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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
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095_失意の革命家5 商人の野望


 オキサイドは鋭い目をして言う。

「これからは恐らく、質の高い物が求められます」


 オキサイドの説明はこうだった。

 これからラシルの支配下にある地域は否応なく発展していく。

 軍事力を持って安全保障が確立される。

 ポンプ輸送している食料によって飢餓が消滅する。

 転移術によって物資の移動が容易になり、物流の概念が消滅する。


 環境が大きく変わり、人々の日常も劇的に変化する。

 食料の安定供給によって、労働によって日々の糧を得ていた一般国民の全てが、その役から解放される。

 働かなくても食べれるようになり、人々は暇を持て余すようになる。

 オキサイドはそれを「国民の総貴族化」と命名していた。

 

 暇になった人々はより質の高い暮らしを求めようになる。

 同じものばかりを食べていては飽きるので、より質の高い料理を求めるようになる。

 何もしない日々に耐えられない人の中には、働きたいと申し出る人もいるだろう。

 また、知識を身に付けたいという人も出てくるだろう。

 他国を旅して回りたいというにニーズも発生するかもしれない。

 そして娯楽の概念も一般化していく。

 より質の良い物を食べ、娯楽を楽しみ、旅行もして、知識欲を満たし始める。


 そういった状況かになった時、人々はより質の高い暮らしを実現するために、その実現の手段であるお金を稼ぐ。

 そしてそのお金を使って財をサービスへと変換していく。


「現在各国には金貨がありますが、それとは別に、統一貨幣を作るべきです」


「その材料はどうする?」


「はい。国民に仙術を身に付けさせ、錬金術で金を生み出し、税として納めてもらいます」


 なるほど。

 金は仙術や魔法で製造できる。

 製造量はごく少量であるが、全国民を動員できれば、凄い量になるだろう。

 金のみでの取引は出来ないようにして、ギルドで金を貨幣に変換してそれを流通させる。

 何割かを税金として徴収する。

 そうすればギルドも潤う。

 ゴールドは有料召喚の際や魔法で物質を製造する時にも材料の代わりになる。

 いくらあっても足りない物ではない。


「そのために、全国民に研修所に入ってもらいます。そこでの暮らしを経験すれば、価値観や考え方も変質するでしょう」


「だからギルドメンバーを総動員すると」


「そうです。皆ラシル様の仙桃を食べるのですから、ギルドの戦力向上にもなりますし、税金も入ってきます」


「わかった。エルフの一件が片付いたら始めることにしましょう」


「ありがとうございます」


「それで、オキサイドさんのメリットは?」

 ギルドの人間でないこの世界の住人が、ここまでギルドのために本気で考えてくれるのはおかしい。

 ちょっと疑いすぎかもしれないが、基本的に善意というのは存在しないとラシルは考えるからだ。

 メリットが無ければ人間は他人に力を貸さない。

 善意で見返りは無くても良いという人間に限って、実は見返りを求めている。

 それは参加することでの楽しさだったり、心の平穏だったり、満足感だったり、感謝の言葉だったり。

 正義感や使命感だったりする。

 この代償欲求を自覚して言語化するのはとても大事なことだ。

 自分の代償欲求に無自覚な人間ほど、質が悪い。

 単一の正義感しか持っていない、碌でもない人間だ。


「私のメリットはもちろんあります。水国が発展するのもそうですし、そこでいち早くビジネスができるからです」



「へぇ。例えば?」


「質の高い料理を提供する食堂やレストランの開設。温泉施設を備えた保養施設の運営。他国への旅行の際の旅行業や案内業。アイデアはまだまだあります」


「サービス業に特化するということですね?」


「まずはそうです。しかし、将来的に国が発展していくと、各国では特色が出てきて、何かの分野に特化していくと考えられます。木国は王と国民が料理に興味を示していますので、料理人を輩出する美食の国。土国は鉱山物での加工品が得意なので武器や防具、食器などといった特産品の製造。文化が発展していけば、美術品など、芸術的に価値のあるものが沢山出てきます」


「そこにも商機があると」


「大いに」


 オキサイドは美味しそうにワインを飲むと、無邪気に微笑んだ。


「商売の本質は相互に豊かになることです。決して一方ではなく、関係者がお互いに。ラシル様が実現される支配領域で、それを実現できると確信しています」


 オキサイドの演説めいた説明にラシルが感心していると、フォリオが口を開いた。


「ラシル様にご提案がございます」


「ん? 何?」


 次は自分の番だと言わんばかりにフォリオは説明を始めた。


「統治機能の強化を図りたいと思います。具体的には、各国の行政府を禁城に設置し、ラシル様の下で一元管理をして、各国を運営するものです」


「え?」

 いきなりどうしたんだろう。


「驚かれるのも無理はないと思いますが、そうあるべきだと進言いたします」

 フォリオは自信満々にキッパリと言い放った。


 一元管理?

