098_失意の革命家8 国家観
最後に、今日の会議のメイン。
ラシルが幹部たちに一番聞きたかったこと。
それに先立って、ラシルはフォリオの話を共有した。
政治形態と国家観の話。
中央省庁のようなものを禁城に作り、そこに各国の行政府を集める。
中央集権的な国作り。
いや、国か?
そもそもギルドは国なのか?
それを聞いてみたかったのだ。
「みんなに聞きたい。ギルドはなんだ? 国か? 事実としてギルドの傘下にはいくつかの国家がある。だからここでギルドの存在を定義しておきたいんだが」とラシルは皆に言った。
ミイはニコニコ笑い出し、エアノワリスは自信満々そうだ。
ロメリアももう答えが出ているという表情をしている。
メルバコルも少し考えた後、どうやら答えが決まったようだ。
クゥとセシュレーヌが腕を組み、難しい顔をして考えている。
2人共、後ろに控えている副官と何やら話し合っている。
ベッフィーは最初から無表情だ。
彼女にとって、一番最初の定義付けという行為は最も重要なものだろうから、そこは迷いが無いのかもしれない。本質を付いた答えが来たいできる。
「さて、そろそろ聞きたいんだど。誰から行こう」
この発言を受けて、ピンと背筋の伸びた挙手をした者がいた。
「はい、じゃあエアノワリス。どうぞ」
エアノワリスは立ち上がり、皆を睥睨した。
そして挑戦的に右の頬を吊り上げ、断言した。
「神聖ラシル皇国!!」
シーン。
……。
………………。
チーン。
この止まった空気を勘違いしたのが約一名。
発言者のエアノワリスだった。
あまりにも見事すぎて絶対的な答えだから、誰も疑義を挟めない。
そう勘違いしたエアノワリス。
びっくりするくらいのドヤ顔だ。
説明は不要だと思うけど、という前置きを挟んでエアノワリスは熱弁を振るった。
「我々はラシル様という、唯一絶対無二の存在を頂いている。ラシル様は無論、この世界の神様であらせられる。これがどれほど素晴らしいことかを、この世界の命あるものに知らしめる義務があるでしょう。それを大々的かつ効果的に実践する方法として、神聖ラシル皇国の建国を宣言します!」
宣言されちゃった。
おいおい、宣言しちゃったよ。
こんな空気が会議室全体を包み込んだ。
これを当然のことと思っているのは宣言者であるエアノワリス。
加えて、エアノワリスに付いている副官2名。
ジョブは聖騎士とプリーストだ。
この2人はなんて素晴らしい発想なんだと納得し、感心している様子。
それは他の拠点管理者と副官が、エアノワリスの拠点のマネジメントは大丈夫なのかと心配するほどだった。
「百歩譲ろう。ラシル様の存在は尊いものだし、この世界はそれを崇めることもよしとする」
口を挟んだのはメルバコルだった。
措定はしていないが、この後に続く言葉は絶対に否定だと誰もが予想できた。
「何!? メル!!」
それを悟ったエアノワリスが鋭くカットインする。
「メルと呼ぶな」
メルバコルが睨むというより冷たい目線を送る。
咳払いをして改めて主張を述べる。
「宗教色は良くない。要らぬ争いを呼ぶと思う。ここは極めて機能的にいこうじゃないか」
「どういうこと?」とエアノワリス。
「我々を定義するなのなら、帝国ではないか?」とメルバコル。
他の国々の頂点に立つ存在。
破竹の勢いで他を圧倒し、飲み込んでいく国。
「つまり、ラシル様機関説を説くということか」とベッフィー。
「そういうことではないよ。ただ、帝国と表現するのが相応しいと思うだけさ」とメルバコルが弁明する。
「どちらかというと、共和国ではないかしら。ラシル様共和国」とロメリアが参戦。
首を傾げる幹部たちに、ロメリアは説明を付け足した。
「ラシル様がいらっしゃるというのは嬉しいわ。でも私たちは何でもこうやって話し合って決めているでしょう? 皆で仲良く決める。これは共和制じゃないかしら」
ロメリアが同意を促すよう笑顔を見せた。
「一理ある」と、今度はクゥだ。
「だがしかし、みんなというのは我々幹部のみではないか。最もふさわしい表現は共和制ではなく、貴族制ではないか? そうじゃろう?」と、皆に同意を求めるクゥ。
「私は違うと思うわ」
ミイが切り込んだ。
