083_3つの来訪者4 吾輩はペットである。
「その条件とはなんだ?」
真剣な雰囲気に負けた俺は、突っ込まずに白虎帝に尋ねた。
「このケーキを1日1個与えてほしい。できればミード酒も」
この上なく真剣な眼差し。
同じく居住まいを正していたショウは脱力し、自分で飲むおかわり用のお酒を作り始めた。
さっきまでワインだったのに、ウイスキーに手を出し始めたようだ。
四角いグラスに氷を入れ、ウイスキーを注いでいる。
まさかのロックか。
酔いたいのだろう。
ショウは一番忙しく働いているはずから、気苦労も多いのだろう。
かなり疲れているご様子。
俺も仕事が激務だった時、現実逃避したかったからその気持ちはよくわかる。
いや待て、ここはもう既に現実逃避した先だぞ?
ん? 違う現実だからまだ現実なのか?
そんなこの上なくどうでもいいことを考えて、思考から逃げていると白虎帝に膝をポンポンと叩かれた。
早く答えを聞かせろということなのか。
「で、どうなのじゃ?」
白虎帝とその領土が一日1個の蜂蜜ケーキとミード酒で済むのなら、破格である。
でも欲しいかかといえば、そうでもない。
領土は間に合っている。
ペットも間に合っていると言ってしまうのはちょっとアレだが、部下も間に合っている。
キャラもクゥと被るからな。
でもなぁ、情報持ってそうだし、色々と役には立ちそうだ。
「分かった。交渉成立だ」
「本当か!?」
「あぁ。仙界の管理はここにいるショウに任せている。彼の指示に従ってくれ。何か要望があれば彼に言ってくれ」
ショウが俺の言葉を聞いて固まる。
「えっ」という心の声が聞こえた気がした。
「分かったのじゃ。今後はお主の事を主様と呼ぶことにする」
「あぁ、フランクでいいよ」
「吾輩のことは白虎と呼んでくれ」
「わかった」
フフンと上機嫌になった白虎はまた俺の腕にくっつき始めた。
恐る恐るミイを見ると、まだ一人で考え事をしているようだった。
「それで、本当に傘下に入るということでいいんだな? 酔った勢いとかはないよな?」
「もちろんじゃ」
意思確認は済んだし、急ではあるけれどギルドに迎え入れる事にしよう。
アイテムボックスから仙桃を出す。
「さっきから気になっておったのじゃが、その何もない空間から出すやつは何なのじゃ?」
「これはアイテムボックスと言って、亜空間に物をしまっておけるんだ。空間術式を使えるようになると、転移術と合わせて使用可能になるよ」
「ほぉー」
白虎は興味深そうに腕が消えた辺りを見た。
「これは誰でも使えるのかの?」
「なるよ。レベルアップして勉強しなきゃいけないけど」
「そういうのを待っていたのじゃ。これで吾輩も強くなれるということじゃの」
「そうだね。とりあえず、これを食べて」
俺は白虎に仙桃を食べる意味について説明する。
不正や反逆行為があるとすぐに力を失うことになると。
白虎は二つ返事で快諾し、一口で食べてしまった。
「いろいろと聞きたいことがるんだけど、いいかしら?」
ここでさっきまでずっと黙っていたミイが発言した。
「吾輩もじゃ。いっぱい語ることがあるのぉ」
俺は白虎と席を交換し、ミイと話しやすくした。
俺はショウと2人で仲良く飲んだ。
もちろん隣の女性2人の会話を聞きながら。
話の内容は多岐に及んだ。
まずは仙界について。
伝説にあるとおり、争いを好まない種族が北へ行って根付いたのが最初の成り立ち。
南には険しい山脈、東には海、北には何者も住めない不毛の大地。
西は大森林が広がり、そこだけ国境として壁を作った。
それが大昔の話。
この伝説は四帝と桃源郷にいる者しか知らない。
王様には知らされていないという。
各国の王様というのは、後になって集落や町が大きくなってできた者であり、豪族のようなものだという。
なので、正式に、厳密にいえば、桃源郷の支配形態の中には組み込まれていないのだそうだ。
それでも特に争う必要もないので、その存在を認めているという。
次に桃源郷と四帝の動向。
桃源郷というのは君主制ではなく、合議制ないしは元老院のような政治実体だという。
