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069_研修所14 お話し会


 フーリュはラシルと会った時の話をみんなに語った。

 リンシンたちが上げた悲鳴を聞いて集まって来たベンライさんを始めとした、同じグループの男の人たちも一緒に話を聞いた。


 ラシルと謁見し、ラシルと知らずに話をしたこと。

 ラシル様って怖いとか、失礼なことを言ってしまったこと。

 ラシル様の考えていらっしゃること。


 みんな食い入るようにフーリュを見つめ、一言も聞き漏らさないように誰も声を発しなかった。

 そして指輪を下賜されたことは秘密にした。


 フーリュが話し終えると、みんな驚き固まっていた。

 だけど、目は輝いていた。


「私もまだ、信じられないんだけどね」


「本当に、本当にラシル様だったの?」


「ええ、間違いないわ。セシュレーヌ様もいたし」


 それからフーリュは質問攻めにあった。


「そんな偉大なことを考えていらっしゃるのだから、やっぱり厳格な方なの?」


「こういっては何だけども、とてもフランクで気さくな方よ」


「都市を簡単に滅ぼされる方だから、鋼の肉体を持った武人なのだろう」


「全然。見た目は私と同じ年くらいの男の子よ」


「次はどの国を支配するとか言ってた?」


「支配する気はあまりないみたい」


 沢山の質問が寄せられ、フーリュはそれに次々に答えていった。


「俺、知り合いみんなに聞かせることにする」


「俺も一層頑張る」


 という者も現れた。

 夜も更け、部屋に戻る時間になっても、まだ話を聞きたいという人が次々現れた。

 時間のある人は明日話をするということにして、フーリュたちは部屋へと戻った。



 ベッドに入り、今日の起こったことを頭の中で反芻する。

 指輪はこっそりと嵌めている。

 もう絶対に外さない。

 なくしたくはないからだ。

 

 フーリュは指輪を愛おしそうに触って、口づけをした。


 ぐっすり眠れたのは言うまでもない。



 次の日、みんなと一緒の時間に起きた。

 休日二日目。

 今日も自由行動で好きなことをしてもいいことになっている。

 アムとメビイはブカツに参加。

 リンシンとシェンリは龍王城で料理教室。

 メイユは図書室で抱く所に勤しむ。


 みんなで朝食べ、さてどうするかと考えていると、話を聞きたいという人が押し寄せてきた。

 昨日の話がもう広まったらしい。

 朝食が終わってから談話室で話すことにして、アム達と別れた。

 一旦部屋へと戻り、ベッドでゴロゴロする。


「どうしよう。私がみんなの前で話なんて」


 モジモジしている間に談話室へと行く時間になった。

 ボックスを使って3階へ行くと、談話室前は混雑していた。

 初日に大浴場に来た時みたいな光景だ。

 

 みんなここを使うのかな。

 だったら話す場所を変えないと。

 どうしようとオロオロしていると朝食の時に話を聞きたいと来てくれた人を見かけた。


「あの、すみません。この場所って今日なにか催し物でもあるんですか?」


「何言ってるんですか。みんなあなたの話を聞きに来たんですよ」


「ぇ……」


「みなさーん!! フーリュさんが来ました!! 道を開けてください!!」


「おぉ!!」

 歓声が上がる。


 フーリュは顔を真っ赤にしなりながら空いた道を進んでいく。

 一番奥に通され、そこには一番立派な肘掛け椅子が置かれていた。


 談話室に入りきらない人の数。

 椅子に座っているほうが少数で、立ち見もあるし、そもそも部屋に入りきれていない。

 この状態で話を始めてもいいのだろうか。

 フーリュが困っていると、何人かの有志がフーリュのところへとやって来た。


「フーリュさん、今日一日のご予定は?」


「特にないですけど……」


「では、部屋に入りきらない方や立っている方に、後でもう一度同じ内容を話していただくことは可能ですか?」


「は、はい。大丈夫です」


 打合せの結果、今は座れる人だけの人数に絞ってもらい、お話会を複数回に分けることにした。


 フーリュは頭の中が真っ白になった。

 これだけ大勢の人に何を話せばいいのだろう。

 

