093_失意の革命家3 革命家の過去
デザートとお酒を楽しんだ一行は、二次会に流れた。
ラシルのぶっこんだ話がストレスを与えたのか、それを解消するために大量のお酒と少しの時間を必要とするようだった。
二次会は会談という形式ではないので、純粋にお酒を楽しむための場所に移動した。
ラシル秘蔵の、禁城の中にあるバーだ。
カウンター席が8つにボックス席が3つある店内は、ほぼ満員状態になった。
「ほう。このような場所もあるのですか」と感心しているオキサイド。
「ここは酒場のような場所です。ディープにお酒を楽しむために作りました。いつも飲んでいるものより、ちょっといい物が出てきますよ」
「それは有り難い。楽しみにさせていただきます」と嬉しそうなオキサイド。
このバーにバーテンダーは3人いる。
神仙と悪魔種と竜種だ。
そのうち女性は神仙の1人だけ。
このバーに来るのはこの世界に来て初めてのことだ。
バーテンダーたちもやる気満々で気合いが入っているように見えた。
各々それぞれ好きな席に座った所で、バーテンダーからミックスナッツとチーズの盛り合わせ、ソーセージの盛り合わせが席に届けられた。
ラシルは店内を見渡した。
まずは奥のカウンター。
ロメリアとエアノワリスの間に白虎が挟まれて座っている。
先程の話の続きだろうか。
心なしか、白虎は居心地悪そうだ。
ロメリアは青色のショートカクテルを。
エアノワリスはオレンジ色のロングカクテルをそれぞれ注文していた。
白虎はまだ決まらないらしく、メニュー表とにらめっこしていた。
それを邪魔するように、エアノワリスが白虎の服を触ったり引っ張ったりしている。
白虎は迷惑そうに手でそれを払いのけているが、エアノワリスの方が上手である。
仲良くなることはいいことだ。うん。
ボックス席の一つでは、オキサイドとシュウライ、フォリオに加えてメルバコルが座っていた。
シュウライは日本酒を頼み、オキサイドは赤ワインを頼んでいる。
メルバコルも赤ワインで、オキサイドに自分の拠点で作った新作の赤ワインをレクチャーしていた。
フォリオはまだ未成年なので、もちろんソフトドリンク。
最近はコーラにハマっているようだ。
あの色と不思議な味、そして炭酸に魅了されたと言っていた。
もう1つのボックス席では、レイラン・レイリン姉妹とエザイア、そしてリャンエンが座っていた。
レイランは赤色のロングカクテルを頼んでいた。
おそらくあれはトマトベースだ。
妹のレイリンも姉と同じものを。
エザイアは透明なロングベースのカクテル、炭酸の効いたものを頼んでいた。
リャンエンはウイスキーの水割りだった。
親族と身内でかたまった席だ。
カウンターのもう一組に目を向ける。
ミイとナスカのペア。
ナスカはピンク色の炭酸の効いたロングカクテル。多分ピーチ味。
ミイはブランデー。酒豪だ。
ナスカがミイに何か相談しているらしく、顔が飲んでいるカクテルと同じ、ほのかにピンク色に上気していた。
NPCがここまで複雑な自我を持つというのは面白い。
大事にしようと思う。
最後のボックス席。
木国王とセドゥラモント、ジョナサンにルニエスティが座っている。
木国王はミード、セドゥラモントは焼酎を飲んでいた。
ルニエスティは白ワインで、ジョナサンも同じものを飲んでいた。
ジョナサンの目線はキョロキョロしており、明らかに場慣れしていない様子だった。
どうせ、「僕も彼女と同じものを」とか言ったに違いない。
明らかに、誰がどう見ても初心だ。
全ての席を回ろうと思う。
ホストなのだから、皆の話を聞いて回って挨拶するのだ。
サラリーマン時代の時とは違う。
あの頃は一次会が終わるとそそくさと帰っていた。ゲームをするために。
それなのに今は二次会のホストだ。
成長したと思う。
人生、何があるか分からない。
まずは今日の主賓である、セドゥラモントとジョナサンのいるボックス席へ。
席に近づくと、ラシルの存在にすぐに気づいた木国王がセドゥラモントの隣を開けてくれた。
「さぁ、ラシル様、こちらへどうぞ」
「どうも」
すぐに注文を取りに来たバーテンダーにビールを頼んだ。
「ラシル様、通ですね」
「ええ。最初はビールと決めているもので」
「ほほう。それは面白い」