8人の仙人が治めていて、仙桃の木の管理をしている。
元々は村のような隠れ里だったらしいのだが、そこを中心として町が栄えて、今では首都のようになっているらしい。
大仙人まで進化すれば、桃源郷の八仙の仲間入りができる。
新規加入があると、八千の中で最も強い仙人が退役するのだという。
メンバーが流動的なため、桃源郷の政治思想はほとんどなく、四帝も自由にしているとのこと。
ただ、元々平和主義者が集まって作った団体ということで、災いを呼ぶ異世界人排除の思想は強い。
桃源郷の八仙も、白虎を除く他の四帝も異世界人の存在が明らかになれば殲滅しようと軍事行動を取るだろうとのとこ。
森のエルフの情報も得た。
白虎の目的は強くなること。いわゆるレベリングだ。
そのために森のエルフと小競り合いを続けているが、彼らはいけ好かないという。
身分制度がはっきりとしており、エルフの国の4割ほどは奴隷だという。
奴隷との契約は特別に強固な術式を施しており、解呪は難しい。
水国の精神支配の術式なんかより強固で、生命に関わるものなのだそうだ。
奴隷を所有している主人が死ぬと、一緒に死ぬという。
一般兵は奴隷を使役して、主に奴隷に戦わせている。
特に現在のエルフ王は特に陰険で狡猾な奴なので気をつけるようにと言われた。
中央のエルフの国以外は良く知らないらしい。
ダークエルフの話をして、その流れの中で魔術アイテムの話をした。
「それは恐らく魔女じゃの」
険しい顔をした白虎は言った。
「魔女か。どういう存在か知っているか?」
「森の北に住んでいる魔女じゃ。正体なんかはあまりよく知らん。仙術でも精霊術でもない術を使う存在じゃ。20年前に魔女の人事異動があって、前まで住んでいたものと変わった」
「人事異動? 組織ということか?」
「どのくらいの組織かはわからんが、組織じゃ。力も強い。交代の時に新しい魔女が挨拶をしに来て、魔術アイテムの営業をしていきおっての」
「へぇ。商売人なのか」
「あれは商売人などではない。魔術アイテムの対価に人を何人かほしいと言われた」
「人を?」
「人体実験か何かのためだと思うがのぉ」
「怪しいな」
「その魔女が来てからじゃ」
白虎はミードを呷ると、ショウにおかわりを要求した。
サラミを一切れつまみ、新しいミードを一口飲むと、また苦々しい顔に戻った。
「その魔女が来てから北方の悪魔の攻勢が強まり、エルフが強くなり、水国が戦争を始めるようになった」
「確証があるのか?」
「ない。じゃがエルフの精霊術の威力が上昇したのじゃ。魔術の付与されたペンダントを付ける者がおってな。その者が使用できる何倍もの威力で攻撃できるアイテム。そんなアイテムは魔女しか作れん」
「なるほど。水国も?」
「水国王の代替わりはクーデターみたいなもんじゃ。前の水国王は温和な奴だったからの。アイテムを与えた魔女が絡んでいる可能性が高い」
「戦禍を撒き散らしているということ?」
「そうとも言える。吾輩たちの第一目標に強くなり、レベルアップすることというものがある。だから多少の小競り合いは見逃すにしても、大規模戦争は望ましくない」
「その目標は何のためにあるんだ?」
「さぁ。詳しくはわからん。エルフや悪魔から人を守るためじゃろ。桃源郷からの指示じゃ」
「なるほどね」
ミイと俺からの質問が落ち着くと、今度は白虎がいくつか聞いてきた。
まずはなぜ異世界人がこれほど多くいるのかということ。
伝説によれば、異世界人はいつも1人なのだそうだ。
それに関しては、「私たちにもわからないわ」と、ミイがごまかした。
ギルド全体が転移してきたとはいえ、ラシルがその異世界人の定義に当てはまる。
他のギルドメンバーはおまけみたいなもの。
しかし、ここで白虎にラシルがその異世界人であるということがしれれば、暗殺対象になるかもしれないからだ。
次に目的は何かと問われた。
伝説のように、強さに任せて世界征服する気はないし、弱いままで他の勢力に怯えて暮らすこともしたくない。