「フーリュさん、もしお話が苦手のようでしたら、こちらから質問していく形にしますので、それにお答えいただけますか?」


「は、はい!」


「では、昨日ラシル様とお会いになったとのことですが、どこで会われたのですか?」


 フーリュは屋上での試合観戦の後、ラシルと会った事を話した。

 どんな話をしたかというのもスムーズに答えることができ、自分がどんな質問をラシル様にして、ラシル様がそれに対してどのようにお答えになったかも伝えた。

 ラシル様のお考えも語った。


「というわけで、ラシル様は私たちの暮らしの向上を考えていらっしゃいます。ここで学ぶ人が増えることが一番の近道になるとおっしゃられました」


 話が終わると拍手が巻き起こった。

 その後、質問タイムに移行した。

 昨日メビイやリンシンから受けた質問とほとんど同じで、それに対しても淀みなく答えることができた。


 1回目のお話し会が終わったのは開始から1時間半くらい経過したころだった。


「フーリュさん、ありがとうございました」


 次々と来る人たちと握手を交わした。

 やる気が出た。

 将来を真剣に考えるという者が多数いた。



「フーリュさん、お疲れさまでした。すばらしいお話でした」


「いえ、素晴らしいのはラシル様で、私ではありません」


「まだまだフーリュさんの話を聞きたいという方が沢山います。少し休憩した後、10時半から開始でよろしいでしょうか」


「あ、はい、お願いします」


「分かりました。フーリュさん1人では大変だと思いますので、私たちもお手伝いしますね」


「ありがとうございます」


「フーリュさんは時間まで部屋で休んでてください」


 フーリュは言われるがまま、部屋に戻った。

 ベッドに身を投げ、枕に顔をうずめる。

 次の開始時間まで20分もない。

 沢山の人の前で何か話をするというのは初体験だったフーリュ。

 緊張から一時的に解放され、放心状態になっていた。

 そして休憩時間はあっという間に過ぎる。


 フーリュは再度3階へと向かった。

 談話室の前はまだ混雑していた。

 誰かが大きな声で叫んでいる。


「午前の部は今座っている方で終了になりまーす! 次は午後1時からでーす!」


 どうしてだろう。

 どうして午後もすることになっているのだろう。

 フーリュは恥ずかしさから顔を伏せ、人込みをかき分けて談話室へと入って行った。

 しかし、当たり前のことだが、すぐにフーリュだとバレる。


「フーリュさん!!」


 座っていた人たちが振り返ってフーリュを見る。

 みんなの視線を一身に浴びて、小さくなったフーリュが奥の席に座ると、アナウンスが入った。


「それでは、午前の部、第二回目を開始します。フーリュさん、お願いします」


 お願いしますと言われても。

 フーリュは深呼吸し、話し始めた。

 さっきの第1回目のお話し会で話した内容、そして昨日の夜アム達に話した内容をそのまま話すのだ。

 どうやってラシル様と出会い、何を話してどう思ったか。

 ラシル様はどのようなことをお考えか。

 どういう印象を受けたか。

 難しさのハードルは下がっていた。

 

 屋上の話から始まり、順番にあった事を、できる限り正確に伝えていく。


 終わると拍手が起こり、質疑応答タイムへ。



「はぁー、疲れた!」


 午前の部2回の集会を終えたフーリュは、アムとメビイ、メイユの4人でお昼を食べるために食堂に来ていた。


「今日のお昼は何かな?」とメイユ。


「ぉ! ラーメンだって!! ラシル様一押しって書いてる」とメビイ。


 ラシル様という単語にビクっとなるフーリュ。


「新作だね」とメイユ。


「フーリュも自主練?」とアム。


「違うの。大勢の前でお話してるの」とフーリュ。


「話してるだけなら疲れないじゃん」とメビイ。


「それが違うんだよー」とフーリュ。


「味は4種類。トッピングまである」


「ふっふーん」


「醤油、塩、味噌、豚骨」


「説明があるよ」


「どれどれ」


「ふっふーん」


「さっきから何その、ふっふーんって」


「特に意味は無いでござる」


「わからん。アムがハイになってる」


「早く行くよー」


 4人はそれぞれ4種類の味を選んだ。

 フーリュはもちろんラシル一押しの豚骨味。

 メイユは塩、メビイは醤油、アムは味噌。

 メビイはチャーシューをトッピング。

 メイユはワカメ大盛。

 テンションの高いアムはバターコーンをトッピングした。

 胸いっぱいのフーリュはトッピングなし。


「なんかギョーザってあるよー」


「サイドメニュー」


「いっちゃう?」


「フーリュ、ラシル様おススメだって」


「……食べる」


 

