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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
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091_失意の革命家1 エプロンの麗人


 エルフ王との接見が終わった。

 正直に言おう。

 クソみたいな結果に終わった。


 これからが大変だ。

 敵対、決定的な対立とはいかないまでも、確実にあっちはやっつけに来るだろう。

 しかし今考えてもしょうがない。まだ時間的猶予はある。

 楽観的な状況ではないが、メンバーは皆沈んでいなかった。


 ラシルは自分の犯した、意図しないセクハラ発言の対応に追われていた。

 念話でメンバー全員に聞こえていたのだ。

 ミイはエルフ王の発言ではなく、ラシルの発言を糾弾していた。

 ナスカはさっきまでのエルフ王とのやり取りで得た不快感は吹っ飛び、顔を赤くしてブツブツと呟いていた。

「胸じゃない。胸が全てではない」と。


 メルバコルはその様子を見て笑い、ルニエスティもつられて笑顔になっていた。

「私もラシル様にお尻を持たれるように頑張らないと」と、本来の意味から外れた発言をしていた。



「会談は上手くいったでござるか?」 

 部屋を訪れ、嬉しそうにしているラシルと拠点管理者を見て成功を確信したニボシ。

 彼は何気なく問いかけた。


「最高の結果です」とナスカ。


「違うんだ。そういう意味じゃないんだ」とラシル。


「信じられません。本当に」とミイ。


「すっごい楽しかったよ」とメルバコル。


「私も、頑張らなければなりません」とルニエスティ。


 よく分からないが、みんな前向きになれるような結果になったんだろうと納得するニボシ。

 ギルドマスターであり、最高の主であるラシルとその側近中の側近のミイ、そしてメルバコル。

 ギルマスと2人の拠点管理者に加えて副官のナスカまでいるのだ。

 結果が確約された会談だったのだろうと容易に推測できる。


 しかし、引継ぎもあるので、詳細に知らなければならない。

 ニボシは念のために、続けて質問した。


「エルフ国との関係はどうなったのでござるか?」


「ん? 終わったよ」とラシル。


「全面戦争になるでしょうね」とミイ。


「大規模攻勢は1週間後じゃないかな」とメルバコル。


「備えを硬くしなければなりません」とナスカ。


「私にも何かできることは……」とルニエスティ。


 ニボシは混乱した。



 主に念話を使ってニボシに会談の詳細を伝え、今後の動きの打ち合わせをした。

 会談が不発に終わったのだが、すぐには帰れない。

 もうすぐ日が暮れる時間帯に、1泊もせずに都市を出るのは不自然だからだ。

 最低でも1泊した後、朝早く出立する予定だ。


 その前にもう一つやることがある。

 この国で会っておきたいとミイが言っていたもう一人。

 キーパーソンになるかもしれないエルフだ。


 日が暮れてすぐ、ニボシとその部下を残して、もう一つの訪問先へ転移した。

 


 セドゥラモントの北西部に人里離れた家がある。

 周りは畑に囲まれ、周囲には他に家がない。

 その家の周りの畑は、他の畑よりも丁寧に耕されており、作物も大きく実る。

 精通しているとまでは言えないが、農耕の基礎基本がいくつかしっかりと抑えられている。

 知識や技術の無い中、試行錯誤をし繰り返してようやく辿り着いたものだった。

 ここを耕しているのは無論、この家の住人。

 この畑の状態が、この家に住む者の人間性の一端を現していた。


 精霊魔法によって作られた褐色の柔らかい光が、窓から漏れ出している。

 ちょうど夕食の時間。

 台所では美しい金髪の、髪の長いエルフが夕食の支度を始める所だった。

 エプロンを付け、鼻歌を歌いながら、楽しそうに料理に使う食材を選んでいる。


「これは昨日も食べたから、今日はこれかな?」

 高く弾んだ声。

 葉物野菜を手に取ってにっこり微笑む。


「この野菜と合うのは……」

 根菜の一つを左手に掴んだ。


「これにしよう」


 エプロンをはためかせ、早速料理に取り掛かるエルフ。

 ご機嫌な鼻歌が再開される。

 