基本は現状維持で他勢力に害されないようしていきたい。
ただ、この前のダークエルフや火国のように見過ごせない事態が発生した場合、介入することもあり得る。
その場合は、正しい正しくないの判断はこちらの独断で行い、武力行使も徹底する。
保護した国や住民については、生活レベルの向上の支援や自衛力の向上などのサポートをする。
「受動的じゃの」
「受け身でいいんだ。何かを押し付けたいとか思わないし」
「なるほどのぉ」
白虎は言葉を吟味するように少し考え、ミードを飲んだ。
「その、吾輩ももっと強くなりたいんじゃが、訓練所とやらに入ってもいいかの?」
「別にいいけど、国をまとめるほうが先ね」
「分かったのじゃ」
白虎は少し唇を尖らせた。
これは可愛い。
「ショウ。白虎のこと、よろしく頼むな」
そ知らぬふりをしてお酒に逃げているショウに釘を刺す。
話を振られ、ビクッとしたショウは崩れない俺のスマイルに観念したかのように溜息をついた。
「白虎、明日の対戦だけど、結局どうしたいのさ」
「うむ。自分の強さを確認したいのじゃ」
「強い相手がいいってことか?」
「吾輩より強いものなど仙界にそうそうおらぬ。四帝とは力が拮抗しておるし、部下は弱い。同等以上の力を持つのは八仙じゃが、簡単に戦える相手ではない」
なるほど。
白虎に関する事前情報の強さを求めるというのはこういうことなのか。
「圧倒的に強いというのがどういう術を使うのか興味があるんじゃ」
術かぁ。
とすると仙術を使える仙人種がいいんだろうけど。
「でも困ったな。ちょうどいい対戦相手がいない」
「ラシル様。おります」
ミイが口を挟んだ。
「え、誰?」
「クゥです。白虎の話を伝えたところ、非常にやる気を出しています。同じ妖仙だというのもあるのでしょう」
「ほぅ、妖仙がおるのか。楽しみじゃのう」
「クゥはちょっと強すぎないか?」
「吾輩はそれで良い。異論はない」
白虎は嬉しそうにミードを呷る。
どんだけ飲むんだ、この子は。
「レベルが違いすぎるから、あまり本気を出さないように言っておくように」
「かしこまりました」
細かい所はまだ色々と聞きたい事はあるが、大きな話の流れはつかめた。
話も夜も更けてきたことだし、会合はお開きにした。
部屋へ戻ろうとすると、白虎が付いて来る。
バイバイまた明日と手を振っても、後ろからくっついてくる。
最後には腕を掴んで離さない。
「どうしたのさ」と聞くと、「ペットじゃから」といって一緒に部屋へと入ろうとする。
「ペットは入室禁止です。私でさえ一緒に寝られないのですから」と、最後にはミイに引っ張られて行ってしまった。
ようやく一人になってベッドに横たわる。
酔いが回ってとてもいい気分だ。
忘れないうちに養蜂の強化と蜂蜜を使った料理とお酒の生産強化をエアノワリスに念話で伝える。
その後ミイに魔女についての情報収集活動の指示を出した。
彼女であれば指示を出すまでもなく動いてくれるのだが、その後の白虎はどうなったのかも聞くためだった。
少し渋ったものの、大人しく部屋に入ってフカフカのベッドにダイブし、そのまま眠りについたという。
白虎の夜這い対策のためにこっちの部屋に来てもいいかと聞かれ、酔った頭で危なく許可を出すところだった。
夜這い対策であれば白虎の部屋を見張りなさいと言ったところ、本陣を守らずして勝利はありませんとか、寂しいのですとか言ってきたので、途中で念話を切った。
部屋の明かりを枕元にあるスイッチで消し、寝る体勢に入る。
現実の時の狭い部屋の布団と違って、キングサイズのフカフカのベッド。
体が沈み込むように、意識も遠のいていく。
完全に眠る前の頭で、バラバラになりかけている思考。
ダークエルフに白虎帝という仲間が増え、やることも増えてきた。
今の所大きな問題は起こっていないし、致命的な間違いも犯していないと思う。
伝説の話や桃源郷の八仙の話など、気になることばかりだ。
明日も予定が沢山あるし。
仙界のことだけでもショウに丸投げしたいなぁ……
意識が途切れた。




