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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
85/246

085_3つの来訪者6 親善試合

 

 禁城から少し離れた草原地帯。

 ここに巨大な不可視バリアを張っている。

 外からは何も見えない。

 これまで続いていた平原の景色がそのまま続いているように見える。


 バリア内の一角では、熱気が渦巻いていた。

 今回行われる試合は2試合。

 一試合目は風の国の騎士たち対火国将軍リャンエン。

 二試合目はメインの白虎帝対クゥの対戦。


 観覧席は競技者の身長よりも少し上の高い所に設置されており、椅子はフカフカのソファーとまではいかないが、見るからに高級な座り心地の良いものが置かれている。

 椅子の横には小さなテーブル。その上に飲み物が置かれている。

 時間はたっぷりあるので、時間無制限の、どちらか戦闘不能になったら負けというルール。


 どちらが勝つのかは分かっている。

 だから賭けようなどとは、誰も言い出さない。


 第一試合に出場する風国の騎士6名は時間ギリギリまで作戦を練るためにミーティングをしている。

 彼等の目には闘志があり、勝という意思があった。


 一方でリャンエンは終始リラックスした様子だ。

 大臣のシュウライやレイラン・レイリン姉妹と談笑している。

 1か月前に初めてあった時よりも余裕があり、痩せこけていた頬は今は元通りになっている。

 時折笑い声が聞こえ、レイランとレイリンの表情は明るい。


「それでは、第一試合を始めます。出場者はフィールドに出てください」

 ギルドに所属する神仙の女性の声が辺りに響く。


 風国は団長のフェルウェンを戦闘に、前に3人、後ろに3人の陣形で試合開始を待っていた。

 リャンエンはゆっくりと談笑の輪から離れ、フィールドに歩いて行く。

 まるで散歩をするように呑気な背中だった。


「余裕を見せられるのは今の内だぞ」とフェルウェンが不敵に笑う。


「それはこっちのセリフだ」とリャンエンが何でもないことのように返す。


「私が審判を務めるメルバコルだ」

 両者のちょうど中間にどこからともなく現れたメルバコル。


 風国の騎士たちはギョッとしたような表情になったが、すぐに顔を引き締めた。

 リャンエンがメルバコルに心を込めたお辞儀をする。

 メルバコルにレベリングを手伝ってもらっている、いわゆる師弟関係があるようだ。


「ルールは明快。相手を戦闘不能にしたほうが勝ち。生命に関わる重症を負ったり、意識を失った時点で負け。もちろん降参のしてもそこで終了だ。戦闘不能になった者はこのフィールドから除外する。死んでも復活させるから存分にやりたまえ」


 今度はリャンエンが不敵に笑い、フェルウェンは苦笑した。


「双方、準備はいいか?」


「こちらはいつでもオーケー」とリャンエン。


「同じく」と緊張気味のフェルウェン。


「それでは、始め!!」


 メルバコルの号令ですぐに動いたのはフェルウェンと前衛の騎士2人。

 後衛の3人は詠唱を開始した。


「6対1で卑怯だと思うなよ!」

 

「全く」


 フェルウェンの挑発を軽く受け流すリャンエン。


 風国騎士3名がリャンエンに到達。

 すぐさま同時に切りかかる。


 同時に切り込んでいたとしても、ほんの刹那の時間差はある。

 リャンエンは1人の剣をはじき返し、2人目を受け止め、3人目の斬撃を身をひるがえすことで回避する。

 