すぐにビールが運ばれてきて、乾杯をした。
「セドゥラモントさん。今日は急な誘いにお越しいただき、ありがとうございました。そして先ほどはすみませんでした。プライベートなことをベラベラと喋ってしまい」
ラシルは頭を下げた。
その様子を見て目を見開く木国王とルニエスティ。
「いえ、過去のことですから。しかし、ラシル殿が真剣に考えてくださっているということは伝わりました」とセドゥラモント。
「簡単にはいかないことですから」
「ええ。簡単ではありません」
セドゥラモントは焼酎を呷ると、おかわりを注文した。
「今日は非常に気分が良い。本当に美味しい料理と、久方ぶりのお酒。それはそうと、ラシル殿、あなたはこの世界の住人ではないですね?」
ラシルは頭を打たれたようなショックを受けた。
ミイとメルバコルが鋭い目でこちらを見ている。
どうしますか? 消しますか? と言っているようだ。
「どうして分かったのですか?」
「奴隷制というのは、ラシル殿の世界から来たものですから」
「それは、どういうことですか?」
「少し、昔の話をしましょう」
セドゥラモントは寂しく笑い、もう少し強いお酒を注文した。
ラシルも同じものを注文した。
ジョナサンを笑っていられない。
運ばれてきたのはウイスキーの水割りだった。
「これは、美味い」
チーズを一切れ食べ、満足そうに微笑むと、セドゥラモントは語り始めた。
ラシルを始め、木国王、ジョナサン、ルニエスティが耳を傾けた。
他の席もしんと静まり返り、皆がセドゥラモントの話を聞こうとしていた。
「私はここにいるジョナサンのような、無知で無鉄砲な少年でした……」」
ジョナサンがほほを膨らませる。
空気を読んだからか、抗議の声は上がらなかった。
「エルフの王の嫡出子として生まれた私は将来を約束されていました。私は真面目に勉学に励み、武術の訓練や精霊魔法の習得に励みました。いつか東の白虎帝を倒そうとして」
白虎を見ると、無表情だった。
「私はエルフの国をより良き国にしたいと考え、どうすればもっと良くなるかというのを、小さなことから大きなことまで、毎日のように国王である父親報告していました。そんな私を父は可愛がってくれました。しかし、転機はジョナサンと同じくらいの歳にやってきました」
セドゥラモントはウイスキーを口に含んで、話を続けた。
「私の小さい頃には、奴隷という身分の者は珍しかったのですが、年々、増えてきました。
エルフというのは自由で高潔な種族です。そのエルフが首輪を付け、腕輪を嵌めて、他の者の言いなりになっているのです。
私は父に問いただしました。
どうしてエルフが奴隷になっているのかと。
そうすると父は言いました。契約したのだと。奴隷になったエルフたちは自ら望んで自由を捨てたのだと。
しかし私はそう簡単には信じませんでした。
しばらくして、奴隷の割合が人口比で3割を超えました。
そのころは私はもう一人前の成人したエルフだったので、父に直接聞くことはしませんでした。
なぜなら父はいつも同じ答えしか言わなかったからです。
私はなぜ奴隷がこんなにも増えたのか、色々と調べました。
私一人の力では調査はなかなか進まず、結局のところ分かりませんでした。
しかしある日、父親を奴隷にされたエルフと知り合う機会に恵まれました。
そのエルフは、父は騙されて契約したと主張しました。
私はそういった奴隷になったエルフの親族を集め、一人一人から話を聞きました。
そうしていくうちに、ある一人の魔女と出会いました。
その魔女は父に魔法道具を卸している商人でした。
その魔女は言いました。
異世界の文化だから、奴隷制に間違いはないと。
当時の私はその意味を良く理解できませんでした。」
セドゥラモントはここで言葉を区切り、ソーセージに手を伸ばした。
パリッという音を立てて、ソーセージは折れ、口の中へと運ばれた。
それをウイスキーで流し込んだセドゥラモントはまた語り始めた。
「月日が経ち、奴隷制は着々と進み、人口の5割を超えました。
その頃にはどれ手製のお陰で、不思議なことにエルフの戦力が上がり、白虎帝と戦をしても、帰還する者が増え、死亡率が下がりました。
成果が出ていたのです。
