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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
89/246

089_3つの来訪者10 秒読み、熟年離婚。


 風国王の歓迎会が無事終了した。

 風国の一行は温泉と食事を満喫し、その後の各国王族や首脳との個別会談したようだ。

 王族たちの会話は技術的にいくらでも盗聴可能なのだが、それはしていない。

 情報よりも信義則が重んじられる場面はあるのだ。

 それに何かを画策していたとして、ギルドに打撃を与えるほどの戦力を有していない。

 各国がすべて独立したいと申し出て、独立したとしても、孤立政策を取ればいい。

 最悪、ギルドのメンバーの安全が保障されればいいのだから。


 歴史ある五大国と白虎帝がラシルのギルドにポンポンと参加したことについて懐疑的だった風国王も、帰国の途に就く頃には、その疑念が払拭されたようだった。

 ギルドが保有している圧倒的な戦力、火国戦争後のギルドの立ち回り、食糧支援と研修所での各国の戦力増強。

 そして何より、研修所での生活水準の高さと快適さ。

 これらの要因が桃源郷から離れてもいいと各国に思わせた。

 長い歴史のある各国にとっての転換点となっている。


 風国王もギルドに参加したいという意思はあるが、それは現実的ではない。

 悪魔から国を守ってくれている玄武帝への恩義もあるし、桃源郷支配からの離脱は玄武帝が許さないだろうとのこと。

 また、ギルドの構成員に悪魔がいることについて、感情的な反発が予想されるためだ。


 夕食会ではその場にメルバコルも同席させた。

 彼はもちろん悪魔種。

 風国が長い間戦ってきた因縁のある種族だ。

 メルバコルを紹介された時、風国王の顔は強張り、側近が敵意むき出しで一触即発の状況になった。

 武力行為がなされたとしてもすぐに鎮圧できるので大したことではなかったが、風国側の反応は顕著だった。


 その場を収めたのはレイランとリャンエン将軍だった。

 レイランは、悪魔という種族に恨みがあるのは分かるが、彼は良い悪魔だと説明した。

 水国と木国、そして土国からの侵略から助けてくれたうちの一人はメルバコル。

 人間によって国を滅ぼされようとしたのを悪魔が助けてくれた。

 風国が悪魔に嫌悪感と敵意を抱くのであれば、私は同じ理由で人間に敵意を抱かなければならないという論調でレイランは話を進めた。


 リャンエン将軍は武術をメルバコルから習っている。

 レベリングの監督官がメルバコルだからだ。

 ラシルの下には様々な種族がおり、皆とても親切にしてくれる。

 メルバコルのおかげで強くなったと悪魔を擁護した。


 レイリンやシュウライ大臣を始め、各国の王族たちも援護してくれ、風国の一行は納得したようだった。

 納得したといっても、感情的なしこりが消えたわけではない。

 それは今後の課題だ。

 時間が必要だろう。


 風国を無理に傘下に入れることはしない。

 領土的野心もないし、権力欲もないからだ。

 今後は秘密裡に国交を樹立し、互いに情報交換をすることにした。

 ニボシの部下を数名、駐在員として派遣することで合意した。

 また、人事交流の一環として、本人たちの強い希望により、フェルウェン、メイア、ワーメル、ファムの研修所入りが決定した。

 将来的に強くなって国に帰ったとしても、本来の力を使わないというのがその条件だ。

 パワーバランスが崩れるし、玄武帝から疑いの目を向けられるのを防ぐためだ。

 一番驚いたのは、王妃も残りたいと手を上げたことだ。


 王妃の意思表示に、風国王は目に見えて狼狽えた。


「ど、どういうことだ」と風国王。


「あら、私もここで暮らして強くなりたいの」


 王妃はあっけらかんとして言った。


「国はどうする?」


「私がいなくても何とかなります。今の私はお飾りですから」


 王妃は昔、騎士だった。

 その力は強く、師団長を務めたこともあるという。

 先陣を切って魔族と戦い、疾風の騎士の叙勲まで受けた。

 その見た目の美貌と武勇に一目惚れした王が結婚を申し込んだのだという。

 結婚後は2人の男の子を授かり、今では戦いから一線を退いている。


「子供たちは?」


「あの子達は立派な大人です。それに北の砦に詰めているでしょう。会う機会もほとんどありません」


 2人の皇太子は国を守るため、北方の最前線で戦っている。

 風国の首都まで帰って来るのは年に1度か2度。

 子育ては終わっているのだ。


 熟年離婚というやつか。

 ラシルは目の前で繰り広げられている修羅場を見てそう思った。


「国民は? 玄武帝の目は欺けんぞ」

 風国王はなおも引き下がる。


「病に臥せっていることにすればいいのです」


「ど、どうしてもか?」


「ええ。国を捨てるのではありません。国の将来を見据えてこその判断です」


「では、私も……」

