(03)ある仕事が休みの日の五嶽の行動
五嶽は職場への出勤の日はいつも朝6時半前に起き、朝食を食べてからアパートを出ると身体がしんどく感じてくるので朝食は職場に着いてから食べるようにしている。そのために、起きたら出る用意をして起きてから20分もしないうちにアパートを出て、朝食になるものは職場のほうの最寄り駅の前にあるスーパーでポイントカードへポイントを貯めるのを楽しみながら買っている。五嶽が職場の最寄り駅に着くのは7時頃で駅前のスーパーもちょうど7時に開店するから、時に前日の売れ残り品が値引きされた状態で手に入ることもあり「朝一で値引き品が買えるなんて嬉しい」と思うこともあるほど。
一方の休みの日はというと、夜寝ている途中、トイレに行きたくなって起き、トイレを済ませてからしばらくの間、パソコンに向かいネットで動画サイトで動画を見ていることもあれば、すぐにまた布団に戻り朝まで寝ようとすることもある。
あるカレンダー上では平日なこの日、五嶽は仕事が休みで趣味活動に没頭するという一環で昼食に手の込んだ料理を作ることにしていた。
布団から起き上がったらサックスブルーのカットシャツを上着に黒のTシャツを着て、下には迷彩色のカーゴパンツを履いた装いでこの日を過ごすことにしていた。頭には五嶽が特にお気に入りの黒のヘッドウォーマーをかぶっている。
この日は五嶽は朝はややゆっくりと7時過ぎに起き、朝食も休日仕様ということでピザトースト3枚とインスタントで淹れたのではない本物のレギュラーを淹れたコーヒーという五嶽お気に入りのメニューだ。ピザトーストはいくら休みの日の朝だからと言って食パンにピザソースを塗り、その上にチーズや具をのせていくのでは時間の無駄になってしまうので、ピザトーストは休みの日の昼間にまとめて作ってしまい、それを冷凍保存している。そのために五嶽は休みの日には食パンをたくさん買ってくることがある。さらに、五嶽はピザトーストに使うチーズにもこだわっていて一般的なスライスチーズよりもピザ用のシュレッダーチーズで作ったほうが断然においしく感じてくる。
前もって作り置きしたもので朝食を食べているので8時前には食べ終わり、ゴミを集めて集積場へ出しに行くことや洗濯をしたりする。洗濯物は線路に面した窓のところの室内側にある物干し竿で干している。冬場は暖房で部屋の中が乾燥してしまうが、洗濯物を部屋干しすることによって洗濯物からの湿気で部屋の乾燥が防げる。この日は五嶽は朝食後、少し溜まってきた洗濯をした。五嶽の部屋の入り口付近、建物の外側の廊下にある洗濯機は最新形の全自動式で選択する衣類を洗濯機に入れ、洗剤をセットしたら後はスイッチ一押しで脱水まで全部自動でやってくれる。
洗濯が終わり、洗濯物を物干し竿に干し並べて行ったら、この日の最大の見どころである手の込んだ料理を作るための材料や仕事の日の昼食として持っていく物として軽く食べられるものなどを買いに各駅停車しか止まらないほうの駅の前にあるスーパーへ買い物へ出かけた。五嶽の自宅アパートから各駅停車しか止まらないほうの駅までは歩いて4~5分ほど。
駅前のスーパーはこの駅はいくら各駅停車しか止まらないとはいえ、朝は7時から開店しているのでこのレベルの駅にしては非常に利便性が良好だ。この日、五嶽は昼食に魚介類のトマト煮を作る予定でその材料をまず探しにやってきた。
だが、周囲が敏感な五嶽のこと。スーパーに入るなり少しやる気を落としてしまう場面を見かけてしまったのだ。
五嶽の前を行くように1組のカップルというか若夫婦いうか2人組がスーパーの店内に入っていくのを見た。仲良くお話しながら店内を歩いている男女の2人組は飲料品コーナーで1本の500mlサイズの緑茶を1本。たったこの1本のお茶を買うためにその男女2人組はスーパーを訪れていたのだが、これを見た五嶽は「そんな1個2個程度だったらこんな大きいスーパーで買うんじゃなくて、コンビニで買えばいいじゃないか!」少し怒った気持ちで思った。
この男女2人組のせいで五嶽のやる気はやはり落ち込み、最初昼食で作る予定でいた魚介類のトマト煮は作るのは中止にして、もう少し簡単に料理できるものを作ることにし、その考えを変えた五嶽の目に付いたのは鮮魚品コーナーに陳列が始まった「わけあってこの値段になっている」1パック8%軽減税率込みでも200円台後半もあれば余裕で買える魚のアラのパックだった。五嶽は「このパックのアラ、アラとはいってもとはいってもトロっぽいところも入ってるし、ほとんど骨は付いてないようだから普通の刺身のように包丁で切ってけばそのままでも食べられるかもしれない?」と思い1パック買い物かごに入れた。これだけではもの淋しいと思いピーナツみそを1パック、食パンを2斤、ピザトーストの具として使うサラミソーセージ2本、玉ネギ、ピーマン、ピザ用チーズを2袋、口寂しくなった時に軽くつまめるスナック菓子を5袋、身体が冷たいものを求めてきた時に食べたくなってくるアイスも5個などを買っていった。
アパートの1室に戻った五嶽はまず、「わけあり価格」で買えた魚のアラを包丁で食べやすい大きさにカットしていき、それをわさび醤油に漬け込んだ。ちょうど、昼食を食べる時間にわさび醤油に漬け込んだ魚が食べ頃になる。だが、五嶽の考えは完全に甘かった。やはり「アラ」というからには外見では見えないがカットしていくのに邪魔な骨がたくさん肉の中に転がっていたのである。これはもう忍耐で乗り切っていくほかがない。
