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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
4 秩序の破壊者
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082_3つの来訪者3 二次会


 白虎帝が裾を引っ張っている手は邪魔をしようとか、動きを封じるための悪意のあるものとは思えなかった。

 いったい何が目的だろう。

 手を振り払うわけにもいかず、かといってこのままでは動けない。 


「酔っているのか」


「吾輩は酔わん」


「じゃあどうしたんだ」


 どうしたのかと答えを待っていると、白虎帝は見た目の年相応の女の子っぽく、モジモジし始めた。

 困った。


「ラシル様、ほら」

 ショウがこちらへの直視を避けつつ、何かを促している。

 一応ゲストの前だからか、いつもの師匠ではなく、名前で呼んでいる。


 それにしても、わからない。

 ミイは火国と風国の二次会の準備に行かせたので、ここには俺白虎帝、そしてショウしかいない。


 ショウに目線でどうしたらいいかを訴えかける。


 ショウの視線は泳ぎ、宙をさ彷徨っている。


 さてどうしたものか。

 こういった状況は何度か遭遇したことがある。

 前に勤めていたクソみたいな会社での出来事。

 職場のくだらない飲み会に参加した時。

 無難に一次会が終わり、店から出た所で二次会へ行こうという流れになった。

 その日は金曜日で次の日は休日。

 俺はもちろんすぐにでも帰ってゲームをしたかったので、そのままフェードアウトする予定だった。

 こっそりと駅の方へと歩き出そうとすると、後輩の女性社員が今と同じように服の袖を引っ張って来たのだ。

 その手を払いのけることもできずに立ち尽くしていると、他の同僚がこちらの状況に気付いた。

 一歩離れた位置で成り行きを見られていた。

 後輩の女性社員は、白虎帝と同じように俯いてモジモジしていた。


 この状況の対処方法は知っている。

 俯いてモジモジしているというのは、多分あれだ。


 俺は優しく白虎帝に言葉をかけた。


「トイレ、行きたいの?」


 ショウが口を開けたまま、目を瞑って天を仰いだ。

 どうしたのだろう。

 誰かと念話でもしているのだろうか。


 白虎帝は顔を上げると、フルフルと首を振った。


「ラシル様、白虎帝はもう少しお酒を楽しみたいのだと思われます。そうですよね?」


 ショウのニコニコしているけど無感情な問いかけに、白虎帝はコクリと頷いた。


「ぁー……」


「別のお部屋にご案内します」

 ショウがそう言って前を先導し始めた。


 ショウに案内された部屋はそんなに大きくない部屋だった。

 フカフカのソファーが一つ。

 そしてさほど大きくないテーブルが置かれていた。


 俺と白虎帝をソファーに座らせると、ショウはアイテムボックスからお酒のセットを出し始めた。

 ワイン、ウイスキーにブランデー、白虎帝の好きなミード。グラスに氷まで。


「私はミイ様に報告してまいります。ごゆっくり」

 ショウは一礼して部屋を辞した。


 一度座れば立ち上がる気を失せさせる、高級ソファーに身を沈めている。

 横にはいつからかべったりとくっついてきている白虎帝。

 袖ではなく、左腕を取られている。

 体の密着具合がすごい。

 

 なんだ、なんだ、何なんだ。

 そんなに親しかったか?

 今日会ったばかりではないか?

