071_研修所16 進級
研修所に来て1か月が経過した。
私たちは順調に強くなった。
客観的にだけではなく、自分でもこれはかなりヤバイと思えるほどに強くなった。
経験値が多く入る竜族との闘いを繰り返した。
1週間であっと言う間にレベルが60に到達し、進化の葉で上限を突破した。
そこからはひたすら戦闘訓練。
レベリングというより、戦い方を学んでいった。
戦闘での動き、力の制御、タイミング、見切り、これら全てを学んでいった。
アンデッドやゴーレム、自分の分身であるSSとも戦った。
特性の違う様々な様々な相手との戦闘を経験し、そこから色々な事を学んだ。
この間はレベルの上昇はそれほどでもなかったが、日を重ねるにつれて、自信が付いていくのが分かった。
当初は人が押し寄せたお話し会もだいぶ落ち着き、先週の日曜日にようやく千秋楽を迎えた。
最後は龍王城の大講堂を使って行われた。
運営の3人が私に内緒で設定したのだ。
一度話を聞いた人も集まってくれて、盛大な拍手と歓声で幕を閉じた。
その後みんなで夕食会という名のパーティーをした。
運営の3人はなぜか泣いており、それにつられた私も泣いてしまった。
何かを一生懸命やるといういうのは良いことだと思った。
私たちの活動は、ただみんなに起こった出来事を話して聞かせるだけ。
これが何の意味を持ったのか、そもそも意味があったのかは分からない。
人によっては大きな意味があったのかもしれないし、何の意味も無かったのかもしれない。
でもそれでいいのだ。
私も週の半分は部活に参加した。
戦闘訓練でメビイに付いて行けなくなってきたのが悔しかったからだ。
リンシンとシェンリも同じ。
料理教室の時間を削るのは彼女たちにとって大きな決断だったらしい。
でもこの訓練を卒業したら、龍王城で料理を学ぶという選択肢もあるとナカムラさんに言われ、今は戦闘技術を学ぶことを優先するようだ。
メイユも読書とブカツを両立していた。。
ブカツでは、ラシル様の民、ギルメンのレベリングが見学できる。
レベルの向上という点から、私たちと同じことをやっているはずなのだが、スケールというか、次元が違い過ぎた。
強大な数万のアンデットと数十のドラゴンの群れが召喚される。
それを相手にホーリーナイトとプリーストの方々が、数なんてものともせずに嬉々として戦っていた。
プリーストとはラシル様を信仰し、信仰系魔法を使える人達のこと。
私たちも戦闘力のレベルがカンストすれば、仙人種に進み、それがカンストすれば才能あるものは転生できるという。
アムはプリーストに。
メビイは竜種に転生したいという。
メイユは悪魔種か精霊種。
研究の道に進みたいと迷っていた。
木国の2人は精霊種。
同時に料理を極めたいとのこと。
誰も元の村や町に戻ることなど、少しも考えていないようだった。
最初はここに来るのが怖かったはずなのに、今ではずっとここにいたいと思っている。
かなりの心境の変化だ。
そして着々と強くなっていき、研修所への入所から一か月が過ぎた。
フーリュは緊張していた。
闘技場の控室で、礼服に身を包み、自分の出番待っているところだった。
今日は初等部の卒業式兼、中等部の入学式だった。
戦闘レベルをカンストし、次の仙人種へと進化する。
そのお祝いと、気持ちを新たに次のステージへ進むための区切り。
龍王城の大講堂で行われる予定だった式典は、参加人数の関係から場所が闘技場へと変更になった。
戦闘レベルをカンストしたところで、生まれ故郷である村や町に帰りたいという者が1人も出なかった。
半分以上は帰郷者になるという予想は大きく外れたのだ。
全ての席がギッシリと埋まった闘技場では、式が進行されていた。
龍王城の管理者兼研修所所長のセシュレーヌ様が挨拶し、続いてラシル様の御言葉。
フーリュは控室でラシル様の御言葉を聞いていた。
ようやくすると、お疲れ様、そしてこれからも頑張って、あと楽しむことも忘れずにという内容だった。
控室を出て、ゲート脇で待機。
「卒業生代表、フーリュ」
名前が呼ばれ、フーリュの心臓は大きく飛び跳ねる。
カチカチになりながら、中央のラシル様の元へと進む。
指定の場所、ナカムラさんの所まで到達すると、ナカムラさんが転移術を起動。
一気に中央近くまで転移した。
ラシル様は装飾の施された青いローブのようなものを羽織っており、その隣にはセシュレーヌ様がいた。
