための実験でもあったのだが、結果これ以上進化する事はなさそうだと結論を出した。
なのでゴブタはゴブリンロードという最上種になったうえでさらに強くなったゴブリンロードなのである。
「まぁゴブタお兄ちゃんみたいなゴブリンが自然発生するとは思えないしね。ゴブリンキング何体分の力だっけ?」
「最後に確かめた時は確かゴブリンキング20体分の力だったはずだ」
「ゴブタは本物のイレギュラー。力だけで言えばSSランクの届くかどうかという実力です。そんな存在がポコポコ生まれては自然界のバランスがおかしくなってしまいますよ」
「……ん」
ノワールだけではなくブラン、クレール、ヴェルトも同意する。
そしてミカエルとウリエルが槍を片手に俺に言う。
「天使部隊、いつでもゴブリン帝国を攻撃する準備を整えています」
「攻撃解除。俺がするのは説得であって服従させる事じゃない」
「しかし我々モンスターも結局は実力主義、こちらの戦力を分からせるのも円滑に進ませるための必要な事ではないかと」
「だからそれ侵略と変わらないじゃん。それよりも俺がゴブタの親だと分からせる方が先なんだよな……もしくはゴブ子を見付けるとか?」
ゴブ子はゴブタのパートナーとして育てたゴブリンクイーンという特別なゴブリンである。
特徴は戦闘ではなく、どれだけ年老いたとしても妊娠して子供を産む事が出来るという特性だ。と言ってもアルカディアでは妊娠する事なんてなかったし、ゲームだから姿形は変わらない。あくまでも図鑑に載っている特徴なので本当にそうなのかどうか不明だ。
そして寿命に関しても少し特殊で、パートナーであるゴブリンキング、もしくはゴブリンロードと同じになるという物だ。
ゴブリンクイーンのランクはBなのですぐに寿命が来るかと思ったが、本当にゴブタと同じになっている様で他のゴブリンよりも非常に長生きだった事を覚えている。
そう言うとノワール達は考えて意外な事を言う。
「確かに。その事も考慮すべきか」
「え。今の適当な話信じちゃうの?流石にゴブタだって寿命を迎えていると考えるべきじゃないか?」
「それはそうだが頭の中に入れておくべき事だとも思う。最低でもゴブタとゴブ子の子孫が居ると考えるべきだ」
「それは……そうだと思うけど……」
「それにヨハネからの情報も既に届いている。どうやら近々王位継承式があるらしい」
「王位継承式?」
「先代の王がゴブタ本人なのか、そうでないのか確かめるにはこれ以上ない程に都合の良い日だ。これを確認した後にゴブタに会うのも悪くないだろう」
そんな予定があったんだな。
ならとりあえずその日を待ってみるか。
「それってあと何日後ぐらいだ?」
「半月後だ。かなり長いが大丈夫か?」
「大丈夫だ。こうして帰ってくる事も出来るし、尋問って奴が始まったら適当に受け流すさ。本当にヤバそうな時になったら助けてもらうしな。この護衛達に」
2匹のアサシンスパイダーが守ってみせるとノワール達にアピールする。
それを見て頷いた後にノワールは言う。
「それではこの間に情報を出来るだけ多く、正確に調べておこう。何が起こってもいいように」
不吉な事は言わないで欲しいなと思いながら、いつも通り風呂入って歯を磨いて寝る俺である。




