097_失意の革命家7 温泉とうどんと
もう帰ったと思ったセドゥラモントとジョナサンがまだいた。
昨日は警戒心があったからか、最初は晩ご飯を食べたら帰るという話だった。
そこから二次会に加わり、帰れないので宿泊をして、そして昼前の今だ。
こちらとしては全然かまわない。
何日いてくれても大丈夫なのだが
軽く体を洗って、セドゥラモントたちのいる浴槽へお邪魔した。
「こんにちは」
「こんにちは、ラシル様」
「おはようございます、ラシル様」
2人が様付けで挨拶してきた。
昨日は殿だったのに。
心境の変化か。
「昨晩は非常に楽しい夜でした」そう言ってセドゥラモントとジョナサンは深く頭を下げた。
「楽しんでいただけたようで何よりです。いかがですか、うちの自慢の大浴場は」
「これも素晴らしい。昨晩、木国王に必ず入って行けと言われた理由がわかります」
「研修所にもここよりは小さいですが、同じ施設がありますからね」
「ラシル様は我々が想像も付かないような力をお持ちですね」
「そんなことないですよ。本当は、こういう温泉や美味しい料理、何よりギルドの仲間を守れればそれでいいのです」
「私もこういった力があれば、同じ仲間のエルフを守れたのでしょうか」
「使い方によりますが、力はあったほうがいいものだと思います」
ラシルの言葉にセドュラモントは目を細めた。
「ラシル様、折り入って頼みがございます」
「なんでしょう」
「私たちもギルドに入れていただけないでしょうか」
「親父……」ジョナサンが呟いた。
「いいですが、力の行使には制限がかかりますよ? それでも構いませんか?」
「ええ、構いません。どうかよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」とジョナサン。
「わかりました。では木国王と同じ、王族用の研修所に入っていただくのがいいと思いますが、よろしいですか?」
「願ってもないことです」
「ようこそ、我がギルドへ」
セドュラモントとジョナサンが仲間になった。
その後、2人とゆっくり話あった。
そしてお風呂から上がる頃には、エルフの国をどうするか、大まかなプランができた。
昼食を一緒に食べた。
朝食はうどんにした。
セルフ方式で、用意された麺を自分で熱湯で湯がく。
十分に湯を切ってから器にあけ、だし汁を入れる。
その上に刻みネギと生姜。
お好みで天婦羅やとろろなどを乗せる。
ラシルの動作を見様見真似で真似をした二人。
興味深そうに見ながらやっていた。
白くてちょっと太くて長いうどんという物体も、その形状が面白かったようだ。
「こ、これは非常に美味いですな!!」
一口すすり、叫ぶセドゥラモント。
何も言わず夢中で食べるジョナサン。
「昨晩は沢山飲んだので、お腹に優しいものにしました」
「このテンプラというのも非常に美味しい。野菜の風味が生きている」
セドュラモントはアスパラガスのテンプラを頬張っている。
結局、セドゥラモントは替麺1回。
ジョナサンは2回もしていた。
昼食後、2人は一旦セドュラモント国の自分の家に戻り、荷物をまとめるという。
神仙に転移での送迎と護衛を頼んだ。
近隣に家などはないため、ご近所付き合いも皆無。
挨拶する親しいエルフもいないとのこと。
弟のエルフ王も面会謝絶の状態で、会いたくても会えないらしい。
だからなんの後腐れもない。
亡命みたいなものだから、後腐れはあるのか。
ともかく、家の片付けが終わったらすぐに研修所に引っ越し予定だ。
「木国王たちにも話を通しておきます」
「それは助かります」とセドゥラモント
二次会でお酒を飲んで語り合い、木国王との絆ができたようだ。
色々なことをなんとか乗り越えてほしい。
セドュラモントたちと別れたラシルは、近くにいた護衛の神仙を呼び、夜に幹部会議を開催するための幹部たちへの周知を依頼。
それとは別にミイに念話をした。
4時に禁城の地下の例の場所で待ち合わせとだけ告げて終了。
用件はあえて言わなかった。
「さて、レベリングするか」
ラシルはミイの拠点に転移し、ミイの副官の執事に適当なモンスターの召喚を依頼した。
16時5分前。
ラシルはミイとの約束のため、禁城地下三階の昔の拠点保存地に来ていた。
ミイは既にそこで待っていた。
ソワソワしている様子が遠くからでも分かる。
