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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
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090_3つの来訪者11 セドゥラモント


 エルフ中央国セドゥラモント。

 都市の一角にある大衆食堂で、ラシルたちは困っていた。

 現地の文化と風俗、町の雰囲気を見るために店に入ったのはいいが、メニューが読めない。

 

「誰か読める奴はいるか?」

 念話でラシルが話しかける。


「読めません」とミイ。


「同じく」とメルバコル。


「エルフ語とは本来、日本語なのです」

 ツンとした表情のナスカ。

 一人だけ意味の分からないことを言っている。


 ふと念話に入ってこない同行者の最後の一人を見ると、コクコクと小さく頷いていた。

 現地民のルニエスティ先輩がいた。

 ルニエスティ先輩は念話は聞こえるが、発言することができないため、話に入ってこれないのだ。


「この豆のサラダは美味しそうね」

 ルニエスティが自然な会話をしてメニューを教えてくれる。


 結局豆のサラダとパン、ナッツのサラダと燻製肉を注文した。

 周りを見ると、注文して、料理が出てくるときまでにお金を用意しておくシステムらしい。


「誰か、お金は持っているのか?」とラシルが念話で確認する。


 ラシルはルニエスティ先輩をちらりと見るも、首をフルフルと横に振っている。


「問題ございません。私が持っております」とミイ。


 偵察部隊が入手した貨幣を参考に、鋳造したものを用意したらしい。


 ちょっと観光気分が過ぎたようだ。

 ここは外国であるということをちゃんと念頭に入れて行動しようとラシルは思った。


 食事はいまいちだった。

 パンは白かったが、生の小麦粉を練って放置しただけの代物が出てきた。

 サラダも新鮮ではあるが、いまいち。味付けがなっていない。

 燻製肉はパサパサだ。

 唯一ナッツだけがなんとか食べられた。

 平気な顔をして食べているのはルニエスティのみ。

 ラシルやミイ、メルバコルは一口食べただけでフォークを置いた。


 残していくと目立ってしまうので、アイテムボックスに収納し、消去。

 完食したように見せかけた。


 微妙な顔で店を出た。

「それでは、宿屋に行きましょう」とミイ。


 既に宿泊する予定の宿は決めてあるそうだ。


 宿屋に向かう途中、念話での悪口大会になった。

 無論、さっき出てきたばかりの食堂だ。

 まず料金が高い。

 食料が貴重なため、物価が高いのだ。

 火国なんかの3倍から5倍の料金はする。

 次に不味い。

 火の使用がタブーであるため、煮ても焼いても蒸してもいない料理だった。

 味付けはシンプルといえば聞こえがいいが、塩っ気がない。

 近くに海が無いので、塩を調達できないという理由もあるだろう。


「ラシル様のありがたみを改めて思い知りました」とミイ。


 ギルドでの食事の質のことを言っているのだろう。


「食事をするようになって、食事の大切さが分かりました。この世界は野蛮です」とメルバコル。


 後ろを歩くナスカやルニエスティも激しく同意していた。


「よく平気な顔で食べていましたね」とナスカがルニエスティに小声で話しかける。


「前まではあの食事でさえご馳走でしたから」とルニエスティが恥ずかしそうに答えた。


「ああ、ごめんなさい」

 ナスカがきまり悪そうに謝った。


「いえ、今がどれだけ幸せなことか。だからいいんです」

 ルニエスティは恥ずかしさのために伏せていた顔を上げて、ナスカに微笑んだ。



 宿屋に到着。

 都市の中でも有数の豪華な宿屋だ。

 ナスカは一応、国の代表という扱いになっているので豪華な宿に宿泊しても不自然ではない。


 部屋は2部屋取っている。

 ラシルとメルバコルの男部屋に残りの3人の女性部屋だ。

 どうせ夜寝る時は部屋から転移術を使って禁城に戻るのだ。


 宿屋の予約を済ませると、エルフ王の待つ城へと向かった。


 エルフ王の住む城は、トロというよりも、大きな屋敷のような外見をしていた。

 魔法のある世界なので、ファンタジー要素を少しでも期待していたのだが、ギルドのエルフの里の方がよっぽどファンタジーだった。

 