 受け止めていた剣を軽く流し、再度死角から迫りくる剣筋を逸らす。

 すぐに後ろを振り向き、後ろに回り込んでいた騎士が切りかかる前に胴を狙った一撃。

 リャンエンの剣は騎士のお腹に平行に吸い込まれ、そのまま騎士は吹っ飛ばされる。

 またすぐに後ろを振り向き、2人相手に応戦。

 必死の表情のフェルウェンが猛烈に切り込む。

 それを余裕で受け流すリャンエン。

 そしてフェルウェンの一瞬の隙を付き、リャンエンはもう一人の騎士を吹っ飛ばした。


 険しい表情になるフェルウェン。

 それもそのはず。

 風国の6人はフル装備で臨んでいる。

 対するリャンエンは防具などの装備は一切なし。持っているのは切れ味の悪い、刃先を潰した剣のみ。


 最初から読めていた展開なれど、信じられなかった。

 自分を含め、精鋭の部下と3人がかりで攻めているのだ。

 これで倒せない敵など、風国内にはいない。

 いるとすれば、せいぜい玄武帝その人くらいだと思っていた。


 でもまだ成す術がないわけではない。

 戦闘開始から今までの時間はちゃんと数えている。

 そろそろ詠唱が完了し、後衛の術が発動して援護してくれるはずだ。


「エアーカッター!!」

「ウインディアロー!!」

「エアストリーム!!」


 フェルウェンはすぐさま横に飛びのき、発動された術式の攻撃延長線上から外れる。


 5つもの風の刃が迫りくる。

 同時に10もの風の矢が襲い、更に相手の動きを奪う強い下降気流。

 上から下に叩きつけるような風の圧力で動きを封じた敵を刃と矢が襲う必勝のコンボ。


 これで勝ったなとフェルウェンは片方の頬を吊り上げる。

 しかしながら、相手はレベルが高くて強化されているのだから、大きなダメージを負っても戦闘不能にならない可能性がある。

 そう考えたフェルウェンはダメ押しの攻撃のために、刃の後ろからリャンエンに向かって駆ける。

 実際、フェルウェンはこれで試合が終わると思った。

 吹っ飛ばされた部下を見て、2人とも起き上がってきているのを確認して安堵する。

 誰も戦闘不能にならずに勝てる。

 6対1だから当たり前だというのに、それでも嬉しいものは嬉しい。


 リャンエンはその場から動かない。

 強い下降気流に全く動じずに、剣を下げている。

 この強力すぎる攻撃に呆然としているのだろうかとフェルウェンは思った。

 リャンエンに刃が直撃し、矢も10本中8本は当たった。


 殺してもいいと審判は言った。

 ここでダメ押しの会心の一撃。

 剣にため込んでいた術を解放。

 風が剣の周りをまとい、刃の切れ味を何倍にも高くしている。

 必殺の剣、風纏いの剣で腹の真ん中を狙う。



 その光景をラシルは観覧席から眺めていた。

 尤も驚いたのは、リャンエンの余裕。

 いわゆるパワーインフレだ。

 つい最近まで道士に毛が生えた程度だった彼は、今ではレイランと同じ、大仙人にまで到達している。

 当初は国のためにと血の滲むような努力をしてきた彼は、今ではすっかり指導係のメルバコルに感化されている。

 がむしゃらにやるというのはダサくて、敵には常に余裕を見せるという戦闘スタイル、というか生き方を真似している。

 その影響もあるのだろうが、本当に余裕そうに見える。

 風国の男性騎士たち6名は全員が真人に到達している、この世界の猛者たちだ。

 それをこうも軽々といなしている。

 真人といっても、知識や鍛錬でだいぶ違うのだが、それでもである。

 本当に前とは大違いだ。と、ラシルは思った。


 風国の騎士で戦闘に参加していない女性騎士3名は他の人たちと一緒に観覧席で試合を見ていた。

 彼女たちはもちろん風国の騎士なので、同じ仲間である風国の騎士を応援している。

 火国の首都までたどり着く旅路は本当に大変だった。

 何より、同じ風国で生まれ、幼いころから血の滲むような訓練を受けてきた。

 風の国は男女差別が他の国と比べてほとんどなかったこともあるが、女性である自分たちを同じ対等の仲間として接してくれた。

 騎士の一員となり、師団の中枢を担うまで上り詰めた仲間たち。