ギルドのナンバー2であり、ラシルと最も長く一緒にいる、初期メンバー中の初期メンバーであるミイ。
発言力はラシルを除き、ギルドで最も大きい。
皆がミイの発言を待った。
「このギルドは、今も昔もラシル様の独裁よ」
フフン、と聞こえそうな得意気な顔をするミイ。
「ラシル様が全てを決め、ラシル様のご指示に従って私たちが動く。これほど合理的なことはないわ」
「独裁か。ちょっと嫌だな……」
難色を示したのはまさかの独裁者ラシル。
「独裁者ってことだろ? ちょっとアレじゃないか?」
「ラシル様、もちろんいい意味です」とミイ。
「いい意味ってなんだよ」とラシル。
「良い独裁者です」とミイ。
全くぶれない。
良い独裁者ってなんだよ。
ラシルは心の中で呟いた。
「ところで、セシュレーヌはどう思う?」
先ほどから腕組みをして、難しそうな顔で考えているセシュレーヌにラシルは投げかけた。
唇を尖らせているのが可愛い。
「やっぱり、ギルドではないでしょうか。統治とかさういうのは無いので、無政府ギルド。アウトローな感じでいいと思います」
「1週回ったな」とラシル。
「リヴァイアサン的な?」とエアノワリス。
「アナーキズムですか」とメルバコル。
「そういうのは知らないけど」とセシュレーヌ。
「うーん。困ったな」
ラシルが軽く溜息をついた。
そういえば、まだ聞いてない幹部が1人いた。
「ごめん。ベッフィーはどう定義する?」
ラシルの問いかけに、皆の視線がベッフィーに集まった。
ベッフィーは極めて無表情に、だけど真面目に言った。
「研究機関ではないでしょうか」
各所で溜息が漏れた。
「ベッフィー、それはお主だけじゃろう」とクゥ。
全員を代表した意見だった。
「それは、そうかもしれない」
ベッフィーが心なしか、少し俯いた。
「ベッフィー、意見をありがとう。ベッフィーらしいいい意見だと思う」
ラシルがすかさずフォローを入れる。
それを少し白い目で見るミイとクゥ。
ベッフィーの顔は少し赤くなった。
決して褒めてはいないんだけどなとラシルは思う。
「では仕方ない。この手は使いたくなかったが」
ラシルが仕切り直しの一言。
「くじ引きで決めますか?」とミイ。
「いや、くじよりももっと確実な方法がある」
期待の篭った眼差しがラシルに注がれる。
「ふっふっふ。ここは、ショウに一任する」
…………
「って、え!?」
思わず変なリアクションを見せたショウ。
まさか振られるとは思わなかっただろう。
ショウの立場はあくまでもクゥの副官である。
クゥの後ろですました顔をして、上司が変なことを言わないようにだけ神経を尖らせていればいいはずだった。
「任せたぞ、ショウ」とラシル。
「センスが問われるわね」とミイ。
「責任重大じゃぞ」と上官のクゥ。
「まぁ、間違いないか」とメルバコル。
「頑張って」とロメリア。
セシュレーヌとベッフィーは無言でショウを見つめる。
ショウの胃は急速に痛み出した。
「まぁ、追い追いでいいよ。これからする話と関係があるんだ」とラシル。
「はぁ……」とあまり気の乗らない返事のショウ。
「中央省庁と官僚機構を作ってくれ」
ラシルは笑顔でショウに頼んだ。
ショウは口をパクパクしている。
「なに、簡単だよ。各国から役人を集めて、官僚を育成して、組織を作る。今ショウがやっていることを正式に組織化してほしいというだけさ。もちろんショウ一人じゃない。そういうのが得意そうな人材も付ける。そうだな……」
ラシルは顎に手を当てて考え始めた。
「ニシュとブッシェルでどうだろう」
ラシルに呼ばれたホーリーナイトのニシュはスイッチが入ったように背筋を伸ばして、ラシルを見た。
ニシュはエアノワリスの副官だ。
ブッシェルも羊頭を回転させるような、非動物的な動きでラシルを見た。
「最強の官僚機構を作ってご覧に入れます」とニシュは言って頭を垂れる。
「畏まりました」と同じくブッシェル。
最強じゃなくてもいいのに。
「他の拠点からも数名ずつ参加するように。横断的に各国を管理する機構を作りたい」
ラシルは現時点で考えてある構想を話した。
まずそれぞれの分野に特化した省庁を作る。
他国の侵略や武力行使などの脅威から領土を守る、防衛省。
国内の治安維持を目的とする、警察機構。
子どもたちや各国民のレベリングなどを包括的に管理する、教育機関。