 席に着いた4人はそれぞれラシルに祈りを捧げ、いただきますをした。

 

「熱々だね」


 フーフーしながらまずはスープを掬って飲む。


「旨っ」


「おいしー」


「これ好き!!」


「ヤバい」


 麺もすすって食べる。


「これ、私一番好きかも」とメイユ。


「ちょっとちょうだい」


「あ、豚骨もおいしい」


「味噌っていいわね」


「いくらでも食べれる」


 そしてギョーザも。


「これ、お肉が入ってる」


「美味しい」


「柔らかいね。チャーシューもギョーザも」


 キャッキャ言っているうちに昼食が終わった。

 フーリュとメイユは1回ずつ、ブカツでお腹が空いていたアムとメビィは2回ずつ麺をお代わりした。

 部屋での休憩後、ブカツと図書室組が行ってしまう。


「よし、私も頑張りますか」


 午後の部が始まった。

 話慣れたおかげで、緊張もしなくなってきた。

 要点やポイント、理解してもらうための話し方などが段々分かってもきた。

 1時間の話と30分の質疑応答。

 30分で人の入れ替えと休憩。

 約2時間を1セットとして、3セットこなした。


 これで計5回やったことになるが、まだまだ話を聞きたいという人が溢れていた。

 噂を聞いた他の研修所からも押し寄せたので、それは明日の夜以降にすることにした。



「フーリュさん、お疲れ様でした」


「お疲れさまでした!!」


「ありがとうございます」


 運営スタッフのような働きしてくれた3人だ。

 明日の夜以降も、平日は1回ずつお話し会をすることに決まった。

 先着順で30人までと決めた。

 この談話室の椅子が埋まる程度の人数。

 