「親父、キモイ」

 ダイニングテーブルに座っていた、茶褐色の髪の毛の男の子。

 エルフにしては髪の毛が短く、上は7センチほどの長さに切りそろえられていた。

 歳は16歳くらいだろうか。


「あん?」

 葉物野菜を手でちぎっていたエルフは険しい顔をして振り向いた。

 さっきまでのご機嫌な様子はない。


「年齢と性別を考えろよ」

 男の子は金髪のエルフの方を見ずに答えた。


「反抗期か?」

 金髪のエルフは50代に差し掛かろうとしている男性。

 エプロンを着て鼻歌を歌っていたおじさんである。


「それより腹減ったんだよ。とっとと作れよ」


「わかったわかった。今作ってやる」

 エプロン姿のおじさんエルフが料理の続きをしようと葉物野菜に手を掛けたその時だった。


 コンコンコン


 玄関のほうからノックが聞こえた。


「こんな時間にお客人か? ジョナサン出なさい」


「しゃーねーな」


 ジョナサンと呼ばれた男の子が椅子から立ち上がり、玄関の戸を少しだけ開ける。

 この家への訪問者には碌な者がいない。

 普通の客人ではないのだ。 


「こんばんは」


 ジョナサンはさっと視線を流す。

 見たことのないエルフが5名。

 男が2人、女が3人。

 そのうち一人はダークエルフだ。


「ちょっとお待ちください」


 ジョナサンはゆっくりと扉を閉め、台所へと小走りで向かう。

 戸口で得た情報をエプロンおじさんに伝えた。


「兵士ではないようじゃの。どこかの貴族の使いか?」


「わかんねー。親父が直接行けよ」


「うむ」


 エプロンおじさんは念のためナイフを後ろのポケットに入れて、玄関へと向かった。


「こんばんは」

 

 挨拶をしてきたのは見たことのないエルフだった。


「こんばんは」

 エプロンおじさんは笑顔を張り付けて挨拶を返し、服装などから相手の情報を読み取る。

 兵士ではない。

 どこかの貴族の使いには見えない。

 この辺りに住んでいる住人は、訳あってこの家に一度も近寄ってこない。

 では誰か。

 ん?

 ダークエルフに首輪が無い。

 これは珍しい。


「セドゥラモント卿とお見受けいたします。お話がありますので、中に入れてくださいますか?」


 エプロンおじさんこと、セドゥラモント卿は目を細めた。

 相手は自分の事を知っている。

 このファミリーネームを知るエルフは今ではほとんどいない。

 知っていたとしても、それを口に出すエルフはもっと少ない。


「いいでしょう。持て成しはできませんが、どうぞお上がりください」




 ラシルたちが通されたのはリビングだった。

 勧められて腰掛けると、一緒に話に加わるべきか迷っている男の子がオロオロしていた。

 セドゥラモント卿が男の子に言った。


「あっちに行っていなさい」


 男の子は頷き、部屋を出て行こうとした。


「ジョナサン君にもお話があります。できればご一緒に」


 リビングの戸を閉めようとしたジョナサンの動きが止まり、セドゥラモント卿の眉間の皺が深くなった。


 ジョナサンと呼ばれた男の子はセドゥラモント卿を見て頷くと、セドゥラモント卿の隣に座った。

 セドゥラモント卿は笑顔を浮かべたまま、油断なくラシルたち5人を見て言った。


「それでお客人、話というのは」


「単刀直入に言います。この国と戦争をします。その場合の民の扱いについて相談したい思いまして」

 ラシルが時節の挨拶のようにサラッと言った。


「!?」

 セドゥラモント卿はよく聞き取れなかったかのように顔をしかめて、軽く右耳を前に出した。

 ジョナサンは話の内容が理解できなかったみたいに、ぽかんとしている。


「当方としては、あまり殺したくもないですし、極力混乱も避けたいと考えています。つきましては奴隷解放にあたり、留意すべき点やアドバイス、事後のケアなどについて今後の打ち合わせをさせていただきたく……」


