073_大森林の情勢
引き続き、諸外国の状況について。
現在禁城が位置しているこの領域を仮に仙界と称する。
その中央には桃源郷と呼ばれる最も強力な国家が覇を唱えている。
その四方には青龍帝、白虎帝、朱雀帝、玄武帝と呼ばれる四帝が存在する。
彼らはどうやら人間ではないらしい。
人型であるし、人語も操るそうだが、クゥと同じ動物から進化した存在のようである。
そう言った伝説があると各国の王が教えてくれた。
桃源郷の皇帝と呼ばれる存在は人間かどうかは分からない。
誰も正体を知らないとのこと。
四帝国の周辺に五大国である火国、水国、風国、土国、木国がある。
各国の王や代表は人間で、国民の99パーセント人間の、人間国家である。
人間五大国と比べ物にならないほど強国とされる帝国。
人間五大国での最強は、せいぜい真人であるが、帝国と呼ばれるところの仙力はもっと高いらしい。
仙人や大仙人級の者がいると噂されるが、その真偽のほどは定かではない。
強い国ほど桃源郷から仙桃をもらえるそうで、4つの帝国それぞれが切磋琢磨するライバル関係にあるようだ。
ただ、四帝の力は拮抗していて、互いにけん制し合う仲でもある。
そのお陰で、散発的な戦闘はあるものの、大規模な戦争がほとんど起こらないらしい。
2つの帝国が戦争を始めると、他の2つが介入してくるからだ。
人間五大国は、代々どこかの四帝の庇護下に入り、繁栄してきたという歴史がある。
最近では気まぐれな朱雀帝が火国を庇護することを止めたために、動乱が起きた。
白虎帝の庇護下にある水国と木国の一部が戦争をしかけ、引き続き朱雀帝の庇護下にあった土国の一部もその争いに参加した。
圧倒的な劣勢下にあった火国。
それをラシルが介入して状況をひっくり返したのだった。
軍事力が向上するまで他国との接触はまだ控えるべき。
この考えは基本にあるが、状況はどうやらそれを許してくれないらしい。
水国と木国に対して、白虎帝から戦争結果についての報告を求められているらしい。
現在白虎帝に開示している状況は、水国王が死亡し、水北及び水東都市が壊滅したこと。
また、木国の南の都市も同じ状況である。
戦争は火国が勝利したとだけ伝えてある。
水国と木国がラシルギルドの支配下に下ったことは伏せてある。
そもそも、異世界から来たラシルという勢力については、隠している状況だ。
ただ、水国も木国もそれを公表したいという意向がある。
白虎帝は戦争を奨励し、争いを黙認してきた宗主国であるが、それでも今まで庇護下でお世話になった恩義に報いるため、嘘はつきたくないという考えだ。
それに、公表したほうが関係が切れてすっきりするという思惑もあるようだ。
これは政治力に長けている水西都市の代表団も同じ意見だった。
公にすること自体は別に構わないが、その影響は未知数なので、まだやめておくように言っている。
謎の新参者に対して喧嘩や戦争を吹っ掛けてくる可能性が否定できないからだ。
戦争好きの白虎帝がちょっかいを掛けてくるかもしれないし、プライドの高い朱雀帝から言いがかりをつけられてトラブルが起きるかもしれない。
大々的な公表は、明らかにバレるまで、ギリギリまで待っておきたい。
それでも噂は広がっているだろう。
そもそも火国があの劣勢から逆転勝利したのは不自然だし、水国や木国を訪れる白虎帝領からの商人が何らかの話を聞いて、それを持ち帰っているはずだ。
状況は動いている。
いつまた新たな戦争が始まるかもしれないし、白虎帝や朱雀帝がにどのような形であれ、こちらに接触してくるとも限らない。
以上の現状を踏まえて、ギルドの行動戦略を次の段階に進めなければならない。
それは、徹底的な情報収集と諜報活動。
インテリジェンスの活用である。
まずこの世界に存在するにあたって大事なことは、負けないことと他の存在に害されない事。
この絶対最低条件を確立するために、レベリングで軍事力の強化を図って来た。
幹部をはじめ、どの拠点のギルドメンバーも鋭意レベリングに励んでいる。
その中でも、最も苛烈なレベリングを実施しているのが、ミイの拠点である。
単なるレベリングだけではなく戦闘訓練も実施し、本格的な軍事訓練を行っている。
ミイの拠点にはクセの強い者ばかりいて、現状維持だけでは満足しない者が多い。
他人よりも先に進み、役に立ち、。自己の確固たる存在意義を求める者たちである。
そして、その者たちが育ってきている。
情報局に身を置く彼等はインテリジェンス。
ギルドにおける、情報収集活動のエキスパートたちである。
彼等を本格動員する時が来た。
禁城周辺の地理や都市、村の配置はもちろん、支配下に置いた人口、建物の数、有力者までほぼ調べ終えている。
次に着手するのは2つ。
1つ目は潜在的敵国である白虎帝と朱雀帝の内部調査。
潜入調査である。
領内の町、人、政治形態、戦力、可能であれば中枢付近まで浸透したい。
思想的に近く、友好関係を築けそうであれば、こちらからアプローチしてもいい。
逆に、敵対しそうであるのならば、早めに相手の情報を持っていたほうが有利になる。