 このお話し会はいつまで続くのかと口にしたら、「聞きたい人がいなくなるまで」と運営の3人に言われた。


「フーリュさんの予定は大丈夫ですか? ブカツとか」


「やってないから大丈夫だけど」


「それならいいですね」


「でもラシル様の話なら私じゃなくて神仙さまとかでもいいのに」


「それは違いますよ」

 うんうんと他の2人の運営も頷く。


「確かに神仙さまはフーリュさんよりもラシル様について詳しく知っておられるでしょう。でも我々と同じ立場のフーリュさんが話すから説得力が違うんです」


「そういうものですか……」


「そういうものです」

 3人は満面の笑みで頷いた。


 その日の晩御飯はいつものメンバーではなく、運営の3人と一緒に食べた。

 アムとメビイはブカツで仲良くなった仲間と、リンシンとシェンリも料理教室の仲間の方へ行った。

 メイユが一人になると心配したけど、彼女も彼女で他の友達がいるみたいだった。

 なんでも図書室で知り合った子だという。


 照り焼きにしたチキンを頬張りながら、フーリュは運営の3人の話を聞いた。

 3人はそれぞれ木国、水国、土国出身。

 土国の1人だけ女の子であとの2人は男の子。

 都市はフーリュとほぼ同じ。

 その3人には共通点があった。

 それは滅ぼされた都市の出身であることと、父親が兵士だったということだ。


 水国のリューシは水東都市出身。

 水北都市と共にラシルに滅ぼされた都市だ。

 父親は兵士だったが、戦争には乗り気ではなかった。

 水東に火国人奴隷が増えた頃から母親と一緒に水西都市へ移住した。

 父親は戦死。


 木国のファムも木南都市出身で木央都市へと移住。

 父親は兵士で戦死。


 土国のアズラも同じ。

 滅ぼされた都市出身で、火国に近い都市へ移住したために、一命をとりとめた。


「私たち、似た者同士なんです」とアズラ。


「昨日、フーリュさんのお話し会で初めて会って、話して驚きました」とファム。


「考えていたことも一緒でした」とリューシ。


 フーリュは3人の話を聞いた。

 最近話してばかりだったので、聞くだけというのは楽だった。


 3人はそれぞれ戦争に乗っかった都市に生まれ、兵士として戦争に巻き込まれた父親を亡くし、別の都市で生きている家族を持っている。


 ある日突然戦争が終わった。

 父親は侵略者側の人間。

 火国に戦争を仕掛け、火国の王を殺し、都市を落とし、略奪し、奴隷にして連れ帰った。

 圧倒的な加害者。

 その状況を一変させたのがラシル様。

 急にやって来たと思ったら、圧倒的な軍事力で次々と奴隷になっていた人々を解放。

 敵対都市を壊滅させた。

 一人残らず。


 戦後になって、火国人は当たり前のように他の国民を恨む。

 それも戦争に加担した都市であるならなおさら。

 それは3人にとって、十分理解できる感情だった。

 もし自分が火国に生まれていて、家族が殺されら。

 奴隷にされて他の国へ連れて行かれて、酷い目に遭ったら。


 3人は悩んだ。 

 なぜなら、自分たちではどうしようもできないから。

 どの父親も善良で、戦争なんて望んでいなかった。

 ただたまたま国を守る兵士という職業を選択していたために、それに巻き込まれた。

 もし兵役を拒否したり、逃亡すれば敵前逃亡になって殺される。

 家族もその巻き添えをくらう。

 家族を戦争の惨禍から遠ざけるために他の都市へ移した。

 ただ、それだけのこと。


 何の力もなく生まれてきた人ならば、被害者になる可能性だってあったし、加害者になる可能性だってある。

 被害者側は被害を受けたほうなので、そういった考え方や見方は出来ないかもしれない。

 だけど3人は違った。

 加害者でいないためには、自決などをして、死ななければならない状況だった。

 よほど、狂人のような正義感を持った人間であれば可能だろう。

 だけどしかし。

 火国の人間、被害者となった人たちが自分たちと同じ境遇に生まれたとして、加害者であることを回避できるのか。


 3人は苦悩していた。

 罪悪感?

 加害者としてのレッテル?

 抗うことの出来ない環境や運命?


 いくら考えても答えは無かった。

 これからも多分答えなんて出ないだろう。


 そんな中、この研修に選抜された。

 加害者だからひどい目に合うのではないか。

 奴隷にされるのではないかという不安があり、ここに来る数日前から眠れなかった。


 そしていざ来てみると、想像しえないような状況になった。

 それはフーリュも、他の人たちも同じだろう。

 

 他の人たちはブカツや読書、料理など、情熱を傾けるものを見つけていった。

 目的、目標の原初の姿が沢山の研修生の心の中に生まれてきた。


 でも3人は違った。

 ただ強くなることに意味は見いだせない。

 兵士の父親の生きざまを見て、それが完全に正しいと夢見ることが出来ない。

 料理をする情熱もない。

 深く学びたいという意欲もない。

 

 研修所に来て、ただ呆然と驚きを繰り返していた。

 レベリングをして強くなっても、美味しい料理を食べても、胸の内にあるしこりのようなものは消えなかった。

 そして今朝、ラシル様と対話した研修生がいるという噂を耳にした。

 それは奴隷にされていた火国の女の子。

 対話の内容を聞きたい人に談話室で話す予定だという。


 話を聞くことができる。

 この話はどうしても聞かなければならないと3人は強く思った。


 それがきっかけ。

 話を聞き、何かが変わった。

 心の中で変化が起こった。

 その変化はどういうものなのか、詳しく言語化はできないけれど、良い方向のような気がする。

 このお話し会を手伝おうと考えた。

 一人でも多くの人に、この話を聞くチャンスを作るために。


「だから、お願いします。一人でも多くの人にフーリュさんの話を聞いてもらいたい」


「フーリュさん?」


 フーリュは自分が泣いているのに気が付いた。

 

 何に悲しいのかはよく分からない。

 聞く人が聞けば、加害者側の勝手な言い分と正当化に聞こえる話だった。


 それでも、涙が頬を伝っていた。

 

 フーリュは袖で涙を拭いて、笑顔でこう言った。


「分かりました。一緒に頑張りましょう」




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