 これがいわゆるハニートラップというやつだろうか。


 俺も白虎帝も言葉を発せず、無言の時が過ぎ去る。

 もう少しお酒が飲みたいとショウが言っていたのに、

 白虎帝はお酒に手を伸ばさない。

 注いであげればいいのか。

 何が正解のマナーなのか分からない。


 数分した後に、部屋のドアがノックされた。

 誰か来た。これでこの気まずい雰囲気を打破できる。

 返事をすると部屋に入って来たのは鬼のような無表情のミイと、気まずそうな表情のショウだった。


「ぉ、お疲れ」


 ミイは無言のまま前を横切ると、俺の右側にドカッと腰をおろした。

 そして巻き付くようにして俺の右腕を抱えると、白虎帝と同じように体を密着させてきた。


 ショウは部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて、対面からちょっとズレた位置に腰かける。


 そして誰も何もしゃべらない空間になった。

 さっきより修羅場度合いが上がっていないだろうか。

 左には見た目中学生の白虎帝。右には見た目女子高生のミイ。

 目の前にはお酒。

 いつ警官隊が突入してきてもおかしくない状況だった。


「もうそろそろ寝ようかな」

 そう言って腕を振りほどいて立ち上がろうとすると、腕に凄い力がかかった。 

 白虎帝とミイがこちらを見ている。

 白虎帝の目は潤んでいて、ミイの目は何か強い意思を感じる。

 さっきより状況が悪化。


「ショウ、ショウ、お酒を。早く」

 俺はショウにSOSを出した。


 ショウが無言でお酒を作り、皆の前に並べていく。

 白虎帝にはミード。

 ミイにはブランデー。

 俺の前には赤ワイン。

 ショウは俺と同じワイン。


 ミードを出された白虎帝はようやく腕を解放してくれて、ミードに手を伸ばした。

 それを見たミイもどこか勝ち誇った顔でブランデーに手を伸ばす。

 なんとかこの状況から脱出できそうだ。


「それじゃあ、乾杯」

 みんなでグラスを合わせる。


「ミイ、風国のみなさんは大丈夫そうか?」

 俺はミイの機嫌を取るように話しかけた。


「はい。火国の首脳陣と談笑しています。積もり積もった話があるのでしょう」

 ミイがいつものように返事をした。

 ちょっと機嫌が治っているようだ。


「そうか、良かった」


 ショウが気を利かせて酒のつまみを次々と出していた。

 白虎帝の好きな肉類。

 サラミやドライソーセージ、

 白虎帝は出されたつまみを一切れずつ摘まんでいった。

 一口ごとに至福の表情を見せる。

 さっきまであれだけ食べていたというのに、まだお腹に入るのだろうか。

 しかしこちらもよかった。なんとか普通に戻ったようだ。


「白虎帝はどうかな。気に入ってくれたかな」


「決めたのじゃ」

 白虎帝は満面の笑みを向けた。


「何が?」


「吾輩はお主のペットになる」


 ん?


 グラスを傾けていたミイの手が止まった。

 ショウは口に含んだワインを飲み込もうとしていたようで、ゲホゲホとむせていた。


 何だろう。

 一体なんだろう。


「ペットとは、どういうことですか?」

 ミイが低い声で聞き返した。


「ペットはペットじゃ。吾輩は猫だからの。可愛がってもらうのじゃ」


「そういうのは間に合っています」

 ミイがキッパリと言った。


「一人や二人増えても変わらんじゃろう」

 白虎帝はそう言って上機嫌に鼻を鳴らした。

 