ドラゴンナイトの方々と神仙さまも護衛のために周りに控えていた。
「ラ、ラシル様!!」
声が上ずってしまった。
ヤバイ恥ずかしい。
どうしよう。
頭が真っ白になった。
ここでスピーチをするはずだったのに。
「フーリュ!!」
ラシル様が私の名前を呼んだ。
そんな進行は聞いていない。
「はい!!」
「君の気持をみんなに聞かせてくれ」
「は、はい!!」
そうだ。
スピーチを促してくれいてるんだ。
「ま、まず、ラシル様への感謝を申し上げます!! 私たちは……」
私はラシル様への感謝をのべ、この研修所での生活がどれだけ素晴らしいものだったかを話した。
訓練は厳しかったけど楽しかったこと、食事が美味しかったこと、大浴場が好きになったことを順番に言っていった。
そして何より、友達が出来た事。
同じ火国人の友達だけではなく、怖いと思っていた水国人、木国人、土国人など、他国の友達もたくさんできた。
戦争で両親をなくし、戦争が終わり、途方に暮れていたけど、今は前を向いて生きている。
それもこれもラシル様のお陰。
「私はここに誓います。ラシル様の民の一員として生きていくことを」
スピーチが終わった。
会場は拍手に包まれた。
ラシル様が手を掲げると拍手が止んだ。
私はラシル様の近くまで行くと、ラシル様は空間から仙桃を出して、私に差し出した。
それを手に取るかどうかは私次第。
選択肢があると聞かされている。
これを食べて進化すると、力が得られる。
ラシル様から与えられる、私には強大過ぎる力。
力を手に入れると言うことは、それを暴走させてはならない。
不用意に人を傷つけることが無いように、制御できなくてはならない。
万が一、与えられた力を好ましくない使い方をすると、その力は失われてしまう。
仙桃を食べるということは、ラシル様のギルドに入るということであり、その一員になるということだ。
私の選択は決まっている。
恭しく受け取り、緊張しつつも、その場で食べた。
冷たくて甘く、瑞々しい桃だった。
この式典の後、一人一人に配られることになっている仙桃。
私はひと足早く進化した。
無事に式典が終わり、ナカムラさんの所へ行こうとすると、ラシル様に呼び止められた。
「来週の土曜日、空いてる?」
「大丈夫です」
「朝10時に研修所のロビーで」
「分かりました」
「よく頑張ったね。良いスピーチだった」
ラシル様はそういうと、私のお礼も待たずに振り向いて、セシュレーヌ様と話始めた。
何か忙しそうだという印象を受けた。
聞き耳を立てるつもりはなかったのだが、会話の内容が聞こえてきた。
「……一週間でカタをつける」
何かトラブルが起きているのかもしれない。
いったい何が起きているのだろう。
その思考はナカムラさんの声で途切れた。
「フーリュ、行くよ」
「あ、はい!!」
私はナカムラさんに連れられて、皆の所へ転移した。
「フーリュ、良いスピーチだったよ!」とアム。
「私も、ちっょと感動した」とメビイ。
「フーリュ変わったね。最初の頃と」とリンシン。
「変わったかな? 自分では分からない」
「色々あったからね」
みんなの笑顔に包まれて、食堂へと移動した。
今日はこれからレセプションパーティが開かれる。
卒業祝いと進級祝い、その両方を兼ねたものだ。
仙桃が各々に配られ、みんな無事に進化した。
進化したことで調子に乗って暴れるものはいないだろう。
厳しい訓練をぐり抜けてきたし、モンスターとの戦闘で自分の実力が分かったことだし。
それにギルメンさま達のレベリングを一度でも見た人は、上には上がいると実感しただろうから。
食堂にはいつも以上に豪華な料理が並んだ。
驚いたは、ビュッフェコーナーに各国の郷土料理もあったことだった。
火国は狼の干し肉と野菜スープ。
水国は湖でとれた魚を使った焼き物。
木国は森林で採れた木の実のサラダ。
土国はイノシシ肉の串焼き。
食べ慣れた料理が、龍王城の料理人の手で高級料理になっていた。
狼の肉は固くなくて柔らかい。
スープは具沢山で熱々。
魚に臭みはなく、身がふっくらしている。
木の実はふんだんに入れられ、彩りもよかった。
イノシシ肉はジューシーで、香辛料で味付けされていた。
出身地の料理を手に取り、その味に驚いた後、他の国の料理にも手を伸ばしていた。
これはラシル様からのメッセージなのだろうと思った。
理解し合え?
いや違う。
生まれた国に誇りを持て?