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください」


「はい」


「歳を取り過ぎたせいか、上手く聞き取れませんでした」


「まだ245歳でいらっしゃるでしょう。難聴には早すぎますよ」


 セドゥラモント卿は絶句した。

 何を言っているのかは分かったが、内容が上手く入ってこない。

 それにどうしてこのエルフは自分の年齢を知っているのか。

 もしかして、自分の過去のことも全て知っているのか。

 有り得ない。

 そう考える一方、この得体のしれないエルフは何でも知っているのではないかと思ってしまう。


「その、戦争とか奴隷とか、何の話ですかな?」


「本当はあなたが王位を継ぐはずだった。違いますか?」


「……」


「現中央エルフ国王の実の兄であるあなたが」


「ど、どうしてそれを……」


 セドゥラモント卿は混乱した。

 そして、確信した。

 目の前にいるエルフは何でも知っていると。


 ラシルはセドゥラモント卿の目を見て混乱が収まるまで待った。

 隣に座っているジョナサンも口を小さく開けたり閉めたりと魚のようにパクパクしている。

 魚という例えはエルフの都市ではあまりイケてないかもしれない。

 森の植物でジョナサンの様子を何か上手く例えようと考えたが、ラシルは思い浮かばなかった。

 いやでも都市には川も流れているんだし、淡水魚はいるはず。

 エルフは魚を食べる習慣はあるのだろうか。


 ラシルが都市に流れる川の淡水魚とエルフの食生活について考えているうちに、かなりの時間が経過した。

 かなりの時間といっても、会話のキャッチボールで次の球を投げるまでの間にしてはという意味だ。

 投げたボールが返ってこないので、ラシルはもう一球投げようかと軽く心の中で振りかぶった。

 すると全く別の場所から返事が来た。


 ぐぅ~~~


 部屋の下から死人のうめき声のように響いてきたような音。

 その音の本当の出どころはジョナサンのお腹だった。


「お腹が空いているようですね。私たちもまだなので夕食を取りながらでもいかがでしょうか」

 ラシルは笑顔で提案した。


「その、お客人。我々はこれから夕食の支度をする所で……」とセドゥラモント卿。


「ええ、そのエプロン姿を見ればわかります。似合ってますよ」


 セドゥラモント卿は初心な乙女のように顔を赤くし、下を向いた。

 お腹で会話に参加したジョナサンも恥ずかしそうに横を向いている。


 これは一種の地獄だなとメルバコルはこっそり思った。


「私の拠点へ案内したいと思うのですが、よろしいですか?」


「これから? どこかへ出かけるのですか?」

 すぐにショックから立ち直り、馴染めな顔に戻ったセドゥラモント卿。


「すぐに着きます。危害は加えません。決して悪い話ではないはずです」


「しかし……」


「美味しい料理もあります」


「料理?」セドゥラモント卿の眉がピクリと動いた。


「ええ。何か食べたい物はありますか?」


「肉!」ジョナサンが叫んだ。


「こら!!」セドゥラモント卿がジョナサンに険しい顔を向けた。


「いいですよ。野菜料理もありますよ」


「野菜料理……」


 セドゥラモント卿は笑顔を取り繕うことも忘れ、渋い表情で黙考した。

 この国でのセドゥラモント卿の立場は危うい。

 下手なことは出来ない。

 目の前の客人の正体も不明。

 しかし自分やジョナサンの名前まで知っており、どうやら事情も知っているようだ。

 そして気になるのが、客人の中で誰一人として奴隷の首輪を付けていないということだ。

 隠しているのか、それとも別のしきたりがあって首輪を付けない奴隷なのか。

 もしくは……

 セドゥラモント卿は首を振った。

 この国でダークエルフの自由人だなんて、有り得ない。


 どうするか。

 情報が少なすぎて正しい判断が出来ない。

 まぁ、野菜料理だけでもご馳走になるか。

 断っても引き下がらないだろうし。

 セドゥラモント卿は決断した。


「わかりました。夕飯の支度はまだですし、ジョナサンがお腹を空かせている」


 ラシルはミイに頷いた。


「ではご案内しましょう」


 セドゥラモント卿とジョナサンは互いの顔を見て頷き合い、立ち上がった。


「エプロンは付けたままにします?」と、笑顔で聞いたラシル。


 セドゥラモント卿は咳払いをしてエプロンを外した。


「では行きましょう」


 セドゥラモント卿とジョナサンが玄関のほうへ行こうとすると、呼び止められた。


「外にはいきません」


「?」


 意味がわからないという顔のセドゥラモント卿とジョナサン。


 ラシルたちは立ったまま笑顔を見せている。


「こちらです」

 そうラシルが言うと、ラシルの座っている椅子の隣に光の門が現れた。


「な、なんと」


「さぁ、行きましょう」


 5人のエルフの後に続いて、門を潜ると、目の前には巨大な城があった。

 全ての部屋は煌々と明かりが灯っており、ここはセドゥラモントのどこでもないとセドゥラモント卿は思った。


「セキュリティの為です」

 ラシルはそう言って転移門を閉じ、新たに目の前に転移門を開いた。


「さぁ、どうぞ」


 2つ目の光の門を潜った先は部屋だった。

 広く、壁には絵画が掛けられており、調度品も多数あった。


「ここは……」


「私の拠点、禁城です。ようこそ、そして初めまして。ラシルといいます」


 セドゥラモント卿はラシルと名乗った青年を改めて見た。

 そしてどこか違和感を感じた。


「ちなみに、私はエルフではありません」


 そう。

 耳が小さく、人間のサイズになっていたのだ。


 セドゥラモント卿は大きく混乱していた。

 何もかもが分からない。

 しかし一つだけ分かったことがある。

 転移をこうも簡単に使えるこの人間に、抵抗しても無駄だということだった。





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