086_3つの来訪者7 状況整理
ラシルはダークエルフの一族と白虎が仲間に加わったことを報告した。
ダークエルフは保護。白虎はこれから国をまとめて傘下に入る準備をするという。
ダークエルフの傘下入りは概ね好意的に受け止められたが、白虎の時は約一名ムッとした表情を見せた者がいた。
言わずともわかるだろう。
ダークエルフの一件で、ロメリアの拠点の位置がほぼバレてしまった。
今後は予期せぬ事態に見舞われるかもしれないので、注意するように通達。
また、他の拠点においても、原住民との接触の際の対応をマニュアル化するように指示した。
不要な争いや恨みを買うのを避けるためだ。
にこやかに、フレンドリーに、攻撃されたら容赦なく。
これが原則だ。
防御に関して、再度各拠点担当者間で見直すように指示をした。
各拠点には拠点管理者がいる。その拠点管理者の下に2名の副官がいる。
拠点管理者に何かあった場合やその場にいないときなどは副官に指揮命令権が継承される。
副官二人も不在の場合は、他の拠点管理者に指示を仰ぐことになっている。
俺に何かあった場合は、指揮権はミイが継承することになっている。
ミイの次はメルバコル、そしてエアノワリス、クゥと続く。
改めて防衛体制の確認と、各拠点間の連携は重要だ。
そしてレベリング。
先日のナスカとエルフ王の戦闘を見て、さらに今日の風国の騎士とリャンエンの一戦を見て、俺たちは最強に近いんじゃないかとチラッと思ったが、油断はいけない。
何があるかわからないし、強者もいるだろう。
その前提で全てを考えなくてはならない。
どこで足元を掬われるかわからないのだ。
可能な限り、速やかに軍拡するのが望まれる。
弱いと舐められてしまう。
未知の相手に対して、こちらが丁寧な対応をしたとしても、力がなければ屈する選択肢しかない。
相手が未開の民度の低い集団だった場合、酷い扱いを受けるのはこちらだ。
選択肢を死守するためにも、軍事的強さは持っていなければならない。
この世界には警察も法律もない。
ならば、こちらが最低限の文明的態度を取り、それを押し付けるしかないのだ。
もちろん、積極的に相手を害するつもりはないが。
レベリングは頗る順調だ。
まず俺。
龍種がカンストして、現在のレベルは560。仙人種、精霊種、竜種に続き悪魔種を鋭意取得中。
全員のレベリングを管理しているメルバコルからの報告。
ミイは仙人種、悪魔種をカンスト。続いて天使種を選択し、570。
クゥは仙人種、精霊種、竜種をカンスト。悪魔種を選択し、550。
メルバコルは悪魔種と竜種、精霊種をカンスト。仙人種をレべレング中で、570。
エアノワリスは天使種と苦手な仙人種をカンスト。竜種のレベリングを開始したところで、530。メルバコルに八つ当たりをしなければいいが。
ロメリアは精霊種、仙人種をカンスト。苦手な竜種でスローダウン。480。
セシュレーヌは竜種、悪魔種をカンスト。研修所の責任者として、仙術を早めにマスターするために、次は苦手な仙人種を選択し、現在530。
ペッフィーは悪魔種、仙人種をカンスト。研究のために次は精霊種に着手し、540。
それぞれの拠点の副官も2種族を取得済み。現在3種族目に到達している。
一般兵も全て、元の種族はカンスト。2種族目に突入。少数だが早い者は3種族目に突入している。
レベルの確認が終わり、各員からの報告に移った。
セシュレーヌが立ち上がる。
「ラシル様、ご報告申し上げます」
研修所のレベリングも順調。
あと1か月もあれば、全員仙人種はカンストできるという。
ただ、転移術やアイテムボックスの使用といった、空間術式の使用に関しては難航する見込みだという。
火や風、水や土といった日常生活の中で回りにあったものに関しては、イメージも湧きやすく、それなりの経験があるため、習得は容易だ。
しかし、空間という概念は、どうしても科学的な思考が必要になるため、その基礎から叩き込まなければならないという。
ここで付いてこれない者はドロップアウトするかもしれないのだ。
