歴史と神様
この街は大聖堂に向かって道がまっすぐ伸びているので、とりあえず内側に向かってまっすぐ歩けばたどり着く。
そして巨大な扉から入ろうとすると、門番の人に止められた。
「申し訳ありません。大聖堂に入る方は身分を証明する物をお見せいただけないと入れません」
「え、そうなの?この街に入る時も見せたんだけど」
「規則ですので。それから大聖堂に来た理由もお願いします」
「まるで国が2重に存在してるみたいだな……はいこれ、商業ギルドのカード」
「ご確認します」
そう言って門番さんに手渡すと、門番さんは表情を変えた。
怒っているとかそういう感じではないが、困惑しているのは分かる。
「えっとどうかしました?」
「い、いえ、特に何も。ドラクゥルさんでよろしいでしょうか」
「はい」
「では次にこの大聖堂に来た理由をお教えください」
「観光と図書館でこの国について調べたくって。図書館って特定の人しか使えないとかありますか?」
そう念のために確認してみると門番さんは国を横に振った。
「いえ、1部の書庫は一般開放されていませんが、一般開放されている物はご覧出来ますよ」
「それは良かった。それじゃ図書館に行かせてもらいます」
「分かりました。大聖堂内は貴重な品もありますのであまり触れないようにお願いします」
「マナーは守ります」
そう言ってから俺はようやく大聖堂の中には入れた。
まさか大聖堂に入るのに身分証明が必要だとは思ってもみなかった。でもまぁ大切な物なんだし仕方ない事なのか?
どっかの観光名所みたいに金をとられるわけじゃないし、まだいい方って事にしておくか。
そう思いながらだだっ広い綺麗な庭園を抜け、大聖堂に入る。
そこは予想通りとても広い。吹き抜けの天井には何かの物語のように絵が描いてある。
何か黒い動物のような物から逃げる人、そこに現れたのは白い翼を生やした小さな女の子。その次は女の子が結界を張って人を守る絵。そして国が作られるような絵が描かれたかと思うと、女の子がこの大聖堂の上で手を広げる絵で終わった。
この絵もこの国の歴史について書かれているのだろうか?確かに文字よる物に比べて絵の方が子供も分かりやすいだろうから良いのかも知れない。
そして大聖堂の奥の方にはこの大聖堂で働いている人だろうか?見るだけで神父とシスターだと分かる人たちが忙しそうに少女の像の前で何かの準備をしている。
おそらくおばちゃんたちが言っていた収穫祭と感謝祭の準備だろう。とても大きなテーブルをみんなで運び、ろうそくの準備や色々と大変そうだ。
俺はあの像がある方も見てみたかったが、準備中のために入れなかったので諦めた。
その後は図書館がある別館に向かった。
その図書館もとても広く、中に入ると今までに見た事がないほどに本であふれかえっていた。
「これは……すごいな。そしてこの国の歴史の本はどれだ?」
ついそんな事をつぶやいてしまった。
俺の知っている図書館と言えば2階建てのこじんまりとした小さな図書館だけだったが、この図書館は書庫と言う方が正しいのではないだろうか。それだけ貴重な本があると言う雰囲気と、歴史を感じさせる場所だ。
しかしその分本が大量にありどこから手を付ければいいのか分からない。
頭をかいてとりあえず手前から調べればいいのか?っと思っていると。
「お困りでしょうか」
声をかけられた。
振り返ってみると、見るからにシスターと分かる格好をした30代ぐらいの女性が立っていた。
柔和な表情をしてまさに大人の女性と言う感じではあるが、クウォンさんが言っていたようにどこか気の強そうな雰囲気も感じる。
この図書館の司書とかそういう人だろうか?この大聖堂にいる人達は色々仕事をしているようだ。
そして俺は困っているので素直に聞く。
「この国の歴史について知りたくて図書館に来たのですが、これだけの本があると探すのも大変そうだっと思っていたところです」