人形のようになって、感情を捨て、指揮官の言いなりになるのですから、それもそうだと今では思います。さぞ合理的な戦いをしたのでしょう。
この結果を受け、父は奴隷制をさらに推し進めました。
当時の私は危機感を抱き、この奴隷制を無くそうと活動しました。
正論を主張しても意味は無いですから、パルチザンに入って活動しました。
反政府組織のような団体でした。
私たちは首輪を破壊したり、奴隷を使役している主人を殺害したりしました。
私たちはずっと、革命を起こしている気分だったのです。
そういった活動をして数年、私に転機が訪れました。
私の活動が露見して、父の逆鱗に触れたのです。
私は蟄居させられ、絶縁させられました。
王の直系ということで、奴隷契約は免れましたが、全てを奪われ、都市の外れで見張りを付けられて暮らしています。
その後、父の他界に伴い、弟の現王が即位し、さらに醜悪なものになりました。
弟は欲望をずっと隠してきたのでしょう。
やりたい放題するようになりました。
木国から拉致して奴隷にした女を孕ませ、生まれたのがこの子、ジョナサンです。
酷い差別と迫害を受けてきたようで私と一緒に暮らした当初は、荒れていました。
それからこの子と暮らしています。
私は学びました。
どれだけ正しいことを言っても、やり方さえ不味ければ通らない。
その点、私の弟であるあの男は上手かった。
やり方さえ合っていれば、どれだけ間違ったことでもまかり通る。
私の情熱は水を掛けられ、鎮火していたはずです。
今日、ラシル殿と、皆さんとお会いするまでは」
セドゥラモントの話が終わった。
その両頬には、涙が伝わっていた。
ラシルはショックを受けていた。
奴隷制が異世界からの文化だということに。
それが本当であれば……いや。
ラシルは立ち上がった。
「皆さん」
ラシルは皆を見渡した。
全員、この話を聞いていたのだろう。
「奴隷制の思想は異世界から来たと、セドゥラモント卿は言いました。初めて打ち明けますが、私は異世界出身です」
バー内がざわめいた。
ミイとメルバコルが臨戦態勢を取る。
ロメリアは笑顔でいるが、事態の推移を見守っている。
エアノワリスは変わらない。
ラシルに危害が及ぶことがあれば、相手がどんなに親しい人であっても、躊躇いなく、全力で殺害するだろう。
バーテンダーたちも殺気を隠しながらいつでもことに及ぶ準備はできている。
ここでラシルを糾弾する者がいれば、その者は即座に消えるだろう。
ラシルはギルドメンバーを目で制す。
「奴隷制というのは、確かに私の世界でもありました。しかし、それは原初の人間関係と国家に置いて当然に発生するものであります。つまり、そういった思想が異世界から持ち込まれなかったとしても、進歩の過程でどこかで必ずしたものであると理解いただきたく存じます」
ラシルは全員を見回し、反対意見が出ないことに内心、ほっとした。
「しかしながら、私の世界から持ち込まれた、病原菌のような思想が猛威を振るい、皆さんの世界に迷惑をかけているのは事実です。私は今、決断しました。奴隷制の廃絶を。奴隷制によって被害に遭ったこの世界の住人への救済を、ここに、確約します」
バーないは静まり返った。
先ほどのセドゥラモントの話を聞いていた時よりも、それはトゲトゲしい静寂だった。
パチパチ
パチパチパチ
レイランとレイリンが手を合わせていた。
パチパチパチパチ
よく見ると、それは拍手だった。
白虎が加わり、すぐにリャンエンとシュウライ、オキサイドが加わり……
バー内は拍手に包まれた。
「セドゥラモント卿、ジョナサン君、うちに亡命しないかい?」
ラシルが尋ねると、静かに泣いていた二人は目を丸くした。
「方針は決まった。後は方法論だ。それをあなたたちで決めてほしい」
セドゥラモントはジョナサンと顔を見合わせ、頷いた。
彼らの目には、意思の炎が宿っていた。
「それでは皆さん、今日はとことん飲みましょう!!」
ラシルは音頭を取った。
一次会で消える空気の読めない男、羅知はもういない。
空気を自在に操る男、ラシルだ。
ちょっと恥ずかしい。
夜は長い。
日の入りから夕食会を始めたので、今は時間的にまだ夜の8時過ぎだ。
まだまだこれからだった。