そのために、基礎の戦闘れべるのレベリングの段階から、ラシルの世界で言うところの小学生の科学の知識くらいは習得させたほうがよいとセシュレーヌは提言した。
「なるほどな。戦闘レベルをカンストしてからでは遅いか」
「はい。最初の段階から、最低限の科学と戦術論程度は叩き込むべきかと思います」
「そのほうがスムーズだろうな」
1期生たちはあくまでも実験。
実際にやってみて、その結果色んな課題が見えてくることのほうが有り難い。
彼等の卒業時の進路も真剣に検討を始める時期に来ている。
彼等は研修所で全く別の文化に触れ、水準の高い生活を送った。
なにより、強くなって力を得た。
得た力を悪用させないためにも、何かしらの方法で管理する必要がある。
最悪、犯罪を犯した者や、良くない力の使い方をした者の力は奪えるようになっているが、それは最後の手段にしたい。
最初の案では、カンストしたものから順番に元の村や町へと返す。
そこで農業や防衛に従事してもらう。
希望者は1~2か月で訓練所に戻し、2つめの種族に挑戦させる。
そうやってルーチンを組む。
各国の町や村には必ず数人の大神仙を待機させる。
そうすれば現在防衛にあたっているギルドの悪魔族や元からいる大神仙、ホーリーナイトたちの負担も減る。
仙人種をカンストすればとても役に立つ。
転移術も使えるようになるし、長距離通信術も使える。一人で農業が成り立つ。
最終的にどうしたいかは本人たちのヒアリングも必要だ。
「よくやっているな、セシュレーヌ」
セシュレーヌが嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といったように、顔を赤らめで俯いた。
次にベッフィーから研究の進捗について報告があった。
エアノワリスは食料生産についての報告。問題なし。バンバン作ってジャンジャン料理させているらしい。
続いてロメリア。
ここからが本題だ。
「ご報告いたします。ダークエルフたちは現在木国の南都市跡地に一時的に住んでおりますが、全員、訓練所へ行かせることにしました。本人たちも強くなり、ラシル様のお役に立つことを望んでおります」
「うん。本人の希望は優先するように」
「畏まりました」
「続いて脱走者とエルフの使者についてです」
「逃げた者はアイテムを保有していた者で間違いないんだね」
「はい。計3名、木南都市に到着して1日もしないうちに脱走いたしました。ご指示通り、監視を緩くしていたところ、逃げたようです」
「これについては後程、私から詳細を」
ミイが口を挟んだ。
脱走者である対スパイ工作はミイの専門分野である。
完璧なカウンターインテリジェンスを実現してくれるだろう。
ロメリアはミイの方を見て頷き、話を進めた。
「次にエルフからの使者です」
エルフが5名ほどで先日の戦闘場所に来た。
使者である旨を大声で呼びかけた。
ナスカの部下のエルフが一人、使者の前に姿を現したところ、手紙を手渡された。
中央エルフの国王からの親書だった。
使者は国に招待したい旨を口頭で告げ、訪問を心待ちにしていると言って去って行った。
手紙に魔術や怪しい呪いなどが掛かっていないことを確認。
親書を持ち帰った。
「親書の内容はエルフの使者が告げていった通りです」
先の戦闘行為の謝罪と、来訪を心待ちにしている。その場で会談したいというものだった。
「エルフは馬鹿ではないようだ」
「ラシル様、ここは滅ぼされますか?」
ミイが確認のために質問した。
「どうだろうな。会談を望んでいるのだから、乗ってみてもいいと思う。目的は分かるか?」
「想定はいくつかできますが、不明です」
「俺たちはこの世界にとって、異物だ」
「異物は排除されるのが常です」
メルバコルがラシルの発言を肯定する。
「排除される前に、先に排除するべきでしょう」
エアノワリスがキッパリと言った。
「明らかに、何らかの企みがあります。今日のクゥ様のように、騙されないうちにやってしまいますか」
