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070_研修所15 ドラゴンスレイヤー


 休日は嵐のように過ぎ去った。

 月曜日が始まり、訓練も再開された。

 2日ぶりに武器を持ったフーリュは、何だか懐かしい感じがしたが、剣は手にしっくりと馴染んだ。


 軽いウォーミングアップにウルフとゴブリンをそれぞれ10体ずつ召喚したナカムラさん。

 一番弱い敵と言えども、鬼畜過ぎると思った。

 見方の数より多いのだ。


 土日もブカツで戦闘技術を磨いていたメビイやベンライさんたちは、動きが違っていた。

 ブカツでは人間同士の戦闘で稽古を付けてもらっているという。

 相手を倒していないので、レベルは上がっていないはずなのに、どう見ても前より強くなっていた。


 フーリュやリンシンといった、ブカツに参加していないグループは、必死で付いて行った。

 進化によって身体能力が高くなったのに、メビイ達はもう一段階進化したかのようだった。

 

 ナカムラさんは次々とモンスターを召喚した。

 数とレベルを少しずつ上がるので、一段ずつ階段を登っていくように、私たちはギアを上げていった。


「よし。次いってみよう。ちょっと強いから気合い入れるように」


 ナカムラさんの発言で全員一気に緊張した。

 ナカムラさんのいうちょっと強いは、嘘だ。

 かなり強いという意味に変換される。


 魔法陣から三匹のモンスターが召喚された。


「先生早すぎませんか!?」

 メビイが悲鳴に近い声をあげた。


「大丈夫。イケるって」

 ナカムラ先生は平然として笑みを浮かべている。


 召喚された三匹のモンスターには鱗がついていた。

 四本足で尻尾が伸びている。

 どこかで見たことのあるフォルム。

 そう。

 竜だった。

 闘技場でみた竜よりも小さいが、それでも竜は竜である。


「一応言っておくけど、属性もバラバラだから気を付けてね。攻撃とか当たったら痛いよ」



「くっそ!!」

 メビイが叫んで敵に突進した。


「我々も行くぞ! 死ぬ気で戦え!」

 ベンライさんが指示とも言えない鼓舞を発した。


 ベンライさん、メビイ、セイソウさんがそれぞれ1匹ずつ正面で受け持ってくれている。

 私はメビイの支援に回った。

 ベンライさんにはリンシン。

 セイソウさんにはモユウさんが付いている。


 側面に回り、切り込む。

 刃は皮膚にのめり込むことなく、鱗にはじき返される。

 うるさいとばかりに尻尾が振られる。

 私は何とかかわし、バックステップで退避。


「フーリュ、油断しないで」


「わかってる!」


「ブレスは絶対避けて」


「ブレス?」


「来るよ!!」


 竜が大きく息を吸い込み、そして吐いた。


 炎が槍のように竜の口から吐き出される。


「おっと」


 メビイが炎から十分な距離を取って避ける。


「見て」


 メビイに言われて炎の通った後の土を見た。

 黒焦げである。

 まだ所々燃えている。


「うぁ……」


「当たったら滅茶苦茶熱いよ」


「分かった」


「あと、攻撃は全部必殺技で」


「全部!?」


「そうじゃないと効かないの」


「頑張ってみる」


「行くよ!」


 メビイはたくましかった。

 そして頼りになった。

 竜の正面で敵の攻撃を引きつけてくれた。

 尻尾の動きに注意を払い、側面や広報からの攻撃に徹した。

 全て必殺技なので何度も切り込むことは出来ない。

 それでも必殺技を使えば、ダメージを与えることができた。


 メビイは華麗なステップで攻撃をかわしつつ、ここぞという時に竜の顔を目がけてパンチを繰り出していた。


 それを何回か繰り替えすと、竜が弱って来たのが分かった。


「また来るよ!」


「え!」


 竜が息を吸い込み、渾身のブレス。

 メビイが全力で距離を取る。

 ブレスが終わった隙を狙って攻撃を仕掛けようと思っていた私は、竜に近づきすぎていた。

 私の気配を感じた竜がクルリとこちらを向いたのだ。

 ブレスが襲ってきたのと、ブレスが切れたのは同時だった。


「ぅあっつ!!」


「フーリュ! だから言ったのに」


「ごめん……」


「早くトドメ!!」


「うん!」

 