 むせ終えたショウは2人のやり取りに暫く呆然とした後、再起動した。

 アイテムボックスから、いろんな種類のナッツがぎっしり詰まった蜂蜜ケーキを二人の前に置いた。


 それを見た2人はしばしお喋りを止めてケーキを堪能する。

 ショウがこちらに目で合図を向ける。

 今のうちに何とかしろ言っているようだ。


「その、白虎帝はうちの傘下に入りたいということか?」


「違う。ペットじゃ。ペットになりたいんじゃ」


「よくわからなが、国は? 国はどうするんだ?」


「国をまとめているは吾輩の部下じゃ。どうにでもなるじゃろう」


「そうはいかないわ。白虎帝国をちゃんとまとめて傘下に入るというのなら、考えてもいいけど」

 ここでミイが口を挟む。

 まさかの決定権が俺にはないという発言だ。


「それより、理由は? そんなにミード酒が気に入ったの? 別に傘下にならなくても貿易くらいなら全然するよ」

 また領土が広がってしまう。

 今か抱えている所の発展と強化がまだなのに、新しい所となるとちょっと。


「それもあるが、そうではない」


「というと?」


「お主たちは異世界人じゃろう?」


「なっ……」

 ミイとショウが警戒態勢を取る。


「そんなに警戒せずともよい」


「なぜ知っているんだ?」


「当たり前じゃろう。こんなに急に現れて、この世界にはないこれだけの技術を見せつけられれば誰だってそう思う」


 なるほど。

 それもそうか。


「それを分かった上で傘下に入りたいと?」


「そうじゃ」


「一つ聞きたいんだが」


「なんじゃ?」


「異世界人は他にもいるのか?」

 ようやく得られそうな手がかり。

 元の世界に帰りたいとかそうでないとかに関わらず、他にも地球人がいるのだろうか。

 もしかしたら日本人と会えるかもしれない。

 そんな期待を込めた質問だった。


「いないと思うぞ」

 希望はあっさりと打ち砕かれた。


「それはどうして?」


「すぐに殺されてしまうからじゃ」


「殺される? 誰かが狙っているというの?」とミイ。


「そう単純な話ではないのじゃ」


「話を聞かせてもらえるか?」


「いいじゃろう。その前に」


「その前に?」


「このケーキをもう一つ」


 俺はショウに頷き、追加のケーキを出してもらった。



 ケーキを一口頬張ると、幸せそうな顔をして、ミードで流し込んだ。

 


「吾輩が知っている限りでな」


 白虎帝の話はこの世界の伝説から始まった。


 

 この世界には様々な種類の生き物がいる。

 人間や動物、悪魔や天使、精霊といった存在。

 通常、それら全てが一つの世界にいるということは無かった。

 人間には人間の世界があり、悪魔には悪魔の世界があり、天使には天使の世界がある。

 しかし、それは遠い遠い過去の話。

 その世界は今はもうない。

 異世界からの侵略者により、住む世界を追われたのだ。

 世界を追われて、隣の世界へと逃げ、その世界にも侵略者が来て、またさらに隣の世界へと逃げていった。

 そうしていくつかの世界を逃げるうちに、種族が次々と増えていった。

 最後に辿り着いた世界で様々な種族は力を合わせて強い結界を張った。

 侵略者はその結界を超えてくることができなかった。

 こうして侵略者のいない世界で平和に暮らした。


「世界にはこういう伝説がある。この仙界ではあまり知られていないがな」


「その伝説は本当なのか?」


「本当かどうかは吾輩には分からん。まだ続きの話がある」


 白虎帝の伝説パート2が始まった。


 この世界に来た各種族は仲良く暮らそうとした。

 当初はそれで上手くいったが、争いが始まった。

 侵略者という強敵によってまとまっていた各種族も、平和になると絆が緩んだ。

 習慣や信じるものの違い、何より食料や資源が不足し、奪い合うために争った。

 いくつかの大きな争いを経て、それぞれの住む場所を変えようという話になった。

 争いが嫌いな人間は北に向かった。

 悪魔たちは西へ。

 妖精は森へ。

 天使を信じる人間は東へ。

 こうして住む場所が分かれてから数百年が経った。

 それぞれの場所で発展していき、人口が増えた。

 人口が増えると、食糧が不足した。

 それでまた争いが起こった。

 また、思想信条や見た目の違う者を滅しようとするための戦争が起こった。

 


