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009_周囲の探索5 進化の種


 レベルの泉に幹部陣が集まった。

 拠点管理者のミイとクゥ、そしてクゥの副官であるショウとニボシ。

 心なしか4人とも緊張した面持ちだった。

 それもそのはず。

 この世界に来て初めての進化の儀式になるからだ。

 本当に進化できるのか。

 それは分からない。

 不安を抱えながらも、みんなどこかで期待していた。

 もっと強くなれると。


 レベルの泉で確認すると、ニボシ以外の全員がレベル30に到達していた。

 ニボシは防衛任務もあるので、俺たちよりもレベリングが遅れている。


 さて。

 ゲームではこの後、アイテムを使わなければ次のレベルに進めない。

 ゲームと同じシステムかどうかは分からないが、ある程度の確証は持っていた。

 これは同じだと。

 最初にレベル30に到達したミイが1日かけても次のレベルに上がらなかったのだから、間違いない。

 もちろん、これがレベルの上限だという可能性も捨てきれないが、それは限りなく低いと思う。

 どちらにせよ、今ここで試してみれば分かることだ。


 アイテムボックスから1つのアイテムを取り出す。

 それは進化の種。

 戦闘レベルの上限を突破させるアイテム。

 遠い昔、ゲームを始めたころに使ったのを思い出す。

 始めて手に入れた時、飛んで跳ねて喜んだものだった。

 テンションが上がり、ゲームのプレイ上限時間を超えても何度もログインし直してぶっ続けでプレイした。

 もっと強くなれるのが嬉しくて。

 寝るのも食べるのも忘れてゲームに熱中した。

 その時の興奮した感覚が甦ってくる。


 まだこんなにたくさん仲間がいない頃だった。

 ミイにさえ、まだ出会う前だった。

 懐かしいな。


「これを使え」

 缶ジュースでも渡すかのように、ミイに進化の種を差し出した。

「こんな貴重なものを」

 ミイが両手で受け取り、緊張から震えた。


「ふっ、お前のためなら安いものさ」


「恐縮です」


 ちょっとカッコつけて言ってみたものの、真面目に捉えられると恥ずかしい。

 何かをもらうというのは、NPC達にとってはとても嬉しいことのようだ。

 彼らにとってプレイヤーとの触れ合いや、何かを貰うというのは、とても大きなイベントなのだそうだ。

 プレイヤーとの絆が深まるばかりでなく、自分たちが必要とされていると感じ、存在する意義を見出すのだそうだ。


 こんなもので喜んでくれるのはちょっと安い気もするが、彼らが喜んでくれるとこちらとしても嬉しい。

 ミイは宝石でももらったかのように大事に扱っている。


「これは、思い出の品としてずっと取っておきたいのですが」


 ミイが少し頭のおかしいことを言っている。

 そこまで重いプレゼントではないはずだ。


「さぁ、食べろ」


「はい」 


 ミイが一瞬残念そうにした後、恐る恐る口にする。


「来ました。微々たるものですが、元の力が少し戻ってきたようです」


「そうか。ではレベルを確認しよう」


「はい」


 ミイがレベルの泉を覗くと、粒子が集まり、数字が浮かび上がってくる。

 レベルは34になっていた。

 上限の30で止まっていた時に上がっていた分が今解放されたのだ。


「肉体強化はどうだ?」

 