 彼等を応援するのは当たり前である。

 だけど。

 6対1というのはやりすぎではないか。

 火国のリャンエン将軍がいくら強いとはいえ、風国の精鋭中の精鋭である6人の騎士が相手だ。

 1対1や1対2というのはわかる。

 この人数で1人を相手にするのは、ただの虐めではないか。

 そして詠唱が完了し、3人同時の仙術攻撃。

 上級悪魔を相手にしているのではない。

 同じ人間なのに。

 メイアは眉を顰め、ワーメルは悲鳴を上げ、ファムは両手で目を覆った。


 攻撃が直撃したリャンエンの周りでは、生えていた草が抉れ、土がむき出しになっていた。

 攻撃前と同じ姿勢で立っている。

 でも満身創痍のはずだと思ったフェルウェンはトドメの一撃を突き出した。


 次の瞬間。


 フェルウェンの手から剣が飛んでいた。


 グサッと剣が地面に突き刺さる音が遠くで聞こえた。


 リャンエンは無傷。

 笑みすら湛えて、フェルウェンの剣を弾き飛ばしたのだ。


「本当の風の刃を見せてやる」


 リャンエンがそう言うと、どこからともなく、体の周りに風の刃が発生。

 それが消えた。


 リャンエンの後ろにいた騎士の左腕が飛んだ。


 フェルウェンが呆然として、後ろを振り向くと、先ほど飛ばされたもう一人騎士の右腕が無くなっていた。

 後衛の3人は膝から下を切られて、前のめりに倒れていた。


 リャンエンがフェルウェンの喉元に剣を突き付ける。


 半ば呆然としてフェルウェンは喉の奥から絞り出すように、呟いた。


「まいった」


「勝者、リャンエン!!」

 メルバコルが叫ぶと、一斉に治癒魔法が飛んだ。

 待機していたプリーストからだった。


 腕や足を飛ばされた騎士たちは一瞬で全快。

 元通りになった。


 リャンエンはフェルウェンの方をポンと叩くと、観客席の方へゆっくり歩いていった。

 ラシルの前に来て一礼し、レイランたちがいる席へ登って行った。



 小休憩。

 レイランたち火国の首脳は談笑を再開した。

 対照的に、風国の騎士たちは失意を隠せない様子で、うなだれている者が多かった。


「主様!」


 クゥだと思って振り返ると、白虎がいた。

 すかさず腕に抱き着いて来る白虎にミイの殺気が飛んだ。


「白虎、次はお前の試合じゃないのか?」


「そうじゃ。でもそれは些細なこと。吾輩は主様のペットなのじゃ」


「相手は強いけど、勝てるのか?」


「心配しなくても、無傷ですぐに終わらせて見せるのじゃ」

 白虎が満面の笑みを見せる。


「ほほぅ。随分と自信があるようじゃの」


 来た。クゥだ。


「妾の主様のペットになるとほざいておるのはお主か」


 いつから妾のものになったのか。


「ペットになるのではない。もうなったのじゃ」


 フフンと鼻でもならすように言う白虎。


「知っておったか? 主様のペットになるには妾の許可が必要なのじゃ」


「許可? 吾輩に怪我の一つでも負わせてからそのようなことを言うが良いわ」


「ははーん。自分の力量が分からないとは、こんなにも愚かなこととはの」


「主様はお前より吾輩の方が気に入っているというのがわからぬか」


「は!! 片腹痛いわ!!」


「白虎、クゥ、その辺にしておこうな。これから勝負なんでから」


「ではこうしよう。この勝負で吾輩に傷の一つでも付けることができたらお前の言うことを聞いて、主様のペットになるのを諦めよう」

 白虎がふんぞり返って言った。


「望むところじゃ。お前など妾が本気を出せば一瞬じゃ」

 クゥが同じようにふんぞり返って言った。


「この条件でいいのじゃな?」


「異論はない」


 白虎が最終確認し、クゥが受諾した。


「ほらほら、もう始まるよ」



「主様、待っていてくだされ。吾輩はすぐに戻ってまいります」と白虎。


「主様、そこのイカれた発情期の猫を躾けてまいります」とクゥ。


「はいはい。わかったから。二人とも頑張って。クゥはあまりムキにならないように」


「わかったのじゃ」


 クゥと白虎が言い争いをしながらフィールドへと向かった。