「よぅ! お疲れ!」
ラシルは極めて自然に、軽い挨拶をした。
「お疲れ様でございます、ラシル様」
ミイはどうやら入浴を済ませてきたようで、頬が上気していた。
入浴後のはずなのに、服装がいつも以上にオシャレでメイクもしているのは気のせいだろう。
「本日のご用件は?」とミイ。
「いや、その、血を与えようと思ってな。そろそろアレだと思うから」
「まぁ!!」
わざとらしく驚いてみせるミイ。
絶対知っていたリアクションだ。
「ほら、さっさとやるぞ。この後すぐ会議もあるからな」
「ラシル様、そう急かさないでください。あちらにお布団も敷いてあります」
「いや、布団が汚れるだろう」
「布団は汚れるためにあるのです」
「うん、早くしよう」
「もう、ラシル様ったら本当に……」
本当になんなんだ? と思うも、そこに触れては泥沼になる気がしたのでラシルはスルーした。
服をはだけて肩をだし、後ろを向く。
ちょっと前向でやるのが気分的に恥ずかしかったからだ。
「では、参ります」
ミイがそう言って近づいてきた。
荒々しい息づかいが聞こえる。
久々の血だから興奮しているのだろう。
白くほっそりとした腕がラシルのお腹の辺りに絡みつく。
後ろから抱き着かれたような体勢になり、ラシルも少し恥ずかしくなって赤くなる。
「いいですか?」
耳元でミイが呟く。
「いいって、いいから早く」
ラシルの焦った声にミイがクスリと笑った。
「いただきます」
そう言ってミイはカプリと……
「ひっ!! 違う! そこは違う!!」
ミイがかじっていたのはラシルの耳だった。
「あら、間違えました」
「間違える訳ないだろう!」
「あまりにも可愛いお耳だったもので、つい」
「早く、いいから早く」
ミイがラシルの肩を舐めていく。
噛まれても痛くないようにするための処置だ。
ラシルは無心でこれを耐え凌ぐ。
そしてついにその時がやって来た。
「カプリ」
そんな音が聞こえそうな勢いだった。
血が吸われている。
流れている血液が、逆流しているように、体中の血の流れがかき乱されていく感じがする。
体中の血管内がなんだか痒くなる。
それ以上に歯を突き立てられた肩がヤバイ。
快楽でどうにかなってしまいそうだった。
後ろから巻き付いている細い腕が、ラシルのお腹や胸をまさぐっている。
これは必要ないだろう。
出そうになる吐息を堪えて、ラシルはことが終わるのをただひたすら待った。
10分くらい経っただろうか。
「ごちそうさまでした」という声が聞こえた。
最後の数分は吸われていない気がする。
それを指摘すると、「気のせいです」と言われた。
「ちょっと長くなかったか?」
「吸血鬼にとっての食事ですから。それに久しぶりでしたから」
「そうか、そういうものなのか」
「はい、そういうものです」とミイは嬉しそうに笑った。
これで少しは機嫌もよくなり、奇行が止むことだろう。
ラシルは綺麗に傷の消えた肩をさすりながら、腕を回した。
気を取り直して幹部会議。
最初に最優先事項のレベリングについて、メルバコルからの報告。
ラシルの現在のレベルは620。
引き続き悪魔種のレベリング中。
ミイは天使種の610。
クゥは悪魔種の630。最近頑張っている。
メルバコルは仙人種の620。
エアノワリスは天使種と仙人種、竜種をカンスト。精霊種に着手し、610。
ロメリアは精霊種、仙人種、竜種をカンスト。天使種の570。
セシュレーヌはもうすぐ仙人種をカンスト予定で590。
ペッフィーは精霊種をカンストし、600。次は竜種にするという。
それぞれの拠点の副官の何人かは3種族を取得済みである。
一般兵も全て、元の種族と2種族目をカンストし、3種族目に突入している。
ラシルはこれから研修所での仕事が増えてくるので、今の内に上げられるだけ上げておくようにと通達した。
次に、懸案事項であるエルフの国、セドゥラモントの対応について。
セドゥラモント卿とジョナサンがギルドに加わったことを告げた。
特に反対意見などは無かった。
「エルフ国の対応についてだが、セドゥラモント卿と話し合った結果、対応方針が概ね決定した」
ラシルは概要を説明した。
幹部たちから反対の意見は出なかった。