 風国王は狼狽して口走った。


「なりません」

 王妃はキッパリと却下する。


 王様と王妃がいない国って何なんだ。

 ラシルはそう思ったが、実際今の火国や水国、木国などはそういう状況にあると思い直した。


 風国王は眼を瞑って天を仰いだ。


「一生会えないというわけではありません。ラシル様の転移術もありますから、必要な時は折を見て帰ります」


 風国王は王妃の顔を見て、視線を地面に向け、また王妃の顔を見た。


「わかった。ラシル殿、妻をお願いできないだろうか」

 風国王が神妙な顔して言った。


「ええ、大丈夫ですよ」


「ラシル様、どうぞよろしくお願いいたします」

 王妃は丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ」


 こうして、風国王妃エザイアの滞在が決まった。


 熟年離婚とはいかないまでも、これは事実上の別居である。

 結婚した経験のないラシルにはわからない。

 風国王の心情も、王妃の行動も。


 後でメイアがそっと耳打ちしてきた。

「温泉と食事が気に入ったらしいですよ。特に芋を使ったスイーツ、スイートポテトがお気に召したそうです」


 風国王は王妃と別れるのが嫌なのか、本当は午前中で帰る予定だったのに、昼食まで食べてから帰った。

 転移門を潜る時も名残惜しそうで、捨てられた犬のような目をしていた。


「エザイアさん、よかったんですか?」


「はい。王妃って意外と退屈なんですよ。子育ても終わったので、好きなように生きてもバチは当たらないと思います」


 ラシルの問いに満面の笑みで答えた。


「それにレイランから沢山聞きましたよ。研修所での暮らしの事。私も今でこそ現役を退いていますが、まだまだ強くなれるという可能性はとても魅力的です」


「ははは」

 ラシルは愛想笑いしかできなかった。


 エザイアさんはレイランや他の王族が暮らしている研修施設に入ってもらうことになった。

 フェルウェンと3人娘も火国のリャンエン将軍やシュウライ大臣と同じ貴族扱いにして、王族と同じ研修施設で暮らす。


 後のことはレイランに任せた。


 後日、エザイアさんとリャンエン将軍が親密な関係になり、風国王も巻き込んで泥沼化したのはまた別の話。




 白虎帝、風国と2つの勢力との予期せぬ接触があり、残すところ中央エルフとなった。

 白虎やダークエルフの族長ルニエスティと会見し、中央エルフの情報と今後の方針を話し合った。

 本格的な話は後日、エルフの国を訪れた後にする予定だ。

 エルフの国へ行くにあたり、気を付けたほうがいいこと、注意すべき点などのアドバイスを得るのが主な話し合いの内容だった。


 白虎はラシルの好きにしたらいいという。

 所詮弱肉強食なのだから、相手よりも強ければ弱い存在はそれに異議を唱えられない。

 エルフがどういう状況であったとしても、力で覆せるのだからそこまで心配する必要はないとのこと。


 スティはエルフに故郷を追われた恨みを持っている。

 奴隷化については思うところがあるようだったが、一先ず現状を見てみたいということで、エルフの国へ同行することになった。


 

 エルフの国へ行くメンバーが決まった。

 ラシル、ミイ、ナスカ、ルニエスティ、そしてメルバコルの5名。

 ラシルはギルドマスターなんだから自分の目で見たいという、あまり理由になっていない理由から。

 ラシル様が行かれる所には私も行きますとミイ。

 拠点前で戦闘行為をして、相手にも顔バレしているであろうナスカ。

 ダークエルフ代表のルニエスティ。

 ラシル以外みんな女性だから男女比の数合わせのために招集されたメルバコル。


 話し合いの結果、同じエルフであるナスカをリーダーとして、後は随行の従者というような位置づけにする。

 また、不審に思われないように、生粋のエルフであるナスカとルニエスティ以外は皆、変身魔法を使って見た目をエルフにする。



 今回のエルフ王との接見に際し、こちら側の主張を明確にした。

 こちらは独立した勢力であること。

 ダークエルフの保護をしていること。

 この2点のみだ。


 後はあちらの出方次第。

 奴隷国家と手を組みたくないので和平や国交樹立はないが、開戦はあり得る。

 最初の接見なので、様子見という要素が強い。

 

 エルフ王の他に、ミイが気になるエルフがいるということなので、そのエルフと会うことも予定に入れる。



 それでは出発。

 中央エルフの都市から3キロほど離れた場所に転移。

 周囲に展開しているニボシの情報では、ここからエルフ軍の監視が密になっているのだそうだ。

 もちろん、誰にも見られずに転移で町中に現れることもできる。

 しかしそれでは不自然なため、わざと見られながら進む。

 使者が手紙を届けてから日数が立っているが、徒歩で来たところを見せれば整合性が保たれる。

 何日も歩いてきたことを演出するため、服は多少ヨレヨレにしている。

 