「このトロっぽいところは簡単にサクサクと切ってけるねww」
「ええっ、これ骨がいっぱいあって切りにくいじゃないかよ~」
「ここはスプーンで骨に着いた肉を救い取っちゃおうww」
「あ~、手が痛かったわ~」
五嶽はやっとのことで安価で買えた魚の「アラ」を捌き終えたらそれをわさび醤油を前もって作っておいたボウルに移し味が染みるようにかき混ぜた。
「これで今日のお昼はバッチしだね」
五嶽が魚の「アラ」を「漬け」に料理したら、次に休みの日の朝に食べているピザトーストの冷凍ストックを作っていった。五嶽は食パンに塗っているピザソースにもこだわっている銘柄のものがあり、それ以外の銘柄だと自分の口に合わず思わず吐き出してしまったこともあったほど。そのピザソースを食パンの上にまんべんなく塗り、ピザ用チーズを乗せてから薄くスライスした玉ネギやピーマン、サラミソーセージなどの具を乗せてからラップで包んであとは冷凍庫へ投入し保存される。この日は8枚切りの食パンを2斤買ってきていたので合わせて16枚ものピザトーストのストック品が作られていった。こうすればスーパーの乳製品コーナーによく陳列されている具をセットした状態であとはトースターで焼くだけというピザトーストを買うよりも値段でも安くつく。
「わけあって」安く買うことができた魚の「アラ」を「漬け」にしたものを丼ご飯の上に乗せ、副菜にピーナツみそを添えた昼食はもちろん、普通に買おうと思えばかなりの値段になってしまうかもしれなかった「トロっぽいところ」も非常にお得に買えたのだからものすごくおいしく食べていた。
昼食後、何も予定もなくすることがないからただ単に何もせずに過ごしている午後に感じてくる何かの物淋しさが五嶽に襲いかかってきた。物淋しさを感じてきた時、五嶽がやっていることとして
1・ネットのいわゆる「お小遣いサイト」でアンケートに答えていったり、ゲームをしたりしてほんの少しでもいいから報酬をコツコツと得ていくこと
2・料理をする時に使う調味料の自家調合をしたりする
3・実家にいて現在未だにまともな職に就いていなく、五嶽が仕事が休みになる日の昼間でも常にメールの相手をしてくれる主人公である長男拓哉から見れば妹に当たる長女へのメール交換
4・アパートの周辺を小散策
5・気持ちが晴れるよう明るい雰囲気の音楽を聴く・・・
などがあるがこの時、五嶽が取った行動はこの日、天気が良く外を歩くのには最適と考えアパートの周辺を歩いてみることにした。
アパートを出た五嶽は目の前を通っている市道をいつも職場への出勤の時に使っている各駅停車しか止まらないほうの駅とは逆方向へ歩いてみた。歩き始めてすぐに比較的大きな公園があるので五嶽はその公園に入りベンチに座ってゆっくりと過ごそうと考えた。が、五嶽が座ろうとしているベンチのすぐ隣に位置しているベンチに平日の昼間とは言えカップルがイチャついている姿があり、まだこの時はまともに彼女もいない五嶽には気分転換にならないばかりか余計にイラつきを増幅させかねない状況である。五嶽は慌ててその公園から飛び出て次に向かったところは五嶽の住んでいるアパートから直角方向へ少し行ったところにある市民図書館で、公園からはちょうどアパートの前を通る行き方となる。五嶽はネットサーフィンもまた趣味の一つとしているので知りたい情報とかもほぼネットから嫌になるほど得られてしまうだけにことさら図書館へ行っても・・・とも思うかもしれない?が、この時は五嶽としては「家に籠ってネットばっかりやってないでたまには図書館へ出向いてちゃんとした本でも読んで過ごそうか?」と考えていた。五嶽は、住んでいるアパートの前を通って市民図書館へ向かった。しかし、そこでも館内の本を読むために座るテーブル席に「この図書館にある本を読んでいる」というよりは「勉強しに来ている」と思われる大学生カップルの姿が2組くらいいて五嶽は「わあ~、またカップルで落ち着かないわ~」で市民図書館からは退散した。市民図書館の次に五嶽が訪れた場所は1軒のコンビニエンスストアで五嶽はさっきまでのこの日の朝、駅前のスーパーから見続けてきた「カップルの姿による気持ちの落ち込み」を紛らわすために1,5リットルサイズのペットボトル入りのオレンジジュースを3本、軽くつまめるポケット菓子を10個、おにぎりを4個、スナック菓子を3袋さらに購入していった。コンビニエンスストアでの買い物を終えた五嶽はすぐに住んでいるアパートへ戻った。アパートへ戻っている途中、「カップルの姿による気持ちの落ち込み」がさらに激しく感じてきて、天気は気持ちのよい晴天なのに歩いている途中、五嶽は少し小泣きになっていた。
「・・・私ってこれまで、全然、気の合う女性と出会えるチャンスもなくって、人生これからもずっとこのままなのまともな出会いもなく1人『ぼっち』のままか・・・」
図書館の前から続いてきている道からアパートの前を通っている市道と交差する曲がり角に着く頃には五嶽のその小泣きが大の大人がするには多少恥ずかしいと思われる本泣きになりかけていた。そもそも、街中で泣きながら歩いている大人などまず見かけないであろうけども。
だが、ここでついになかなか出会いにも恵まれずにいた五嶽にとってまるで花が咲いたかのようなことが起きるのである。