 私は全力で加速し、竜に近づく。

 満身創痍の竜は爪で攻撃しようとしてきた。

 遅い。

 さっきのミスを挽回するべく、ありったけの力を込めて切り込んだ。


 竜のお腹の三分の一くらいまで刃が達した所で止まった。

 メビイがダメ押しのアッパー。


 竜は仰向けに倒れて、絶命した。


 他のメンバーも決着が着くところだった。

 ベンライさんとリンシンが戦っていたのは木竜。

 セイソウさんとモユウさんが戦っていたのは地竜だった。

 因みに私たちが倒したのは、言うまでもなく火竜。 


「良い感じだね。次いくよ」


 ナカムラさんは待ってくれない。


 次に召喚されたのはキラーラビットの群れだった。

 ストーンソードの一種、尖った石剣を持った狂暴なウサギさんたち。

 防御力は雑魚に等しいけど、攻撃に特化した種族だ。

 スピードも速い。

 それがどうして30体も召喚されているのだろう。

 それも、私たちの周りを取り囲むように。


「防御陣形!! モユウは中に入れ!!」


 指示を聞いて動き始めた私たちと同時に、キラーラビットが猛スピードで襲い掛かって来る。

 私たちは円陣を組み、その中にモユウさんを入れる。


 一匹でも抜かれれば、この陣形は崩れてしまう。

 だから、一回のミスも許されない。

 狂ったウサギが突き立ててくる剣をかわし、代わりにお腹を切り裂く。

 今度は2匹同時。

 必殺技を発動。

 一瞬だけキラーラビットより早くなる。

 一匹は首を落とし、もう一匹は武器に当てる。

 キラーラビットが勢いに負けてのけ反った。

 追撃したいのに次の一匹が攻撃体勢になっているので諦める。

 下から上に突きあげるように突き出された剣をかわし、胴に剣を突き立てる。

 一匹撃破。


 今度は3匹同時。

 これは敵わない。

 どうするかと迷ったのは一瞬。


「ヘルプ!」

 

 その言葉と同時に矢が飛んできて、一番左のラビットの腹に刺さった。

 右のラビットもどこからともなく現れた槍に突かれていた。

 残りの中央の一匹の首を刎ねる。

 

 攻撃が緩んだので周りの状況を確認すると、残り10匹になっていた。


 モユウさんの矢が飛ぶ。

 2匹同時撃破。


「陣形解除!!」


 その言葉を待っていたかのようにメビイが飛び出し、1匹を殴り飛ばした。

 リンシンも必殺技を使い、次の瞬間にはウサギの胴を貫いていた。


 ベンライさんとセイソウさんも1匹ずつ仕留め、私も1匹を仕留めた。

 その間にモユウさんが残りを片付けた。


「耐えきった!!」

 ベンライさんが喜びの声を上げると、後ろから冷酷な声が聞こえた。


「休憩前、ラスト」


「気を引き締めろぉぉぉ!!」

 瞬時に人が変わったベンライさんが咆哮を上げる。


 凄い適応力だと思った。


 休憩前最後の敵は竜5体。

 さっきより2匹も増えている。


「モユウ以外、1人1体!!」


「了解!!」


 私たちは叫んで駆け出した。





「疲れたー」


「死ぬかと思った」


「先週よりハードになってない?」


 竜5匹を何とか撃破した私たちは、地面にへたり込んでいた。

 


「召喚獣のレベルは上がっておるが、我等も強くなっておる」


「私たちの強さの上がり方よりも酷いと思うんですけど」


「まぁ、それだけ期待されてるってことにしましょう」

 モユウが笑って話をまとめた。


「次は多分、アレが来ますね」


「うん、絶対来る」

 

 セイソウの予測にメビイが同意する。


「あれって何ですか?」とリンシン。


「もっと強い竜」

 メビイが無表情で答える。


「ぇえ!!」


「必殺技でもキツイかもしれません」


「どうするの?」


「出たとこ勝負だろ」

 ベンライが男前に笑った。



 休憩後、予想通りさっきよりも強い竜が召喚された。

 ただし、1匹のみ。

 それも激闘の末撃破した。

 私たちは私たちが思う以上に強くなっているのかもしれないとフーリュは思った。


 昼食を挟んで、午後もぶっ通しで強敵との戦闘を繰り返した。


 一日の終わりに、ナカムラさんが清々しい顔をして、「これで君たちも立派なドラゴンスレイヤーだね」と言った時には、何人かが殺意を覚えた。

 


 レベルの泉で確認すると、驚くほどレベルが上がっていた。


「うそ」


「こんなに?」


 フーリュはレベル40。

 他のメンバーも平均して40前後になっていた。

 1日で10も上がったことになる。



 その夜のお話し会。

 会場はギュウギュウだった。

 あまりにも多くの人が詰めかけたので、リューシが神仙さまと掛け合ってくれた。

 その結果、龍王城の講堂を使用できる許可をもらった。


 あまりにも人数が多いと、ちょっとあれなので、大講堂ではなく、一回り小さい講堂にしてもらった。

 講堂には200人あまりが詰めかけた。

 ファムの話によると、他の研修所にも話を聞きたい人がまだまだいるという。

 