 こっちの世界に来てから思うことがある。

 なんというか、洗練されていない。

 魔法があればもっとこういうことができるのにと考えるのだが、どうやらこの世界の住人にはその発想を持ち合わせていないようなのだ。

 この違いは何なのだろうかとずっと考察していたが、このエルフの館を見てある一つの仮説に思い至った。

 もしかすると、科学技術が存在しないからかもしれない。


 魔法があれば、科学技術は進歩しないというのは定説として知られている。

 そもそも科学技術は争いや戦争によって大きく発展してきたものだ。

 この世界に置いての武力とは、面倒な科学技術ではなく、個人の武力や魔法の力だ。

 この世界で銃を使ったとしても、物理防御で防げるし、治癒も可能だ。

 頑張れば復活魔法だって使用できる。

 核や化学兵器といった開発と管理に莫大な知識とお金のかかるものより、優れた術師を集めた大規模術式の方が威力がある。


 この世界は、魔法という存在があるために科学技術の発展する余地がほとんど無い。

 科学技術の発展が無ければ、何が損なわれるか。

 それは合理化だ。

 徹底した合理化は様式美を生み出し、思考を洗練させる。

 見た目のデザインでさえも、合理化の過程で洗練化されるのだ。

 ラシルは技術で洗練され、最適化された最も合理的な形を知っている。

 科学や物理法則の知識もある。

 知っているからこそなのだ。

 

 魔法があれば、人は合理的に工夫をしない。

 そうすれば、魔法の世界というのは科学技術が無ければ衰退していく運命にあるのではないか。


 ラシルが壮大なテーマで思考に没頭しているうちに、謁見の間に到着した。

 思考から抜け出したラシルは、念話でナスカにメッセージを送った。


「ナスカ、後は任せた」


「ラシル様のご期待を裏切らないように」とミイ。


「よろしく頼みましたよ」とメルバコル。


「ぇ…丸投げですか?」


 ナスカが絶句しかけ、なんとかリアクションしたところで扉が開いた。


 部屋の奥には王座があり、そこまでの道の両端にエルフの兵士が均等の間隔で立っている。

 完全武装し、ヘルメットだけ外した状態の兵士。

 これは示威行為の一環だろう。

 そちらは5人でこちらは大勢。

 こちらの各が上だとでも言いたいのだろう。


 兵士たちの間を歩いて行く。

 ラシル、ミイ、メルバコルはナスカの後ろで涼しい顔をして。

 ルニエスティは若干緊張している様子。

 顔が引きつっているのはナスカだ。


 王の前まで来ると、王が口を開いた。

 人間の年齢でいえば40代半ばほど。

 金色の長い髪の毛は、イメージ通りのザ・エルフといった感じだ。

 質の良さそうな緑色の服、その上にネックレスやらブレスレットやら金ぴかの装飾を纏っている。

 品は良くなさそうだ。


「ようこそ、我が国へ」


 仰々しく言ったエルフ王は、好意的に振る舞おうとするように、顔に笑顔を張り付けた。


「これ、跪かんか」

 エルフ王の横に控えていた側近の一人が、明らかにこちらに向かって発言した。


「いいんだ、大事なお客様だからね」


 何だろうこの茶番は。

 招待してやったぞ、そしてこちらが格上だ。さあ跪け。いや、やっぱりいいよ、僕は寛大だからね。

 という一連の流れ。


 ミイの笑顔の種類が変わる。

 メルバコルの目がスゥっと冷たくなる。

 ナスカが爆発寸前になる。

 

 ここは、そうだな、様子見だ。

 決して、どうにでもなれとは思っていない。

 ミイとメルバコル。ギルドの知恵者が2人もいるんだもの。きっと大丈夫。


「お招きいただき感謝します。私が代表で参りましたナスカと申します」

 ナスカは無表情で淡々と言った。


「ほぅ、君があのナスカ殿か。先の不幸な我が軍との不幸な衝突の際に活躍したという」


 不幸な衝突? 