「ご覧に入れます」


 ミイは真剣な面持ちで槍を構えた。


 次の瞬間「はっ!」という掛け声を発して、数メートル飛んだ。


 なるほど。

 ゲームと一緒だな。

 ゲームではレベル30になると、肉体強化型の必殺技が使えるようになる。

 基礎体力といった身体能力の底上げもされるのだが、力を凝縮して解放することが可能になり、それが必殺技になる。

 まだまだ弱小だが、間違いなく進歩だ。

 これでレベリングの戦闘が少しは楽になる。


「俺たちも食べるぞ」


 クゥやショウにも進化の種を渡すと、二人とも恭しく受け取った。

 そんなにかしこまらなくてもいいのに。


「では、参ります」

「クゥ!」


 光が体を包み込むなどのエフェクトはないが二人とも無事に進化したようだった。


 レベルは俺とクゥ、ショウが同じで31。

 クゥが妖獣に進化。

 進化前との大きな違いは、喋れるようになったことだ。


「主様ー!!!」


 クゥは大きく飛び跳ねると、抱きついてきた。

 姿はまだキツネのままだ。

 人型には変身できない。


「クゥ、喋れなくて辛かっただろう」


「主様が一緒だったからのう。主様は妾のことならなんでもわかるじゃろう?」


 そんなことはない。

 分かるわけがない。

 人の心が分かったら苦労はしないのだ。

 このようにゲームに逃げるような人生を送っていない。

 そう考えると何だか悲しくなってきた。


 しかしここで悲しくなってしまっては、ミイやクゥたちに失礼だ。

 彼女たちは間違いなく一個の人格を有している。

 それなのにゲームに逃げるなどと言っては、彼女たちを軽んじてしまうことになる。

 そう思い至ると、二重で悲しくなってきた。


 悲しさを誤魔化すために、クゥの頭を撫でる。

 クゥは目を細めて喜んだ。

 尻尾も振っていて、犬みたいだ。

 俺はとてもズルい人間だ。


「主様、貴重な進化の種、感謝申し上げるのじゃ」


「師匠、進化丸はいくつあるのでしょか。皆に行きわたりますか?」


 クゥが喜び、ショウが将来の不安を呈する。


「こら、2人とも。何をいうの。これはとっても貴重なものよ。そんなに数があるわけないじゃない」

 

 ミイが窘める。


「そうですね! 失礼しました!」


「ありがとうなのじゃ!」


 この流れはちょっと気まずいが、ここで誤魔化すと後でもっと辛い状況になる。

 仕方がない。

 真実を話すとしよう。


「今5つ使ったから、あと9994個ある」


 胸を張ってどうだと言わんばかりに言ってやった。

 開き直るしかない。


「え?」


 唯一リアクションをしたのはショウだった。

 ミイの微笑みは若干引きつり、クゥは目を丸くしていた。


「すごいだろ」


 皆黙っている。

 凄すぎて言葉も出ないか。


「俺はな、集められるアイテムであればシステム上限の9999個まで集めるのだよ」


 極めたくなるっていうのかな。

 それとも欲張りなのか。


「それはそれはとても貴重なものを」

 ショウが苦笑いしている。


「あ、すまん。ちなみに、この後の進化に必要な進化の大種も9999個ある」


 ふっ。呆れた様子だ。俺に抜かりはない。


「進化もしたことだし、これでそろそろ装備も変えるか」


「ようやく、ようやくこの姿ともサヨナラですね。名残惜しいですが」


 そう言ったミイには、名残惜しそうな様子は一切なかった。


「まだあるんだな、これが」


「えっ」

 ミイどうやらショックを受けたようだ。

 クゥに装備は関係ないので、我関せずといった様子だ。


「でもちょっとはマシになっているから大丈夫」


 アイテムボックスから装備を引っ張り出す。

 上は警備員が着るような防弾チョッキ。

 頭部を守るごついヘルメット。

 緩衝材が沢山入っている。

 下もプロテクターでがちがちになっている。


 その名も『中級者訓練用プロテクトスーツ』


 まるでどこかのホームセキュリティーだ。


「うっ・・・でも今のよりはましですね」


「師匠、これもカッコいいです!!」

 ショウは目を輝かせた。



 次の日、レベルアップの噂が広まった。

 幹部たちの恰好を見て、みんな俄然やる気を出したみたいだ。

 それはカッコいいと思ってくれたのか、今よりマシになると思ったのかは定かではない。

 たぶん後者だろう。





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