「監視のエルフが動いたようです」

 ミイか全員に念話で話掛ける。


 ルニエスティは念話の受信はミイの力によってできるが、ルニエスティの方から伝える事はできない。

 無論、ルニエスティ以外の全員が念話を使える。


「こちらの到着を伝えに行ったのでしょう」


「予定通り、焦らず行こう」


 さも長い距離を踏破してきたように見せるため、2ロほど歩いたところで小休憩を取った。


「朝から歩きっぱなしで疲れたな」とラシル。


「そうだな。町に着いたらご飯にしよう」とメルバコル。


 疲れた感を演出した。

 メルバコルはラシルと同じ従者設定なので、敬語は使わない。


 休憩の後、都市に到着した。

 中央エルフの国は正式名称、セドゥラモント。

 周囲は森林に囲まれた都市。

 城壁と呼べるようなものは無く、都市の周囲に腰の高さほどの石垣が積んであるだけだ。

 その代わりに木組みの見張りの塔が都市を囲むように沢山存在している。

 都市の東から西までそれほど大きくない川が縦断し、都市を南北に区切っている。

 護岸工事などはされていないが、水量の割に川幅が広く取られている。

 いくつもの木造の橋が掛けられており、主要な街道を結ぶ橋は石造りだ。


 この都市が首都であり、国の唯一の都市だそうだ。

 人口は10万人ほど。

 その9割が奴隷だというのだから、すごい。


 舗装はされていないが、街道のような道を歩いて行くと、大きな小屋風の関所があった。

 使者に渡された手紙を見せると、兵士の何人かで確認し合った後、特に身体検査などなく通された。

 兵士たちの視線や態度から、何となくだが排他的でこちらをみくだているような印象を受けた。

 特に、ルニエスティを見た何人かの兵士が怪訝な顔になった。

 何でもない風を装って関所を通過。


「ルニエスティ、大丈夫?」

 念話ではなく、発声してララシルが尋ねた。


「はい。大丈夫です。少し緊張しているかもしれません」

 ルニエスティが硬い表情で言った。


「だんだん開けてきたな」とメルバコル。

 関所は都市の外れにあり、周囲には畑しかない。

 作業をしている人はまばらだった。

 エルフも農耕をするのかと感心した。

 しかし基礎がなっていない。

 素人目に見てもこれは酷いと思った。

 これでは十分な収穫量を見込めないだろう。


「ルニエスティ、エルフは農耕をするんだね」


「ほとんどしません」

 

 畑を見ながらルニエスティの言葉に少し首を傾げているラシルに、ルニエスティは追加で説明をする。


「森の恵みだけではこの人口を賄いきれないからでしょう。それに、農業をしているのはエルフではなく奴隷にされた人間だと思います」


「なるほど」


 耕作地を過ぎると、掘っ建て小屋のような家がポツポツと見え始めてきた。

 人の歩く姿もちらほらと見えだした。

 

 麻布のような素材の生地を、頭と手の部分を切ってくり抜いただけのような服を着ていた。

 首と手首の三か所に鉄製の輪が付けられいる。

 大人も子どもも同じ姿だった。

 前から歩いてきて通り過ぎる時、耳のフォルムでこちらがエルフだと分かると、端に寄り、頭を下げ、通り過ぎるのを待っていた。

 目に精気はなく、ぼんやりとしていた。


「あの奴隷の地位はどのくらいだ?」とラシル。


「最底辺です」とミイが答えた。


 中央エルフの国ではエルフには王族と貴族が最上位のヒエラルキーとして存在し、次に兵士、ごく少数の一般市民と続く。

 王様と貴族が自由民で、兵士は上級の兵士を除いて、どこかの貴族の奴隷になっている。

 少数の一般市民は、大富豪や大商人といった者たち。

 その他はどこかに仕えているかぎり、奴隷契約をしている。

 誰かの下で働く際には、奴隷契約しなければならない。

 奴隷保有数には決まりがあり、その枠を増やすために富豪や商人は献金するという。

 更にその下に森の各地域で鹵獲された他種族の奴隷、戦争等で捕虜になった人間の奴隷や獣人の奴隷がおり、それは人口全体の1割に上る。


「夢のも希望も無い、ヤバイ所だな」と念話でラシルが呟く。


「家畜と大差ありませんね」と念話でメルバコル。


 一行はそのまま無言で都市の中心に向かって歩いて行った。


 建物が大きく立派になってきたところで、昼食にしようとミイが提案した。

 エルフの国到着。これから初、エルフの郷土料理。

 この字面だけ見れば胸がときめくようなイベント発生中だが、現実はそうはいかない。

 首輪と腕輪を付けたヤバイ人たちの中に混じって、ヤバい食事。


 感覚が麻痺してきたのか、奴隷首輪が共通のファッションアイテムに見えてくる。

 首輪を付けていないエルフはまだ少数しか見ていない。

 ラシル達も首輪を付けていないのだが、首輪をつけた連中から、ルニエスティが侮蔑のこもった眼差しを向けられる。

 そいつらの横を通り過ぎる時に、ルニエスティに首輪が無いのを見てみんな驚く。

 エルフの亜種として見られているダークエルフはエルフよりも一段階下に見られているのだろう。



 ラシルたちは目についた大衆食堂へと入った。



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