それはあるだろうが、たぶん違う。
ラシル様はそんな人ではない。
愛国心は大事だが、それは全てではないと言うと思う。
理解とか協調とか、そういうのも違う。
ラシル様は自由な方だ。
好きなようにすればいいと言うだろう。
ラシル様自身も好きなようにしているのだから。
ではなんだろう。
もしかしたら意図なんて無いのかもしれない。
一つだけ言えることがる。
それは進化だ。
私たちの国の郷土料理はラシル様の手で更に美味しくなった。
進化した。
私たちも同じだ。
私たちの進化を祝ってくれているのだ。
ベンライさんをはじめとした男たちはお酒を取り、乾杯している。
1か月前のよそよそしさやギスギスした感じはない。
誰もが今この状況に喜び、明日からの日々に感謝をしていた。
アムとメイユも、もう仲良しだった。
メイユは読んで面白かったおススメの本をアムに教え、アムもメイユに戦い方のコツを教えていた。
「フーリュが代表になったのはびっくりしたわ」
リンシンが手にしているのはグラスに注がれた葡萄ジュース。
お酒ではない。
それなのにどこか顔は赤く、とてもリラックスしているようだった。
「私が一番強い自信があったのに」
メビイは少し悔しそうだった。
「強いとかではないと思うわ。フーリュはラシル様のお気に入りだもの」
シェンリも顔を赤くして、葡萄ジュースを飲んでいる。
「お気に入りだなんて、そんな」
「式の後、ラシル様とお話ししていたようだけど、何を話していたの?」
「うん。来週会えないかって」
「誘われたの!?」
「デート?」
「デートじゃないわ。何か用があるのよ。きっと」
「ふーん」
「心当たりは?」
「ない」
「私たちの事はなにか仰ってた? お友達も一緒にとか」
「ごめん、誘われたのは多分私だけだと思う」
「ほら!!」
「ふーん」
「なに?」
「デートじゃない?」
「きっとそうね」
「フーリュ、頑張らないと」
「アムまで……」
「ラシル様に好かれるチャンスだよ」
「そうよ。正妻は難しいかもしれないけど、凄い出世のチャンスだよ」
「いいのよ。いつも通りで、それが一番ラシル様が求めているものだわ」
「いいなぁ、フーリュ。羨ましい」
「そんなことないって」
アムたちに散々冷やかされて、進級パーティは終わった。
男の人達はまだお酒を飲み続けていて、熱い何かをぶつけ合っていた。
たぶんそれは悪い物ではないのだろうと思った。
理由は、目にモンスターと対峙した時のような敵意が無かったからだ。
私は温泉に浸かり、いくつかの本を図書室で借りて、部屋に戻った。
久々にゆっくりした時間だった。
夕方までベッドの上で本を読んで過ごした。
夕食では、今までどうだったかよりも、これからどうするかの話になった。
何をしたくて、何を目的に生きていくのか。
ナカムラさん曰く、仙人種に進化すれば寿命が延びるのだという。
長い人生の中で、どう生きていくか。
道は人それぞれだ。
リンシンとシェンリは料理について熱く語っていたし、メイユは本の知識について。
アムとメビイは戦闘技術とモンスターについて。
人それぞれなんだけれども、私たち6人に共通したものがあった。
将来、守りたいものができた。
それは、この環境。
私たちは具体的に貰ったものといえば、仙桃だ。
もちろん、それだけではない。
美味しいご飯、大浴場、戦闘技術と力、知識、そして未来の選択肢。
今までに無かったもの。
それを当たり前のように提供してくれたラシル様。
私たちはこれを守って行かなければならない。
今の暮らしを知ってしまった私たち。
もう私たちは戻れない。
戻りたくない。
そう誰もが思っていた。
今日は金曜日。
2日の休みを与えられ、月曜日から私たちは更に強くなるために中等部へと進学する。
次はどんなことが教えられるのか。
私はベッドに入り、明日からの日々を想った。
リンシンに言われたように、私は変わったのだと思う。
最近自分でも気づかないうちに、考え方が変わった。
今までは、明日はどうしよう、何をしなければならないかと考えていた。
不安ばかりだった。
しかし今では、明日は何があるだろう、何ができるだろうと考えるようになっていた。
未来に、希望を見出せるようになっていたのだ。
布団に潜り込むと、自然に笑みがこぼれた。
来週の土曜日はチャンスなのだろうか。
分からない。
私はもう既にチャンスを掴んでいる。
これ以上の幸せは無いはずだ。
無いはずだ。
そう思いながら、右手で指輪をなぞった。