「ここまでがパート2。最後のパート3に入るぞ」


 伝説パート3。

 様々な種族は争いをしながらも生き続けていた。

 そんな世界に異世界からの来訪者が現れた。

 それは逃げてきた世界から来たものなのか、全く別の所から来たのかは、今となっては定かではない。

 その異世界人はこの世界にはない知識を持っていた。

 力を付け、レベルが上がり、この世界の仕組みを知ると、暴力で支配するようになった。

 絶大な力で好き放題振る舞い、最終的に滅ぼされた。

 その後も数百年に1度のスパンで異世界人が現れる。

 異世界人には強い異世界人と弱い異世界人がいる。

 強い異世界人は一概に世界征服を企む悪の存在となり、世界に危機をもたらす。

 最後には討伐されて死んでしまう。

 弱い異世界人は未知の知識や技術を広めた後、通常の人の寿命と同じくらいで死んでしまう。

 現在の世界の常識では、異世界人は亡ぼすべき対象である。


「以上じゃ。どうじゃ、タメになっただろう?」


「ああ。とても参考になった」


 この世界の住民が来た違う世界というのは皆目見当もつかない。

 しかし、異世界人というのは確実に俺の事だ。

 数百年に1度程度の周期で異世界人が確認される。

 これが本当なら、余程長生きしていない限り、この世界には俺の同類がいないことになる。

 そしてここに来た異世界人の振る舞いだが。

 強い異世界人というのはレベリングをしたものだろう。

 ここをゲームの世界や死後の世界と勘違いして強くなって好き放題やったのだろう。

 その結果討伐されたということか。

 次に弱い異世界人というのは、多分あれだろう。

 こちらの世界に来て普通に暮らした人か。


 この世界に来た人は一般人ルートか魔王ルートの2択しかないということか。

 誰も正義の味方をして勇者ルートを進む者がいなかったということか。

 ちょっと悲しくなってきた。

 人間って自分の日々の生活に忠実か、欲望に忠実のどちらかなのだろうか。


 いや、待てよ。

 一般人ルートは分かるとしても、魔王ルートの方だ。

 よくよく考えると、これは不可避である可能性が高い。

 正義の味方ぶってどこかの勢力に肩入れしたとしても、他勢力から見ると異物であり排除対象だ。

 カッコよく誰かを助けても、それはそれで正義とは限らないのだ。

 ロメリアさんがゲームの世界で善意の魔王となりかけたみたいに。

 もしかしたら伝説も、コミュニケーション不足というか、致し方ない結果なのかもしれない。


「それで、その伝説を知っていて、どうして俺たちの傘下に入りたいんだ?」


 喋り終えて蜂蜜ケーキを幸せそうにパクついている白虎帝は気付いたようにこちらを向いた。


「なに、どういう存在か吾輩自信の目で確かめてみたくてな。木国や水国に問い合わせても戦争が終わったとしか回答がない。部下を使って調査させたが、どの村も町も平和になっている。それも火国の勝利で終わったというではないか」


「まぁ、不自然だよな」


「そうじゃ。それにラシルという者に仕えることになった。しかし王様は変わらないというトンチンカンな状況になっておるからの。これは異世界人だと思ったのじゃ」



「どうして会いに来ようと思ったんだ?」


「当たり前じゃろう。数百年に一度しか現れない存在、未知の知識があって、その上強いのじゃ。この広い世界の中で吾輩の領土の近くに現れたのはラッキー以外のなんでもないわ」


「でもどうして一人で来たんだ?」


「それはその……部下に止められたからじゃ」


「あー」

 なるほど。

 それもそうか。

 異世界人は基本的に討伐対象だもんな。


「まぁでも、吾輩は賭けに勝った。お主たちはくらべものにならないくらい強いし、未知の知識もある。万事オーケーじゃ」


「はは……」

 ずっと黙って聞いていショウが乾いた笑いを漏らす。


 ミイは眉間に皺を寄せて、まだ深く考えているようだ。

 情報を分析しているのだろう。

 そっとしておこう。



「吾輩はお主のペットになると決めた。明日の対戦の後に話そうと思っていたこともほとんど話してしまった。ただし、条件が一つある」


「条件?」

 条件反射で聞いてしまったが、申し込みをされているのはこちらの方で、条件を出すとしたらこっちなのではないか。


「そうじゃ。これだけは譲れぬ」


 白虎帝はひどく真剣な顔をして、居住まいを正した。




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