 ギルドの勢力は広げず、ゆるーく行く路線はどうなった?

 いや、そもそもそんな路線は無かったか。


 メルバコルをチラ見すると「中々にいいアイデアです」と言って、満足そうに頷いている。


「その、今のままじゃダメなのか?」


「はい。今の世代はいいのですが、次の世代に不安が残ります」


「次の世代?」


「ラシル様を始めとしたギルドの方々は長寿命ですが、我々は違います。ラシル様が至っていらっしゃる所まで進化すれば別ですが」


 俺は長寿命なのか? とラシルは疑問に思ったが、その間の無言を肯定と捉えたフォリオは言葉を続けた。


「現在の統治形態は、非常に原始的なものと言わざるを得ません」


「原始的?」


「武力や血族を正当性の背景とした支配形態です」


「俺のギルドも似たようなものだが」


「それは違います。確かに、ラシル様とギルドの皆さまには絶対性がありまず、この世界のごく一般的な国家とは意味合いがまるで異なります」


「そうなのか?」


「はい。我々水国では政治学の研究が盛んです。どの形態が最も望ましい統治のあり方なのか。決断はいかようにすべきか、それを日々研究しています」


 フォリオは言葉を切り、よく冷えたコーラで喉を潤した。


「統治機構としてのラシル様のギルドは、正に理想形か、それに近い物があります。ラシル様が所有している本を読んで勉強をしておりますが、最も重要なのはパラダイムシフトであると考えます」


 パラダイムシフト?

 何だっけ?


「各国の統治機構は、王という存在が立法権、司法権、行政権の全てを掌握しています。そもそも、その権利の細分化すらなされていない状況です。その状況下で、我々にできることといえば、最も善良な王の選び方を検討するという次元に留まっています」


「それでいいんじゃないか?」


「いけません。かつて水国は争いによって最も強い勢力の長が王になるというものでしたが、戦争を始めました。火国と木国、そして風国は血脈によって王を決定しています。土国では、権力集中を避けるため、都市国家制を取っていますが、それでは1つにまとまっている他国に太刀打ちできません」


「うちのギルドも似たようなものだけどな」


「そこなのです。ラシル様のギルドと一般的な国家との違いは、構成員の質によるものです。知識や振る舞い、そして軍事的強さ、ギルドのどの方もある一定以上であり、それぞれ特に専門的な分野を有しておられます」


「うーん」


「最も重要なのは、教育です。ラシル様の洗練された、進んだ統治機構を各国に学ばせるのが、一番早い。その間に国民に教育を施し、民度の底上げを図ります」


「なるほどねぇ。禁城で一元管理して、教養をメインとした教育をするということかな」


「はい、仰る通りです」


「でも各国王族は反対するんじゃないかな? 自分たちの権力基盤に関わる話だろう?」


「それでしたら、承諾を取り付けています」


「え?」

 ラシルは耳を疑った。


「むしろ、全員が望ましいという意見です」


「またまた、そんな冗談を」


「本当です」

 メルバコルが隣でフォリオの援護射撃を行った。


「ごめん、上手く理解できない。政治は苦手なんだ」


「パラダイムシフトの影響を最も強く受けたのは各国王族でしょう。統治して君臨するよりも、もっと意味深いものを見つけたようです」


「意味深いもの?」


「有意義な生き方です。木国王は食に強い興味がありますし、火国の皆さまは強くなることを心から楽しんでおられるようですし、オキサイド様は国よりもビジネス。土国の代表たちも武器や装備に興味があります。毎日レベリングをして強くなり、温泉につかり、多種多様な美味しい料理を食べ、空いた時間で趣味に興じる。自国の政治をしている時間などないのです」


 本当なのか? という目を向けると、メルバコルもオキサイドも大きく頷いた。


「ショウ様は間違いございませんからな」と真っ赤な顔でウンウンと首肯するシュウライ。


 マジか。


「実際、王族の皆さんは各国とのやり取りをされていますが、ほとんど全ての決断をショウ様に仰いでいらっしゃいます。ショウ様の裁可なしには物事が動かなくなっている状態です」


 嘘だろ?

 ショウが参加の国を裏から全て掌握していた、だと?

 

「まさか、フォリオの所は違うよな?」


 政治学が趣味ですって言っているんだもの。

 都市の1つくらい自分で統治しているに決まっている。


「いえ、恥ずかしながら……」


 はあ?