「それではこれより、第二試合、本日の最終試合を開始します」


 神仙のアナウンスが入り、メルバコルが登場する。


「ルールは先ほどと同じ。双方用意は良いか?」


 二人ともメルバコルに頷いた。


「それでは、始め!!」


「参った!!」


 メルバコルが号令を発し、振り上げた腕を下ろそうとした時だった。


「降参じゃ!」


 叫んだのは白虎だった。


「それまで! 勝者、クゥ!」

 メルバコルが戸惑いながらも、勝者の名前を告げる。


 クゥは最初は防御に徹しようとしていたのだろう。

 何もしていない、ただ立っている状態で不敵な笑みが固まっていた。

 状況がわからないというようだ。


 試合終了を確認した白虎は駆け出した。

 ラシルの元へと走って来くるとねその胸に飛び込んだ。


「怖かったのじゃ~」

 ウルウルとした目をラシルに見せつけるように首を傾げ、そして胸に顔を埋めた。


 その様子を見て怒りの沸点を通り越したクゥは同じくラシルの前まで来ると、低い声音でこう言った。


「どういうことじゃ?」


 その問いに白虎は答えない。


「妾を愚弄する気か? どういうことじゃ?」


 白虎はようやく埋めていた顔を上げると、ニンマリとして言った。


「これで吾輩は主様のペットなのじゃ」


「はぁ? お前は試合に負けたであろう? 今すぐ主様から離れるのじゃ」


「約束を破るのかの?」


「負けたのはお前じゃ!!」

 クゥが激昂する。


 あー。

 そういうことか。


「クゥ、白虎が正しい」

 あまり関わりたくなかったが、不本意ながら当事者である俺は介入した。


「主様まで!! 妾は勝ったではないか!」


「違うよクゥ。さっき約束を思い出してみろ。白虎はなんて言った?」


「この勝負に勝ったら主様のペットになると言っておったのじゃ」


「それも違う。よく思い出してご覧」


 何秒か考えたクゥ。

 そしてハッと何かを思い出したような表情になった。


「白虎はね、この試合で白虎に怪我の一つ、傷の一つでも与えたら、ペットになるのを諦める。そう言ったんだ」


 クゥは口をパクパクしている。


「メルバコルの号令で試合は始まった。そして白虎は傷一つ負うことなく、試合が終了した」


「ですが、ですが、主様」


「勝負はもちろんクゥの勝ちだよ」


「でもこれでは勝ったとは言えない……」


「まぁ、白虎の作戦勝ちだね。ルール違反は何もしていない」


 クゥは悔しそうに歯ぎしりをした。


 白虎は嬉しそうに抱き着く力を強めた。


「これから宜しくの、クゥとやら」


 クゥは白虎を鋭く睨みつけた。


「クゥ。仲良くな。理由もなく白虎を傷つけることは許さないからな」


「はぃ、主様」

 クゥは一気にシュンとして、元気が無くなった。


 観客たちは肩透かしを食らったものの、気にした様子はなかった。

 ただ、クゥの実力が見たかったというリャンエンや、白虎帝の力を見たかったというレイランとシュウライが少し残念そうにしていただけだった。


 なんにせよ、これで親善試合は終わった。

 この対戦を所望し、一番戦いたがっていた白虎に、本当に戦わずに終わっても良いのかと聞いたところ、構わないという答えが返って来た。

 リャンエンの実力を見ただけで十分だし、それ以上に何倍も強いクゥに勝てるはずがないのが分かったという。

 わざわざ勝負をして術を見せてもらわなくても満足らしい。

 それならそれでよかった。


 この後の日程は、風国と各国の会談が予定されている。

 禁城の部屋を用意し、それぞれ二国会談、三国会談、多国会談がある。


 俺はそれには参加しない予定のため、空いた時間でレベリングに勤しむことにしている。


 禁城に転移で戻ると間もなく、ロメリアからの通信が入った。


 その内容はシンプルであったが、この世界に飛ばされてきてから今までで一番やっかいな出来事の始まりだった。



 エルフの使者が来たという。




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