「前も言ったとおり、今回の戦いは違う。今までとは質が違う。これまでは事態に受動的に対応してきた。しかし、これから我々は積極的にこの世界に介入していこうと思う。それは今現にある秩序を多かれ少なかれ破壊する行為だ。その場合、反発や恨みを買う事態も発生する可能性がある。反対の者はいるか?」
拠点管理者たちはみんな笑顔でラシルを見つめていた。
少し目がキラキラしすぎているような気がする。
それでも了解の意思だ。
「では、既得権益に切り込むぞ」
ラシルは決意と共に宣言した。
会議は進んだ。
各拠点管理者からの報告で、ミイとエアノワリスが発言した。
他の管理者からは特に報告がなく、割り当てられた仕事が順調に進んでいるという。
「西の魔女の動きについて判明したことがいくつかあります」
ミイが説明を始めた。
その概要は次のとおり。
彼女たちが拠点にしているのは、北のエルフの国内。
都市の外れにある屋敷にいる。
店は構えていないが、マジックアイテムを販売している。
いくつかを除き、アイテム自体は大したことがない品質。
販売先は北のエルフ、玄武帝、中央エルフ、そして桃源郷であるとのこと。
主に中央エルフ向けに販売されている商品の中で、気になるものがあるという。
それはブレスレットやネックレス。
見た目はごく普通のものだが、その中身が問題だった。
効果は精霊魔法を大きく強化するためのアイテムで、身に付けた者の魔法や仙術を行使した時の威力が大幅に上がる。
しかしその効果を出すための手法が、ミイ曰く違法チックなのだ。
「魔術効果を付与するために、人やエルフを生贄に使っています」
人やエルフ、生きているものにはエネルギーがある。
仙術や魔法は自ら有しているエネルギーをその魔法発動に使う。
精霊術のように、自然エネルギーを理由するものもある。
ただ、生物はエネルギーを摂取しやすい。
レベリングの際のレベルアップだって、殺すことで相手のエネルギーを取り入れているようなものだ。
「もちろん、同意なしの非合法行為だな?」とラシルが確認する。
「そうです。エルフ王は奴隷の実験体を西の魔女に差し出すことにより、それを使用した強化アイテムの供与を受けています」
「わかった。引き続き監視してくれ」
「畏まりました」
エルフ王がもしそういったアイテムを得ているとすれば、エルフ軍は強化されていると考えるべきだ。
この前の精霊の里での戦闘時にはそういったアイテムを付けている者はいなかった。
難民を相手にする程度では、アイテムを使わなくても勝てる相手だと考えたのだろう。
何かしらの軍事行動に踏み切ると盛られることから、監視と対応体制は密に構築する。
次の議題に移った。
オキサイドから話のあった、研修所増設の件を話した。
レベリングの合間の時間を持て余している者もいることから、研修所の教師役の増員は全員一致で賛成された。
そして祭りの開催について。
研修所の収容人数を大幅に増加させても、入所者数が定員割れしては意味がない。
そのための、各国国民へのギルドのイメージアップ作戦だ。
祭りの内容はどうするか。
「我々の売りは温泉と食べ物だと思います。これは研修所でも証明されています」とメルバコル
「僕もそう思う。温泉は気持ちいいからな」と、セシュレーヌも頷いている。
各国の各都市にスーパー銭湯を作ってみてはどうかという意見や、屋台での食べ物の販売や無料配布という意見が出た。
こちらの負担があるが、先行投資だと考えればいい。
また、最近研修生の中でラシルを崇める動きが広がっている。
それを踏まえ、研修生に修学旅行という名目で祭りの期間に各国を来訪させるという案も出た。
住民たちとの交流をし、研修所に入っている者の生の声を聴くことで、入所者の獲得を目指す。
「そうだな、お祭りとえばクゥだな」
!!
黙って話を聞いていたクゥの耳がびょこんと立った
「クゥ、任せてもいいか?」
「お任せください主様。妾が必ず成功させてみせます」
ゲームの世界でのクゥの設定は巫女であり、神様だ。
祭事を司っていたので、任せるにはもってこいだ。
「任せた。祭り好きの者を各拠点から横断的に引き抜いて実行委員会を組織してくれ。各国との連携も頼む」
「任されたのじゃ!」
クゥは元気よく返事をした。
最近ショウばかりに仕事が偏り、クゥは若干暇していたのだ。
ちょうどいいタイミングだ。
これで今日の議題はほぼ終了。
残すは1つのみとなった。