 あなた方は自損事故だろうとラシルは思った。 


「我々は招きに応じて参りました。そちらのご用件はなんですか?」


「そう焦らずとも。外交というものは武力だけが全ではありませんぞ?」

 エルフ王がそういうと、周囲の側近たちの何人かが失笑を漏らした。


「ですからこうして対話に来ているのです」

 ナスカは無表情に頬を吊り上げ、笑っているように努力していますというアピール。


「用件は3つある」

 エルフ王の笑みが消え、目が細くなった。


「伺いましょう」


「1つは、君たちの事をもっとよく知りたい。君の国、いやあの辺りに国はないはずだから勢力と言ったほうがいいかな」


 エルフ王はナスカの表情の変化を見るようにたっぷり間を置いてから続きを話した。


「どこの勢力かね。北方のエルフから離反してきたのかな? それとも南方のエルフかな?」


 エルフ王は分からないという風に首を傾げた。


「どちらでもありません」

 ナスカもエルフ王に合わせて首を傾げた。挑発だ。


「ではどこかな?」


「ご想像にお任せします」

 ナスカはにっこりと笑った。

 この部屋に入ってきてから一番良い笑顔だ。


「失礼であろう!」

 側近の一人が激昂し、エルフ王はまぁまぁとでも言うように、右手を上下する仕草をした。


「秘密にするというのかな? せっかくお近づきになりたいのだ。教えてくれなければ仲良くなれないではないか」


「すみませんが、教えることはできません」


「まぁいいさ。そんなに大きくない勢力なのだろう? この前は奇襲でうちの軍はやられたが、兵士の数は多くないと見た」


「どうでしょうね」

 ナスカはわざと誤魔化すように言った。


「位置がバレれば、我々が兵を差し向けるのを恐れているのだろう? それも理解できる」


 エルフ王は見下したように鼻で笑った。


「次の要件だ。用件というより提案かな」


「伺いましょう」

 ナスカは無感情に言った。

 このやり取りがあと何回続くのだろう。

 ラシルは見ていてハラハラしていた。


「ナスカ殿、あなたは未婚か?」

 ナスカの眉がピクリと動いた。

 ラシルはそれを雰囲気で察知した。

 いつもラシルがやられている女性幹部たちの読心術はこういうことかと、妙に納得した。


「どうしてそのようなことを?」


「私の妻に迎えようと思う」


「それはどういった理由からですか?」


「うん。我が国とそちらの勢力の友好の証だ。そなた一人は強いが、流石に我が国と争って勝ち目はあるまい。我が国も人的被害は最小限に抑えたい。人材はとても大事だからな」


 これだけ奴隷率が高くて、人を道具としてしか見ていない者がどの口で言うのか。

 純粋に道具の損耗率が心配なのかもしれない。


「つまり、政略結婚ということでしょうか」

 

 婚姻を結べば、親類関係になり、和平が保てる。

 結婚をしてやろうということだから、和平を保ってやろうということなのだろう。


「品の無い言い方をすればそうなる。第一夫人にはできないが、妾以上の地位を約束しよう」


 エルフ王は舐め回すようにナスカの体を上から下まで見た。


「お断りします」

 ナスカは少しの間も開けずにキッパリと言い放った。


「そう焦らなくてもいい。最後の用件にも関わって来る」


「伺いましょう」


「そこにいるダークエルフだ」

 エルフ王は汚物を見るような目でルニエスティを見た。

 ルニエスティの体がピクリと反応する。


「どうかされましたか?」とナスカ。


「それはダークエルフだろう」


「それが何か?」


「我が国では忌むべき存在でな。不幸を撒き散らす異端のエルフなのだ。見つけ次第、即刻死刑に処すことにしている。そうだな、女で若ければ奴隷にしてやろう」


 ルニエスティの拳が震える。


「堪えろ」

 ラシルは念話で伝える。


 ラシルの言葉を聞いたルニエスティは下を向き、呼吸を整えた。

 そして真っすぐエルフ王を見返した。


「気が強そうな女だ」

 エルフ王の頬が緩み、ルニエスティを見つめる目が尋常ではなくなった。


「どうだ? 私の妻になればそこのダークエルフの女は奴隷にしてやる。もし断るのであれば死罪だ」


「仰っていることが良く分かりません。彼女は私たちの保護下にあります。奴隷にも死罪にもなりません」


「ほぅ」


「あなたとの婚姻もお断りさせていただきますし、彼女の引き渡しも拒否します」


「それが、そちらの最終的な回答か? 考えを変えるなら今のうちだぞ」

 エルフ王は薄ら笑いを浮かべている。


「ラシル様、よろしいでしょうか」

 ナスカが念話で確認してきた。


「いいぞ。俺が全力でケツを持つ」


「ラ、ラシル様、そんな……」

 ナスカが羞恥でいっぱいの反応をした。


 隣にいるミイの首が無機質に動き、くるりとこちらを向いた。

 目が何も映っていないテレビのようになっている。

 エルフ王よりも俄然、恐ろしい。


 ん?


 あっ。


 セクハラだ。


 セクハラだ!!


 ヤバい。

 ヤバいヤバい。


 ケツを持つというのは責任を取るという意味で、前の世界の職場でよく後輩に使っていた言葉だ。

 感情移入して力み過ぎた。


 うぁ。

 うぁうぁうぁうぁ。

 失敗した。


「わかった。そちらの考えは理解した。有意義な会談だった」


 エルフ王の目は怒りが溢れてきそうな、燃えるような目をしていたが、ミイほどの迫力はない。


「こちらこそ。それでは失礼します」


 ナスカの声音はどこか嬉しそうで、弾んでいるようだった。



 エルフ王の屋敷から出て宿屋へ向かう途中、沈黙とポーカーフェイスを保っていたメルバコルが、耐え切れずに噴き出した。




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