「フォリオ君、君の得意分野は何かな?」


「……政治学です。ですが……」


 ラシルは困った子を見るような目でフォリオを見た。


 フォリオは誤魔化すようにチーズを口にお穂張り、コーラで飲み干した。

 ケロッとした顔で、このチーズ美味しいですね、とでも言いだしそうな雰囲気だ。


「僕の専門は政治学の実践ではなく、研究です。それに政治学はメインの一分野でしかありません」


 どういうこと? と聞けば、長い説明が待っていそうなので、ラシルは聞くのを止めた。


「あの長い理念の前置きはつまり、もう既にショウが各国の行政のトップの役割をしているから、それを正式に認めてほしいということと、ショウの指示を仰いで実践する行政官の育成をしてほしいということか」


「は、はい。流石はラシル様、ご聡明であらせられます」


「わかった。後でショウに言っておくよ」


「ありがとうございます」


「ただし」


「ただし?」


「その時の打ち合わせには君も入ってもらう」


「う、承りました」


 フォリオはラシルの強い眼光にたじろいだ。

 君も巻き込むよ? という意味合いだった。


 その後も、オキサイドとフォリオはどうすればラシルの支配力を上げることが出来るのか、そのアイデアを熱心に語り始めた。

 それをラシルとメルバコル、シュウライの3人が聞き手に回るという構図になった。


 ここで出た意見は主に次のとおり。

 まずは近々予定されている祭りを成功させようというもの。

 可能な限り全員が恩恵を受けられるようにする。

 各村と都市、そして首都をつなぐ転移門の設置。

 各都市間では各国の民が交流できる催しを考える。

 禁城の広場を解放し、フードコートにする案も出た。

 消費の目途が立たない量のストックがある料理を、来た人に食べさせる。

 ラシルとギルドに親近感を持ってもらうための戦略だ。

 これが成功すれば、研修所への傘下希望者も増えるだろう。

 また、現在研修所にいる研修生の修学旅行を兼ねて、各国の訪問も検討する。

 各都市や村の、他国と仲良くすることに懐疑的な人たちも研修生の姿を見たり、直接話を聞いて、考えに少しでも変化を与えられればいいいうものだ。


 次に研修所の増設。

 祭りの後、研修生の受け入れを開始する。

 戦闘レベルのカンストに必要な期間は約1か月から2か月だから、2か月毎に受け入れていく。

 教師人はギルドの構成員。

 そこに研修所の卒業者も加わる。

 数万人規模での受け入れとなるだろう。


 ここでフォリオが主張したのは、研修所卒業後の政治学の習得だ。

 いわゆる、大学のような構想だった。

 十分に強くなり、パラダイムシフトを終えた彼等を、次世代を担うリーダーとして、政治学や思想、教養などを叩き込み、フォリオ曰く、なんでもこなせる全能人を輩出するという。


 これについては、研修所後の進路の構想もあるので、それと一緒に検討することにした。


「最後に、身分制の導入を提案します」

 そう言ったのはフォリオだった。


「身分制?」


「はい」


 フォリオの言う身分制度の概要はこんな感じだ。

 まず元々ギルドに所属していた人とこの世界の住人とでは、圧倒的な格差がある。

 ギルドの構成員は家族のような強固な絆がある。

 同じように、各国の国民にも同郷の絆がある。

 これから研修所で沢山の人間や種族を受け入れていくにあたって、それぞれの出身地の身分を明かすほうがいいという。

 強さやそのランクに応じて、何か目に見える形でそれを判別できるようにするのがベター。

 研修所で、たまに神仙の方だと知らずにね研修生が生意気な口をきいているのを見て、冷や冷やすることがあったという。


「身分は固定的なものでなくてもいいのです。職位や立場が分かるものであれば、人間関係は円滑にいくでしょう」とフォリオ。


「わかった。検討しよう」とラシル。


「ありがとうございます」



 その後も、オキサイドやフォリオの熱心な話を聞いたり、カウンター席から移って来た白虎と話したりして、時間が過ぎていった。

 みんな時間を忘れて楽しんでいるようだった。


 ラシルはバーテンに明日の起床時間に起こすように頼んだ。

 合わせて、起床と同時に酔い覚めの魔法も依頼した。

 明日はセドゥラモントを出立する日。

 転移魔法で消える訳にはいかないから、朝早くに宿屋を出て、町から遠く離れたところまで行く必要がある。

 ちゃんと徒歩で来ましたよというポーズのためだ。


 たらふく酒を飲んで語り合い、会はお開きになった。

 ほとんどみんな、泥酔したのはご愛嬌。

 

 セドゥラモントとジョナサンは、帰るにはちょっと酔い過ぎているで、泊まっていくことになった。




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