ショウがクゥを挑発するような意見を述べた。
ギロリ。
こんな音が聞こえてくるような目つきでクゥがショウを睨んだ。
「下手に出ることはしない。相手が付け上がるからな」とラシル。
「説明をしてもよろしいでしょうか」
ミイが話を次に進めるために確認を取る。
誰からも意見が出なかったので、ミイは説明を始めた。
「まず中央エルフですが、ダークエルフの集団を除き、これで大森林中央部のほぼ全てを手中に収めたことになります。こちらとの接触に関しては、言うまでもなく、こちらの出方や勢力を把握するのが狙いの一端だと推測します」
「会おう。白虎からも情報を得るように」
「畏まりました」
「続いて脱走したダークエルフですが、大森林を北上中です。北には北方エルフの勢力と白虎が言っていた魔女の存在がありますので、そのどちらかの手の者だと思われます」
「十中八九、魔女のほうだろうな」
マジックアイテムの作成技術があるのは、現在のところその魔女の勢力のみである。
エルフにそんな技術があるのであれば、戦力均衡が崩れているはずだ。
白虎を押し返せずにいるエルフがそういった力を手にしているとは考えにくい。
もっとも、北方エルフは中央エルフとは別の国だというが。
「そう思います。魔女の拠点は特定済ですが、もう一歩踏み込んだ諜報活動を実施してもよろしいでしょうか」
ミイが鋭い目でラシル見た。
そこにはもちろん敵意というものはなく、どちらかというとやり手のビジネスマンのような、熱意のこもった目だった。
おっと、ビジネスマンではない。
こういう意識が幹部の寿退社を誘発しているのかもしれない。
気を付けなければ。
ラシルもカッコつけるために、無駄に鋭い目つきで頷いた。
「もう一点、新勢力と思われる動きがあります」
ダークエルフに白虎、中央エルフに魔女と最近忙しいが、まだまだあるらしい。
メルバコルやセシュレーヌといった幹部陣も強い興味を示したようだ。
「最近、土国にスパイらしき者の姿が多数おります」
火国の戦争が終了してからしばらくして、戦争終結の報せが他国にも届いた。
それは正式な通知といったものではなく、どうやら戦闘行為は終わったようだという状況を周辺各国が掴んだのだ。
周辺各国とは、白虎、ギルドの傘下にない土国の都市、朱雀帝である。
白虎は従属し、土国都市とは国交がないまでも、傘下の土国都市が交易している。
そして、土国領のすぐ南にある、朱雀帝が治める朱雀領。
「他の土国都市の商人や軍人に紛れて、朱雀帝の息のかかっている者を数名捕らえました」
「僕の拠点の北にある国だろう? 滅ぼそうか?」
地理的に近いセシュレーヌが口を挟んだ。
沢山の研修性を預かっている拠点管理者として、近隣に危険因子があるのは許容すべきではない。
スパイを送り込んむなど、敵対行動に出るのであれば先制攻撃で排除するべきだという意見だった。
結構極論だというのに、誰からも明確な反対意見が出ない。
「それはちょっと早急すぎるぞ。この場で明確にしておくけど、明らかな敵対行動が無い限りは、武力行使は禁止する。村落以上の集団への攻撃及び排除は、俺の判断を仰ぐように」
「わかりました、ラシル様」
セシュレーヌが言葉を心に刻んだとでもいうように、神妙に頷いた。
「では様子見ということで。カウンターインテリジェンスとして、こちらもスパイを派遣します」
現在勾留中のスパイは、得られる情報を全て得たので、釈放することにした。
そもそも彼等は下っ端だった。
土国や火国がその後どうなったのか様子を探るために派遣された者たち。
よっぽど暴力的であるとか、テロの実行犯でなければ、捕まえることはしない。
泳がせてもいい。
むしろ平和的に統治されているという情報が流れれば、こちらの利益にもなる。
当分は情報収集活動の強化が課題だ。
その担当はミイ。
彼女の部下たちもやる気十分だという。
エルフの国訪問は滞在中の風国のゲストと白虎が帰国した後にすることにした。
各拠点も以上なしとそれぞれの幹部から報告を受け、今日のところは解散。