 大人数の前で話すという緊張もあったが、ラシル様との思い出がまた甦ってくるという胸の高鳴りもあった。

 ガヤガヤとうるさかった会場も、フーリュが講壇に上ると雑談がピタリとやんだ。

 話始めると、緊張も緩み、聞きに来た人の顔も一人一人見えるようになった。

 真剣な眼差しで聞いている者、目を輝かせている者、まだ懐疑的な顔をしている者。

 様々だった。

 そして講堂の後ろ、ドアの近くに座っていた人物を見つけて、フーリュを驚きのあまり、舌を噛みそうになった。

 ナカムラさんだ。

 視線に気づいた彼はニコニコして手まで振っている。

 何事も無かったかのように精一杯取り繕い、その隣を見ると、フーリュはもっと驚いだ。

 心臓が飛び出しかけた。

 そこにはラシルが座っていた。

 ナカムラさんと同じように、ニコニコして手まで振っている。

 フーリュは絶句した。


 急に途絶えたフーリュの言葉に、会場がどうしたんだとざわめく。

 ラシルは人差し指を口に当てて、「しーっ」というポーズを取った。

 いるのがバレないようにしてくれということなのだろう。

 フーリュは大きな咳払いをしてごまかした。

 何事も無かったかのように話を続ける。

 

 何度も話慣れたおかげで口は滑らかに動くものの、心はここにあらずだった。

 ラシル様がいらっしゃっている。

 ラシル様が見ている。

 ラシル様か私の話を聞いている。

 フーリュは今すぐにどこかに逃げて隠れてしまいたかった。


 そのままお話しは終了。

 大きな拍手と歓声が講堂を埋め尽くした。

 引き続き、質疑応答タイム。

 質問も今まで出てきたものと一緒で、フーリュは難なく答えることが出来た。

 30分の質疑応答時間が終わり、お話し会全体が終わった。


 早く部屋に戻りたかったフーリュは、沢山の人に囲まれて質問を受けた。

 いわゆる、囲み取材というやつだ。

 壇上からナカムラさんとラシル様がいた席を目で確認したフーリュ。

 そこにはもう2人はいなかった。

 ホッとしたと共に、少しの落胆を感じていた。


 次のお話し会は水曜日に決定され、解散となった。

 どうやら噂はかなり広まっているらしい。

 他の研修所での参加者希望者がかなりいることがわかった。


 そのまま反省会? 慰労会も兼ねて運営の3人と晩ご飯。

 ミートパイを口に運びつつ、フーリュは心ここにあらずだった。

 どうしたのかと3人に問い詰められ、今日あの場にラシル様がいたと答えると、3人の箸が止まった。


「本当ですか?」


「本当です」


「どうしてラシル様が?」


「分かりません」


「フーリュさんが呼んだのですか?」


「呼んでいません」


 そんな感じの質問が矢継ぎ早に来ると予想していたフーリュは機械のように淡々と答えた。

 もう過ぎたことだ。

 いちいち驚いていては身が持たないと、心のどこかで悟っていた。


 ラシル様が視察されたとあって、俄然やる気を出してしまった3人。

 彼等の情熱についていけないフーリュ。

 それでもどこかほっとした気持ちになった。

 これまでずっと悩み苦しんできた3人が、ようやく光を見つけたような気がしたからだ。




 次の日。

 訓練が始まる前、フーリュはナカムラさんを問い詰めた。


「どうしてあの場にいたんですか?」


「教え子のフーリュが面白い話をしていると聞いたからさ。さながら、愛の伝道師だね」


 フーリュは恥ずかしさで顔が真っ赤になった。


「どうしてラシル様がいたんですか?」


「ラシル様に誘われたからだよ。ラシル様が行きたいっていうから、教官の僕が同行したんだ」


 フーリュは唸った。

 ラシル様が来たいとおっしゃったことに対して、否定するわけにはいかないからだ。


「どうして事前に教えてくれなかったんですか?」


「ラシル様から誘われたのが訓練後だったからさ。教えようとしたときには君はもうたくさんの人に囲まれて忙しそうだったからね」


 これはダメだとフーリュは思った。


「ラシル様も恥ずかしがっていたよ。まさか、プライベートな会話をあんな大勢の前で暴露されるとは」


 フーリュは顔から血の気が引いた。


「大丈夫。ラシル様は怒ってはいないよ。むしろ褒めていらした。話の内容は素晴らしかったって」


「そ、そうですか……」


「さっ、訓練を始めよう」


 フーリュは釈然としないものがあったが、これ以上話すと墓穴を掘りそうなのでやめた。


「あ、あとラシル様からの伝言だけど、聞く?」


「ぇ……も、もちろんです」


「ラシル様も直接話せばいいのにね。そのための指輪なのに」


 フーリュは沸騰した顔を伏せて、指輪をしている左手をさりげなく右手で隠した。


「今度一緒にご飯でも食べよう。また連絡するだって」


「へ?」


 ナカムラさんは固まったフーリュを見て、満足そうに意地悪く笑うと、扇子を振った。


 アンデッドとイノシシ型モンスターが召喚され、フーリュに向かって突進してきた。


 フーリュは何もできず、イノシシに体当たりされる寸前でメビイに腕を引っ張られ、盛大に転んだ。


 その日の訓練に身が入らなかったのは、言うまでもない。





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