食料や医療、生活の質などの向上を支援する、保健省。
施設の建築や産業の育成を支援する開発省。金で納められる予定の税を効率よく徴収できるように、仙術で金を創出する指導も行う。
各国が抱えている諸問題を解決し、各国間での交流の橋渡しを担う、自治・内政省。
これらの各省庁を置き、その下に王国があるというイメージだ。
連合王国や連邦国家、合衆国のような構造かもしれない。
「他にもアイデアがあれば適宜言ってくれ。ショウは忙しくなるけど、頑張ってな」
「わかりました」
腹をくくったような表情をしているショウ。
とても凛々しく見える。
「あと、ギルドのメンバー、各国の王族、研修所にいる国民とその他の国民、この前スカウトした竜種にエルフ。続々と構成員が増えている訳でが、ここで一度整理をしておきたい。元のゲームの世界から一緒に来た、お前たちギルドのメンバーは特別だとして、それ以外の者の身分を分けたい」
「身分制の導入ですね」とミイ。
「どのような形をお考えですか?」とメルバコル。
「固定的なものではなく、流動的なもの。家に付随するような半永久的なものではなく、一身専属のものを考えている。バッチのようなもので表せられればいいのだが」
「大枠でギルド、そして各国や種族などの出身母体、能力と地位が一目で分かるようなものがいいですね」とメルバコル。
「制度設計を任せてもいか?」
「お任せください。各王族や一般国民の意見も取り入れたものにします」
「うん、よろしく頼む」
ラシルの言葉にメルバコルは自信アリ気に頷いた。
ここ最近、結構な勢いで傘下に入りたいと希望する国や集団が増えている。
無論、彼等がギルドに害を為す存在かどうかのスクリーニングも必要であり、実際に行っている。
禁城をはじめ、各拠点にスパイはいないが、各国の都市にはすぱいの存在がある。
それは主に桃源郷方面や朱雀帝によるもの。
テロなどを起こそうとするものでなければ、泳がせておくのが基本方針だ。
無理に仲良くしろとまでは言わないが、交流を持ち、この世界の住人を知ることが安全保障に繋がると思う。
だから新しく仲間に加わった者に積極的に関与してもいい。
むしろそれは推奨されるべきだ。
ただ、それぞれの国は歴史的なものからくる、感情的なもつれを抱えている。
それには気を付けなければならない。
しかし最終的に、感情は感情でしか解決できないのもまた真理だと思う。
その点については、闘技場などで徹底的にやり合うことも推奨する。
一種のスポーツのようなものだ。
この理念を皆に伝えて、ラシルは会議を閉じようとした。
「一つお願いがあります」
発言したのはエアノワリスだった。
「ん、どうした?」
「この世界に来てから、まだラシル様の御姿を拝見したことのない者が多数おります」
「そうだな」
ラシルは拠点の全部を回っていない。
この世界に来てから行ったのは、禁城、龍王城、精霊の里、ミイのヴァンパイア城だ。
エアノワリスの拠点とベッフィーの拠点、それにメルバコルの拠点には未だ行っていない。
顔を合わせていないギルドメンバーのほうが多い。
「私の拠点のプリーストたちも、ラシル様に会いたがっております。ここで、各拠点のラシル様のご訪問をお願いしたいのですが」
エアノワリスの言うことはもっともだ。
レベリングに外部接触に取り込み、色々と急ぎ過ぎていたのかもしれない。
仲間内の触れ合いが無かったとラシルは反省した。
「うん、わかった。みんなこの新しい世界で不安だろうし、挨拶周りも大事だもんな」
ラシルは笑顔で答えた。
「ありがとうございます」とエアノワリスが嬉しそうに言った。
善は急げ。
「じゃあ、明日行こう」とラシル。
「それはちょっと」
エアノワリスが申し訳なさそうに言う。
ちょっと空気が読めなかったかとラシルはまた反省した。
「急すぎるかな」
「はい。準備がありますので」
「わかった。できる限り全員と顔を合わせたい。それぞれの拠点に1日ずつ使って、昼食や夕食を一緒に食べるというプランで行こう」
「皆、喜ぶと思います」
「ミイ、スケジューリングを頼む」
「畏まりました」
「他の皆もよろしくな」
こうして、色々と決まった会議が終わった。