「この国の歴史を知ろうとしてくれてありがたい事です。どうぞこちらへ。私はこの図書館の司書をしております、ライトと申します。歴史の資料はこちらにありますのでどうぞこちらに」
そう言って先を歩くので俺は付いて行く。
それにしてもこの図書館、本当に大きいのでまるで本の迷路だ。さすがに迷子になることはないだろうが、この中からヒントなしで本を探そうとしたらどれぐらい時間がかかる事だろう。
周りの本を流し見ながら追いかけているとライトさんが止まった。
「この国の歴史の資料はこの棚にあります。こちらの本は全て持ち出し禁止となっておりますので持ち出さないようにお願いします」
「分かりました。ちなみに1番分かりやすい本ってどれですかね?」
ついそう聞いてしまうほどに本の山を前についライトさんに聞いてしまう。
そう言うとライトさんは少し考えた後、1冊の本を手に取り俺に見せた。
「こちらはこの国の歴史を物語風に書かれた1冊です。こちらなら読みやすいと思いますよ」
「ありがとうございます。お借りします」
そう言ってその本を受け取り、近くのテーブルでその物語を読み始めた。
まず物語の最初は特定の場所に留まらずに生きていた人達の苦労話から始まった。この国が出来る以前はここもうっそうとした森の中であり、魔物から生き残るために一か所に留まらずに旅をしながら生きていたようなものだったらしい。
そしてある日厄介な魔物の群れに見つかってしまい、絶体絶命の時に神様が現れたそうだ。
その神様は真っ白な翼のある幼い少女の姿で空から現れた。神様は不思議な光の膜で人々を守り、魔物達は一声で退けた。それに感謝した人々は何か望むものを与えようとしたが、少女はどれもいらないと言う。
では何が欲しいのかっと人々は聞くと、安心して住める場所と言ったらしい。
人々は神の力を借りながら、村を作ることを決めた。
もちろん最初の内は神様の結界に守られながらだったか、途中から同じように定住できる場所を探しながら旅をしている人達と結束しあいながら村から町に、町から国へと変わっていったという。
これにより人々は神様に守られる側から守る側になった。当然今でも神様の方が偉く、力もあるが人々はそれを利用するのではなく、共に生きる事を選んだ。
物語風に書かれたこの歴史の本はそのように書かれていた。
そしていつの間にか夕方になっており、俺は慌てて本を元に戻し、帰ろうとするとライトさんが俺に声をかけた。
ライトさんがいるのは出入り口に近い場所にある。受付のようなところで本を読んでいた。
「あの本はどうだったでしょうか?」
「物語状に書かれていたのでとても読みやすかったです。また明日も来てもいいでしょうか?」
「かまいませんよ。それからこれは私からあなたにプレゼントです」
そう言って受付のところから立ち上がり、1冊の本を渡した。
その本のタイトルは白夜聖書、どうやらこの国の宗教の教本らしい。
「こちらはこの国の教本ですが、こちらはこちらで違った視点からこの国の歴史が書かれています。こちらから読み解くと面白いでしょう」
「そうなんですか?でもこれタダでもらうわけには……」
どっかの宗教勧誘のような薄っぺらい雑誌のようなものではなく、真っ白いちゃんとした分厚い本だ。これをタダでもらうと言うのちょっと罪悪感がある。
そう思っているとライトさんは微笑みながら俺に言った。
「真面目な方ですね。ですが問題ありませんよ。こちらの教本は新しい物を用意したからいただいた物です。私には昔からある教本が気に入っているのでかまいません。内容は変わりませんし」
「そうですか……それじゃいただきます」
「ええ。新たな白夜教の仲間が出来る事はいい事です」
いや、宗教に入るつもりはないんだけど……
だがそれをここで言う必要もないので黙っておく。
「それでは失礼します。本、ありがとうございました」
「ええ。それではさようなら」
「さようなら。また今度」
そう言って俺は大聖堂から外に出た。
そして人気のない路地で俺はファームに帰ったのである。