相手からなんらかのアプローチを受ける前に、知っておきたい所である。
こちらの対応の選択肢の幅が広がるからだ。
2つ目は広域の地理情報。
現在禁城周辺と龍王城周辺の地理のみが、ワールドマップの中で明るくなっている。
他の拠点の周辺の状況もそろそろ知りたいのだ。
幸いにも、まだどの勢力にも見つかっていない今のうちに取り組みを開始したい。
この任務遂行にあたっては、うってつけの人材がいる。
エージェント、グーラである。
もともと悪魔族の彼は、ある特殊技能がある。
体の一部を無数の蠅に変換させ、それを使役することができるのだ。
彼の体の一部を飛ばし、四方に送ることで、地理状況を取得できる。
本体は拠点に残すので、レベリングも同時に行うことができる。
最近、レベリングの成果でようやく魔力を取り戻し、また、魔力隠蔽も可能になったため、そろそろ戦力として実戦投入させるのだという。
これで、今以上に状況が分かるだろう。
そして、以下が現在ワールドマップの位置情報などで判明している事実である。
まずこの拠点、禁城は火国の中に位置する。
西には森の始まりがあり、少し進むと壁がある。
レイランによると、この壁は森のモンスターの侵入を防ぐとともに、エルフとの領地の境界線の意味で大昔に建造されたものだという。
壁の先、さらに西方には大森林が広がっている。
北には水国と白虎帝領、そしてその周辺に木国がある。
白虎帝は西の大森林のエルフと争っている。
大森林の終わりにロメリアの拠点がある。
白虎帝領土の北東には玄武帝領や風国がある。
そして噂では、玄武帝は北方に出没するという北の悪魔たちと戦っているらしい。
禁城の南は山脈。
その更に南方にはセシュレーヌの龍王城がある。
山脈に住んでいた竜たちは配下になったので、山脈一体が支配地域のようなものだ。
禁城の東には土国と朱雀帝領がある。
位置的に、朱雀帝領の南も山脈だ。
ずっと東に行けば、青龍帝領があり、その最終的に海に出る。
さて。
今ややこしいことになっているのはロメリアの精霊の里の近くである。
西の大森林地帯。
面積は日本ほどあるだろうか。
ロメリア曰く。
管理している拠点の近くに難民がいて、対応に困っている。
難民はエルフ。
普通のエルフよりも日に焼けた肌の色をしているので、恐らくダークエルフ。
こちらの存在は気付かれていないが、続々と集まってきている。
そして彼ら難民を、住民から文字通り難民にした勢力が近づきつつある。
その勢力と難民が接触すると、多分ろくな事にはならない。
殺されてしまうか、奴隷にされるかそのどちらかだろう。
難民にとって、確実な危機が迫っている。
ミイが収集した情報と合わせると、大まかなストーリーはこうだ。
大森林の東端、仙界にとっての西端では、白虎帝とエルフの恒久的な争いがある。
白虎帝と戦争をしているエルフは中央エルフと呼ばれる。
北と南にいるエルフの勢力に対して、中央に位置しているからそう呼ばれているらしい。
エルフの目的は自衛であり、白虎帝の目的も同じく自衛である。
2つの勢力の目的が、両者とも自衛であるのならば、通常、停戦や終戦といった選択肢がある。
それなのに今までそのようなことにはならなかったらしい。
白虎帝は戦争好きで強くなることに拘りがあるらしく、その性格上、停戦や終戦をしない。
よってこれまでの間、ずーっと散発的だが恒久的な争いが続いてきた。
それは大規模になることもあれば、長い間小康状態を保つこともある。
小康状態は次の大規模開戦までの間の時間だった。
その長い小康状態に変化が起きていた。
数か月前から、白虎帝とエルフの間で停戦協定が結ばれた。
その理由は両者の利害関係が一致したからである。
エルフの目的は現状維持の領土防衛。
それに加えて、大森林での勢力の拡大。
白虎帝の目的はこちらも防衛ではあるのだが、戦力の増強にある。
白虎帝はエルフと戦うことで兵士たちを鍛えて強くしてきた。
しかし近年、そのやり方に限界を見出した白虎帝は手法を変えた。
より画期的で効率的な方法だ。
それは、エルフから精霊術を学ぶというものだ。
エルフとは安全保障協定を結び、エルフの要求するいくつかの条件を飲む。
その条件が何なのかは公にされていない。
それと引き換えにエルフから精霊術を学び、自軍の戦力の増強を図っている。
ここで問題になって来るのが、中央エルフの動きだ。
軍事的に余裕が生まれた中央エルフは、大森林の領土拡大に乗り出した。
南や北には他勢力がいるため、進軍しているのは西側だった。
今まで本格的に占領していなかった、他の少数部族が住む地。
少数部族たちはどの勢力にも入れなかった者たち。
いわゆる、あぶれた者だち。
その理由は様々だ。
差別意識と選民思想が強いエルフは、自分と違う者を排除したり征服する傾向がある。
差異が最も現れる外見。
肌の黒いダークエルフは肌の白いエルフにとって、異端者であり、迫害の対象であり、排除の対象だった。
ダークエルフたちが暮らす西の森が脅かされ、ダークエルフは西へ西へと逃げていた。
そしてとうとう、ロメリアの拠点近くまで来てしまったのだった。




